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少女なる兵器 Act.1  作者: 深瀬凪波
第二次龍鬼戦争
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第一話 指揮車交代 ①

 日本国広島県、旧大龍帝国自治区。

 瀬戸内海の海は陽の光を浴びて輝いている。

 民間漁船やタンカーが往来し、今日も世界は動き続けている。

 瀬戸内海の一部には、数ヶ月前に建設された小規模の鎮守府がひっそりと存在している。

 この鎮守府は、旧大龍帝国の自治区である。

 ここには龍族の技術により人として蘇った兵器と、それを指揮する一人の龍族の男が暮らしている。

 自治区と言うものの、その実態は国際連合が管理している土地である。

 陸から少し離れた場所にあるこの鎮守府は、外部の接触を極力減らすように作られている。

 周りの人々からは野蛮民族が住んでいると言われ、政府はこれを黙視するどころか逆に推進している。

 これのためだけに『龍兵基本法』と言う龍族や兵器を差別するための法律が生まれ、国際連合においてもそれが採択されている。

 これには数ヶ月前の出来事が大きく関係していた。


 旧吸血共和帝国を滅ぼして数分後、旧大龍帝国は全世界から宣戦布告を受けた。

 その理由は、旧大龍帝国が人間に対して攻撃を行ったと報告する文書と映像が、インターネットを通じて世界に拡散されたことだ。

 実際に、アメリカ合衆国やベトナム共和国、更には南アフリカ共和国などの世界各国の様々な地域で、旧大龍帝国の戦車によって都市が破壊された。

 国際連合はこれを旧大龍帝国による『人類絶滅作戦』と呼称し、全世界で旧大龍帝国に宣戦布告を行った。

 旧大龍帝国は決死の抵抗を行った。

 その結果、日本国の広島県呉基地、アメリカ合衆国バージニア州ノーフォーク海軍基地を破壊することに成功した。

 だが、数万年に及ぶ旧吸血共和帝国との戦いを終えた旧大龍帝国に、抵抗できるほどの戦力は残っていなかった。

 多勢に無勢の言葉のように、旧大龍帝国は敗北した。

 旧大龍帝国で生き残った二人の龍族は目をくらました。そして、懸賞金を賭けられ、世界各国から追われる身となった。

 残存していた兵器は一箇所にまとめられ、核爆弾によって全て破壊された。

 旧大龍帝国本土は国際連合直下の管理地となり、核爆弾を使用した土地の周辺に放射能測定器などの設備が建設された。

 これにより、事実上、大龍帝国は滅亡した。


 年の瀬が近づく五日前のことだ。

 鎮守府の執務室は、時計の針の音ですらうるさく感じるほどの静寂が支配していた。

 執務室では、一人の男が窓の外に広がる海原を眺めていた。

 純白の軍服を身に纏うその姿は、窓から差し込んだ日の光を浴びて存在感を引き立たせていた。

 男の名前は龍造暁翠。旧大龍帝国元十三代首脳であり、この鎮守府の司令官だ。そして、彼こそが、旧大龍帝国の兵器を人間として蘇らせたのだ。

 ふと、暁翠は壁に掛けられた時計を見た。針が指す時刻は正午だった。


 「これは、おそらく道にでも迷ったかな……」


 暁翠は言葉を零すと、事務机の近くにある椅子に座った。深く息を吸い、吐く。そして、目線上にある執務室の扉に目を向けた。


 それから間もなくして、執務室の扉が開かれた。

 執務室に入ってきたのは、灰色の軍服に身を包んだ、黄髪のツインテールの女だった。

 女の髪は満月色と言ってもよいほど綺羅びやかな色をしており、手入れのよさからも品格を示すものだった。

 瞳はシャルトルーズ色のトパーズのように透き通っていた。

 女は事務机の前まで歩いた。足を止め、海軍の敬礼を取る。

 鎮守府の主は手を少し挙げ、すぐに下げる。女は敬礼をやめ、その手を下げた。


 「元帥……姉はまだですか?」

 「まだだな。だが、あらかじめ地図は置いてきた。直に到着するだろう」


 女の問いに、鎮守府の主は言葉とともに、手振りを返した。

 手振りの意味を察した女は、鎮守府の主が座る椅子の横に立った。

 鎮守府の主は女の立つ横を見ず、目線上にある扉をじっと見つめていた―――




 あれから十五分ほどが経過した。

 執務室の近くでは、一人の女が辺りを見回しながら歩いていた。

 女は先ほどの女が身に纏っていた軍服と全く同じものを身に纏っていた。

 女はここに来るまでに道に迷い、何度も見当違いの場所に行っていた。

 だが、その苦労は執務室の扉を見つけたことで報われた。

 女は扉の前に立つ。深く息を吸い、吐く。

 そして、緊張で震えるその手で、執務室の扉を叩いた。

 あまりの緊張で気が狂いそうになる。心なしか、胃が痛くなるようにも感じた。


 「入れ」


 扉の向こう側から、男の声が聞こえた。ここまできてしまっては、後戻りはできない。

 女は腹を括った。


 「失礼します」


 女は震える手でドアノブに手を掛けた。ドアノブを回し、執務室の中に入る。

 執務室の中で待っていたのは、純白の軍服で身を包んだ男だ。その男は、間違いなくこの鎮守府の主だ。

 女は扉を閉め、再び鎮守府の主と目を合わす。着任の挨拶をするため、事務机の前まで歩く。

 事務机の前で止まると、女は鎮守府の主の視線に固唾を呑んだ。目の前の男からは、明らかな威圧感が放たれている。並大抵の者では、数秒だろうと目を合わせることは困難だろう。

 だが、女は男の威圧に屈しなかった。固まっていた腕を動かし、海軍の敬礼を取った。


 「本日より、この鎮守府の所属となりました。水月と申します」


 水月は冷静を装って言った。その腕は、か弱い少女のように小刻みに震えていた。

 鎮守府の主は手を挙げ、すぐに下げた。水月はその合図を見て、手を下げた。


 「そんなに緊張するな。別に取って食べてやろうなんて思ってない」


 鎮守府の主は、水月が緊張していることを見抜いていた。

 水月はその言葉を聞き、ほんの少しだけこわばっていた表情を和らげた。


 「すまないが、もう少しこっちへ寄ってくれないか? もっとよく顔を見せてくれ」


 鎮守府の主は、水月にもう少し近づくよう指示を出した。

 水月は二、三歩ほど前に進んだ。日の光が目に入り、目を瞑りたくなる。だが、焦点を鎮守府の主に向けることでそれを耐えた。

 水月の顔を見た鎮守府の主は、その容姿に少しばかり驚いた。

 下ろされた長髪は、一度訪れたことのある上高地の透き通った川水のような鮮やかな水色で、瞳はシアン色のアクアマリンのように透き通っていた。

 鎮守府の主の後ろに控えていた女は、目の前に立つ姉を見て目を輝かせていた。姉の容姿はとても美しく、うっかり気を抜いてしまえば引き込まれてしまいそうだった。


 「あの、私の顔に何か付いていますか? ここに来る前に、何度か鏡で確認はしたのですが……」


 水月の言葉で、二人は我に返った。軽く咳を入れ、再び真剣な眼差しを水月に向ける。


 「まず最初に、本鎮守府への着任を心から祝う。そして、同時に謝罪させてもらう。再び戦争に巻き込んでしまい、本当に申し訳ない」


 鎮守府の主は頭を下げた。


 「そんな、頭を上げてください」


 水月は、鎮守府の主に頭を上げるよう言った。

 鎮守府の主は頭を上げ、三度、水月と向き合った。


 「慈悲深い心に感謝する」


 鎮守府の主は感謝の言葉を述べた。

 水月は心の底から安堵した。緊張の糸が切れ、肺に溜まっていた空気を外に出す。

 その間に、鎮守府の主は一枚の紙を取り出し、それを水月に差し出す。

 水月は紙を手に取り、その内容に目を通す。


 「第一水上戦車遊撃部隊……その指揮車を私に任せるとのことですか?」

 「ああ、そうだ」


 水月は内容を読み、内心で大きく動揺していた。まさか、着任して一日も経たない内に、一部隊の指令塔を任されることになるとは、夢にも思っていなかった。

 無論、そうなると責任が付きまとう。着任して間もないのにも関わらず、本当に指令塔を務めてよいのか不安になる。


 「元帥、恐れながら、私は人間の体を得て一日も経っていません。不慣れな体で戦闘を行うのは、任務に支障をきたすと思われます」


 水月の言葉に、鎮守府の主は何も言わず、深く頷いた。


 「それについては心配ない。俺の横に控えている冥月がお前の指導を行う」


 鎮守府の主の言葉に、水月は目を丸くした。横に立つ満月色の髪をした女に目を向ける。

 自分と全く同じ軍服、纏う空気。それは、かつて肩を並べた妹のものだった。


 「冥月、水月を連れて鎮守府周辺の海上へ行ってくれ。艤装の使い方を教えてやってほしい」

 「了解しました。では、私は失礼します」


 冥月はそう言い、歩き出した。姉の前までくると、その手を引く。

 水月は妹に連れられ、執務室を後にした―――

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