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9月、新たな兵学館

九月。


霞ヶ浦から吹く風は夏の熱気を運び去り、兵学館にも新しい季節が訪れていた。


講堂には新入生と在校生、四寮の寮長・副寮長、教官、諸将が集まっている。


壇上には氏治と治彦が並んで立っていた。


氏治は講堂をゆっくりと見渡す。


「兵学館へようこそ。」


「今年より兵学館は、新たな体制で歩み始める。」


「今日、その内容を皆へ伝える。」


治彦が一歩前へ出る。


「まず学制を改めます。」


「公式な入学式は九月に行います。」


「ただし入学時期は一年を通じて自由です。」


「進級も年齢ではなく、習熟度によって判断します。」


「三年生では専門を仮決定し、一年間は自由に変更できます。」


「四年生で最終決定を行い、寮を離れて専門ごとの研究室へ所属します。」


「五年生では卒業論文を完成させ、兵学館全体の前で発表します。」


「研究には最大八年間を認めますが、それを超えて卒業できない場合は退学となります。」


「卒業後も優秀者には四年間の上位課程を設け、研究と後進の育成に励んでもらいます。」


氏治は静かに頷いた。


「七月、八月、十一月、十二月、一月は自由学習期間とする。」


「教室だけが学びではない。」


「商い。」


「旅。」


「研究。」


「農村。」


「戦場跡。」


「自ら外へ出て学べ。」


治彦は続ける。


「二年生は四寮対抗『宇都宮遠駆け』を実施します。」


「馬による長距離行軍を通して、馬の管理、補給、統率、判断力を学びます。」


「戦闘は禁止。」


「教官が妨害と判断した行為も失格です。」


「競うのは相手を妨げることではなく、自分たちを高めることです。」


講堂の寮生たちは真剣な表情で頷いた。


氏治は教官席へ視線を移す。


「教官団も新体制とする。」


「塚原卜伝殿には武の心を。」


「上泉伊勢守殿には新陰流と人を育てる武術を。」


「上泉殿はいずれ再び諸国へ旅立たれるが、その教えはご子息や疋田ら門弟が兵学館で受け継ぐ。」


「さらに北方から移住した狩猟の達人を迎え、狩猟学を正式な学問とする。」


「戦時の食糧調達、野外活動、そして土浦周辺の開拓を担ってもらう。」


治彦は教官名簿をめくる。


「また、教官不足を補うため、シャム傭兵団とルソン傭兵団から古参を追加教官として任命します。」


「馬術、異国兵法、野営、航海術など実技教育を担当します。」


「さらに宣教師も教員として迎えます。」


講堂がざわめく。


氏治は静かに手を上げた。


「土浦は自由都市だ。」


「布教は自由とする。」


「ただし兵学館の教員として、語学、地理、航海術、西洋の学問を教えてもらう。」


「そして帰国する際は、必ず後任の教員へ引き継ぎを終えてから帰国すること。」


宣教師たちは深く一礼した。


氏治は再び四寮を見渡す。


「そして今日、この場で四寮を兵学館の正式な教育組織として認める。」


「朱雀は兵学館の入口である。」


「新入生はまず朱雀で基礎を学ぶ。」


「青龍と白虎は、自ら人材を勧誘してよい。」


「未知へ挑む者。」


「武を究める者。」


「それぞれの理念に従って迎え入れよ。」


朝基へ視線が向く。


「玄武だけは推薦制とする。」


朝基は静かに答えた。


「玄武は天才を集める寮ではありません。」


「居場所を失った者。」


「一つのことしかできないと笑われた者。」


「努力の仕方が分からず迷っている者。」


「そうした者を、仲間が迎え入れ、共に育つための寮です。」


「だから入寮は、現役寮生の推薦を条件とします。」


氏治は満足そうに微笑んだ。


「兵学館は、才能ある者だけのためにあるのではない。」


「人を育てるためにある。」


「青龍は世界へ道を開き。」


「白虎は武を磨き。」


「朱雀は国を支え。」


「玄武は人を育てる。」


「四寮が揃って初めて、この兵学館は完成する。」


講堂に集まった新入生たちは、一斉に深く頭を下げた。


兵学館はこの秋、新たな制度、新たな教官、そして正式な四寮体制を整え、坂東の未来を担う人材を育てる学び舎として、新しい時代への第一歩を踏み出したのであった。

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