新装備性能評価試験!
アリスとのデートの翌日、ドロシー一行は共和国の外れにある森林へと出かけていた。
先日、ドロシーが徹夜で完成させた、ロボ丸の新装備のテストを行うためである。
森に出る適当な雑魚モンスター相手に、新しい装備の性能を試そうというのだ。
ドロシーは、森の散策路の入り口まで来ると、一度足を止め、きょろきょろと周囲の様子を探った。
そして、辺りに人がいないことを確認すると、「立ち入り禁止」と書かれた看板を乗り越え、暗い森の中へと歩き出していった。
かつてこの森は、共和国の住民に人気のある観光スポットだった。
昔は休日になると、森林浴に来た老人や、ピクニックに来た家族連れなどでにぎわったものだ。
しかし、何時ごろからか人を襲う危険なモンスターが住み着いてしまい、安全性の問題から入り口は封鎖され、一般人の立ち入りが制限されるようにしまった。
今では、許可を得た冒険者以外は立ち入ることができない危険地帯と化している。
今時この森に立ち入るのは、命知らずの初級冒険者か、自殺志願者くらいだろう。
「ここら辺でいいかな?」
森林の荒れ果てた散策路を半刻ほど歩いたところで、ドロシーは歩みを止めた。
そして、背中のリュックから小さなガラス瓶を取り出した。
瓶の中には、ライムグリーン色のねっとりとした粘液が波打っている。
「マスター、それなぁに?」
ステラが瓶の中の液体に、興味津々な様子で尋ねた。
「これはね、臭気瓶と言うの。モンスターが好む臭いがする液体が入っているのよ。」
ドロシーが瓶を軽く振りながら答えた。
ドロシーが今からやろうとしているのは以下のようなことだ。
この森には多数のモンスターが住み着いているが、実は散策路を歩いている限りは、モンスターに出くわ
す可能性は極めて低い。
せいぜい群れからはぐれたスライムやゴブリンに絡まれる程度だろう。
それでも、身を守るすべを持たない一般人にとっては十分すぎる脅威である。
現に、この森に魔物たちが住み着いてからは、多数の民間人の死傷者が出ている。
それこそが、この森が封鎖され、民間人が立ち入れなくなった理由でもある。
ドロシーは、臭気瓶の中の液体をあちこちの木々に塗りたくることにより、多数のモンスターを効率よく一か所に集めようとしているのだ。
そして、十分な数が集まったところをロボ丸に奇襲させ、新装備のデータを収集するというのが今回の作戦だ。
奇襲とはなんと卑怯な、と思われる方もいるだろうが、相手は人を襲い、その血肉を喰らうおぞましい怪物たちだ。
微塵の情け容赦もかける必要はないだろう。
ドロシーはハケを瓶の中の液体に浸して、近くにある樹木にベタベタと塗りたくる。
「いい?ステラ?こうやって薬を適当な木に塗ってね、しばらく待つと、モンスターが寄って来るのよ。」
そう言いながら、数本の木にも薬を塗りたくると、薬を塗った木々から離れた茂みに身を隠した。
数十分後、臭いに釣られて雑魚モンスターがわらわらと集まってきた。
その様はまるで、樹液に群がる昆虫のようだった。
ドロシーは懐から双眼鏡を取り出し、敵の数と種類を確認する。
「スライムが三匹にゴブリンが四匹、ダイアウルフが三頭か……。まぁ、こんなもんかな……。ロボ丸、準備出来てる?」
ドロシーは双眼鏡を懐に仕舞うと、隣で待機しているロボ丸の方を見やった。
ロボ丸は、全身に装着したプロテクターの具合を確かめつつ、シャドーボクシングを繰り返しているところだった。
レッドメタリックに輝くプロテクターに、巨大で無骨なガントレット。
いずれも、ロボ丸の旧ボディと、その余剰パーツを流用して作られたものだ。
ロボ丸の拳が宙を裂くたび、紅い拳が陽光を反射して輝く。
「こっちは準備完了ロボ!ご主人の指示があれば、いつでもいけるロボ!」
ロボ丸は拳をガンガンと突き合わせて答えた。
「よし、それじゃあ十数えたら攻撃開始!ステラは万が一に備えて、指示あるまでその木の上で待機ね!」
「りょーかい、マスター!」
「了解ロボ‼︎」
ステラはマジカ・ブラスターを銃形態に変形させ、木の枝に飛び乗ると、その場で姿勢を低くして銃を構えた。
そしてロボ丸は、ヘッドギアのバイザーを下ろすと、クラウチングスタートの姿勢を取って構えた。
「10……9……8……7……6……。」
ドロシーのカウントが始まった。
その場の空気が緊張で張り詰め、ピリピリとした感覚が肌を覆う。
「……3……2……1……GO‼︎」
「ロボ丸、行くロボ‼︎」
ドロシーの掛け声と共に、ロボ丸は茂みを突っ切り、モンスターの群れへと突撃した!
「どおりゃぁぁぁぁ!!!!!!!!‼︎これでも!喰らうロボ!!!!!」
ロボ丸は加速をつけ、手近な敵目掛けてガントレットを振りかぶった!
ドゴオォォォォォォォォォン!!!!!!!
ロボ丸の渾身の右ストレートが、ゴブリンの無防備な後頭部に直撃する!
「ぐぎゃっ?!!」
頭をつぶされたゴブリンは、ロボ丸の拳ごと木の幹にめりこんだ。
そして、ぴくぴくと二、三度痙攣した後、ぴたりとその動きを止めた。
「ぐぎゃぎゃっ?!げぎゃっ!」
いきなりの奇襲に、ゴブリンたちは慌てふためく。
ロボ丸は、ゴブリンの緑色の血液で染まった拳をずるりと引き抜くと、ボクサーめいた構えを取り、敵に向き直った。
「ギャンギャン!!」
ロボ丸の鬼気迫る様子に恐れをなしたのか、ダイアウルフたちは負け犬めいた叫び声をあげ、森の奥へと逃げ去って行った。
「逃げる奴は追わなくていい!ロボ丸、次に備えて!」
「わかってるロボ!」
ロボ丸は顔の前で拳を構え、残る敵を睨みつける。
「ぐぎゃっ!ぐぎゃっ!」
仲間を殺された恨みからか、ゴブリンたちが棍棒を振りかざし、ロボ丸に向かって襲い掛かってきた!
「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
ゴブリンは勢いに任せ、ロボ丸に向かって力任せに棍棒を振り下ろす!
しかしロボ丸はスウェーしてその一撃をかわすと、強烈なアッパーをゴブリンの顎めがけ繰り出した!
「イヤァァァァァァ!!!!!!!!」
「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁ?!!!!!!!!」
ゴブリンは顎を砕かれ、緑の鮮血をまき散らしながら宙を舞う!
どさりという音を立て、ゴブリンの身体が地面に叩きつけられる。
目の前でまた仲間を殺され、ゴブリンは思わずたたらを踏んで立ち止まってしまう。
その隙を逃さず、ロボ丸は素早く敵の懐に潜り込む。
そして、強烈なボディブローを連続で叩き込んだ!
「どりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
「ぐぎゃぎゃぎゃぎゃぁぁぁぁぁぁぁ??!!!!!!!!!!」
猛烈なラッシュを受け、ゴブリンの身体が宙に浮く!
「これでとどめ!!!」
一瞬の溜め動作とともに、ガントレットの伸縮機構が動作し、シリンダーが圧縮空気を吐き出した。
「おりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」
ロボ丸の渾身の右ストレートがゴブリンの腹にぎりりとめりこんだ!!
ガチャン!!
軽い金属音と共に、ガントレットの伸縮機構が解放された!
そして、拳に封じられた爆発的な魔力が一気に放出される!!
ドッゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!!!!!!
爆音が森中に響き渡り、ゴブリンは体をくの字に曲げ、ワイヤーアクションめいて吹っ飛ばされた!!!
「げぼぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ??!!!!!!!!!!!!!!!」
緑色の血反吐を吐き散らしながら、ゴブリンの身体は木々の合間をすり抜け飛来する。
そして、ゴブリンの体内に注入された高密度の魔力が彼の体内で火を噴き、大爆発を起こす!
「ぎゃおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
ゴブリンは断髪魔の悲鳴を上げ、花火めいて爆発四散!
その大爆発は、他のモンスターたちを巻き込み、森の中で炎が渦を巻いて荒れ狂った!
炎にその身を焦がされ、残るモンスターたちも苦悶の悲鳴を上げ、次々絶命していく。
やがて、炎が静まった後、そこに立っていたのは抜け目なく残心を決めるロボ丸ただ一人であった。
「ロボ丸、大丈夫、けがはない?」
ドロシーは、地面に散乱する焦げた樹木を乗り越え、焼け焦げた地面に佇むロボ丸へと駆け寄っていった。
「大丈夫ロボ!……でもこれ、ちょっと威力が強すぎるロボ……。」
ロボ丸はドロシーのほうへと振り向くと、右腕のガントレットを投げてよこした。
そのあまりの威力にドン引きした為か、ロボ丸の顔は引きつった笑みを浮かべていた。
「う~ん……、魔力シリンダーの圧力をちょっと強くしすぎたかしら?でも、あの時の蜘蛛を倒すにはこれぐらいの威力がちょうどいいと思うけど……。」
ドロシーは、ロボ丸から受け取ったガントレットを手に取り、ぶつぶつと呟いていた。
「ロボ丸!!」
ステラはロボ丸に駆け寄ると、そのまま勢いよく抱き着いた。
「わぁ!」
その勢いに負け、ロボ丸は思わず地面へと押し倒される形となった。
「ロボ丸すごかった!すごくかっこよかった!!」
ステラは、倒れたロボ丸を抱きしめると、その豊満な胸に顔をうずめて頬を摺り寄せた。
それはまるで、主人にじゃれつく大型犬を思わせる微笑ましい光景であった。
「ステラ、やめるロボ!くすぐったいロボ!」
ロボ丸は自分に抱きつくステラを引き剥がそうと悪戦苦闘していた。
しかしその表情に嫌悪の色はなく、まるで甘えん坊の妹に手を焼く姉のような優しい笑みを浮かべていた。
「二人とも、そろそろ家に帰るわよ!早く帰りの準備をしなさい!」
「はぁ~―い!」
「ステラ!いい加減胸から離れるロボ!」
三人の賑やかな声が、しばらく森の中にこだました。




