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短編読み切りSF小説 『勝利したけれど 1944 Imperial Japan』

 わたしがそのことを知ったのは療養中の片田舎の療養施設だった。

 生まれながらに身体が弱く、幼い時は半分以上寝たきりで、兵役と言った軍事の職務も免除されお国の役にも立てないと恥じていて、少しでも役に立ちたいと思っていた中でわたしは大日本帝国が大東亜戦争に勝利し、アメリカを破ったことを知った。

日露でのご先祖の敵討ちと、お国の役に立てなかったと母になげかれ死んだ父にもうしわけがたたないと言われたが、父の親友であるわたしの恩師は母にわたしこと、彼は彼のできる方向で国に貢献したと答え弁護してくれありがたく思った。

 君は確かに身体が弱いが、その身体の弱さがもしかしたらお国の医学に貢献するかもしれないから、生まれたことを悔やみ、恥じ、そして身体の強い子を妬んではいけないとも恩師は言うほどの人格者だった。

だからこそわたしは恩師を尊敬し、彼の勧めでわたしは恩師と同じ学者となり、研究を続けていたが、生まれながらの身体もあって、身体も弱り、その静養をしている時だった。

恩師の計らいで研究と療養ができる場所を特別に用意してもらい、研究に集中し過ぎて療養施設の人に時折怒られながらも研究に励んでいた中での出来事で、少し遅れはしたが、わたしをふくめて全員が歓喜していた。

「ここからが本当の問題なんだ。」

 わたしはと言えばその日身体の調子が少し悪く、自分の部屋で横になっている中で恩師が訪ね、勝利し喜ばしいと返した中で、彼はむずかしそうな顔をしていた。

「勝てばいいものではないんだ。負ければわかることもある。日露も本来負けるはずだっったんだ。」

「先生―――」

「君にだからこそ話すが、わたしはこの国に負けて欲しいと考えていた。その方がこの国のためになるとも現在でも考えている。」

 彼らしくないと言えば変だが、普段と違い緊張した面持ちで話し、わたしが変ですよと言うように声をかけようとするが、彼はこれを1番に聞いてほしいと言うように返した。

 わたしは彼と同じ学者にはなったが、わたしはどちらかと言えば自然科学が主で、彼はと言えば政治や経済、軍事と言った方向の科学者で、専門家の彼が言うとは思えない発言だった。

「―――君の身体の調子も悪いみたいだし、わたしは少し早いが帰ろう。ここで聞いた話はできれば胸の奥深くにしまっておいてほしい。」

「―――」

「―――――」

 彼は少し間をおくと、本当は長く話したいこともあると言うか、これを話すのはダメだと言う表情で立ち上がると、帰ると言いだし、わたしはと言えば彼の表情になんとも言えない感覚があり、口が開けなかった。

 口が開けない中で、彼は微笑むと、また来るよと言うような身振りで部屋を出ていった。

 わたしはと言えば、彼の表情を見て、彼が強く思いつめているが、わたしでは解決のできない領域にいるのだと思った。


 療養している施設の人間に怒られることもあるが、わたしは動ける時には動いておきたいで、身体に障るのもわかるが元気な時は研究のために外に出ていることが多かった。

 帰ったらまた勝手に外に出たと怒られるか、探しに来た人間に怒られることが相場が決まっているのだが、どちらにしても何にしても怒られるで、わたしはと言えば開き直っていたこの日も外に出ていた。

 暦の上ではもう秋と言うか、冬も近く、ここには雪が降るのだろうかと空を見上げる中で、だれかの足音が聞こえた。

「やれやれ、見つかりましたか?」

 聞きなれた足音で、施設の人間が探しに来たなと思い、わたしはと言えば研究も一応一段落しているで、普段は隠れているがこの日ばかりは降参しようと思い音の先に向かった。

「あ、いた。いた!」

「はい。いますよ。無事ですよ―――?」

 足音の聞こえる場所にいくと、普段通りに施設のわたしの担当の女性が走って僕を探しに来ていて、僕を見ると見つけたと言うように声を出し、わたしはまたこの人はと思っていたが、彼女のあわてようが普通ではないことに気が付いた。

「―――?」

 よく見て見ると彼女の後ろには見慣れない男数人の姿が見え、彼女の案内で連れてこられ、ついてきたと言う雰囲気だったが、わたしは同時に彼がわたしにとって招かれざる客だと言う気がした。

 彼らの眼はまるで獲物に狙いを定めた獣と言うよりも、餓えの果てに死肉を見つけ、腐っていると知りながらも腹を満たすために食い荒らして散らかす獣のような眼だった。

 悪い人間に見えると言えば簡単だが、確実性はなく、わたしは女性にあいさつした後彼らにも軽く頭を下げ、彼らも下げた。


 彼らは世に言う特高と呼ばれている人間たちのようで、わたしは恩師のことを聞かれ、少し前に軽く話したことを伝えると、恩師が行方不明になっていることを彼らから聞かされた。

 特高と聞き、恩師の名前ことも聞かれ、警戒していたが、恩師は別段悪くはないと言われた上、恩師は彼らと協力関係に魔であると言われた。

安堵したが恩師に関係する人間たちにそう言った危険人物たちがいたそうで、彼らにつかまり拘束され、最悪殺されているかもしれないとも彼らは話した。

 出会った時の彼らの表情もわたしが恩師に関係する人間のため、襲われるのではないかと危惧した表情で、肝を冷やさせないでほしいと軽く怒られたが、現在はと言えば温和な表情をしていた。

 わたしはと言えば落ち着いた中で恩師の人脈をできる限り話すが、そう言った人間には心当たりがなく、彼らも同じような反応だった。

「―――それにしても、あなたから話を聞きますと。本当に立派な方ですね?」

「はい。非常に尊敬しています。」

 話しを聞く中で1人がわたしに聞いて来て、わたしは当然ですよと言うように返した。

「彼も気の毒に、同じ教え子なのに―――」

「おいっ!?」

「教え子?」

 返す中で1人がそれならと言うように言い、近くにいたもう1人がそれを言うなと言うように言うが、わたしはと言えばその言葉に反応し、もう1人は聞かれてしまったと言う表な表情をしていた。

「あ、深くは話さなくていいですよ?」

「いや、話しますよ。あなたのためにもなる。オレたちの追っている危険人物はあなたの恩師の弟子たちなんです。あなた同様にね。」

「―――弟子?」

 仕事に関係することで、わたしは聞くべきことではないと言うことを察せなくて申し訳ないと言うように返すともう1人は言ってしまった建前と言うように話したが、わたしはその言葉にどういう意味かと言うように反応した。

「彼が教鞭をとっていたことを知っていると思うが、彼の教える事には過激な部分があってね。わたしたちが追っている人間たちはそれに助長された人間たちなんだ。」

「過激?」

「過激とは言うが彼はそれはいけないことだと主張していたよ。無論ね。だけど彼らは彼の教えは間違っているとして、悪いことをしているとして制裁として殺そうとしているみたいなんだ。」

 3人目が話しに加わり、わたしはそれは知っているが物騒な言葉だなと返すと3人目は落ち着いて聞いてほしいと言うように返した。

「―――そんな―――」

「そんなことをさせないために、オレたちがいるんだ。」

 彼が殺されると言うのは本当なのかと改めて聞きなおす中で、もう1人が心配しないでほしいと言うように返した。

「だけど、これで本当によかったんでしょうか?」

「お前な? 前から言ってるだろうが? それにこんな時に―――」

「元々追っていたのは彼の方なんですよ?」

 聞く中で1人目が少し不服だと言うように言い、もう1人が待てよと返しかける中で、1人目が考えて欲しいですよと言うように返した。

「ここでそれを言うか?」

「あ―――」

「すみません。だけど―――」

1人眼の言葉を聞き、わたしがおどろいている中で3人目が失態だぞと言うように言う中で、1人目はわたしに眼を向けこれを言ったらダメだったと言う表情で、3人目は申し訳ないと言うようにわたしに言った。

「だけど事実なんです。」

「先生は―――」

「安心していい。彼は潔白だ。それをわたしたちが1番に知っている。それに彼はわたしたちに保護を求めて来たんだ。」

 3人目は少しの間眼を反らしていたが、ここまで言ったら薄情すると言うように言い、わたしがそんなと言うように返す中で、彼は慌てなくていいと言うように返してくれた。

「いや、保護と言うよりも覚悟を決めたと言うべきなのかもしれない。」

「覚悟?」

「彼が教えていたことには危険な思想が一部存在し、わたしたちが現在追っている相手はそれに感化された人間だ。関係する身と言うか、一番に彼を監視していた中でやって来てね。彼は教えた身として責任はわたしにもないわけではないと言ってきたんだ。」

 3人目は言うとまた少し考えたように言い、わたしがどういう事かと聞くと、簡単にだが説明した。

「彼の熱弁を見れば危険思想とは決して思えないが、彼は教え方が悪かったと悔やんでいた。それで、情報提供をしてもらったんだが―――」

「―――?」

「彼は自分自身の問題として、決着を付けに行ったんだと思います―――」

 3人目は言いながら懐から一枚の紙を出すとわたしの前にだし、なんだと思ったが受け取る中で、3人目は覚悟して読んでほしいと言うように言った。


彼らを説得して参ります。

元はと言えばわたしのまいた種です。

自分自身で摘み取らねばなりません。

あなたたちにこれ以上は迷惑はかけられません。

わたしは彼らを信じています。


 見慣れていると言うべきか、懐かしいと言うべきか、彼と長い付き合いだからこそわかるが、紛れもない彼の字で文字は書かれていた。

「戦争も終わったってのに、オレたちの仕事は増えるばっかりだ。」

「文句を言うなよ? こんな時に?」

「文句を言いたいんじゃない。あの人も言っていただろう? 同じ日本人なのにどうしてこういがみ合わないといけない? それにあの人見て思うが本当に捕まえる必要があるのかよ? 大東亜戦争の次は非国民狩りの内乱、いや、内戦か? 冗談じゃない?」

 わたしが先生は大丈夫なのかと思っている中でもう1人が外に眼を向けながら困ったものだと言うように言い、1人が気持ちはわかるが抑えろと言うように返すが、もう1人はそうは言うがと言うように返した。

「―――わたしたちは上からの指示に従うだけだ。これからのこの国の利益になるか不利益になるかわからない。だから最善を尽くすしかない。彼らもそれは同様なのかもしれないがな。」

「―――」

「明治維新を思い出してみろ。勝てば官軍負ければ賊軍だ。大日本帝国は悪く言えば賊軍が土台だ。彼らが正しいと言う時代も来るのかもしれない。そして明治新政府が賊軍として追われた場合もあったのかもしれない。」

 3人目はもう1人を落ち着かせるように言い、もう1人はそれはと言うような表情の中で忘れていないかと言うように続けた。

「―――とにかく、重要なことは話した。安全も確認できた。何かあれば連絡を。わたしたちは彼らを追わなければなりません。」

「―――――」

「ご協力、ありがとうございました。」

 2人はそれはと言う表情の中で3人目は続けると言うか、話しはここまでにしてと言うようにわたし言うと、わたしが見ている中で頭を下げ、残りの2人も頭を下げると足早にと言うように部屋を出ていった。

 恩師の身が一番気になるが、わたしは出ていった彼らが彼と出会えるか、そして何事も無ければいいがと言うように祈るしかなく、わたしは彼らが出ていった後で少しの間、どうすればいいか思いつかず、何もせずに時間をつぶしてしまった。

 時間をつぶしたと気付いたのは担当の女性が終わったことを確認し、部屋に入って来た時だった。


 彼らが去り数か月が経過したが、恩師の消息はわからず連絡もなく、そしてわたしの生活も変わりがなく、季節だけが変化していた。

 肌寒いが害を及ぼすほどでもなく、気候的にも豊かで、雪が静かに舞い降り始める年の瀬も終わりの時期で、戦争も終わり、物語のような言い方だが激動の時代が終わりをとげわたしはと言えば鉛筆をおき、一休みをしていた。

 明日には雪も積り、雪景色が広がっているだろうなと思っていると、部屋の扉が軽くだが叩かれ、返事をする前に開いた。

「―――ああ、持ってきてくれたんですね? ありがとう。」

「わかる範囲でですよ? 自分でもいってくださいね? それとお身体を大切にしてくださいね?」

 開かれ部屋の中に入って来たのは担当の女性で、両手にはわたしが頼んでいた本が抱えられていて、持ってきてくれたのだと思い、わたしがお礼を言うと、彼女は全部ではないと言うように返すとわたしの近くに置いた。

「はい。」

「もう、いっつもそれなんですから? とにかく、それでは。」

「はい。それでは―――」

 わたしはそのうちの1冊を手に取り、軽くだが開いて中身を確認した後ありがとうと言うように返事を返し、彼女はと言え半信半疑だが、わたしの性分を知り仕方ないと言うように返すと部屋を出ていき始め、わたしも見逃してくださいと言うように返した。

「―――――」

 彼女が部屋を出ていく中で、わたしは本の方に眼を向け、心の内でも自分の表情が変わったと思った。

 変わったと表現したが、まさに言う通りで、わたしが頼んだ本は、わたしの表情を変える本と言うか、ある意味知っているが、非常に遠く離れた内容の本だった。

 本がどのような本かと言われると、恩師が研究していた内容の本で、本の中には恩師の著書も存在し、わたしはその本の中でできる限り簡単そうな内容の本を手に取って読み始めた。

 恩師の消息はわからず、彼の身に何が起きたかわからず、恩師の弟子と言われ追われている人間のことはわからないが、わたしはその弟子と同じと言うか、わたしも彼の教え子であり、恩師の身に起きた要因を知りたくなったのだ。

 特高に眼を付けられ、危険だと言う可能性や認識、視野もないわけではなく、後に罰せられるかもしれないと言う意見も出るかもしれないが、わたしは恩師を信じたかった。

 わたしと同じ恩師の弟子や教え子、知り合いの子である追われているだれかがいかにして道を踏み外しかけているかも知りたかった。

 読み始め、わたしが知っていることとは反対方向以上の分野で、即座に挫折するかもしれないと思ったが、わたしは読むことを止めてはならないとも考えた。

 必要なのは知ることで、確実とまでは言えず、わたしも例外ではなく、続ければ時期に道を踏み外し、罰せられる非国民の身の上になるかもしれないが、わたしはここまで生きてこられた人生を、お国を、そして何度も言うが恩師を信じ覚悟を決めた。

 戦争は負けた方がよかったとも恩師は言い、非国民でなくても負けた方がいいと言う人間の意志をわたしたちは知るべきだとも思った。


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