ソーラ国
次の日から春の休暇が始まった。
シルヴィは予定通りロドニアスとソーラ国のバート家を訪れた。
リヨンとフローラが笑顔で迎えに出た。
シルヴィはその笑顔を見ると思わず 父様 母様と言って二人の胸に飛び込んだ。二人の抱擁は暖かくまるで本当の両親のようだった。ホッとできるやすらぎがそこにあった。二人は甥のロドニアスを見るととても喜んだ。
シルヴィとロドニアスは、家の中へと促された。
リビングに座るとフローラが、お茶と手作りのお菓子を出してくれた。
それを口にして一息ついた所でシルヴィが言った。
「バート氏 お願いがあります。兄 ライアンの所属になっているメンバー達がいると聞いています。そのメンバーを そのままあたしに貸して欲しいのです。あたしの仲間達にはすでに南の領地の守備の強化や、近辺の街や村で兄の行方を探すよう指示を出しました。もちろん今調べている事も続行しています。ここから南の領地はすぐです。おそらくあたしの仲間達よりも兄の所属のメンバー達の方が土地勘があるでしょうし、何より兄を良く知っています。仲間達も心強いと思います。どうかそのメンバー達に兄の行方を探す為あたしに力を貸して貰えるようお願いがしたいので、会わせて、もらえないでしょうか?」
「いいですよ。実はメンバー達からも その申し出がありました。あなたの人柄もよく 存知ているようです。そのあなたが来ると聞いてライアン様の行方を探すのに協力させて貰いたいと願い出ております。夜にでも会えるよう集合をかけておきますので、夕食を食べたらご案内します。それまで寛いで下さい。」
「ありがとう 父様。」
「それでは家族の会話に戻るとしますか‥」
「ええ…」
シルヴィは大きく頷いた。
「シルヴィ‥休暇の間はずっと家にいるんだろう‥」
「ええ‥」
「それじゃ いろんな所に出かけよう。何かの手がかりがあるかもしれないからね。」
「じゃあ父様…夕方まで時間があるから、ロドの家まで連れて行って‥母様も もちろんロドも一緒に‥」
「でも俺は‥」
「何 言ってるの。家を出てから一度も戻ってないのでしょ。ご両親もご心配なさっているわよ。こういう機会でなければどうせ行かないでしょ。ご両親に顔を見せてあげて‥」
「ロド‥本当はこんな言い方はしたくないけど‥仕方ないわね。
ロドニアス これは命令です。あたしと家族の警護の為に付いてきて下さい。いいわね。」
「…はい…」
ロドニアスはやっと返事をした。
四人は馬車でロドニアスの家まで行った。
リヨン夫妻の突然の訪問とその後ろにいるロドニアスの姿は執事を慌てさせた。
執事は居間に四人を通すと夫人に取り次いだ。
夫人はその知らせを受け急いでl居間に来た。
「ロドニアス…」
夫人のその呼びかけにロドニアスは頑なに俯いたままだった。
「お義兄様‥ロドニアスを連れて来て頂いて有難う御座います。」
「礼を言うなら彼女に‥」
リヨンはシルヴィの後ろにまわった。
「彼女はわたし達の娘という事になっている シルヴィ・ローサ・シャイン嬢だ。ロドニアスを連れて来て下さったのだ。」
「‥ローサ‥それでは…ご無礼を致しました。始めてお目にかかります。私 ロドニアスの母 アイリーン・バートです。ロドニアスをお連れ下さいまして有難う御座います。」
アイリーンは膝を曲げ頭を下げた。
「顔を上げて下さい。あたしは今 あなたの姪のシルヴィ・バートです。ロドには大変お世話になっています。きょうはご両親にお願いがありましてお伺い致しました。ロドはあたしの右腕として充分すぎる力を発揮してくれています。そのお陰であたしは大変 助かっています。お大切なご長男だという事はよく存じておりますが、ロドを失う事はあたしと仲間達にとって大変な痛手となります。どうかこのままロドにあたしと仲間達の許へいてもらう訳にはいかないでしょうか?皆さんでよくご相談なさってお返事を下さい。あたしは休暇中 父様と母様と過ごしておりますのでよろしくお願いします。」
「シルヴィ様‥。これは俺が自分で選択した道です。両親の許可は‥」
「ロド お父様がお戻りになったら、よく相談して下さい。」
あたしはロドの言葉に被せるように言った。続けて
「お許しを貰ったら、戻って下さい。返事は明日の夕方以降にお願いします。父様 母様 そろそろ‥」
「そうだな。ではわたし達はこれで失礼する。」
「アイリーン 家族でよく話し合ってみる事ね。それじゃあ…」
三人はロドニアスの家を後にした。
そして馬車でシャイン家の南の領地をひと回りした。
シルヴィが来ている事が分かるといろいろ調べる上でマイナスになりかねないので、途中で買ったツバの大きい帽子を目深に被りバート夫妻と共に浜辺を歩いた。
この先にある港から兄ライアンは家に帰る為 船に乗り行方不明となったのだった。
シルヴィは靴を脱ぎ寄せては返す波と戯れていた。
それを笑顔で見守りながら、時々 声をかけるバート夫妻…それはどこから見ても午後のひとときを海辺で仲睦まじく過ごす親子の姿にしか見えなかった。
やがて三人は馬車に乗り込んだ。シルヴィは座席の背にもたれかかるように ドサッと座った。
「シルヴィ 大丈夫かい?始めての事だから疲れただろう‥?」
リヨンが優しく問いかける。フローラはシルヴィの髪を優しく撫でてくれた。
「ちょっと疲れたけど大丈夫よ。父様と母様の言う通り神経を集中させて問いかけたら、風も波も答えてくれたわ。
「それで どうだったの?」
フローラが心配そうに覗き込む。
「兄様は生きているって波が教えてくれたわ。」
三人の顔に喜びが湧いた。
「でも居場所はわからないって風が‥今 この近辺は幾つもの魔力が交錯していて大気の流れが乱れているって‥
その影響で人間界の気の情報が入り混じってしまって‥だからわからないって‥」
「そうか でも生きている事がわかったのだから、探せばいいんだよ。」
リヨンはシルヴィを元気づけるように言った。
シルヴィも素直に頷いた。
三人がバート家に戻りリビングで過ごしていると長男のチャーリーが帰って来た。
バート夫妻に呼ばれリビングに入ってきたチャーリーはシルヴィを見た。
「シルヴィ様 よくおいで下さいました。お待ちしておりました。」
チャーリーは深々と頭を下げた。どこか見覚えのある顔だった。
「兄様 その挨拶は可笑しいわ。だってあたしは妹のシルヴィよ。」
シルヴィはチャーリーの手を取りながら言った。
「妹として迎えるようにと言ってあるだろう。」
リヨンが注意を促がした。
チャーリーはそうだったというように顔を上げた。
「ただいま兄様。兄様に会うのを楽しみにしていたのよ。」
「僕もだ‥」
「兄様 お帰りのキスはして下さらないの?」
「えっ…あっ‥お帰り…」
チャーリーは少し照れくさそうに挨拶のキスをした。
そして着替えてくると言ってリビングを出ようとした。
「チャーリー 着替えたらすぐ来るのよ‥皆んなでお茶しましょう。」
フローラが言った。
「わかった‥」
チャーリーはドアを閉めた。
「あの子ったら照れてるわ。」
「あんなチャーリーを見るのは始めてだな‥」
夫妻はクスクスと笑っていた。
部屋着に着替えたチャーリーがリビングに戻り少しした時、玄関の方から賑やかな声が聞こえてきた。
「あら クリフとマーシーの声だわ。」
フローラが言った。
二人の声が皆んなの居場所を尋ね執事の
「皆様 リビングにいらっしゃいます。」
と答える声が聞こえた。
パタパタと駆けてくる足音が聞こえドアが開いた。
「シルヴィ 帰ってるんだろう‥」
クリフが聞いた。
「帰ってるよ‥」
リヨンが答えた。
クリフとマーシーはシルヴィをみつけた。
「お帰り シルヴィ‥」
二人は腕を広げた。
その二人の顔にも見覚えがあった。
シルヴィは思い出した。それは父が変貌する前 ロドワサーク家の祖父母の元を訪ね、その時 過ごしていた別荘にくると良く兄ライアンと一緒に自分も遊んでくれた少年達だった事を…
「ただいま…」
シルヴィはそう言って広げられた二人の腕の中に駆け寄った。
クリフとマーシーは両側からシルヴィに挨拶のキスをした。
「元気だったか?」
「綺麗になったな‥」
「こんな美人な妹で 俺達も鼻が高いよ。なっマーシー。」
「ああ 俺達の自慢の妹だ‥」
「ありがとう…兄様達も素敵よ‥あたしの大好きな兄様達だわ…」
そんな三人の会話を聞きながら、フローラがカップを二つ用意しそれにお茶を注いだ。
「ほら 三人共 座って話しなさい。」
三人は返事をすると座った。
「普段はあまり家にも寄りつかない二人が珍しい事もあるな‥自分達から帰って来るなんて‥」
リヨンが笑顔で言った。
「当然じゃないか‥可愛い妹が帰って来てるんだから‥」
「しばらく家にいるよ。」
クリフとマーシーは答えた。
「あら あら それじゃ夕食の追加をしないとね‥」
フローラはそう言うと執事を呼び夕食の追加を頼んだ。
「今日の夕食は腕をふるうから楽しみにしてなさい。」
フローラはとても嬉しそうに皆んなに言った。
そんな会話をニコニコしながらリヨンが聞いている。
「父さんも母さんもシルヴィが帰ってきて嬉しくてしょうがないって顔してるぜ。」
マーシーが言った。
「当たり前だろ。やっぱりシルヴィがいると違うな。」
「ええ 部屋が明るくなりますわ。そろそろ夕食の仕度をするわね。」
「母様 あたしにも手伝わせて‥」
シルヴィが言った。
「まあ 嬉しいわ。じゃあ行きましょう。」
フローラはシルヴィを連れて、いそいそと部屋を後にした。
キッチンでフローラを手伝ってスープを作ったり、野菜を切ったりして夕食の準備を整えているとリヨンが呼びに来た。
ロドワサーグ家の別荘に祖父母が来ていると遣いがあったようだ。リヨンは支度を整えるとシルヴィを連れて出かけた。
別荘に着き案内をされて部屋に入ると、そこで祖父母が待っていた。
バート氏は挨拶をすると部屋を出ようとした。
「リヨン 良い。ここにいてくれ。」
祖父が声をかけた。
バート氏は一礼するとそこに立っていた。
「シルヴィ よく来たな‥」
「もっとこっちに来て 私達に顔を良く見せてちょうだい。」
「お祖父様 お祖母様 お久し振りです。バート氏のお陰でやっと来る事ができました。」
「本当にそうじゃな‥ありがとうリヨン‥」
「とんでもございません。私はただ私の出来る事をやっているだけです。後は全てシルヴィ様がご自分でやっていらっしゃるのです。」
「そうは言っても あなたが自分の娘という事にしてくれなければ、ここには来られなかったのですから…本当に感謝しているわ。」
祖母がシルヴィの肩を抱きしめそう言った。
祖父がリヨンに座るように勧めリヨンは向かい側に座った。
「シルヴィ シャイン家の南の領地の大気の流れが乱れているのは知っているのぉ」
「はい さっき風が教えてくれました。」
「そのようだのう‥その風はもう一つ儂に教えてくれた。大気の乱れを正すのはシルヴィ‥お前だと‥そしてお前の協力者達だと‥ただお前があまり表面に出るのは望ましくないと‥水面下で物事を運ぶようにと言っていた。リヨン 儂が表に出る訳にもいかない。どうかシルヴィをよろしく頼む」
「はい 承知致しました。」
それから少し会話してシルヴィはリヨンと共にバート家へ戻った。
シルヴィは戻るとフローラの手伝いをして食卓を整えた。
夕食の席はとても和やかだった。
小さい頃の話しで盛り上がった。
バート夫妻はその話しの様子から、お互い子供の頃 知り合っていたことを知った。
「シルヴィ 森の緑地 覚えているか?」
「もちろん 皆んなで良く遊んだわね。鬼ごっこであたしが鬼になると必ずチャーリー兄様が一緒に鬼になってくれたわ。」
「そんな事 まだ覚えていたのか?」
「ええ だって とっても嬉しかったから‥兄様達が駆け出すとあたしの足じゃ絶対追いつけなかったもの…それをチャーリー兄様が追いかけて捕まえて、あたしの所まで連れて来てくれてあたしにタッチさせてくれた。それで凄く満足したのを覚えている。後 兄様達がブランコ作って乗せてくれた事もあったわね。あのブランコをかけた大きな木はまだあるのかしら‥」
「もちろん あるさ‥」
クリフが言った。
「それから 緑の抜け道も‥」
マーシーが言った。
「泉の花畑も健在さ‥前よりも もっと綺麗になってね…」
チャーリーが言い加えた。
「えっ 本当!」
シルヴィの顔が嬉しそうに輝いた。
「明日 行こうぜ。」
「それ いいな。」
「ええ…そうしましょ。」
「明日から僕も三日休みだし、一緒に付いていきますから父さん 母さん心配しなくて大丈夫ですよ…」
「ああ 兄貴 ずるいぞ。自分も行きたいって言えばいいだろう‥」
「はい はい わかりました。そのかわりお昼には泉の木陰まで来てちょうだい。昼食を広げて待ってますから…」
「外でランチね。楽しみだわ…」
シルヴィは笑顔で言った。




