大海のアダム【23】旅立ちの儀式
療養を兼ねた準備期間と数日が過ぎ、いよいよ新世界へと旅立つ日がやって来た。太陽が昇れば通路が完成し、神霊界という精霊たちの住む世界への扉が開く。アリシアは出発間際になって何かを思い出したようで「あ、忘れ物してましたぁ〜」と言って自室に戻り、十五分ほどで戻って来た。父親宛てに置き手紙を残して来たらしい。
「アリス様の事はよろしいのですか? せっかく連絡が取れましたのに、お会いになっておかなくても?」
なんと書いて来たのかと訊ねると、アリシアはそう言って話をはぐらかした。バハムルトが俺と出会わせないように手を回し、厳しく監視するよう配下に命じていた事を知っているので、父親をあまり良く思ってない事はメイド達から聞いている。なので、旅の間もそれに関係する話題はタブーですよとメイド長からアドバイスを受けた。さっそくタブーとやらに触れてしまった訳だが、思った以上にシビアな反応だったので、以後気をつけようと思った。
「大丈夫だ。母親と姉の他にリュオンと凛々も一緒だと言うからな。天狗の族長のところで厄介になっているらしい。何やらアダム支援組織を水面下で立ち上げているそうだ。俺が行くと必ず目立つし問題を起すから、再会にはまだ早いんだとさ」
「そうなんですか? ではメリーサ様は? ご病気の噂は本当だと聞きました。とても心配です」
「俺も心配だよ。原因不明の病って事だし。でも師匠がついててくれてるから、何かあれば知らせてくれるだろう。昨夜そのことで師匠と話をしたんだ。来たのは分身だったけど、メリーサの様子も教えてくれたよ。俺が傍にいると逆効果になるらしいんだ。よく分からないけど、師匠がそう言うんだから信じるしかない」
「猿王様が速水様のお師匠サマだったんですね? メイド達から聞きました。武術の神様でとんでもくお強いのだとか? リラン老師の憧れの方だったとお聞きして本当に驚きました。不死であり、何万年も生きていらっしゃるとか?」
「ああ、本当に凄いひとだよ。師匠に出来ない事なんて何も無いんじゃないかな? 本物の神様だし」
「本物の?どういう事でしょうか? 母のように天界からの命令でこの世界にいらしたとか?」
「いや。まあ、いろいろあってね。その事は道すがら話してあげるよ。師匠の武勇伝は本当に凄いんだ。映像付きで伝えられないのが残念だけど」
俺たちは歩きながら話している。向かう先は海底神殿の中央につくられた祭壇だ。奈落に現存する古代遺跡の中で最も保存状態が良く、今でも使われている神殿はここしかない。大昔は地上にあったらしいが、地殻変動で海底深く沈んでより海洋魔族によって管理されている。
「そろそろ道を開くけど、もう準備はいいの? 忘れ物しても暫くは戻れないよ? 次に道を開くのは1ヶ月先なんだし」
ハイレーン化したポニが近づいて来て話し掛けてきた。意外にもマジで綺麗な容姿で、初めて変身した時は目を疑ったものだ。アリシアは「思っていた通りお母様にそっくりです」と言って手を叩いて喜んでいたが、そう言われてみると神召喚で変身したアリシアとかなり似ている。年齢的にはベルダンディの若い時の姿って感じなんだろうが、若いからかポニの方が少し綺麗に見えた。
「ナニナニ? ボクの容姿に見とれちゃってさ。やっぱりエッチしとけば良かったとか思ってるんでしょ?」
「アホか! 変身しても中身はガキんちょだろ! マセたこと言ってんじゃねぇよ。約束通り婚約してやったんだから、おとなしく成人まで待て。慌てる乞食は貰いが少ないって昔から言うだろう?」
「失礼な! ボクは乞食じゃないよ!」
「ことわざだよ、ことわざ! 知らないのか?」
「お兄さんの世界の諺なんて知る訳ないよ! ねぇアリシアさん?」
「そうですねぇ。今のは確かに意味不明であったと思います。でも話の前後から推測しますと“蛸エビを見て壺に入れず”って感じじゃないでしょうか?」
「さすがアリシアさん、博学ぅ〜!」
「蛸? なんじゃそりゃ」
そんな馬鹿馬鹿しい会話も終わりの時が来た。短い間だったが、名所見物や、旨いもの巡り。夜の街の散策など久しぶりに闘いから離れて休息らしい休息ができたように思う。サラリーマンだった頃を思い出すのんびりとした日常に安らぎを感じ、この国の連中の事も好きになっていた。ゆかりが心配していた通り、もし闘う事になったら俺には闘える自信がない。
あれから体調を崩したというリラン老師の事も気にかかるが、見舞いに行っても普通にしており、胴着を持ち出して奥義の練習に付き合うと言って無理をするから2日ほど顔を出していない。
アリシアの子を見るまでは死なんから心配するなと、そう言っていたし、実際のところヨムルほど“呪い”に詳しくない俺たちには何も出来なかった。老師の体調が少しでも改善するのを祈るしか出来ないのだ。
「時間になりました。アダム様、アリシア様、最上部へお上がり下さい。祈りが始まるともう引き返せませんので何かありましたら今のうちに」
ラタニオンの秘書であるフー女史が呼びに来た。名前を聞いて笑ったが、笑った時にしこたまタマタマを蹴り上げられ悶絶した記憶は新しい。女だからと侮るとエライ目にあうから要注意だ。女史はタマ蹴り八段を自称する護身術の達人だった。
祭壇に上がると、ポニを先頭にした霊格の高い竜人で構成された神官職の者達が『開門の祈り』をはじめた。大神官見習いのラタニオンも儀式の中心人物として加わっている。
俺達が最上部まで上がると周りから声援が上がる。こうして高いところから見ると凄い数だ。この儀式に参列した部族の数は460種あまりで、数にしたら7億を超えているというから凄い。見渡す限り人人人で溢れかえっていた。人ではなく魔族だけれど、今では見慣れたモノだ。ここに来てから一ヶ月ほどでいろいろな事件が起きた。これほど大規模な戦を体験するとは、召喚されたばかりの頃なら想像も出来なかったろう。
「こんなにも大勢の方たちが私達を見送ってくれるなんて・・・感動し過ぎて言葉もありません。それも全て、速水様が海の脅威を排除して下さった功績によるものです。貴方は海の民を救ったのです。私はその英雄の妻となれる事を誇らしく思い、これ以上ないほどに幸せを感じております」
「アリシアは本当にいいのか? 俺の旅はとてつもなく危険だ。途中でのたれ死ぬ可能性も高い。神霊界に行けば簡単には戻って来れないんだぞ?」
「私が自分の意思で行くと決めたのです。たとえ途中で力尽きようと、最後の瞬間まで速水様に付き添います。決して離れませんよ・・・お嫌ですか?」
「嫌なものか。ゆかりにも俺にもアリシアは必要だ。一緒に来てくれると聞いてどれほど心強く思ったか知れない。君の命は俺が守る。今この場ではっきりと誓おう。君が愛した海洋の民に、元気な姿のアリシアを必ず見せると。俺はこの海に帰って来る。必ずだ!」
儀式は進み朝日が昇る。どういう仕組みになっているのか分からないが、神官たちの祈りによって祭壇の真上に真円の太陽が浮かび上がった。光量は抑えられているがかなり眩しい。やがて光は集束し、キラキラと虹色に輝く亜空間ゲートが現れた。その向こう側はこことは違う理を持つ別の世界だ。奈落と重なるもう一つの世界。なぜそうなっているかも分からない未知の世界だ。
「I well be bake !」 シュワちゃんのように格好良く親指を立て、ゲートをくぐった。まるで映画のエンディングみたいだが、もちろん終わりではない。というより、やっとスタートラインに立てる。ゆかりに依代を見つけ復活に備えること。それが当面の俺の目標なのだから。
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「マジかよ・・・本当に来たぜ?」
空間のゆらぎを感じたその者は、岩陰に身を潜めながら相棒だけに聞こえるボリュームで呟いた。
「ホントだね~、来たねぇ〜、来なくても良かったのに来ちゃったねぇ〜。 ああぁ〜面倒くさい。こんな契約なんか無視しとけば良かったのに」
「阿呆か! どれだけ長い間ここにこうしていたか覚えてないのか? もう誰もオイラ達の事なんか覚えちゃいない。完全に忘れられた存在だ。やっと見返すチャンスが来たのに、面倒くさいとは何事だ!」
「別にイイんじゃないの〜。今さらアピールして何になるのさぁ〜? アタイの国も、アンタの国もとっくの昔に無いんだしぃ〜。適当にやってりゃ、その内消えて無くなるよぉ〜。アンタも消えてしまいたいって言ってたじゃん?」
「そんな事は言ってねぇ。忘れられるくらいなら消えた方かイイって言ったんだ。全く意味が違うだろうが!」
「そうだった? そんな気もするけど、もうどうでもイイよぉ〜。ラプはこんなに成長しちゃたし、今さら動くのも面倒なんだよねぇ〜」
「普段から食っちゃ寝してるからだろうが! オイラは体型を維持してるぞ!」
「そんなの当たり前じゃん。キムは食べる必要がないんだし、種族の違いだよ〜」
「オイ、奴らがこっちに来る! 気づかれたのか?」
「まっさかぁ〜。ただ単にこちら側に歩いて来てるだけだよ〜
。印がないから精霊界に来たのは初めてだろうし、アタイ達の存在に気付ける魔族も人間も居やしないよぉ〜。こちらから姿を現さない限りはねぇ〜」
「で、でも、もう目の前に来てるぞ? こっち見てないか? 視線が明らかにオイラ達に向いてるような気がするんだが?」
大量の蔦が絡らまった大きな樹と、その横にある苔むしたサッカーボールほどの岩が転がる場所で足を止めた若い女性が、少し困ったような表情を浮かべながら遠慮がちに口を開いた。
「あのぉ〜、そこに居られるのは妖精さんですよね? 私はアリシアといいます。で、こちら方が速水様。私の旦那様です。キャハ!」
最後の「キャハ!」は旦那様と言った自分に恥ずかしくなって叫んだ声だ。別にヘンテコな語尾をつけるクセがついた訳じゃない。俺とアリシアが到着した場所は森の中だった。特別に険しいでもない本当に普通の森だ。歩けるようなケモノ道もある。
その道を真っ直ぐ行くと少し開けた場所があり、そこの正面には立ち上がる高い崖を背にした大きな樹と、不自然にまん丸な石か岩か微妙な大きさの物体があって、その二つがベチャクチャと喋っていたのだ。
アリシアでなくとも妖精か何かだと気づく。他の木々は喋ってないし、岩も普通は喋らない。気づかれないと思うほうが不思議だが、無視していれば気のせいで済むとでも思っているのか、黙んまりを決め込んで口を詰むんでしまった。アリシアが話しかけても無反応だ。
しばらく待ってみたが変化がないので、仕方なくアリシアに目配せしてその場を去る事にした。
「奴ら行ったか?」
「行ったみたいだね〜。森の向こうに見えなくなったし、気配も感じないよ〜。やっぱり人間は馬鹿だよね〜。姿を見せてやらなきゃ妖精の存在に気づかないんだから。いたずらしてもさぁ〜、鈍感だから隣にいるのに認識できないんだよねぇ〜」
「それを言うなら魔族も同じレベルだぜ。オイラ達を認識できるのは夢魔族だけだ。他の種族はテンで駄目で話にならない。下級の精霊を呼び出して有頂天になり、魔法の補助に使うくらいでオイラ達クラスの大物妖精には干渉も出来ない。さっきの奴らも同じだ。これなら王の命令にも容易く応えられそうだな」
「そうだねぇ〜、あの娘は確かに美味しそうだったねぇ〜。さぞかしイイ苗床になるんじゃないかなぁ〜。捕まえれば、いっぱいご褒美が貰えそうだねぇ〜」
「なんだラプ。さっきまで面倒くさいとか言ってたのに、餌を目の前にしたらやる気が出て来たのか? まあ、オイラとしてはその方が嬉しいけどな。ひとりじゃ担いで歩くのも簡単じゃないだろうし」
「その話、もっと詳しく教えてくれよ。王ってのはオベイロスの事だよな? 苗床って何だ? アリシア狙いか?」
うわぁぁ!と、声を上げて驚き跳ね上がったサッカーボールと、ピョンピョン跳ねてからバタンと倒れた大樹。なんだコイツら?めちゃくちゃに弱そうだ。妖精は弱いんだろうか?
俺は普段、リラン老師でも存在感知に苦戦するほどに存在力がない。少し気配を消して視界から外れたら、達人クラスの格闘家にすら見付けるのが難しいレベルだ。存在力が希薄であるのはこんな時に非常に便利で、忍者職を生業にすれば引っ張りだこ間違いなし。隠密行動なんてその気になれば朝飯前だ。
「な、何を言っているのでしょう? オイラは見ての通りのただの石です!」
「ア、アタイはただの木だよ! 妖精じゃないよ〜!」
「ふううん、そうかい? ただの木と石か?」
「そうだよ。怪しくないし、悪さもしないよ?」
「そうそう。王に言われて女を拐うなんて事も全くしない」
「何がそうそうだ。ナメてんのかコラァ! ただの石なら叩いて砕く。ただの木なら薪にして燃やす。それでいいんだな?」
「ひ、ひえぇ〜っ! 話が違うよ! この人なんだかとっても強そうなんですけどぉ〜?」
「オイラに言うな! オイラのせいじゃない! ラプの方がデカいんだから何とかしろよ!」
「それを言うなら、キムのが圧倒的に硬いじゃない! 早くこの男をやっつけちゃってよ! オレは強いって普段から自慢してたじゃないのさ! アレは嘘なの?」
どちらが闘うかで争いをはじめた妖精たちに、俺はどうしたものかと考えあぐねていた。木の陰から出てきたアリシアが歩いて来ながら、二匹の様子を見てクスクスと笑っている。ここはアリシアに任せた方がいいかも知れない。なんと言っても彼女は神霊界に来た事があるのだし、妖精の扱いにも俺やゆかりよりは慣れていると思われる。
「ねぇ妖精さん。私達は精霊さんたちの世界に来たばかりで、土地の事がよく分からないの。道案内をしてくれたらご褒美をあげるわよ? ほら、この石が見えるかしら? これはビーダマと言って、とても珍しい石なの」
アリシアは腰に下げた革袋の中から小さな袋を出し、その中にあった何の変哲もないただのガラス玉を取り出して見せた。これはアリシアが言ってメイド達に用意させた物で、下町の子供達が遊びに使う本当に一個10円もしないガラス玩具だ。こんな物を何に使うのかと思っていたが、まさか交渉に使うとは思いもしなかった。果たしてこの妖精たちに通用するのだろうか?
「ビーダマ? 確かに見た事もないほどに透明で、中には何か不思議な模様がある。こんな石はこの世界では見た事も無いぜ!」
「ホント綺麗〜! こんな水晶は初めてみたよぉ〜」
「ここに同じ石が八個あるわ。目的地まで案内してくれるなら全部あげる。引き受けてくれるなら前渡しで一個づつあげるけど、どうかしら?」
「は、八個全部!? そんな珍しいモノを全部!?」
「なんて太っ腹なの!! 私達は凄いパトロンを手に入れたのかもしれないわ!」
信じられない事に、ビー玉八個で交渉成立だ。途中で逃げたり騙したりされないよう誓いまで立てさせる念の入れよう。アリシアがただの世間知らずのお姫様だと思っていた俺もゆかりも、あっと言う間に道先案内人を手に入れたその手腕に脱帽だった。
「で、アリシアさん。アンタは何処へ行くつもりなんだい? オイラは凄く長く生きてるから大概の場所は知ってるが、寒い土地へは行けないぜ? 霜で関節が凍りついて動けなくなっちまうんだ」
「アタイも寒い場所は苦手〜。植物だからさぁ〜。あと、水がない乾燥した土地もダメだよ。根が乾いたらすぐに死んじゃうからね〜」
自己紹介を兼ねて本当の姿を現した妖精は、石の方がキムジナーといい、木の方はラプンツェルと名乗った。ラプンツェルは大樹でなく宿り木の方が本体で、上半身が女性っぽい姿で下半身は根っ子という姿の精霊だった。見ての通り頭は良くない。自分の弱点を簡単に明かすなど不用心にも程がある。間違いなく一番に死ぬタイプだ。
キムジナーは石のように見えるが石ではなく、丸まって擬態しているアルマジロみたいな硬い表皮を持つ動物型の妖精だった。つぶらなまん丸い目に小さな耳がピョコンと出ており意外に可愛い顔をしているが、口を開くと気持ち悪い姿になる。体の半分以上が口なのだ。それに、体の大きさと比べ手足が極端に小さい。だからかも知れないが、身を守る必要がない時でもボールのような姿になり、移動する時は転がるか跳ねるかしている。
ラプンツェルは宿り木なので何かに寄生するか、ヤシの実みたいなデカい種に根を張る事で移動が可能になる。実の養分を吸い尽くすと次の宿主を探すのだ。常に水分が必要なので長距離移動には不向きだが、いざと成れば種になる事も可能らしい。その種を水辺に落とせばまた復活できるという訳だ。
のっけから変な奴らに出会ったが、そのようなふたりを道案内に雇ったアリシアは、妖精達に目的地ではなく精霊の名前を告げた。
「私達はセルバンという風精霊の老人を探しています。大きな湖の見える小高い丘に建つ祠のような建物にお住いでしたが、その土地が何処にあるか分かりません。精霊王オベイロスが若い頃に教育係を努めていた経歴がある方です。知っているなら祠まで案内して頂けませんか?」
アリシアの問いに知らないと答えながらも、ラプンツェルはビクンと身を固め、キムジナーなどは反射的に丸まったのを俺もゆかりも見逃さなかった。
「オイラ、そのセルバンって盲目の婆さんの事は知らねぇが、知ってそうな奴に心当たりはあるぜ? ここからだと少し遠いけれども、3日もありゃ着くだろうさ。そこまでで良けりゃ案内するよ」
《お兄ちゃん、この妖精たち嘘を言ってるよ。気をつけた方がいい!》
《ああ、分かってる。アリシアも気づいてるだろう。セルバンが女性だとは言ってないし、容姿の事にも触れてない。老婆だとなぜ知っている? 嘘をついてるのがバレバレだ》
そうは言ったが、俺は先ほどから不思議に感じている事があった。この神霊界に入ってからというもの真理眼に霞が掛かり、嘘だとはっきり断定できないのだ。これがこの世界ならではの現象なのか、キムジナー達の能力なのかは分からない。妖精とは平気で嘘をつく連中らしいし、契約などの絶対的ルールも本当に絶対なのかも分からない。地上世界とは何もかもが違うようだ。
七人の精霊神が創ったといわれる精霊界が七つ集まり、世界全体を『神霊界』と呼ぶ。頭がごちゃごちゃになりそうだが、精霊界はそれぞれが独立した世界を形成していて、ルールも住んでいる者達の姿カタチも微妙に違うらしい。
出発する前に竜宮城の書庫からアレコレ持ち出して調べはしたが、結局のところ神霊界の大ざっぱな概要と100種類程度の精霊や妖精の特性や名前が記されていただけで、地図などは勿論ありはしないし、全体の構造もよく分からなかった。アリシアの記憶にある風景も曖昧であり、セルバンの住む場所も特定できない。情報は基本、現地調達という事だ。
「それでいい。案内してくれ」
虎穴にいらずんば虎子を得ず。嘘をついていると知りながら、相手の懐に飛び込む危険を犯さねば情報のひとつも得る事が出来ない。何のツテも無い今の俺達には、こうして手探りで道を探す意外に方法がなかった。
《ゆかり、今の俺たちにはアリシアの情報とセルバンの存在だけが生命線になる。彼女だけは絶対に守るぞ。誘拐されでもしたらそれこそ終わりだ・・・》
《言わなくても分かってるよ。用心したほうがイイね》
神霊界に到着してすぐに飛ばしたゆかりの情報探索魔法が機能するまで、まだしばらくは時間がかかる。せめて周辺地図が出来上がるまで強力な敵に出会わぬ事を祈りながら、嘘つき妖精2匹の道案内という環境で旅をはじめる俺たちだった。
以後、章が変わります。
『精霊王とアダム』編をお楽しみ下さい。




