38.淡い期待
「もう朝陽先輩と何かすることはないのか……」
昨日、ご飯の炊き方を教えた僕には、朝陽先輩と普段会う理由がなくなってしまった。
お昼休みは悠人と食べているし、朝陽先輩は部活がないため、コロッケを食べに寄ることもない。
明日からまた学校が始まるのに、どこかいつもと違って憂鬱に感じてしまう。
そんなことを寝る前に考えていると、突然スマートフォンが鳴りだした。
「朝陽先輩……?」
朝陽先輩から届いた1件のメッセージ。
『今日、母さんに親子丼を作ってみた!』
早速、お母さんの仕事が休みの時に作ったのだろう。
僕はどこか寂しく感じながらも、メッセージを返す。
『どうでしたか?』
何て返ってくるのだろう。
そう思ってドキドキしていると、すぐに既読がつく。
ただ、しばらく待っても中々連絡が返ってこない。
「もう寝たのかな?」
時計を見ると短い針が11を指していた。
僕もスマートフォンを置き、目を閉じると再びスマートフォンが鳴った。
「やっぱり気になって寝れない!」
体を起こし、スマートフォンを開けるとさっきの音は朝陽先輩からのメッセージだった。
『直接話したいから、明日のお昼一緒に食べない? お弁当はなくてもいいからさ』
その言葉にドキッとしてしまう。
少しだけ期待していたのがバレてしまったのかと思った。
バイトが終わった後に、淡い期待を抱いて僕はスーパーでお弁当の材料を買っていた。
ひょっとしたら、朝陽先輩から連絡があるかもしれないと。
だけど、本当に誘われるとは思わなかった。
「お弁当はいらないのかな……」
ただ、最後の一文が気になってしまった。
朝陽先輩がお弁当はいらないって……。
『お弁当はいらないんですか?』
僕は気になって聞いてみた。
すると、スマートフォンが鳴った。
「えっ、電話!?」
朝陽先輩から突然かかってきた電話に僕は驚いた。
僕はゆっくりと応答ボタンを押す。
「はい、小川です」
「くくく、直ってそんな感じで電話に出るんだね」
電話越しには笑う朝陽先輩の声が聞こえてきた。
少し恥ずかしくなりながらも、電話越しに聞こえてくる朝陽先輩の声に少し胸が温かくなる。
「どうやって返事をしようかと悩んでたら、遅くなってごめんね」
「悩んで……?」
「うん。母さんに親子丼を作った時のことを直接言うか迷ってね」
しばらく連絡が来なかったのは、朝陽先輩の中でどうやって伝えるのか悩んでいたからだった。
でも、電話をしてきたってことは――。
「電話で伝えることにしたんですか?」
せっかく明日会えるのかと思ったのに。
「明日会えないのか……」
突然崖から落とされたみたいで憂鬱になってきた。
「いや、違う違う!」
「違う……?」
「電話をかけたのはお弁当についてだ。急に言ったら迷惑だと思ってさ」
朝陽先輩の言葉に僕は嬉しくなった。
急に言って負担にならないかと、考えてくれたようだ。
お弁当を一つ増えても、そこまで変わらないって言ってるのに。
「僕は大丈夫ですよ」
「本当か!? 明日楽しみだな」
朝陽先輩の嬉しそうな声に僕も嬉しくなる。
やっぱり朝陽先輩は食いしん坊なんだね。
その後も少しだけ電話をして、僕は眠りにつくことにした。
待ちに待ったお昼休み。
ここでも問題が残っていた。
「悠人、今日は朝陽先輩と食べてくる」
「なっ、俺を置いてくのか!?」
しがみついてくる悠人にどうしようかと僕は悩む。
試合が終わり、ミーティングをしばらくすることがなくなった悠人とは、また一緒にお昼ご飯を食べていた。
だが、朝陽先輩とお弁当を食べるなら、悠人と食べるのは断らないといけない。
まあ、別に断ることに関しては何とも思ってないけど、悠人もなぜか僕の弁当を狙っていたからな。
「っていうことだから行くね!」
「俺の卵焼き……」
やっぱり僕よりもお弁当の心配をしていたようだ。
リュックサックを背負って校舎裏に走る。
久しぶりにお弁当を入れたから、また肩が凝りそうだ。
だけど、今の僕の足取りは軽い。
「朝陽先輩!」
校舎裏のベンチにいる朝陽先輩に僕は声をかける。
振り向いた先輩はいつものように笑っていた。
だけど、なぜか今日は少しだけ緊張しているように見えた。
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