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305号室の世界  作者: 瑞希
風舞う向日葵
9/11

〔お優しい方〕

「まさか、ホントに治るとはな。」

葵さんの言葉通り、菫さんの病は、ほぼ完治した。

元の作戦とは大きく外れたものの…結果的にはエミヤさんのお陰で菫さんは元気になった。

私の考えでは、菫さんの病…悪魔病とは本来人に必要な精神力…そういうエネルギーを何らかの理由で失うことで発生する病…。

エミヤさんはそういったエネルギーを多く持っていた…

それを菫さんに別けたことで体調が戻った、ということでしょう。


「何したんだ?

 危ないことには巻き込まないでくれよ」

巻き込まないでくれ…には、おそらく菫さんも入っているのでしょう。


「巻き込んだりしません。

 絶対に。」

もう二度と、と心の中で付け加えた。

菫さんはカレンさんと共に帰っているときに不審者に襲われ、それから体調崩している。

と、いうことになっている。

本来二人を襲ったのは、悪魔。

菫さんは一度、こちら側に巻き込まれてしまった。

エネルギーを失ったのは、その事件のせいでしょう。


…だからこそカレンさんは責任を感じて……、菫さんの側に居る代わりに能力者に関わらなくなった。

それと共に残る高校生組の二人も…。


けれど、あのままでは何も解決しない。

ただ時を無駄にするだけ…。

私の父のように衰弱死してしまうだろうと思った。

だから私は敢えて危ない橋を渡り、結果的に病を感知させられた。


「あんまり抱え込みすぎんなよ

 お前には感謝してるんだ。」

どうしてか、葵さんは私を気遣ってくださった。

だからこそ私は葵さんの目を視れず、苦々しく唇を噛んだ。


「抱えなければならないこともあるのです。」

貴方達を…一般市民を、二度とこちら側へ巻き込まぬように。

能力者は、能力者の領域に。

一般人は、一般人の領域に。

その境界をあやふやにしては絶対にならない。


だからこそ私は、貴方へ隠し事をし続けなければならないのです。

「一人で抱えなくても良い事だってあるだろ」


その通りです…。

けれど…

「…ごめんなさい。」

これは抱えなくてはならないことです。


「………じゃあ、話さなくても良いや

 姉ちゃんを助けてくれたんだしな。」

…違うんです。

本当に助けたのはエミヤさん。

エミヤさんの英断です。

私では、あんな判断は下せなかった。

…菫さんをこの手で殺していたかもしれない。


「無理しなくて良いよ。」

違うんです!

菫さんを本当に危険に晒したのは私達なのです!

私達が、キチンと悪魔を討伐できなかったから…。

忌むべき敵を倒せなかったから…。

だから、一般人を……市民を危険に晒した。


境界をあやふやにしてしまった!!


しかし、その罪を話すことすら私達には許されない。

罪を告白し、償う機会すら持てない。

私達はすべてを抱え、その生を全うし、次へ引き継がせる。

ずっと、ずっと、何千年も前から続けてきた…それが能力者と悪魔の歴史。


「テイッ」

突如、加えられた衝撃に私は驚いて顔をあげた。

見ると葵さんが右手を開いて私へ向けていた。

その手で、チョップされた…のでしょう。

「なっ…にするんですか?!」


「痛いか?」

「当たり前じゃないですか!」

叩かれて痛いなんて当たり前です!


「だよな。

 …痛いと泣けてくるよな。」


葵さんの言葉に目を見開くと、ポロっと涙が溢れた。

「っ…!!」

私は顔を伏せ、両腕で慌てて涙を拭った。

でも、拭っても拭っても、やはり涙は溢れてきて…


「テイッテイッテイッ!」

「いたっ…本当に痛いですぅ…!」

そうです。

痛いのです。

葵さんのチョップは結構痛いんです。


「すまんすまん」

そう笑いながら、葵さんは私の頭を撫でてくださった。


「っ…う……うぅっ……」

けれど、今さら優しくされても、痛いものは痛いんです。

だから、だから、涙が出るんです。


「良いよ。話さなくても。

 無理しなくて良いよ。

 泣きたきゃ泣けば良いし

 怒りたきゃ怒れば良い」

そう、私を抱き締めて、何度も頭を撫でてくださった。


「なんで…っ、葵さん、に…っ」

痛すぎて泣きすぎて、しゃくりたげて上手く喋れなくなってきてしまいました。

「ん?」


優しい声音に、待ってくれるのでしょうか、と安心して私は深呼吸した。

「八つ当たり、じゃ…っ、ないですか…」

葵さんに泣きすがれる訳も

怒れる立場でも

私はない。

むしろ、怒るのは葵さんの方なのですから。


「良いんじゃねぇの、偶にはさ

 人間なんだから、そういうことだってあるだろ?」

「知りませんよ…っ」

少なくとも私には解りません。

そんな不条理なことはないでしょう…


「そう言うもんなんだよ。…そう言うもんなんだ。」


「…………どうして、葵さんっ…は……」

「ん?」


「……………ふぅ…っ…」

もう一度深呼吸をして、葵さんから離れた。


「私なんて、他人でしょう…」

他人。

能力者と一般人。

無いわけではないけど、深く関わることの難しい相手。

そうでなくたって、私達は他人。

なんの関わりもない…


「案外キツいこと言うなぁ」


「えっ、ごっ、ごめんなさい…!」

私は慌てて頭を下げた。

そんなつもりではなかったのですが…!

そういう風にとられても可笑しくない言葉でした…!


すると葵さんはフッと笑い、また私の頭を撫でてくださった。

「冗談だ。

 別に。ただの気まぐれだ。

 …それに俺たちは他人でもない。」


「え…!」


「知り合いな」


「あ…そ、うですか………」

な…、何となく悲しい……。


「まだな」

ボソッと呟くと葵さんはそっぽを向いて歩き出してしまった。


私はバッと葵さんを見て、慌てて追いかけた。

「え?!

 今なんて!…なんて!?」


「降格する場合もあるだろうなぁ」


「…!!!

 そ、そ、そ、そんな…!」


「プッ」


「わ…!

 笑いましたね!?!」

葵さんは菫さんとは違い、とても意地の悪い方です。

けれど、菫さんと同じか、それ以上に笑顔が素敵で、お優しい方だと。

そう思います。

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