自由都市土浦の芽吹
小田城の氏治の私室。
幼き小田氏治は、土浦の絵図を前に真壁、治彦、宍戸、鹿島を見回した。
まだ六つか七つの少年である。
それでも、その瞳には迷いがなかった。
「みんな。」
氏治は小さな声で口を開く。
「ぼくね、土浦を、みんなが集まる町にしたい。」
家臣たちは静かに耳を傾ける。
「戦だけじゃ、人は幸せになれないよ。」
「商いをする人も、お仕事をする人も、安心して暮らせる町にしたいんだ。」
評議の間は静まり返った。
幼い子どもの言葉とは思えない志に、誰も口を挟めなかった。
やがて宍戸政繁が静かに進み出る。
「殿。そのお志を実現するには、新たな町の政が必要にございます。」
評議の末、氏治は自由都市土浦初代市政総裁に推戴された。
しかし、氏治はまだ幼い。
氏治は政繁の前まで歩いていく。
「政繁。」
「はっ。」
「ぼくはまだ小さいから、むずかしいことはいっぱいある。」
「だから、ぼくが大きくなるまで、土浦のことをお願いしてもいい?」
政繁は深く頭を下げた。
「この命に代えましても、お支えいたします。」
評議は正式に宍戸政繁を自由都市土浦執政に任じた。
総裁が道を示し、執政がその道を形にする。
自由都市土浦の新たな政は、こうして始まった。
氏治はさっそく最初の命を出す。
「鹿島には、いろんな鉄砲を集めてもらおう。」
「それから、刀鍛冶さんも、鉄砲鍛冶さんも、大工さんも、鋳物師さんも、みんな土浦へ来てもらってね。」
「安心して暮らせるように、おうちと工房も用意してあげよう。」
宍戸政繁はうなずいた。
「承知いたしました。」
さらに氏治は土浦の北を指差す。
「宍戸のお米やお野菜、大掾のお魚やお塩を土浦へ集めよう。」
「大きなお蔵を作って、干物やお味噌、お醤油も作れるようにしたいな。」
「人がいっぱい来ても困らない町にしよう。」
続いて氏治は、土浦から鹿島へ伸びる街道を指でなぞった。
「この道も、もっと歩きやすくしたい。」
「橋も丈夫にして、お船もたくさん通れるように、水路もきれいにしよう。」
政繁は答えた。
「近隣の村や町へ触れを出し、道づくりや橋づくりに携わる者を広く募りましょう。」
「うん!」
ほどなくして、大工や石工、人夫、船頭たちが少しずつ土浦へ集まり始めた。
しかし、一人の家臣が口を開く。
「総裁様。これほど多くの工事を進めれば、多額の費えが必要となります。」
氏治は首をかしげた。
「そうかな?」
「人が集まったら、ごはんを食べるよね。」
「おうちも建てるし、お店でもお買い物する。」
「お仕事をしたら、お金をもらう。」
氏治は土浦と鹿島を指差して笑った。
「そのお金は土浦で使って、鹿島でも使って、また土浦へ帰ってくるよ。」
「それに、みんな暮らしがよくなったら、もっといい着物を着たいし、おいしいものも食べたくなるでしょ?」
「だから、お金は町の中をぐるぐる回るんだ。」
評議の間は静まり返る。
宍戸政繁は静かに頭を下げた。
「人を集め、その人々の暮らしが町を豊かにする……。」
「まことに見事なお考えにございます。」
氏治は少し照れくさそうに笑った。
「えへへ。だからね、まずは人をいっぱい集めよう。」
その日、自由都市土浦は大きく姿を変えたわけではない。
新しい家が一軒建ち、工房の炉に火が入り、街道には人夫たちの掛け声が響き始めた。
それは、まだ小さな変化だった。
だが、その小さな芽は確かに土浦の大地へ根を張り始めていた。
自由都市土浦――。
その未来へ向かう物語は、静かに芽吹きを迎えたのである。




