96.メレッタ・カーター
気をとりなおして、メレッタに今回希望した動機をたずねてみる。
「それじゃあ……錬金術師団に興味をもったのってなんで?」
「それはもちろん!ライガです!」
メレッタはほがらかに答えた。もちろんライガは、みんなの気をひくためのエサだったんだけど……。
「ライガ?そんなに?」
「はい!ライガの試乗がとっても楽しくて!最高でした!もういちど乗るチャンスがないかなあって!」
ライガの試乗が楽しかった……?と考えて、カチューシャをした明るい栗色の髪を見ていて……思いだした!
「『LEVEL13』の子だ!」
「はい?」
ライガの試乗をしたとき、弟くんと同じように飛んでほしいと頼んできた、かわいい女の子がひとりいた!
みずからリクエストして、絶叫体験をしたがる子ははじめてだったので印象に残っている。かわいい顔して絶叫好き……気があいそうだ!
ついでにメレッタに、気にかかってたことを聞いてみる。
「メレッタ、そういえばお父さんね、家で朝ごはん作ってもらえないからって、最近は研究棟で朝ごはん食べてるんだけど……」
「ええっ?そんなことしてたんですか⁉母に報告しなきゃ!父はいつも朝はやくでて、夜遅くまで家にかえらないんです!母も最初は作ってたんだけど、ひとりぶんの残り物って、片づけるの大変なんですよ!だから作らなくなっちゃって……」
なるほど。それは副団長にも責任あるなぁ。
「いまは私も寮生活だから……こないだ家にかえったら『朝ごはん製造機』がおいてありました。母はもう料理やめちゃったのかも」
「副団長用の『朝ごはん製造機』?」
「ちがいますよ!母のです!父のは……たぶんないと思います……」
おぅ……。
「そういえば、レナードの実家は『パロウ魔道具』といって、『朝ごはん製造機』を作ってるんですよ!」
おお!あの大ヒット商品、『朝ごはん製造機』のメーカー!
ノートにせっせと術式を書いていたレナードが、顔を上げた。
「メレッタ……それ、いわないでくれよ……」
「えっ?ダメなの?」
「俺はぜったい店継がないから。毎日ひたすら『朝ごはん製造機』を作るなんてゴメンだ」
店を継がないかわりに、錬金術師団に入りたいのかと思い、レナードにたずねてみる。
「魔道具師になりたくないから、レナードは錬金術師をめざしているの?」
「いえ、魔術師志望です。錬金術師じゃあ……いつ魔道具師になれっていわれるかわかんないし……」
きみも魔術師か!錬金術師志望はやっぱいないのかなぁ……。
「俺、魔力は少ないけどそのぶん戦術とか研究してるんで。今回の職業体験では錬金術師団オリジナルの魔道具について学びたいんです。爆撃具とか民間ではつくりませんから」
「あ、そっちね。そのわりにはライガの術式、読みこんでるみたいだけど……」
「実家の工房にいる魔道具師たちの鼻をあかしてやりたいんです。あいつら、口をそろえてこんな魔道具ありえないっていうんです。でも俺はちゃんとライガが飛ぶところをみた……」
レナードはペンを握る手にぐっと力をこめた。
「あいつら……魔道具のことならなんでも知ってるって顔して、俺の顔をみるたびに『魔道具師になれ』っていうんだ……」
五年生はそろそろ進路を決定する時期だ。職業体験ではみんな希望する師団を体験することができるが、そのなかで実際に入団をみとめられるのは毎年一、二名しかいない。
さいしょは魔術師団志望だったヌーメリアも、諸事情によりあぶれたため、錬金術師団に入団したときいた。
一般に錬金術師は『物質』をあつかうのが得意とされ、魔術師は『事象』をあつかうのが得意とされる。もっともヌーメリアなら、おそらく魔術師としてもやっていけたはずだ。
レナードと話していて、将来のことを真剣に考えているのがわかった。
わたしは、グレンが手ほどきをしてくれたから、錬金術師になっちゃったようなもので、魔道具も必要にせまられてつくることもあるけど、基本的にはおもしろいからやっているだけだ。
「俺んちで出てくる毎朝の食事は、『朝ごはん製造機』の製品テストもかねているんです。いまでこそメニューが増えたけど……子どものころはくる日もくる日も……地獄だった……」
うわぁ……切実。
でも、彼がかいた術式のメモをみるかぎり、実家の工房につとめる魔道具師たちが彼に『魔道具師になれ』とすすめるのもわかる気がする。彼はむいているのだろう。それをいったらより反発しそうだけど。
「ほかの参加者について教えてくれる?カディアンが参加するのは覚えているんだけど」
「グラコスとニックはカディアンと一緒に竜騎士めざすっていってました。職業体験もカディアンが参加するから参加するだけで、錬金術師になる気はないとおもいます」
「そっかぁ……」
「あともうひとり……アイリ・ヒルシュタッフも、カディアンが参加するからだとおもいます……カディアンの婚約者ですから」
婚約者⁉
思ってもいない言葉に目をまるくしていると、レナードが声をあらげた。
「それ、まだ決定じゃないだろ!いいかげんなこというなよ!」
「いいかげんじゃないわよ!卒業前だから正式に発表になってないだけで、いつも一緒にいるし、カディアンの『本命』だってみんなウワサしてるし」
「だからウワサだろ!いいかげんじゃないか!」
「んもぅ!アイリはね、ものすごい美少女なんですよ!ヒルシュタッフ宰相の娘で、生粋のお嬢様ってかんじで……それなのに勉強熱心で、レナードといつも首席を争ってるんです」
「もういいだろ、アイリのことは!俺帰る!ネリス師団長、きょうはありがとうございました!」
「あ、うん……また職業体験でね……」
教室を飛びだしていったレナード・パロウを見送って、わたしは首をかしげた。
「なにか怒らせちゃったかな?」
メレッタは肩をすくめた。
「ネリス師団長のせいじゃありません……レナードはアイリが好きなんです」
はぅう⁉メレッタはぷりぷり怒っている。
「レナードが魔術師団目指してるのだって、アイリと一緒に魔術師になりたいんです。ふだんは私のこと、邪魔ものあつかいしてるくせに!ネリス師団長に紹介してほしいときだけ、いい顔して!もぅしらない!」
メレッタとレナードと話して、職業体験にくる六人のうち三人は魔術師団志望で、のこりが竜騎士団志望だってことはわかった。ひとりぐらい、錬金術師団にきてくれるといいんだけど……はぁ。
メレッタとわかれて、学園内を見学していたヌーメリアたちに合流する。アレクははじめておとずれた魔術学園にすごく興奮したみたいで、あれこれとうれしそうに教えてくれた。
学園に通うのが楽しみでしかたないみたい。うんうん、アレクの顔見てるとほっこりするなぁ……。
メレッタ、レナード、カディアンにアイリ、そしてグラコスとニック……その六人が研究棟にやってくるわけか……すごくにぎやかになりそうだ。
そして……なんかもぅ、青春だなぁああ!わたしはちょっと遠い目をした。いや、そんなに年はちがわないはずなんだけどね……なんかもぅ遠いよ。
おねーさんはキラキラがまぶしいよ……うん……。わたしの高校時代って、そんなキラキラしてたかなぁ……?
ま、わたしの人生これからだよね?
あ、学園長と副団長……みつかったかなぁ……。
そして学園長と副団長はまだ見つかっていない。












