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悲劇!囚われのダークエルフ!

 ピチョン……ピチョン……。

陽の恵みとは無縁な真っ暗闇の洞穴に、天井から滴り落ちる水滴の音が反響する。


 岩石が剥き出しになった荒々しい壁面には、目のない乳白色のヤモリが、チロチロと舌を出し餌を求めて這い回っている。


 隠遁術で隠された秘密の入り口を抜けた先にあったものは、暗闇に閉ざされた狭く長い洞穴だった。


 入り口に転がっていた壊れかけたピッケルやスコップから察するに、おそらくこれは人の手で掘られたものだろう。


 天井は低く、小柄なわたしでも手を伸ばせば簡単に届くほど。

その上、大人の男がかろうじて通り抜けられそうなほど、道幅は狭い。


 そんな窮屈な洞窟の中を、とり丸の先導のもとに、わたしたちは静かに、早足で歩いていた。


 「アリスさん、さっきの話の続きですけど、何故そんなに急ぐ必要があるんですか?やっぱり一度戻って、憲兵に報告した方がよくないですか?」


 「それが最善手であることはわしも承知しておるよ、ドロシー殿。しかし、我々に共和国まで悠長に戻っている時間はない。事は一刻を争うのだ。」


 「戻っている時間はないって……。いったいどういう事ですか?説明してください!」

「うむ、順を追って説明してやろう。お主、先程わしが口にした粘液のことは覚えておるな?」


 「ええ、確か、自然のものでは考えられないくらい、高い魔力が含まれていたんですよね?」

「その通り。しかもその魔力はスライム本来のものではない。あれはおそらく人由来のもの。それも魔力波長から察するに、ダークエルフのものだ。」

「ダークエルフ……!」


 ダークエルフ。

それは数ある亞人の中でも、もっとも謎に満ちた種族だ。

艶やかな褐色の肌と、美しい白銀色の髪が特徴的な、眉目秀麗なエルフ種の亞人。

生来高い魔力を持ち、闇属性の魔術を得意とするという。


 しかし、過去に起こった紛争が原因で、その数を大きく減らし、共和国政府により希少種認定を受けることとなってしまった。

そのために、多種多様な亞人の暮らす共和国においても、あまりお目にかかる事のない、珍しい種族となってしまったのだ。


 「でもアリスさん、何でそのスライムからダークエルフの魔力が?」

「これはわしの予想じゃが、おそらくなんらかの方法でダークエルフから魔力を抽出し、それをスライムへと移植したのだろうな。」

「魔力を……移植……‼︎⁈」


 人から魔力を抜き取り、それをモンスターへと与える……。

想像しただけであまりの悍ましさ鳥肌が立つ。

なんと恐ろしい、人心を省みぬ冒涜的な実験だろう‼︎


 「でも、いったいどうしてそんなことを?」

「それはさすがに術者本人に聞いてみんとわからんよ。まぁ、おおかたの予想はついておるがな。ただ一つ言えることは、この魔力の本来の持ち主は今、生命の危機に瀕しているということだ。」

「生命の危機……⁈」


 「うむ、あの魔力には微かだが残留思念が含まれておった。そこから読み取れたのは、苦痛、苦悶、混乱、疲弊……。読み取れた情念は微々たるものだが、この思念の持ち主が、心身共に限界にきておるのは間違いないようじゃ。……おっと、ドロシー殿。どうやら出口が見えてきたようじゃぞ?」


 アリスさんが指さす先に光が見える。

コールタールをべた塗したかのような深い闇の奥で、まるでそこだけ切り取られたかのような、四角く白い光が。

誘蛾灯に魅せられる迷い蛾のような足取りで、無機質な闇の中をふらふら進む。


 光の出口を抜けた先にあったのは、石造りの巨大な広間だった。

部屋の四隅に巨大な真鍮の柱が立った、とんでもなく大きな真四角の空間。

塔のように高い天井には、魔法で造られたオーブの群れがふわふわと漂い、この広大な空間を明るく照らし出している。

そして、そこに広がる異様極まる光景をも……。


 縞瑪瑙の石板が敷き詰められた大広間。

そこには奇妙な紋様が印された黒曜石のオベリスク群が、まるでストーンヘンジのように屹立している。

その様はまるで、遥か太古に忘れ去られた蕃神を崇める黒魔術教徒のサバトめいていた。


 そして、おぉ、見るがいい、その大広間の中央にあるものを。

直径10メノー(※共和国で使われている単位。1メノーは1メートル)はあろうかという、ガラス製の超巨大シリンダー。

その中身は、半透明な紫色の粘液で満たされている。

その粘液の中で、力無く揺蕩うものがある。


 薄桃色がかった長い銀色の髪。

一糸纏わぬ、艶やかな褐色の肌。

焦点の合わない琥珀色の瞳。

粘液の中に力無く漂う、美しい少女。


 間違いない、あれが……ダークエルフ‼︎‼︎








 

 


 


 


 








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