黒川城戦功論
黒川城の戦後処理が一段落すると、氏治は諸将を広間へ集め、今回の会津大戦における戦功を論ずる評定を開いた。
広間には真壁幹久、小山義広、宇都宮尚綱、結城朝基、館林、那須資忠をはじめ、諸将が顔を揃える。
まず氏治が静かに口を開いた。
「この戦、一番の戦功は誰にあると思う。」
自然と名が挙がったのは三人であった。
「浜通りを救った小山殿。」
小山義広は寡兵で相馬を解放し、浜通りを奪還した。
さらに敵兵站基地を焼き払い、蘆名・佐竹軍の補給を断ちながら、そのまま会津への道を切り開いた。
続いて名が挙がる。
「赤鬼・真壁殿。」
真壁幹久は須賀川から白河、そして那須砦まで見事な撤退戦を指揮し、敵主力を引き込み撃破した。
さらに中通り戦線を一気に押し上げ、蘆名・佐竹軍を黒川へ追い詰めた。
そして最後に。
「青鬼・宇都宮殿。」
宇都宮尚綱は尾瀬方面軍を率い、黒川城を攻略した。
館林の策を即座に採用し、自ら騎兵を率いて突入、さらに黒川城を守りながら敵主力を引き付け、本隊到着まで戦場を支配し続けた。
広間の空気は自然と尚綱へ傾いていく。
氏治もゆっくり頷いた。
「余も、戦功第一は尚綱かと思った。」
その時だった。
尚綱は静かに立ち上がる。
「恐れながら。」
広間が静まり返る。
「それは違います。」
諸将が顔を見合わせる。
尚綱は館林へ視線を向けた。
「尾瀬への道を最初に切り開いたのは館林。」
「大内宿との縁を結び、補給路を確保したのも館林。」
「鴫山城を説得し、味方へ引き入れたのも館林。」
「黒川城を開門させる策を立てたのも館林。」
「敵中へ潜入し、その策を成し遂げたのも館林。」
尚綱は一つ一つ、静かに数えていく。
「決戦では標の動きから蘆名の本陣を見抜き、鏑矢で余と結城へ合図を送った。」
「その隙を突いて蘆名を討ち取ったのも館林。」
広間は水を打ったように静まり返る。
尚綱はさらに続けた。
「そして戦が終わってなお、標の導きだけを頼りに背炙り山へ向かい、佐竹を討ち果たした。」
「会津大戦の始まりから終わりまで、その陰には常に館林がおりました。」
尚綱は深く一礼する。
「余は館林の策を信じ、槍を振るったに過ぎませぬ。」
「もし余へ戦功第一を賜るというなら、そのすべてを館林へ譲りたく存じます。」
館林は突然名を挙げられ、戸惑ったように首を振る。
「私は……。」
しかし真壁幹久が大きく笑った。
「赤鬼も異存なし。」
続いて小山義広も腕を組み、力強く頷く。
「浜通りが勝てたのも、尾瀬が動いてくれたからだ。」
結城朝基も微笑む。
「私も賛成です。」
那須資忠は館林の肩を叩いた。
「お前が星を見上げて歩き続けたから、皆が戦えた。」
広間にいた諸将は次々と頷き、異論を唱える者は一人もいなかった。
氏治はゆっくりと立ち上がり、館林の前まで歩み寄る。
「館林。」
「この会津大戦第一の戦功は、そなたである。」
広間にいた諸将は一斉に頭を垂れた。
誰も異論はなかった。
尾瀬を越えた最初の一歩から、黒川城の陥落、蘆名・佐竹両当主の最期に至るまで――。
その戦いを陰で導いた星の道標は、館林その人であった。




