花祭り
次の日 ルシアとセルジオとの約束通りシルヴィは、第一ダンスホールへ行きダンスの練習に参加した。
シルヴィの物覚えの早さと、その確実なステップはそこにいた者達を感嘆させた。
練習を終えた後 茶々屋に行き三人は夕食を済ませた。
茶々屋は相変わらず女性客が多かった。
店内が落ち着きを取り戻しマリーとジェラールがカウンターにいた時ルシアが聞いた。
「ねえ シルヴィ 夕べの男性ってシルヴィの恋人?」
その声を聞いてジェラールが、チラリとシルヴィを見た。
自分のジェラールへの気持ちを自覚しだしたシルヴィは、その視線に気づいた。
「さあ どうかしら‥想像にお任せするわ。」
誤解をされたくないという気持ちを押し殺し、これからの行動を怪しまれないように そう言った。
(多分 これから兄の行方を探すのにロドニアスと一緒にいる事が多くなるだろう。それを怪しまれない為にも二人の関係をあやふやにしておこう)
あたしは思った。
それを察したマリーが言った。
「彼は ロドニアスと言って昔から仲のいい友人なの。二人がどんな関係かは知らないけどね。でも彼 しばらく音信不通だったのよ。それが突然 来るんですもの驚いたわ‥」
「ロドはここでマリーと伯父様が働いているのを知っていたんですって‥そしたら今度はあたしがここの街の騎士学校で指導官をしているって聞いて‥何か急に会いたくなったって言ってたわ。それでこの店に来たら、伯父様やマリーじゃなくあたしが居たって‥」
シルヴィが言った。
「えーそれって シルヴィに会いたかったって事 遠回しに言ったんじゃないの?」
ルシアが言った。
カウンターの中からジェラールが聞いた。
「でも あの彼は君の友人ではあるかもしれないけど、恋人じゃないよね。」
「さすがに 鋭いね。恋人は欲しいなあって思うけど、今のあたしにその暇はないわ。」
ジェラールはシルヴィの横顔がフッと曇ったような気がした。
モリスとマリーはその言葉が何を意味するのか分かっていた。
兄 ライアンの行方不明という事態が起きているのだ。シルヴィは出来得る限りの手を使ってライアンの行方を探すだろう。その彼女に愛を語る余裕はないのだと‥
「何 言ってるの‥周りにだって男性はいっぱいいるでしょう。チャンスは沢山あるっていう事だわ。それに恋人って作ろうと思って作れるものではないわ。そうでしょ。」
「ええ そうね。じゃあ あたしの周りの男性を全て恋人候補って事にするわ。」
「えー ズルい。じゃあ あたしも‥」
「ルシア そんな事 言ってもいいのかしら‥それも恋人の前で」
「えっ!」
「あなたとセルジオは恋人でしょ‥」
ルシアとセルジオは顔を見合わせた。
どうしてそれを‥というような顔で二人はシルヴィを見た。
「二人を見てればわかるわ。ねっジェラール‥」
「ああ 周りには隠しているようだけど、少なくとも俺とシルヴィは気づいたって事かな‥それで 婚約はいつかな?」
「そういう話しは出ているでしょう…」
「参ったな‥お見通しって事か‥流石としか言いようがないな‥婚約は休み明けの予定だ。」
セルジオが少し照れくさそうに言った。
ルシアはそのセルジオの隣りで幸せそうに微笑んでいた。
「おめでとう‥」
あたしは言った。
二週間後 国中の各街で 次々に行われていく、春の訪れを祝う花祭りが王都から始まった。
そのイベントとして各科目部門の競技会があり、そのエキシビションのダンス・社交ダンス部門でシルヴィが踊る時間がきた。
ジェラールはそれを見に観客席にいた。騎士学校の先生方や生徒達もシルヴィのダンスを見に来ていた。
シルヴィのダンスは素晴らしかった。皆んなをリードし纏め 美しい形を作りポーズを決め、ソロではその独特のムードを醸し出し見ている人達をその世界に誘なう。そして社交ダンスへと導き、舞台が終わった時には見ている人達も一緒に踊っていたような気持ちにさせていた。観客席から歓声と大きな拍手がわき起こった。
競技会も優秀な成績をおさめた。
夜には広場でダンスパーティーが行なわれるという。
ルシアとセルジオと王都での夕食を約束して、明日行くバート家へのお土産をみつけながらお祭りの賑わいの中を歩いていた。
一人の男性が声をかけてきた。
「何かお探しですか?ご案内しますよ。」
悪意がないのはすぐにわかったので丁寧に断った。
「ありがとうございます。でも大丈夫です。気ままに歩いていますので‥」
「そうですか。あの‥突然で申し訳ないのですが、よかったら今夜のダンスパーティーのパートナーになって下さいませんか?」
「えっ‥!」
「先程 エキシビションで踊っていらっしゃったのを見ました。とても感動しました。是非 夜のダンスパーティーで踊って頂けたらと思いまして‥お誘いに来たのです。俺はこの王都の近衛の騎士でアロン・マグマイア。騎士名アロン・アルフヘイム・アルフです。よろしくシルヴィ・アルフヘイム・フェアリー殿‥出演者の名簿を見てお名前を確認しました。是非 今夜のエスコートをさせて下さい。」
「でも あたしは‥」
シルヴィがそう言った時 三人の男性が駆け寄って来た。
「あっいた‥アロン‥」
「ズルいぞ…」
「ぬけがけはなしだ。」
「みつかったか‥それでは改めましてシルヴィ嬢‥俺達四人のうち誰かと今夜のダンスパーティー 踊って頂けないでしょうか?」
「そんな‥あたし 困ります。」
「誰がパートナーになっても恨みっこなしという事になっています。ですから遠慮せずに‥」
「でも あたし‥本当に」
「アロン 俺の連れに 何か用か?」
ジェラールが彼らの後ろから声をかけた。
アロンが驚いて振り向いた。
「ジェラール お前 来てたのか‥」
「ああ‥彼女のダンスを見にな‥この少し先で待ち合わせをしていたんだが、彼女がなかなか来ないんで見にきたんだ。そしたらお前がいた。」
ジェラールはアロンを連れて少し離れるとアロンにだけ聞こえるように言った。
「彼女は 俺の女だ‥手を出すな‥皆んなに言っておけ…」
「もし 手を出したら‥?」
アロンがジェラールの反応を楽しむように言った。
ジェラールの目が危険な輝きをした。
「怪我じゃ済まない‥まっ その前に彼女にねじ伏せられなければの話しだがな‥」
ジェラールがにっこりと笑う。
「そんなに強いのか!」
「ああ素晴らしい腕だ。ものの数分で 男 三人を叩き伏せた。
驚いたようにアロンはジェラールを見た。
「わかった‥皆んなに言っておこう‥怪我をしたくなかったら近寄るなと‥それにしてもお前のさっきの目‥あんな危険に満ちたお前の目は見た事がない‥本気だな‥」
「ああ 彼女は誰にも渡さない。」
ジェラールは言った。
アロンはわかったというように頷くと後の三人と連れ立って歩いて行った。
ジェラールはシルヴィの所へ行くと言った。
「シルヴィ 彼らは俺の友人達だ。悪く思わないでくれ。ダンスのパートナーを探していたんだ。でも君は俺と踊る事になっていると言っておいた‥踊ってくれるだろう‥」
「ええ‥」
シルヴィは頷いた。その後二人で王都の街を歩いた。夕食を四人で食べてやがてダンスパーティーの時間となった。
シルヴィとジェラールはダンスに参加した。
ジェラールがこういうダンスにパートナーと参加するのは初めての事だった。
王都でジェラールを知っている者も驚いた。
ダンスを踊りながら二人は、この穏やかな時間を楽しく過ごした。




