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おっさん異世界でフグをさばいていたら伝説になる  作者: 北真っ暗
1つ目の伝説

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第28話 部族の再興

 密林天ぷらうどんを冒険者ギルドで振る舞った翌日。

 早朝から呼び出されたナカムラとコリーは、ギルドの裏庭に立っていたシレーンと顔を合わせた。


「昨日の料理、なかなか評判だったみたいだね。……今日は個人的なお願いがある」

シレーンの声色は、普段の淡々とした調子に混じって、どこか切実さを帯びていた。


 聞けば、密林のさらに奥に、彼女の故郷である小さな部族の村があり、いま深刻な問題に直面しているという。


「外の人に頼みごとをするのは、村としては好ましくないこと。けど……どうしても、今は助けが要るんだ」


 ナカムラは頷いた。昨日の料理でシレーンがこちらを「頼ってみてもいい」と思ったのだろう。事情を聞くため、一行は密林へと足を踏み入れた。


 案内を買って出たシレーンは、歩きながらぽつりぽつりと語った。

 彼女の部族は、長らく独自の暮らしを守ってきた。彼女もまた、外部との摩擦が生まれぬよう調整してきたのだという。


「私が冒険者をやってるのも、その一環だ。外の情報を知り、必要なら村に還元する。でも、今回ばかりは私ひとりじゃ限界だった」


 ナカムラは真剣に耳を傾けた。

 料理人として密林の食材を扱ってきた経験が、ここで活かされるかもしれない――そう思った。


 密林を進むほどに、道は複雑さを増していく。

 木の根が入り組み、同じような景色が続く。常人なら方向感覚をすぐに失うだろう。


「……ここから先は道を知っている者が案内しなきゃ絶対にたどり着けない」

 彼女が指し示す目印は、外部の者にはただの木の陰や小川にしか見えない。


 数時間の行程を経て、ようやく視界が開けた。そこには、樹上に張り巡らされた橋と家々――まるで空に浮かぶ小さな町のような光景が広がっていた。

「……これが、私達の村」

 高い木々の上に家々が築かれ、縄橋で繋がれている。地上にはほとんど人影がなく、外敵や野生生物から身を守るための知恵がそこかしこに感じられた。


 一行が足を踏み入れたその時――。頭上の枝から、ひとりのローブ姿が3人を見ていた。

「シレーン!」

 声の主は、皮のローブをまとった女性だった。

シレーンは口元を和らげ、名を呼ぶ。

「スンダリ!」

 彼女は部族長のスンダリという名前らしい。シレーンの旧知の仲らしい。

 案内されたのは、ひと際大きな樹上の家。スンダリの家だ。

 家の中に入ると、彼女はローブを脱いだ。

 ――その姿に、ナカムラもコリーも思わず息を呑んだ。

 赤い髪と浅黒い肌が一般的なこの部族にあって、彼女は異質だった。

流れる銀髪に肌面積の多い部族の衣装から映える白磁のように透き通る肌、紅玉のごとき赤い瞳。元の世界でいえば「アルビノ」と呼ばれる特徴だろう。その美しさは、ただ珍しいというだけでなく、気高さと儚さを同時に宿していた。


「陽の光、痛い。だからこれで覆う。」


 どうやら部族内と外で使う言葉が違うのだろう。片言のような話し方だった。

 シレーンとスンダリしか分からない言葉を交わした後、スンダリは語り始めた。

 この村は狩猟によって成り立っている。

 日々の糧は、その日の獲物を皆で分け合いながら暮らしてきた。

 だが近ごろ、収穫が激減している。

 獲物の数が減ったのか、群れの移動か、理由ははっきりしない。


「サソリ、クモ、美味しくない。でも仕方ない」


 シレーンが補足する。

「だから私も頭を悩ませてた。でも、ナカムラなら……と思ったんだ」


 ナカムラは腕を組み、真剣な顔つきになった。

「つまり、自給できる方法を考えてほしい、ってことだな」


 スンダリは深く頷いた。

「シレーン、信頼してた。だから、依頼する」


「……分かった。けど、まずは実際に見てみないと何も言えない」


 ナカムラはそう答えると、腰の袋を確かめた。採集用の道具一式が入っている。


「サンプルを集めたい。動物でも、植物でも、何でもいい。そこから考えよう」


 スンダリは目を見開いた後、にこりと笑みを浮かべた。

「ありがとう」


 こうして一行は、シレーンとスンダリの案内で村の周辺地域を探索することになった。

 密林に再び足を踏み入れるナカムラは、心の中で小さく呟いた。


 この村との交流も今後は必要になるかもしれない。

 今は、村の未来を支えるために、知識を尽くす番だ。


 ナカムラたちはシレーンとスンダリの案内で部族の村周辺を探索することになった。道すがら、食糧難に直面する村をどう救うかについて議論が交わされる。


 まず話題にのぼったのは、密林に多く見られるキノコや野草の利用である。ナカムラの知識があれば毒を避け、安全に調理することは可能だった。しかし、これらは栄養価が低く、肉食中心の生活を送ってきた部族の人々にとって急激な食文化の転換は危険を伴うと判断される。


 そこでナカムラは、現実的な方法をいくつか提示していった。

 ひとつは 投網漁法の導入 である。密林には大小の川があり、魚も豊富に生息している。ナイフや罠に頼った狩猟では限界があるが、網を使えば一度に大量の魚を得られる。もちろん網の修繕や扱いには技術が必要だが、持続的な自給率向上に直結する方法だった。


 続いての提案は 交易の活用。すでに都では商人アキードと梅酒の商品化について話を進めているナカムラは、部族に梅の実を集めてもらい、それを取引する仕組みを提示する。さらに「密林天ぷらうどん」の素材の調達も合わせて依頼すれば、週に一度の定期的な収入源になる。これによって村に通貨が流れ込み、生活に選択肢が生まれる。


 その通貨で次に目指すのが 大型の動物を狩るための頑丈な鉄製の罠の購入 だ。これならば大人数で丸一日追い立てなくても、仕掛けを巡回するだけで効率的に獲物を確保できる。併せて保存食の購入や保管庫の管理体制を整えれば、食糧危機への備えも万全となる。


 しかし未知の試みであるため、どこから始めればよいか悩むスンダリに対し、ナカムラは豪快に言い切る。


「なんだったら、今言ったこと全部、俺たちでやってみよう。費用は最初だけ俺が出す」


 その言葉にシレーンとスンダリは驚きを隠せなかった。なぜそこまで出来るのか、と。だがコリーが笑いながら口を開いた。


「私の村も、同じように助けてもらったんです。こういう人なんですよ~」


 コリーの一言にスンダリは納得し、改めて協力を願い出る。

 ――こうして、部族の未来をかけた新たな挑戦が始まろうとしていた。


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