表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おっさん異世界でフグをさばいていたら伝説になる  作者: 北真っ暗
1つ目の伝説

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/82

第30話 毒と結石の痛み

 リンはついていくと言ったものの、その前に色々とやらなければならない事があると、最後の引継ぎのような事をしてから合流すると言った。


 ナカムラとコリーは、いつものように密林に足を踏み入れていた。今回の希少花の採集が目的だ。ギルドで高値で取引されるそれは、運よく見つけられれば大きな収入になる。


「この前の依頼を終えたんだ、今回は楽な仕事だな」

 密林の部族の村を救った一件で、ご機嫌である。おっさんはすぐに気が緩む。


「でも、油断は禁物ですよ~」


 コリーが少し眉を寄せる。だが彼女の表情にも、どこか緊張感が欠けていた。成功体験が二人を浮つかせていたのだ。


 密林の木々を抜けて進むと、視界が開け、川の流れる音が耳に届いた。川辺に出てみると、透明な水の中を大きな魚影が悠然と泳いでいる。


「お、デカい魚だ!」

「ほんとだ、あれ、何て名前なんだろう」


 コリーが目を輝かせる。


「次に来た時は釣ってみたいな……。目印になるものは……」


 ナカムラは周囲を見回し、倒木や岩の位置を覚え込もうとした。その時、視界の端に鮮やかな花が揺れた。


「……あった、希少花だ!」


 思わず声が上ずる。二人は近づき、慎重に周囲を確認した――つもりだった。ナカムラが花に手を伸ばした瞬間。ガサリと落ち葉が揺れ、金色と赤色のまだら模様のコブラが姿を現した。


「まずいっ!」


 反射的に手を引くが遅かった。牙が閃き、ナカムラの手首に突き刺さる。

 焼け付くような激痛と共に、血管を走る熱が全身に広がった。


「ぐっ……!」


 ナカムラはその場に膝をつく。


「ナカムラさん!」


 コリーが悲鳴を上げる。

 とっさに出刃包丁を抜き、渾身の力でコブラを貫いた。頭から毒液を撒き散らしながらコブラは動かなくなった。だが、既に体内に回り始めた毒を止めることはできない。


「はぁ……はぁ……」


 呼吸は浅くなり、額から滝のように汗が吹き出す。手足が痺れ、力が抜けていく。


「ダメだ……治癒院までは……間に合わない……」


 ナカムラは自嘲気味に呟いた。


「そんなこと言わないで!」


 コリーが必死に肩を差し出す。


「ここで倒れると2人とも獣の餌食だ、外に出よう」


 彼女に支えられながら、一歩ずつ密林を抜け出す。頭の中は霞がかかったようで、まともに景色も見えない。

 そして、森を出た瞬間。


「――っ」


 ナカムラは苦しみ、のたうち回って、気を失った。

 気がつくと、夜の野営地の中だった。

 焚き火の赤い光の中で、コリーが慣れない手つきで水を汲み、濡れ布で額を冷やしていた。


「……ナカムラさん、お願いだから死なないでください」


 震える声が耳に届く。

 体は焼けるように熱い。喉は渇き、呼吸は荒い。だが彼女の必死の介抱で、どうにか命の火がつながれていた。やがて夜が明け、鳥の声が響く頃。

 ナカムラは薄く目を開けた。


「……生きてる、のか」

 額の汗は引き、呼吸も安定していた。

「よかった……!」


 コリーが涙を浮かべ、手を握る。


「ありがとう……助かった」


 ナカムラはかすれ声で礼を言った。


 しかし安堵したのも束の間。

 突然、下腹部に鈍い痛みが走った。


「……ッ!」


 尿意を覚え、ふらつく足で茂みへと移動する。そこで待ち受けていたのは、想像を絶する激痛だった。尿管を引き裂かれるような痛みに、声も出せず歯を食いしばる。


「ぐ……があああっ……!」


 何とか排泄を終えた時、地面に小さな塊が転がり落ちた。


「石?」


 聞き覚えがあった。父親が苦しんでいた尿結石だ。


「まさか、俺も……」


 愕然と見つめる。だが、その石はただの石ではなかった。黒緑色の光を帯び、微かに脈打つように輝いている。


「なんだ、これ?毒の結石?」

「結晶化? まさか、これが……」


 驚愕と同時に、理解が追いつかない。毒は彼を殺すはずだった。だが逆に、その毒が力に変わった。ナカムラは汗に濡れた顔を拭い、結晶を手に取った。冷たく硬質なそれは、確かに自分の体から生まれたものだ。


「死んだと思ったのに、生き延びただけじゃなく、力まで得られるなんてな」


 コリーが心配そうに駆け寄ってくる。


「大丈夫? 顔色が真っ青だよ」

「いや、なんていうか、説明するから一旦帰ろうか」


 ナカムラは笑いながら、どう説明していいのか考えていた。

 その笑顔には、死の淵をくぐり抜けた者だけが持つ確信が宿っていた。


 密林での死線を越え、命と引き換えに手に入れた毒の結晶化スキル。

 翌日、ナカムラはコリーに正直に報告することにした。


「というわけで、俺、毒を体の中で結晶化できるようになったらしい」


 宿で向かいの椅子に座っていたコリーは、きょとんとした顔をした。

 一拍置いてから――ぷっ、と吹き出す。


「ぴぁっあははっ、なにそれ! 毒を結石にするんでしゅか、あははははっ」


 腹を抱えて爆笑し、まともに喋れなくなり、涙まで浮かべる。


「おい、笑いごとじゃないぞ! 死にかけたんだ!」

「あははっ! でも、あまりに他人事すぎてっ! 痛そうだし、絶対やりたくないでしゅ!あははっ」


 ナカムラはむっとしながらも、言い返せなかった。確かにあの激痛は二度と体験したくない。


 だが冷静に考えてみれば、結晶化には大きな利点がある。液体の毒は漏れたり混入の危険があるが、固体なら持ち運びも安全だ。

 試しにもう一度やってみるか――そんな気持ちが勝り、ナカムラは再び挑戦した。

 結果は――。


「ぐっ、ぎゃあああっ!!!」

 

「ちょっと、大丈夫ですか~!? もうやめましょうよ~!」


 コリーが必死に背中をさするが、本人は必死に石の塊を拾い上げた。


「くっそ、たしかに結晶はできた。でも、これじゃ毎回死ぬ思いだ……」


 二度目も三度目も同じだった。

 小さな結晶は得られるが、代償に味わうのは地獄のような激痛。


「こんなの、毎回やってられるか」


 ナカムラは本気で落ち込んだ。


 そんなある日のこと。

 いつものように、ドクウナギを捌いていた時だった。


「もう、この状態から結晶化してくれればいいのに……」


 心の底から願った瞬間。

 捌いていたウナギの肝の部分が、ふっと淡い光を放ち、硬質な黒緑色の結晶へと変わった。


「は?」

 手にした包丁を落としそうになる。何度も激痛に耐えて結晶を出したのは何だったのか。膝から力が抜け、どっと疲れが押し寄せた。


「ナカムラさーん、どうしました~?」


 コリーが覗き込むと、彼は結晶を見せる。


「見ろ……今、捌いてただけなのに……結晶化した……あの激痛、いらないんだ……」


 コリーがまた吹き出す。


「そんな顔で『いらないんだ』って言うの、ちょっと面白すぎますよ!」


「笑うな! こっちは命削ってたんだぞ!」


 その後、何度か実験を重ねた。

 捌くときに「結晶化」を強く意識すると、確かに毒の部分が淡く光り、結晶へと変わる。


「なるほどな。スキルが進化したってことかな」


 ナカムラは腕を組んで唸る。体内での結晶化は生き延びるための緊急手段。

 だが解体時に結晶化できるようになったのは、より高度な技術への昇華に違いない。

 何より――これなら痛みも伴わない。


「これでやっと、安心して結晶を作れるな」


 ナカムラが胸をなで下ろすと、コリーはにやりと笑った。


「でも、あの激痛に耐えてる姿も、面白かったなーって」


「やめろ! 二度と思い出させるな!」


 二人の笑い声が、静かな夕暮れのギルド宿舎に響いた。


ついに、尿結石の痛みを味わう事になったおっさん。

父親は本当に辛そうでした。皆さんも気を付けてください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
尿路結石はまじで辛い 運が悪いと謎の内側からくる腹痛、腰痛から始まって出る時も詰まってなかなか出なくて残尿感(数日)に悩まされた挙句に出血でしたから
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ