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少女なる兵器 Act.1  作者: 深瀬凪波
第二次龍鬼戦争
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第一話 指揮車交代 ③

 弾薬を補給し、烈月を加えた三人は前進を始めた。

 道中の海原は静かで、とても敵艦隊がいるようには思えなかった。

 だが、水月の心の奥はざわついていた。懸念事項はどこにも無いはずなのに、なぜか不安が頭をよぎった。


 「水月さん、気分でも悪いのですか?」


 水月の顔色から察したのか、後ろを航行していた烈月が横に並び、気を遣った。


 「大丈夫よ。何も問題は無いわ」


 水月は言葉を返し、隊列に戻るよう烈月に促した。

 だが、なぜか胸の奥のざわつきが消えることは無かった。むしろ、そのざわつきは加速しているようにも感じた。


 敵艦隊を発見するのは容易かった。移動に二時間ほどを費やしたものの、敵艦隊を射程圏内に捉えることに成功した。

 冥月と水月は主砲を構え、砲撃の準備を行った。

 烈月は測距儀を使用し、敵艦隊との距離を測る。その結果を冥月達に報告する。

 冥月達は偏差を終える。


 「「主砲、撃て!!」」


 トリガーとなる言葉が放たれ、主砲から徹甲弾が撃ち出される。爆音と爆風が辺りを支配し、砲煙が視界を覆う。

 徹甲弾は数十キロメートル先の敵艦隊に向け、一直線に飛んでいった。


 やがて、砲弾は敵艦隊の駆逐艦に命中した。水しぶきと凄まじい爆発が上がり、敵艦隊は大混乱に陥った。

 突如として、六隻存在していたはずの駆逐艦が三隻も撃沈させられたのだ。

 索敵範囲には何も存在せず、その範囲外から攻撃を受けたことは確かだった。


 「総員、即座に撤退せよ!! 敵艦隊の射程圏内から退避する!!」


 旗艦を務めていたRed1-2(レッド1-2)は、残存している駆逐艦に撤退するよう指示を出した。

 艦隊は即座に反転し、瀬戸内海を抜けるために紀伊水道への航路を取った。

 だが、Red1-2は反転して始めて気がついた。魚雷を投下し終えた陸上攻撃機の存在に―――




 敵艦隊の壊滅を確認した三人は、帰路についていた。

 二時間ほど進み続け、やっと遠くに鎮守府が見え始めた。

 ふと、耳を澄ませると、レシプロエンジンの音が響いている。空を見上げると、小さな偵察機が真上を飛行していた。


 「彩花改……何も起こらないと良いのだけど?」


 先頭を進む冥月が不安の声を出す。それは、最後尾の烈月も同じだった。


 「偵察機が離陸しただけよね? そんなに気にすることかしら?」

 「鎮守府から偵察機が離陸するのは滅多にありませんが……現在の瀬戸内海は制海権が揺らいでいるので、何が起こってもおかしくないとだけ……」


 水月は日月の言葉の裏を察した。何も返さず、黙って頷く。

 烈月は再び上空を見上げ、今は遠くを飛んでいる彩花改を見た。彩花改は夕日の逆光を受け、黒い影を落としていた。


 数十分ほどが経過し、三人は鎮守府から二百メートルほどのところまで接近した。

 そんな三人の近くに、突如として一隻の小型ボートが近づいてきた。

 やがて、そのボートは三人から十メートルほど離れた場所で停止した。ボートから三人の青年が姿を現す。見たところ、年齢は十七、八歳と見受けられる。

 冥月は周囲を確認し、ここが鎮守府の自治区内であることを確認した。


 「あなた達、ここは鎮守府の自治区内よ! 早くこの近辺から離れなさい!」


 青年達が法に触れることを考え、冥月は三人にこの場から去るよう促した。

 だが、その言葉に返ってきたのは濁った笑みと、投げられた刃物だった。

 冥月は間一髪のところで、投げられた刃物を避けた。僅かながら髪が切れ、宙を舞う。

 青年達は笑みを浮かべ、どこでそれだけの数を揃えたのかと言いたくなるほどの刃物を、冥月達に向けて投げ始めた。

 冥月達は刃物に当たらないよう、その一本一本を的確に躱した。

 しかし、全ての刃物を躱すことは不可能だった。時に服が削られ、時に肌が削られた。鮮血が流れ落ち、軍服が紅く滲む。

 そんな中、水月は青年達をこれ以上野放しにできないと考え、ショルダーキャノンの照準を、ボートの船底に合わせた。

 姉の行動に気がついた冥月は、顔が青ざめるほど血相を変えた。


 「姉さん、抑えてください!!」

 「どうして!? これは正当防衛に当たる!!」

 「姉さんは鎮守府の置かれている状況を理解してない!! きっと、後で後悔します!!」


 妹の言葉に、水月は渋々ショルダーキャノンを格納した。

 だが、その一瞬の集中力の低下は、この状況下において致命的なものだった。

 水月が再び前を向くと、そこには、こちらに向かって飛んでくる一本の刃物があった。その距離は、もう躱せるものではなかった。


 「姉さん!!」


 妹の悲鳴が聞こえる。それと同時に、時間がゆっくり流れるように感じる。

 回避を行えないと確証した水月は、重要な臓器の損傷を覚悟した。

 だが、その刃物が水月の腹に突き刺さることはなかった。その代わり、水月は目の前の光景に絶句した。


 「なんとか……間に合いましたね……」

 「日月……どうして……」


 刃物が突き刺したのは、水月を庇った日月の背中だった。刃物が鋭利なのか、それは手で投げたとは思えないほど、日月の背中に深く突き刺さっていた。

 だが、そんなことは関係ないと言わんばかりに、日月は水月の両腕を押さえた。


 「水月さん、人間に攻撃しては、こちらが不利になります。今は耐えてください……っ………!!」


 傷が深すぎたのか、日月は膝から崩れ落ちた。

 水月は日月を支え、これ以上、刃物が当たらないよう姿勢を低くした。


 (どうして……どうしてこんなことに……)


 水月は半分取り乱していた。

 守るべき存在が守られる存在から攻撃を受ける光景は、着任して間もない水月の心の奥を掻き回した。


 冥月と烈月は、日月を守ろうとする水月の姿を見て、仕方なくボートに発砲しようとした。

 手法を撃てば、この後に何が待ち受けているのかは明確だった。それを覚悟し、トリガーとなる言葉を放とうとする。


 「全員、そこを動くな!!」


 突如として、その場を揺るがすほどの怒声が響いた。その場の全員は戦慄し、声のする方を向いた。そして、そこにいた存在に、誰もが驚愕した。

 声のする方向にあったのは、一隻の魚雷艇だ。その上には、拡声器を持った司令官が立っていた。

 司令官はボートから刃物を投げていた青年達を見ると、拡声器を握る握力を強めた。


 「旧大龍帝国に仇なす者よ、早急にこの場から立ち去れ! さもなくば、付近に潜む潜水艦が一斉に魚雷攻撃を行う!」


 司令官の言葉を確定付けるように、近海から魚雷艇を所持した数人の女が顔を出した。

 青年達は舌打ちをすると、ボートを動かし、海域を離脱した。


 青年達の操縦するボートがある程度離れたのを確認すると、司令官は魚雷艇を進める。

 水月達の前で魚雷艇を停めると、その場の光景を見て絶句した。そこには、背中に刃物が刺さり、水月の腕の中で呼吸が荒くなっている日月の姿があった。


 「酷いな……ここまで深く突き刺されるとは……」

 「私のせいです……申し訳ございません」


 水月は謝罪した。

 その言葉を聞いた日月は、震える手をそっと水月の肩に添えた。


 「謝罪は必要ありません……私だって、似たようなことがあって人間に砲口を向けました……」


 日月の言葉に、水月はただならない後ろめたさを感じた。心の奥が鷲掴みにされたように締め付けられる。

 すると、司令官が魚雷艇から海に飛び降りた。

 そのまま水に浸かると思いきや、司令官は僅かながら水面から浮いていた。水月の元まで近づき、背中の傷に障らないよう日月を抱え上げる。


 「日月のことは氷龍に任せる。お前達は魚雷艇に乗って帰っていろ」

 「了解しました」


 冥月から返された言葉を聞き、司令官は日月を抱えたま白い霧を纏いう。

 霧が晴れた時、そこには司令官も日月もいなかった。

 三人は指示に従い、魚雷艇に乗り込んだ。艤装を外すと、魚雷艇の収納空間にそれらを収納する。

 直後、海から薄水色の長髪の女が魚雷艇に上がってきた。水に濡れたその姿は、夕日の逆光を浴びて美しいとさえ感じた。

 女は髪の水を払い、三人の方を向く。


 「お疲れ様でした。ここからは、私が責任を持って皆さんを送り届けます」

 「ありがとう、響龍。よろしくね」


 響龍と呼ばれた女は、慣れた手つきで魚雷艇の操舵パネルを触り、魚雷艇を進ませる。

 兵員の座るくぼみに座った三人は、何も話さなかった。

 冥月は傷心しているであろう姉を見る。

 目の前に映る姉は、明らかに打ちひしがれていた―――

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