第二章 エピローグ
「……う、うぅ……。ここはどこロボ?いったいどいなってるロボ?」
ステラに抱き抱えられたロボ丸が薄らと瞼を開いた。まだ目覚めたばかりで状況が飲み込めないのだろう。不思議そうな表情を浮かべ、おぼつかない視線で辺りを見渡す。
「ロボ丸!よかった、気が付いたのね!大丈夫?どこか痛いところない?」
ステラが不安と安堵の入り混じった声で、矢継ぎ早に質問を浴びせる。
「ステラ、落ち着きなさい。ロボ丸はまだ目覚めたばかりよ。状況を整理する時間が必要だわ。」
わたしは慌てふためくステラをなだめながら、ロボ丸の容態を確認した。
バトルスーツのあちこちが破け、白く柔らかな肌が露出している。
身体のあちこちに擦り傷が見られるが、他に目立つ外傷はない。
どうやら命に関わるような大怪我は負っていないようだ。
「よかった……どうやらたいした怪我はしてないようね。ステラ、ロボ丸に回復魔法をかけてあげなさい。」
「了解、マスター!ロボ丸、ちょっとじっとしててね!」
ステラはロボ丸を地面に横たえると、彼女の傷口に手を添え回復魔法を唱えた。
するとステラの手のひらが輝き、淡いライムグリーンの光を放つ。
ステラが撫でるような手つきで手のひらを動かすと、ロボ丸の傷はどんどん癒えて塞がっていく。
擦り傷だらけの肌は瞬く間に、元の健康的な色艶を取り戻した。
「ステラ、その格好どうしたロボ?そうだ、闘いは?あの化け物はどうなったロボ?」
「ロボ丸、あの化け物はステラがやっつけたのよ。そしてあれはステラの新しい姿。その名もスーパーステラよ!」
「スーパーステラ……。ずいぶん安直なネーミングロボ。でもあんな化け物をやっつけるなんてステラはすごいロボ!」
ロボ丸は上体を起こし、目を輝かせながらステラを褒め称える。
どうやらすっかり元気を取り戻したようだ。
「ふふん!どうだ!すごいでしょ?これからはどんな強い敵が相手でも、わたしがぜーーんぶやっつけちゃうんだから!」
ステラはロボ丸に褒められてすっかり上機嫌のようだ。
わたしたちの頭の上をクルクルと飛び回り、まるで仔犬のようにはしゃいでいる。
「あーー、ステラ殿。申し訳ないがそろそろ……。」
「えっ?何?」
アリスさんに呼び止められ、不思議そうな顔でステラが振り返る。
その時である。
ステラの纏う装甲のあちこちから、パシンパシンという音と共に火花が飛び散った。
次いで黒い煙が装甲の隙間から吹き出し、火花の出る頻度がますます激しくなる。
「ええ?いったいなんなの?」
戸惑いの声を上げるステラ。
次の瞬間、軽い破裂音と共に、ステラの装甲が弾け飛んだ!
「きゃあ!」
ステラは地面に投げ出され尻餅をつく。
ひび割れた装甲が黒い煙を上げ、軽い金属音を立てながら四方八方に飛び散っていく。
「ステラ、大丈夫?」
わたしは慌てて駆け寄り、地面でお尻をさするステラを抱き寄せた。
ステラはあちこちが煤で汚れているが、幸いどこにも怪我はないようだ。
「あぁ……。やはりこうなってしまったか……。」
アリスさんがあたまを抱えながらぽつりと呟いた。
どうやら彼女はこの事態に何か心当たりがあるらしい。
「ちょっと、どういうことですか?アリスさん?」
わたしは少し怒った口調で彼女を問い詰めた。
リスクがあるとは聞いていたけど、まさか爆発するなんて聞いてない。
下手をしたらステラが爆発で死んでいたかもしれないのだ。
「あぁ、すまん。では今から説明しよう。これはとり丸がステラ殿の出力に耐えきれずに起こった事なのだ。」
「とり丸が……ステラに?」
「うむ。そもそも魔導合体とは、魔導人形がメイガス・ギアを纏うことにより、その秘めたる潜在能力を引き出すことである。魔導合体によって引き出されたステラ殿の力にとり丸のボディが耐え切れず、オーバーフローを引き起こしたのだ。その結果とり丸に組み込んだ安全装置が働き、自動的に装甲がパージされたというわけだ。」
「それじゃあ、とり丸は……。」
「うむ、まだまだ改良の余地があるという事だ。まさかステラ殿の潜在能力がここまでとはな……。正直わしの予想以上じゃよ。」
「ねぇ、アリス。とり丸治るよね?」
ステラが半壊したとり丸の頭を抱えながらアリスさんに尋ねた。
その顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっている。
「クェェェ……。」
頭だけになったとり丸がステラの胸で悲しげに鳴いた。
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レムリア大陸の地下深くに隠されし秘密の地下遺跡。
太陽の恵みがいっさい届かぬ呪われし地において、禁呪使いの魔導士と新たな力を得た魔導人形とが死闘を繰り広げた。
しかしその熾烈極まる激闘を、人知れず観測する影がいた事を誰も知る由はない。
ドロシーも、とり丸も、ステラも、あのアリスでさえも。
誰もその影の存在にに気づくことはなかった。
ようやく現場にたどり着いた憲兵が下手人の魔導士を拘束し、ダークエルフの少女が担架で運ばれていく。
ドロシーたちは四散したとり丸のパーツを拾い集めた後、ようやくこの場を後にした。
全てが終わり、現場検証を終えた憲兵たちが立ち去ったあと、影はようやくその姿を露わにした。
あのアリスでさえも欺くほどの高度な隠遁魔法を解除し、天井から瓦礫の山へとふわりと降り立つ。
影は……いや、その女は目深に被ったフードを脱ぎ捨てると、大きなため息をついて辺りを見渡した。
見た目は二十歳前後の若い女だ。
浅葱色の髪の毛をショートボブにまとめている。
しかし目元はアイマスクで隠され、感情を読み取る事が出来ない。
「いやいや、まったく酷い有り様だわ。せっかくあの男に買い与えてやった機材が、全部スクラップになっちゃった。高かったのよ、あれ?」
女はやれやれといった感じで首を左右に振った。
わざとらしく芝居がかった、大袈裟な仕草だ。
「でも収穫はあった。だろ?」
女の左肩に腰掛けた小さな影が、馴れ馴れしい口調で語りかける。
「メイガス・ギアと魔導人形の合体。まさかこれほどの力を生み出すとは。実に興味深い。」
女の右肩に佇むもう一つの影が、抑揚のない口調でぽつりと呟く。
壁にかけられた松明の炎が揺らぎ、二つの小さな影を照らし出す。
あれは使い魔だろうか?それともフェアリー?
いや、違う!
あれは……間違いない!魔導人形だ!
「あいつステラって言ったか?おれ、はやくあいつと手合わせしてぇ!」
影の一つ、サキュバスめいた衣装を纏った魔導人形が拳を打ち鳴らし己を鼓舞する。
「とり丸とやら。あのメイガス・ギアを鹵獲し、われの研究室で解剖実験を行う。これは既に決定事項だ。」
もう一つの影、神官めいた衣装を纏った魔導人形が抑揚のない口調で悍ましい願望を語った。
「アンタ達、はしゃぐのもいいけどほどほどにしときなさいよ?」
女は人形達をたしなめながら、再び隠遁魔法を発動。
女の輪郭がピンボケ写真のように揺らぎ、その姿は周囲の風景に静かに溶け込んでいく。
「まぁどちらにせよ……楽しくなりそうだわ!」
誰の姿も見えない地下遺跡に、女の楽しげな声がこだまする。
不吉な余韻をはらんだその声は遺跡の暗がりの中に溶け込み、やがて静寂が訪れた。
_第三章に続く




