四寮長への謝意
翌朝、氏治は兵学館の執務室へ四寮の寮長と副寮長、合わせて八人を招いた。
八人が揃うと、氏治は席を立ち、一人ひとりの顔を見渡す。
「今日は命令ではない。」
「礼を言うために来てもらった。」
部屋は静まり返る。
氏治はゆっくりと話し始めた。
「この数日、お前たちの寮で過ごした。」
「最初は、それぞれ違う教育をしているのだと思っていた。」
「だが違った。」
「寮ごとに、国の支え方そのものが違っていた。」
氏治はまず青龍の寮長と副寮長へ目を向ける。
「青龍は未来へ挑む寮だ。」
「未知を恐れず、新しい道を切り開こうとする。」
「だが、ただ前へ進むだけではない。」
「副寮長は危険を見極め、失敗しても立ち直れる道を用意していた。」
「挑戦と慎重。」
「その二つが揃うからこそ、青龍は遠くまで歩める。」
二人は静かに頭を下げた。
続いて白虎へ視線を移す。
「白虎は実践の寮だった。」
「小山、お前は武器を自在に扱う武芸者だ。」
「勝つために何をすべきかを、その身で示していた。」
「そして那須。」
「お前は武器を振るう前に、その構造を理解しようとする。」
「なぜこの形なのか。」
「どう改良すればさらに良くなるのか。」
「一人は武器を使い、一人は武器を理解する。」
「その二人がいるから、白虎は強い。」
小山は照れくさそうに笑い、那須は静かに一礼した。
氏治は朱雀へ向き直る。
「朱雀は兵学館の柱であった。」
「朝綱、お前は模範生として、人に背中を見せて導いていた。」
「学も礼も武も怠らぬ。」
「だから皆が自然とお前を目標にする。」
「そして副寮長。」
「最も多い寮生をまとめるのは容易ではない。」
「目立たぬところで皆を支え、規律を守り、安心して学べる場を作っていた。」
「人を育てるには、模範だけでなく、日々支える者も必要なのだと知った。」
最後に玄武の二人を見る。
「玄武は、最も誤解していた寮だった。」
朝基は穏やかに微笑み、赤井は静かに耳を傾ける。
「世間は天才や奇才の寮と言う。」
「しかし、実際に見て分かった。」
「玄武は人を育てる寮だ。」
「朝基。」
「お前は人を分析し、人と人を結び、誰が何を学べば伸びるのかを見抜いていた。」
「そして赤井。」
「お前は答えを教えない。」
「学び方を教え、自ら考える力を育てていた。」
「競技も、研究も、日々の暮らしも。」
「すべてが学問であり、人を育てる糧となっていた。」
氏治は八人を見渡し、深く頭を下げた。
「お前たちのおかげで、多くを学ばせてもらった。」
「兵学館の強さは建物でも制度でもない。」
「人が人を育てることにある。」
「そのことを、この目で見ることができた。」
八人も揃って一礼する。
兵学館を支える四つの寮。
その個性は異なっていても、目指す先は一つだった。
氏治はその確かな手応えを胸に、次の評定へ向かうのであった。




