30.白熱の応援合戦
控えの教室いた僕たちは最後の確認を終え、グラウンドへ向かう。
「緊張してる?」
隣を歩く朝陽先輩が小さく声をかけてきた。
「気持ち悪いぐらい……」
「くくく、大丈夫だよ。今までたくさん練習したからね」
その一言だけで不思議と吐き気がおさまってきた。
あまり人前で何かをすることがないから、ずっと心臓がドキドキしている。
グラウンドの中央では、各チームが応援合戦で披露していく。
ソーラン節を踊るところもあれば、チアダンスのような踊りをするところ。
はたまたアクロバットを披露するチームと様々だ。
「みんな、いくぞ!」
「「「はい!」」」
朝陽先輩を先頭に僕たちはグラウンドの中央へ入場する。
「王子先輩!」
「王子様ー! 頑張ってー!」
声援が聞こえるが、そのほとんどが朝陽先輩に対するものだ。
視線が朝陽先輩に集まる。
『次はチーム青による応援合戦です』
放送部の紹介が終わると同時に僕たちは目的地についた。
顔を見合わせると、各々ポーズを決める。
音楽が流れ始めると同時に、中央にいた朝陽先輩が大きく腕を振る。
それに合わせて全員が一斉に動き出した。
肩を動かして、足を踏み鳴らす。
何度も失敗して、朝陽先輩に教えてもらったワック。
ペンギンからタコになり、やっと形になったダンス。
前は朝陽先輩が後ろに立って、腕を持って何度も動かしてもらったが、今日は違う。
僕も応援団の一員として、必死に動きに合わせてついていく。
途中、朝陽先輩が振り返ると、目が合いにこりと笑っていた。
ああ、あまり運動は好きじゃないのに、今だけは少し楽しく感じる。
「すげーな……」
「いけー!」
ダンスを見て歓声が飛んでくる。
しかし、あれだけ不安だったダンスも音楽に合わせて体が自然と動いていく。
気づけば歓声も拍手も耳に入らないくらい夢中になっていた。
最後のポーズを決めると、グラウンドから大きな拍手が湧き上がる。
「はぁ……はぁ……」
必死に踊り息が乱れる。
それでも心の底からやり切ったと思えるぐらい心地よい。
拍手の中、僕たちは退場していく。
「お疲れ様!」
「直、ちゃんと踊れてたじゃん!」
退場した瞬間、仲間たちが次々と声をかけてきた。
どうやら迷惑をかけずに無事に踊れていたようだ。
ホッとして、僕はその場で力が抜けて座り込む。
「大丈夫か?」
「ああ、安心して力が抜けたみたい」
そんな僕を悠人は手を貸して立たせてくれた。
「王子先輩、かっこよかったです!」
「王子様、ずっと応援してました!」
一番目立っていた朝陽先輩は相変わらず見ていた女子生徒に囲まれていた。
「相変わらず人気だね」
「せっかくだからお礼でも伝えてこいよ」
「えっ……?」
悠人は僕の背中を軽く押す。
応援団で疲れた僕の足はよろけながら、朝陽先輩の元へ向かう。
「ちょっとごめん!」
僕に気づいたのか朝陽先輩は女子生徒の合間から抜けてきた。
「直、お疲れ様」
「お疲れ様です」
僕は朝陽先輩に支えられる。
チラッと振り返るが、そこには悠人の姿はなかった。
「肩貸そうか?」
「いや、さすがに――」
「ほらほら、頑張ったんだからさ」
朝陽先輩は僕の手を回して、自身の肩に乗せた。
身長差があるから、少し体が浮きそうな気がするけど、朝陽先輩は嬉しそうに歩いていく。
まるで二人三脚をしているような感覚だ。
そのまま校舎の控え教室に向かう。
「直、練習した成果が出てたね」
僕には周囲を見て、楽しむ余裕はなかったけど、朝陽先輩はしっかり見てくれていた。
「朝陽先輩が毎日教えてくれたおかげです」
「違うよ」
朝陽先輩は笑って首を振る。
「直が最後まで頑張ったからだよ」
そう言って、僕の肩にかけている手で頭をぽんと撫でられた。
まさか撫でられるとは思わず、少し照れくさくて、僕は誤魔化すように笑った。
「今日部活がないから、終わったら一緒に帰らない?」
僕は一瞬考える。
一緒に帰っているところを見られてもいいのだろうか。
「せっかくだから体育祭の打ち上げしない?」
「打ち上げですか?」
「うん! 直のお母さんのお店で」
「くくく、それコロッケが食べたいだけじゃないですか」
「いや、コロッケだけじゃなくて唐揚げも」
真剣な顔をする朝陽先輩に僕もつい笑ってしまう。
別に応援団で関わることが増えたから、一緒に帰ってもおかしくないか。
「じゃあ、終わったら連絡するね」
「わかりました」
僕たちは着替え終わると、お互いにチーム席に戻った。
その後も体育祭は続き、綱引きや部活動対抗リレーなど様々な種目でグラウンドは最後まで盛り上がった。
気づいたらあっという間の閉会式。
全校生徒がグラウンドへ集まり、先生が結果を読み上げていく。
『それでは応援合戦の結果を発表します』
周囲の空気が張り詰める。
『優勝は……青組です!』
「うぉっしゃああああ!」
「やったー!」
周囲の歓声が一斉に上がる。
僕たちのチームが名前を呼ばれた。
みんなが飛び跳ねて喜び、肩を組んで笑っている。
悠人も僕の背中を勢いよく何度も叩いた。
「直! 優勝だぞ!」
「痛い痛い!」
「ははは!」
最終結果では青チームは負けてしまったけど、応援団のおかげもあり、初めての体育祭が楽しいと思えた。
今まで避けて通ってきたけど、みんなで運動をするのは思ったよりも楽しいんだね。
閉会式が終わると、生徒たちは教室へ戻り着替え始める。
「疲れたー!」
「腹減った!」
あちこちからそんな声が聞こえてくる。
僕も制服に着替え、荷物をまとめて教室を出た。
下駄箱で靴に履き替え、自転車を取りに行くと、朝陽先輩が隠れるように自転車置き場に座っていた。
「こんなところにいたんですね」
「ここにいたらバレずに直に会えると思ってね」
周囲を見回すと、朝陽先輩を探している女子生徒たちがいた。
「王子先輩いた?」
「こっちにはいないよ」
「もう……どこに行ったんだろう……」
僕は朝陽先輩に視線を向けると、急いで首を横に振っていた。
「ひょっとして、告白されるから逃げてます」
朝陽先輩は気まずそうに視線を逸らして頷く。
「こういうイベントの時は興奮してるのか、告白されることが多くてね。正直、誰かもわからないのに困るよ……」
「モテモテなのも大変ですね」
誰からも告白をされたことがないため、僕にはわからない悩みだ。
だけど、僕がいることで朝陽先輩もやっと帰れるのだろう。
普段は部活があるから、声をかけてくる人は少ないけど、部活がないと時間があるからチャンスだと思うのだろう。
「朝陽先輩、帰りましょうか」
「そうだな」
僕は自転車を押すと、その隣を朝陽先輩が歩く。
突然出てきた朝陽先輩に、探していた女子生徒たちは近寄ろうとするけど、朝陽先輩は特に気にすることなく歩く。
まるで全く視界や耳に入っていないようだ。
「朝陽先輩、走りましょうか」
「えっ!? 直が走るの?」
驚いた顔で朝陽先輩がこっちを見ていた。
僕が走るって言ったらさすがにびっくりするよね。
周囲から集まる視線に僕はいち早く抜け出したかったのもあるけど、朝陽先輩と学校から一緒に帰るのは初めてだから邪魔されたくなかったね。
「いや、僕は自転車ですよ。じゃあ、校舎から出た先のコンビニまで競争です」
「あっ、ちょっと待った!」
僕は自転車に跨ると、朝陽先輩は隣で走り出した。
あれだけ体育祭で走ったのに、まだまだ体力はあるようだ。
「直、少しは手加減してよ」
「負けたらコロッケと唐揚げ奢りですよ」
「うわ、それは負けられないな!」
二人で顔を見合わせて笑う。
夕焼けに染まる帰り道。
いつもと同じ帰り道なのに、隣に朝陽先輩がいるだけで今日だけは少し違って見えた。
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