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魔術師の杖【コミカライズ】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪@『魔術師の杖』
第三章 ネリアと王都の錬金術師たち

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96.魔力適性検査

よろしくお願いします!

 学園長は机も椅子も何もない、ただ壁と教壇があるだけの空き教室に、わたしたちを案内した。


 部屋の中央に丸眼鏡をかけ、口ひげを生やした人物が立っていて、わたしに笑顔であいさつする。


「ようこそ、ネリス師団長。初等科教諭のロビンスです。先日はライガに乗せていただき、ありがとうございました」


「よろしくお願いします。ところで〝魔力適性検査〟って何をするんですか?」


 ロビンス先生は優しくうなずいて、説明をはじめた。


「初めてなら不安に思われるのも当然です。まずは簡単にご説明させていただきますね。それぞれの魔力には個性というべき〝属性〟があります。その特徴は成長期に魔力が伸びてくると、ハッキリしてきます」


「へぇ……」


「たとえばドラゴンに乗る竜騎士には、風の魔力が必須です。〝魔力適正検査〟をすることで、将来の進路を決める参考にもなります。我々もその結果を見て、属性を伸ばし、成長の偏りを矯正するために、カリキュラムを作成します」


「属性を伸ばすのはわかりますが、成長の偏りを矯正するとはどういうことですか?」


 ヌーメリアが前のめりで質問している。アレクの入学準備のためだもん、気になるよね。


「ある属性に抜きんでるのは長所でもありますが、偏りは魔力暴走を起こしやすく、かえって将来の進路を狭めます。たとえば炎属性が強すぎるお子さんならバランスをとるために、氷や水属性も伸ばすようにします」


「カリキュラムはひとりひとり違うんですか?」


「そうです。私も長年、生徒たちを見ていますが、ひとりとして同じ魔力の者はいません。魔力持ちはもともと数が少なく、成長過程では慎重に接する必要があります。私たちも手探りで進めています」


 きめ細かく指導をしていることに、わたしは驚いた。学園長は好きになれないけれど、アレクを学園に通わせたいという、ヌーメリアの気持ちもよくわかる。


 力を持て余すことも多い魔力持ちにとって、よき理解者と仲間たちが得られる場所でもあるのだ。


「錬金術師団で接する学園の卒業生たちもみな個性的でしょう?それぞれが持つ魔力の性質を、見極めるための検査です。検査自体は簡単ですよ」


 ロビンス先生はにっこりと、わたしを安心させるようにほほえんだ。


「そうなんですか?」


「私がこれから描く、属性を視覚化する魔法陣に乗り、それに魔力を流してください。それで終了です。分析はこちらで行います」


 わたしはカーター副団長とダルビス学園長のほうを、ちらりと見る。


 気が合いそうなふたりは、さっきから部屋の隅でヒソヒソ話しながら、こちらをうかがっている。このまま検査を見守るつもりらしい。


 わたしの魔力を分析して、それで何かわかるんだろうか。ロビンス先生は部屋の中央で、床に魔法陣をすばやく描く。


「じゃあ、アレク君からやってみようか」


「はい」


 いつもはめている銀の腕輪をヌーメリアに預け、アレクが緊張した顔でそれに乗と、魔法陣が光って青と緑の柱が立つ。


「アレク君は水属性が強いですね。それに緑……植物との相性もいいようだ。君は生きものに好かれる性質らしいね」


 ロビンス先生がにっこりと笑い、アレクもうれしそうに顔をほころばせた。


 おおお。なんか思ったよりやさしい感じ。魔法陣を記録したロビンス先生は、わたしに向き直る。


「ではネリス師団長、お待たせしました。私もあなたの結果が楽しみです」


 ロビンス先生がふたたび床に魔法陣を描く。カーター副団長やダルビス学園長だけでなく、全員がわたしに注目している。


 わたしはひとつ息をつくと、覚悟を決めて魔法陣に乗った。


 けれど魔法陣は光らない。ロビンス先生がコホンと咳払いする。


「ネリス師団長、魔力を流していただいても?」


「あっ!ごめんなさい!」


 乗るだけじゃダメなんだね……魔力、魔力っと。わたしはちょっとだけ魔力を流すつもりだった。


 もともと入学時に受ける検査で、子ども用の魔法陣だったのがいけなかったかもしれない。


 属性を視覚化する魔法陣に、魔力をひきだす術式が組みこまれていたのだろう。


 何かにグン!と引っ張られる感覚がして、いつも抑えこんでいる魔力が、内側から勢いよく噴きだす。


「きゃ……」


 魔法陣が白くまばゆく輝くと、それを中心に風が巻き起こる。


 わたしやヌーメリアたち、ロビンス先生もまぶしさに目を開けていられなかったけれど、部屋の中央で渦の中心にいたため無事だった。


 災難だったのは、教室の隅にいた副団長と学園長だ。


「……なっ!」


「……やめっ!……」


 彼らは渦巻く風に吹き飛ばされ、手足をジタバタさせながら、逆さになったりひっくり返ったりして、教壇と一緒にグルグルと教室内を回りはじめた。


「……っ!……っ!」


 ダルビス学園長が何か叫んでいるけれど、めくれあがった紺のローブに顔をすっぽり覆われて、まったく聞きとれない。


 こんなときだけど、学園長のラクダ色の下履きは見たくなかった。


 やがて風圧で教室の窓ガラスに、ビシビシとヒビが入って粉々に砕け散る。


 副団長と学園長は勢いを増した風に乗って、仲良くお空のむこうに飛んでいく。あっというまに小さくなり、姿も見えなくなった。


 ぽかーん……。


 わたしたちは全員、口を開けたままそれを見送った。


「たっ、大変だ!」


 いちばん先に我に返ったのは、そこは年の功かロビンス先生だった。


 彼があわてて教室を出ていくと、教室の外で待っていたレナードとメレッタが中をのぞきこむ。


「すごい音でしたけど……いったい何が⁉」


「えっ、窓がない!それにお父さんは?」


 もう教室の床にあった魔法陣は消えている。キョロキョロと副団長を探すメレッタに、どう説明したらいいかわからない。


「ねぇ、ヌーメリア」


「なんでしょうか……ネリア」


「いま、何が起きたかわかる?」

 

「ネリアにわからないものを……私がわかるわけがありません」


 灰色の魔女が力なく首を横に振ると、アレクもぽつりとつぶやく。


「僕もわかんない」


「そうだよね、はじめて見たもんね」


 わたしが言えば、ふたりとも素直にうなずく。


「そうですね……はじめて見ました」


「僕もはじめて」


 じゃあ、きっと……しかたないよね……。


「あ、じゃあライガについての質問いいですか?」


 わたしたちが動かないのを見て、レナードが手を挙げた。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 学園長と副団長には捜索隊がでることになった。


 わたしは待っていたレナードの質問に答えて、メレッタとも話す。


「メレッタも職業体験にくるよね?お父さんと同じく錬金術師志望とか?」


 期待をこめてメレッタに聞けば、それはあっさり否定された。


「いいえ、魔術師志望です。『錬金術師にだけはならないで!』って、母に言われてて」


 副団長……『錬金術師にだけは』って……どれほど苦労をかけたんだろう。


「じゃあ、お父さんの職場に興味があるとか?」


「ええっ!興味ないです!だって想像つきますよ。父の研究室なんて、散らかってて汚くてオヤジ臭いんでしょ?うわ、想像しただけでキモっ!」


 うわぁ……お父さんドンマイ!ここに副団長がいなくて、よかったかも。いや、飛ばしたのはよくないけどね。


「あの、メレッタ……お父さんを吹き飛ばしちゃって……そのぉ」


 どう謝ったものか言葉を探していると、彼女はにっこり笑った。


「だいじょうぶですよ!検査を提案したのは父なんでしょ?こうなることだって予想してますよ!」


 そ、そうかな……?だといいな……。

メレッタちゃん、お父さん心配してあげてー。

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