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なりきり閻魔ちゃんの冥界ライフ ー私の人生、死んでからが本番ですー   作者: バラモンジン


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66. さようなら閻魔ちゃん

最終回です。

小野家の部屋の主は、小野海斗になった。

 小野海斗の見た目は二十代半ばのルーキーだが、中身は四十になったばかりの働き盛りだ。


 相変わらず手習いを習慣にしている梅子は、毎朝、小野海斗と顔を合わせた。海斗は、色々なお茶を楽しむことにはまったらしい。凝り性なのか淹れ方も研究して、今では梅子より美味しく淹れられる。


 梅子は淹れてもらった杜仲茶を飲みながら、部屋の中を見渡した。

「小野さんがいた時と、何も変えないんですね」

「小野さんと通ずるものがあるのか、このままが心地いいです」


「私、就職する前に、職場見学でここに来たんです。まだ死ぬ前に」

「魔鏡で映した井戸を通って?」

「ええ、そうしてここで初めて出してもらったのが、この杜仲茶でした。もちろん現世産の茶葉に、現世の水で淹れてくれましたけど」

「当時から色んなお茶を揃えていたんですね」

「そして、ここで色々なことを教わったり、話したり、とにかくたくさんの時間を過ごしました」

「現世なら、ありえない年月ですね」

「私はもう死ぬことはないから、永遠にここで変わらない毎日が続くと、漠然と思っていました」

「分かります」


「それがさあ、小野さんたら、急に自分の時計を進めて年をとるなんて、ズルいなあって、思ってしまったんです」

「寂しいですよね」

「寂しいと言うか、私にはもうできないことなんだなあと、身につまされたというか。・・・、ごめん、愚痴になってしまった」

「いいですよ、たぶん僕も二百年後には、理解できると思いますから」

「その時は、二百四十歳ですね」

「冥界の人からしたら、ぜんぜんヒヨッコですけどね」


「それはそうと、小野君は、入庁者特典の能力、付与してもらいましたか」

 そういえば聞いてなかったな、と梅子は思い出した。

「いえ、もらってないです」

「どうして? 期限切れとか言われました?」

「とりあえず思いつかないので放っておいたんですけど、それを考えてるうちは、冥界にむことなく、いられるかなって思ったんです」

「なるほど、分かる気がします」

 さらに小野海斗は続けた。

「どんなにここの仕事に熱中しても、俺たちは、ここでは異物だと思うんです。人間が、死んで年をとらなくなったとしても、永遠であることにいつか耐えられなくなるのが、たぶん自然の摂理なんじゃないかと。まあ、生物の有り方から逸脱している俺が言うのもなんですけど」


「なるほどです。ここのところモヤモヤしてたのは、それだったのかな。小野さんと閻魔様が、せっかく与えてくれた第二の人生を、いつか投げ出してしまう予感に、不安になっていたんです。でもそれは、当たり前のことだったのかも」

「厚意を無にしたという罪悪感を持つ必要はないですよ。なにしろ、無給で働いていますからね」

「そう言えばそうでした。かつて小野さんに言われました。衣食住完備に終身雇用、そのかわりお給料無し。でも、ぜんぜん不満はなかったですね。とにかく楽しかったし」


「菅原さん、もう、人生を締めくくろうとしていますか?」

「いいえ、まだもう少し、来世に行くにも覚悟がいるので、このままで」




 その日の夕食後、梅子は、鬼塚と橘を自分の部屋に誘った。

「どした? 珍しいね」

「何か相談事?」

「単刀直入に、来世の話です」


「ああ、スガちゃんもいよいよ考え始めたか」

「え? 鬼塚さん、ここにが天国とか極楽とか言ってませんでしたか」

「うーん、天国はね、すっごく素敵だけど、やっぱり飽きるんだわ。だからね、上に掛け合って、早めに最後の無間地獄むけんじごくまで行かせてもらって、冥界を卒業しようと思ってる」

「私もね、次の場所で自分を試してみたいの。もうここに百三十五年でしょう? その間、好きなように仕事ができた。だから、満足。だけど、菅原さんのことが心配だったの。でも、来世を考えてるなら安心した。私、退職するわ」


 橘は、その言葉通り、翌日閻魔様に離職を願い出て、その次の日には、六道ガチャに向かっていった。

「もう、仕事デキ橘さんは、てきぱきし過ぎです!」

「だから、泣かずにすんだでしょ?」

 鬼塚は、泣きそうな梅子を茶化して言った。

「橘さん、一度も振り返りませんでしたね」

「彼女らしいと思ったよ」

「最後まで、格好よかったです」

 彼女への憧れを口にするのも、これが最後だった。




 それから五年、菅原梅子百六十歳は、冥界から離れることになった。


 十九歳の見た目のせいか、同僚たちにもずいぶん良くしてもらった覚えがある。小野さんの時より激励も激しめだった。何度もお礼を言って、最後に閻魔様と司命、司録のところに挨拶に来た。

「お世話になりました」

「こちらこそ。閻魔様の暴走を止められるのは、今や菅原しかいないのだから、やはりもう少し退職を延期しないか」

「そうだぞ、閻魔様が外遊にいくときに、依り代をやってもらえる人を探さねばならないのは困る。延期しよう」

 司命、司録に引き留められた。嬉しいが、それはない。

「ありがとうございます。ここでお役に立てていたみたいで嬉しいです」

「決心は固いようだな。しかたない、諦めよう」


「ところで最後に、閻魔様、百四十年前のことなんですけど」

「何だ、急に。ずいぶん前の話だな」

「夢の中で、私の身体を貸した時、レンタル料はずんでくださいねって言ったの、覚えていますか?」

「む、そうであったか?」

「貸しにしておくので、いざって時に使わせてくださいねってお願いして、閻魔様の了承をもらいました。だから今、払ってほしいんです」

「いかにして」

「六道の行き先を、人間道にしてほしいんです。ガチャではなく」

「なるほど?」

「ここの記憶はなくしてしまうと思うんですけど、もう一度、納得のいく人生をやり直してみたくなりました。お願いします」

「よかろう。嘘をついたら、我の舌を抜かねばならぬからな」

「ありがとうございます」

「では、しばし待て」


 そう言って、閻魔様は、おもむろに髭を抜き、かみ砕いて分身を一体出した。

「分身閻魔様も、見送ってくださるんですか?」

 分身閻魔様は何も言わず、梅子を依り代にして法廷に座る時のように、梅子の体を包み込んだ。

『我が送ろう、なりきり閻魔ちゃん。世話になった』

 閻魔様が念話で伝えてきた。


 梅子は閻魔様の中でゆらりと揺られながら、人間道の入り口まで運ばれた。

『ありがとうございました、閻魔様』

 梅子が礼を言うと、分身閻魔様は、さっと消えて見えなくなった。気配さえない。ひとりだ。


 梅子は、もうふりかえることもできずに、人間道への道を一心に駆けだした。


 

                ー 完 ー


最後までお読みいただき、ありがとうございました。

最後の終わらせ方に迷いましたが、冥界に生きた梅子の気持ちは伝わったでしょうか。

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― 新着の感想 ―
終わり方、キレイでよかったです。
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