第25話 密林の調査
湿地に通いなれた頃、次なる一歩を模索していた。湿地の探索で得た経験は確かに大きなものだったが、同じ環境に留まり続けるのでは、冒険者としても料理人としても成長に限界が来るだろう。
そんな折、コリーからの相談もあった。自分の役割に悩み、もっと成長したいと望む姿を見て、ナカムラは決断した。次は密林を調査する。湿地と同じ距離にありながらも、環境は全く異なり、多様な動植物が生息する未知のエリア。薬草や毒草も豊富で、依頼の数も多い。まさに挑戦にふさわしい舞台だった。
山脈は大型の猛獣が多く、天候も変わりやすく、都からの距離も遠すぎる。最初に踏み出す新天地としては荷が重い。そこで、ナカムラとコリーは密林行きを選んだ。
初めての探索にあたり、ナカムラは仲間を揃えることにした。最初に声をかけたのは、カイルとミナ。初めてのパーティー行動で共に湿地を探索した彼らとは、今でも気心が知れている。
「誘ってもらえるなんて嬉しいな!密林はまだ行ったないからね、カイル」
目を輝かせるミナに対し、カイルは慎重だった。
「だけど密林は危険も桁違いだって聞く。僕たちでいいんですか?」
「湿地もお互い初めてだったろ、俺の故郷ではこういうのをゲン担ぎって言うんだ。成功するためのまじないみたいなもんだ」
ナカムラが静かに言うと、カイルは少し考えるそぶりをし、最後には頷いた。
そしてもう一人、密林探索に欠かせない人物がいた。今回は、ギルドを通して、指名での依頼をさせてもらった、赤髪の女性レンジャー、シレーン。密林専門で活動している熟練者で、現地の地形や危険生物の習性に精通している。幸いにも承諾を得ることができた。
「密林はな、見渡す限り同じ景色だ。目印をつけても少し動けばわからなくなる時もある。初心者のお守なんてのは普段、断るんだけど……まぁ、あんたのスキルに興味もあるからね」
シレーンはナカムラのスキルに興味を持ったようで、冷ややかな視線を浮かべながらも、同行を引き受けてくれた。
こうして結成された探索隊は、朝靄の中を出発した。密林までの距離は方角こそ違えど、湿地帯と同じくらいでありながら、その雰囲気は全く違う。鬱蒼と茂る木々、湿った土、絡み合う蔦。光は葉に遮られ、中に入れば、昼でも薄暗い。
一歩踏み入れれば、鳥の鳴き声や獣の唸り声が交錯し、湿地とは比べものにならないほどの生命の密度を感じさせた。
「すごい……こんなにいろんな音がするんですね」
ミナが耳を澄ますと、シレーンが手を上げて制した。
「静かに。音の主が必ずしも小動物とは限らない。その声真似をする動物もいる。」
彼女は矢を番え、周囲を警戒する。彼女を進行方向の右側の茂みに小さな黒緑色の集合体が見える。
「右手の茂みに、おそらく毒虫の巣だな。気をつけろ」
毒視認化スキルで見抜いたナカムラの警告に、シレーンは目を細めた。
「……へぇ。あんたのスキル、便利だね」
今回の目的は薬草とキノコの採集だった。シレーンの案内で、比較的安全とされる採集ポイントに向かう。
ナカムラの目には、毒の有無が一目で分かる。緑色のキノコは解熱作用がある薬草キノコ。対して黒い斑点の浮かぶ同じような緑色の茸は猛毒性で、誤って採れば命を落としかねない。
「これは薬草用に使える。こっちは絶対に触るな」
ナカムラがてきぱきと仕分けていると、コリーが感心して声を上げた。
「これならすぐに集まりそうですねー」
シレーンも呆れたように口を開いた。
「知識も経験もすっ飛ばしてる……反則だな」
採集は順調に進んだが、密林の厳しさはすぐに牙を剥いた。
薬草を集めている最中、頭上から不意に枝葉が揺れた。次の瞬間、赤と黒のまだら色の蛇がカイルの肩めがけて落ちてくる。
「くっ!」
反射的に盾を振るうカイル。間一髪、蛇は盾に飛ばされ、地面へ落ちる。
「どけっ!」
シレーンの矢が飛び、蛇の頭を正確に射抜いた。地面に串刺しになった蛇は痙攣し、やがて動かなくなった。
「毒蛇だ。噛まれれば数分で動けなくなる、気をつけろ」
「助かりました、ありがとうございます。」
(言葉は乱暴にも聞こえるけど、面倒見がよさそうな人だなぁ)
カイルは、シレーンを見ながら感謝の言葉を伝えるとともに、そんな事を考えていた。
「ま、まぁ……依頼分くらいは働いてやっからな、ってあんまこっち見んな!」
夕刻。袋いっぱいの薬草とキノコを抱え、一行は無事に帰還の途についた。
密林は湿地以上に苛烈で、常に緊張を強いられる環境だった。だが同時に、未知の発見や可能性に満ちていた。ナカムラは確信した。ここで得られる経験は、必ず自分とコリー、そして仲間たちを成長させる。
冒険者ギルドで依頼の品を納品した後、参加者全員に礼を言って解散となった。
「今日のところくらいまでなら、比較的安全だよ。奥に行くんだったら、もう少し慣れてからにしときな」
シレーンはそういって、依頼報酬を受け取り、帰っていく。
その後ろ姿を見ながら、ナカムラは呟く。
「何個かは見つけた。次は、獲りにいかないとな」
どうやら、また楽しそうなものを見つけたらしい……。




