二一時限目『 鎧通しクワガタ(エストックビートル)』
鎧通しクワガタ
■異称:ジャイアント・スタッグビートル
■種別:甲虫型魔獣(クワガタムシの魔獣)
■主な出現地域:森林
■出現数と頻度:単独 / ふつう
■サイズ:子牛ほど
■危険度:小(討伐の難度は中)
■知能:低い
■人間への反応:敵対的
■登場エピソード:蜘蛛の意吐(本編)、魔蟲新森の出現時、ほかの昆虫魔獣とともに名前が列挙された。
■身体的特性とパワー
鎧通しクワガタ は、怪力の巨大クワガタムシの魔獣です。
ツヤのある焦茶〜黒色の外殻で、かたいからだは大剣や大斧でも簡単には傷をつけられません。攻撃魔術を用いずに体内へダメージを通すことは困難です。
また、昆虫系モンスターの特徴で痛みに強く(鈍く)、大岩の下敷きにされても、脚が二三本、折れたり千切れたりしたまま、岩を押し上げて平然と這い出して来ます。
鎧通しクワガタの特徴は大アゴです。オスは自分の胴体に匹敵する長さで、太い鉄柱もたやすく切断します。
威力の秘密は『切断魔法』です。
挟みつけるパワーはかなりのものですが、大アゴ自体に刃はなく、わずか1.2秒間(外殻に複雑な模様や線図めいた光が明滅する間)だけ魔法による破壊力を示します。
メスのアゴも、サイズこそ短いものの危険な武器です。
鎧通しクワガタ は、いかつい成虫のすがたで何年も生き続けますが、これまで卵や幼虫、蛹は見つかっておらず、普通の昆虫の生活史をたどるかどうかはっきり分かっていません。
かれらはふだん群れず、森でそれぞれのナワバリに分かれて暮らしています。ナワバリ持ちの個体は、隠れていそうな位置に見当がつけばかなり危険を減らせます。しかし、ナワバリの無いハグレ個体は森を不規則に彷徨っていて、たまたま出逢った人間に本能的に突進して来るので危険です。
厄介なことに彼らは仲間同士、ナワバリをしばしば奪い合うので、急に新たなハグレ個体を生んだり、運の悪いハンターを闘争に巻き込むことがあります………
◇ ◇ ◇ ◇
◎ ルブセィラ先生の補足説明;
教科書だけでは、鎧通しクワガタ の危険が伝わらないので補足いたします!
(さて……)
鎧通しクワガタ の脅威は、あまり高く評価されていません。危険度は小です。大アゴの威力やからだの頑健さ、怪力は突出していますが、素早さや柔軟性が乏しく、予測しやすい直線的動きだからです。
しかし、大アゴを振り立てた攻撃が、なれたハンターがたやすく躱せる単純単調なものだとしてーー 襲われたハンターがいつも十全な体調で、いつも時間や空間のゆとりがえられるかどうか。いつもよけて、相手を後ろに行かせてよい状況かどうかわからないのです。
大アゴにつかまれば、まず逃げられません。
人体をかまえた武器も盾も鎧も一緒くたに、一呼吸で腰斬……そんな武器をもつ魔獣の危険度が「小」の訳ありません。
一方、クワガタムシは男の子に妙な人気があります。モンスターの鎧通しクワガタ も高い知名度です。
少し古い話になりますが…… 鎧通しクワガタの知名度の高さと危険度の低さに目をつけて、見物に特化した辺境旅行が中央諸国の富裕層に流行ったことがあります。
はるばる盾の国を訪れる人数は限られていましたが、かなりの大金が動いたそうです。
このとき。観光ガイドになった若いハンターの間で危険な『度胸試し』が広まりましたーー 大アゴをふりかざす昆虫魔獣をあえて興奮させて、背中を踏みつけたりギリギリで大アゴをよけたり。魔獣深森の中で、どれだけあしらえるか競い合うゲームです
大金に魅せられたガイドたちが、いつしか中央諸国の観光客に見世物まがいの腕自慢をするようになって、スリリングな『技』を競い出したのです。
もちろん、魔獣をからかって遊ぶなど、とんでもない話です。当然のように惨事が起きます。
ーー ある事例では、森の浅いところで見世物をはじめたところ、巨大クワガタが威嚇したり突進したりする代わりに、いきなり近くの立ち木を伐り倒したそうです。つぎつぎまわりの人間たちに木を倒れかからせ、短い木なら足下へ投げつけ。ときに棍棒のようにふりまわしもして、たちまち、居合わせた十数人を全員、瀕死にしたのです。
もともと苛烈な魔獣深森を生き残った魔獣は、何をするかわかりません。 ガイドたちはほとんどの場合、それを弄ぶだけ ーーいわば手負にして引き上げていました。
変化が起きない方がおかしいのです。
惨劇は続発して、ある時期を境にクワガタムシ魔獣の辺境旅行ブームはあっけなく終息します。
しかも、このときの異変は凶暴化だけでは済まず、魔獣深森に危険な狂化個体が複数残されました。
そうです、鎧通しクワガタ狂化個体なんです。かれらはでですね、ふつうの個体よりさらに ーー
………ひそ、ひそひそ。
カダール(父兄、授業参観中)
「ルプセィラらしくない……くどい?」
シグルビー(元ハンター、臨時参加の助手)
「……すまないね。鎧通しクワガタのことをいろいろ聞かれたもんでさ。ハンターの師匠たちに聞かされた『度胸試し』の終いや、狂化個体の騒動の話をしたんだ」
カダール
「ハンターの先輩が新人にする教訓……怖い話というやつか」
………ひそひそ。
シグルビー
「血なまぐさいやつな」
「バカしたバカどもが、生きたまんまバラされた、とか。大ケガで森を逃げまわった、どうにか助かったけど、あちこち切り落とされて一生不自由した、みたいな」
「手負いのハグレが、嵐の山荘で暴れまわった惨劇なんかも……」
カダール
「ルブセィラ……… あの目のくまは、本当にあった怖い話で寝不足になったのか」
シグルビー
「……すまん」
◇ ◇ ◇ ◇
◎ クワガタムシのトーク
____ 聞かないな〜 (⌒o⌒; P
クワガタムシのモンスター………
K;  ̄_ ̄) 歴史的背景?______
欧米はカブトムシ、クワガタムシをペットのように飼わない。黒くてひらたくて、ゴキブリのようだと嫌う人さえいるみたい。
________ (⌒◇ ⌒; P
ゴキ………ヨーロッパにクワガタムシはいないの⁉︎
K;  ̄ o ̄) いる、けども______
ヨーロッパにも十四種以上いるそうだ。なじみ・親しむ意識や感覚の違いだろう。日本とは自然というよりも自然『観』が違うんだね。
______あ〜 (⌒△ ⌒; P
聞いたことあるぞ。 『スズムシの鳴き声は騒音』とか『蛍はハエ(英名: firefly)の命名』とか。
K;  ̄ へ ̄) ______
クワガタムシのすがたは、全身鎧の戦士を連想しそうだけどね〜 (かっこよくない?)
欧米人は、一般常識レベルでクワガタムシに魅力を感じない。それだけじゃなくサソリやクモ、ハエに向ける強い怖れや嫌悪さえもない。関心がそのものが薄いから、クワガタムシはファンタジーの創作物の重要な敵に取り上げられなかったんだ。
(注;私見です)
日本で生まれる『ヨーロッパ風』異世界ファンタジーもその流れ?を受け継いでいる。
クワガタムシをモデルにした敵の四天王、ボスモンスターはまずいないし、たまに登場しても、ドラゴンや巨人が主敵のときほどの見せ場はない。工夫がなくて魅力がない。
(注;私見ですから)
____いっちゃうねぇ (⌒_ ⌒; P
魅力的なクワガタムシのモンスターは、かれらが大好きな日本人が頑張らないと生まれない?
で? 今回、手応えは?
K;  ̄ △ ̄) えーとぉ_____
クワガタムシのモンスターには、発展の余地があると思いました!(まだまだデス)
K〉ちなみに。蜘蛛意吐世界には、鎧通しカブトムシ(エストックビートル) が別にいるらしい。
P〉ありゃ?
本稿から、NOMAR様よりショートストーリーをいただきました。
授業の後、ピクニックにてーー
カダール
「魔獣学者のルブセィラが怖いと感じるとは、先輩ハンターの戒め話というのはかなり効果がありそうだ」
シグルビー
「あー、あたしがローグシーに来てハンター始めた頃は、おっちゃんたちはいろいろ話してくれたよ。怖い話に、どう対処すればいいか、とか。そのおかげで今のあたしがいる」
フォーティス
「わあい、でっかいカブトムシ見つけたー♪」
シグルビー
「男の子って、あーいう虫とか好きだよな」
カダール
「男の子とは限らないぞ」
カラァ
「パパー、見てみて、マンマルコガネー」
ジプソフィ
「ハナカマキリ! とってもキレイ!」
カダール
「うちの子達は虫を捕まえるのが上手い」
シグルビー
「あー? 蜘蛛の御子、だから?」
_______
・・子どもたち _φ(  ̄〜  ̄ ;K
K〉最近、SSでふれていなかった(授業なのに)。




