第42話 オークション開始
いよいよ迎えたオークション当日。
商業ギルド所有の大きな館には、昼のうちから馬車が何台も横付けされ、続々と人々が入っていく。館の門前には鎧姿の警備兵がずらりと並び、通行人が近寄るだけでも目を光らせていた。いつもの都の喧騒とは違う、張り詰めた空気がそこにはあった。
「ん~少し場違いな感じがするなぁ」
ナカムラは苦笑しながら入場証を示す。受付の係員は、記録用の板に何事か書き付けてから、無言で頷き、会場内へと案内した。
大広間に足を踏み入れると、そこは既に人の波だった。前方には壇上が設えられ、中央の演台の後ろには厚布に覆われた品々が並んでいる。照明は目にきつくない柔らかな光で、壁面にはギルドの紋章旗がいくつも掛けられていた。
席はすでに区切られており、普段見かけることのない富裕層が集まるエリア、高位冒険者の席、学者や商人らしき者の列、それぞれ招待の性質によって住み分けられているらしい。ナカムラたちは冒険者区画に案内され、ほかの冒険者と肩を並べる形で腰を下ろした。
「うわぁ……なんか緊張しますね」
コリーは落ち着かない様子で椅子に座り直す。リンはといえば、背筋を伸ばしきょろきょろと辺りを眺めているが、興味があるのかないのか、いつもの無表情のままだ。
手渡された「競売リスト」に目を通すと、そこには品名と説明、そして最低落札価格がずらりと並んでいた。その桁数に血の気が引く。
「こりゃあ、ちょっとやそっとの貯蓄じゃ無理だな」
「ですねぇ。え、この矢、獲物に刺さると位置がわかるマジックアイテム……へぇ便利そう。でも、最低金額からして桁が違いますよ」
コリーはため息をつき、紙をナカムラへ返す。二人がそろってリンを見ると、彼女は首をかしげただけだった。
「わからない、任せる」
オークションは時間通りに始まった。司会役の男が壇上に現れると、場内が静まり返る。
「諸君、本日の競売へようこそ! 栄えある出品の一つ目は、虹色鳥!」
布を払うと、大きな籠に入れられた鮮やかな羽を持つ鳥が姿を見せる。羽は装飾として高値で売れるだけでなく、その卵の殻すら宝飾品に利用される。食肉としても富裕層の食卓にあがる高級料理の食材であるため、生きた状態でお目にかかった事が無い人も多いのだろう。
司会者が値を告げた瞬間、各所から手が上がる。値はぐんぐん釣り上がり、あっという間にナカムラたちの想像を超える額へ。
「は、はは……もう笑うしかないな」
「すご……これ、家一軒買えますよ」
結局、貴族風の男性が落札した。
続いて壇上に現れたのは、銀の輝きを放つ腕輪だった。
「こちら、空気の壁を瞬時に発生させ、衝撃を緩和する魔法具。冒険者にとっては命綱となりましょう!」
会場がざわめき立つ。軽量で、腕に着けるだけという手軽さは確かに魅力的だ。
「これ、いいな……」
「でも高いですよ。限度決めて入札しましょう」
三人で相談し、手を挙げる。序盤こそ競り合えたが、あっという間に値段が釣りあがる。
「無理だな……」
ナカムラが降りると、会場の真ん中で元気よく手を上げる姿があった。
「あ、ルマカーチさん」
コリーが呆れたように指差す。
案の定、落札者は彼女だった。どんどん増えていく彼女のマジックアイテムに、三人は顔を見合わせるしかない。
その後も、古代遺跡から出土した石像、年代物の学術書、誰が価値を見出すのかわからない奇妙な石ころまで、多種多様な品が競りにかけられていった。
落札されていく金額が常識を揺るがし、場の熱気は増していく。だが同時に、ふだん見慣れない数字の羅列に三人は少しずつ疲れを覚えていった。
「はぁ、なんか場違いになってきたな」
「こっちはお腹がすいてきました……」
「まだ、半分」
リンが淡々と呟くと、二人は思わず肩を落とす。
だが、3人が疲れ集中力が途切れかけたところに、思わぬ出品物が姿を見せた。




