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魔術師の杖【小説9巻&短編集】【コミカライズ準備中】  作者: 粉雪
第三章 ネリアと王都の錬金術師たち
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95.魔力適性検査

ここまで毎日投稿が続いている事に自分でも驚きです。

 わたしたちが学園長に案内されたのはあき教室で、机も椅子もすべてとっぱらい、ただ壁と教壇があるだけの部屋だった。部屋の中央に丸眼鏡をかけ口ひげをはやした人物が立っている。


「ところで『魔力適性検査』ってなにをするんですか?」


「……私が説明するまでもなかろう……初等科担当のロビンス教諭だ」


 ダルビス学園長に紹介され、丸眼鏡をかけたロビンス先生が、にこやかな笑顔であいさつをする。


「ロビンスです。ネリス師団長、先日はライガに乗せていただきありがとうございました」


「あ……よろしくお願いします」


 説明もしないなら学園長はなにしにでてきたんだろう……と思ったら、部屋の隅にいきカーター副団長とひそひそ話しながら、こちらをうかがっている。どうやら検査をみまもるつもりらしい。気が合いそうな二人だね……。


「ネリス師団長とアレク君は『魔力適性検査』を受けるのははじめてだとか……かんたんなご説明をさせていただきますね」


 ロビンス先生が説明をはじめた。


「ごぞんじの通り、それぞれの持つ『魔力』には、個性というか『属性』があります。ドラゴンにのる竜騎士に風の魔力が必須なように、属性は成長の段階で魔力がのびてくるにしたがってハッキリしてきます」


「へぇ……」


「『魔力適性検査』は、各自がもつ魔力の属性を検査し、将来の進路をきめる参考にするものです。また、のばすべき属性や偏りすぎた属性を矯正するために、それぞれのカリキュラムをきめる参考にもします」


「のばすべき属性はわかりますが、偏りすぎた属性を矯正するとは、どういうことですか?」


 ヌーメリアが前のめりで質問している。アレクの入学準備にもなるんだもん、気になるよね。


「偏りすぎると、かえって将来の進路をせばめるからです。強い属性を押さえつけるようなことはしませんが、たとえば『炎』の属性が強すぎるお子さんは、魔力暴走をおこさないようバランスをとるために、『氷』や『水』の属性をのばすカリキュラムを組むのです」


「ひとりひとりに合わせてカリキュラムを組むってことですか?」


「そうです。『魔力持ち』の子はもともと数が少ないうえに、成長過程では慎重に接する必要があります。わたしも長年生徒たちをみていますが、ひとりとして同じ『魔力』をもつ生徒はいません……カリキュラムは手探りで進めることも多いですよ」


 おどろいた。そんなにきめこまやかな指導をしてるんだ……ナード・ダルビスは好きになれないけれど、アレクを学園に通わせたいというヌーメリアの気持ちはよくわかる。自分の力を持てあますことも多い『魔力持ち』にとって、自分のよき理解者は必要だ。それに仲間たちも。


「錬金術師であるあなたにはお分かりかと思いますが、学園の卒業生はみな個性的でしょう?全員、『魔力』の性質が違います。それをみきわめるための検査です」


 ロビンス先生はにっこりと、わたしを安心させるようにほほえんだ。


「でも、検査自体は簡単だと聞きましたが?」


「ええ。『属性』を視覚化する魔法陣がありますから。私がこれから描く魔法陣にのり、それに魔力を流してください。分析はこちらで行いますので、それで終了です」


 わたしはカーター副団長とダルビス学園長のほうを、ちらりと見る。二人はわたしの魔力を分析したいんだろうな。それでなにかわかるんだろうか。


「じゃあまずはアレク君、やってみようか」


「はい」


 ロビンス先生が部屋の中央にたち床に魔法陣を描く。いつもはめている銀の腕輪をヌーメリアにあずけ、アレクが緊張した面持ちでそれにのった。


 魔法陣が光り、青と緑の柱がたつ。


「アレク君は『水』の属性が強いようですね……それに緑……植物との相性もいいようだ。君はいきものに好かれるたちらしいね」


 ロビンス先生がにっこりと笑い、アレクがうれしそうに顔をほころばせた。


 おおお。なんか思ったよりやさしい感じ。ロビンス先生は魔法陣を記録すると、わたしのほうにむきなおる。


「では、ネリス師団長おまたせしました。わたしもあなたの結果が楽しみです」


 ロビンス先生がふたたび床に魔法陣を描く。カーターやダルビスだけでなく、全員が注視している。わたしはひとつ息をつくと、魔法陣にのった。


 魔法陣は光らなかった。


「あの、ネリス師団長……魔力を流していただいても?」


「あっ!ごめんなさい!」


 乗るだけじゃダメなんだね……魔力、魔力っと。


 ちょっと魔力を流しただけのつもりだった。もともと入学時に受ける検査で、こども用の魔法陣だったのがいけなかったのかもしれない。


『属性』を視覚化する魔法陣の一部に、魔力をひきだす術式が組んであったのだろう。ぐん!となにかにひっぱられる感覚がして、いつも抑えこんでいる魔力が内側から噴きだしたのがわかった。


 魔法陣が真っ白にまばゆく光り、渦巻く風がまきおこる。


 風は中心部ではそれほど強くはなく、わたしやヌーメリアやアレク、ロビンス先生も、まぶしさに目を開けていられないほどだったが、無事だった。


「……なっ……!」


「……やめっ……!」


 災難だったのは教室の隅でみまもっていたカーター副団長とダルビス学園長で、渦巻く風にふきとばされ、手足をジタバタさせながら、逆さになったりひっくりかえったりして、教壇と一緒にぐるぐると教室内をまわりはじめた。


「……っ!……っ!」


 ダルビス学園長がなにやら叫んでいるが、紺のローブがめくれあがって顔をすっぽり覆ってしまい、なにを言っているのかまったく聞きとれない。こんなときだが、学園長の下履きがラクダ色なのは見たくなかった。


 やがて教室の周囲に張られた窓ガラスに風圧でビシビシとヒビがはいり、粉々に砕け散り。カーター副団長とダルビス学園長は、風にのったまま、ふたりなかよくお空のむこうに飛んでった……。


 ぽかーん……。


 わたしたちは全員、口を開けたままそれを見送った。





「たっ、たいへんだ!」


 いちばんさきにわれにかえったのは、そこは年の功かロビンス先生だった。


 ロビンス先生があわてて教室を出ていき、あとに残されたのはわたしとヌーメリアとアレクになった。


「ねぇ、ヌーメリア……」


「なんでしょうか……ネリア」


「いま、なにが起こったか……わかる?」


「……ネリアにわからないものを、私がわかるわけがありません……」


「僕も……わかんない……」


「そうだよね……はじめて見たもんね」


「そうですね……はじめて見ました」


「僕も……はじめて……」


 じゃあ、きっと……しかたないよね……。





 学園長と副団長には捜索隊がでることになったので、わたしは待っていたレナードの質問にいくつか答えて、メレッタとも話をする。


「メレッタも職業体験にくるよね?お父さんとおなじく錬金術師志望なの?」


 メレッタに期待をこめて聞いてみると、それはあっさり否定された。


「いいえ、魔術師志望です!『錬金術師にだけはならないで!』って、母にいわれているので」


『錬金術師にだけは』って……副団長……どれほど苦労をかけているんだろう……。


「えっと、じゃあ、お父さんの職場に興味があったとか?」


「ええっ!父の研究室なんて興味ないです!だって想像つきますよ……ちらかってて汚くてオヤジくさいんでしょ?うわ、想像しただけでキモっ!」


 うわぁ……世のお父さんたちドンマイ!……ここに副団長がいなくてよかった……。


「あの、メレッタ……お父さんがふきとばされたことについてなんだけど……」


 どう謝ったものかことばを探していると、メレッタはにっこり笑った。


「だいじょうぶですよ!検査を提案したのは父なんでしょ?だったらこうなることも予測ずみだと思います!」


 そ、そうかな……?だといいな……。

メレッタちゃん、お父さん心配してあげてー。

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