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魔術師の杖【コミカライズ】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪@『魔術師の杖』
第三章 ネリアと王都の錬金術師たち

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95.魔術学園、ふたたび

メレッタ登場。ついでにレナードも。

 王都八番街にあるシャングリラ魔術学園で、生徒や教職員が着るのは紺色のローブだ。


 学園長のナード・ダルビスも、紺地に術式の刺繍があるローブを着て、悠然と廊下を歩いていた。


「クックック……」


 抑えようとしても、彼の長く伸ばしたひげの奥から、昏い笑いが漏れる。


 錬金術師団のクオード・カーター副団長から、エンツで依頼があったのだ。


『錬金術師団長ネリア・ネリスとアレク・リコリスの〝魔力適性検査〟と、転移魔法を指導する初等科教諭の手配をお願いしたい』


(あのエセ錬金術師、〝魔力適性検査〟も受けておらず、転移魔法すら使えないだと?)


 さっそく彼は初等科教諭のロビンス先生にエンツを送り、〝魔力適性検査〟の準備をするよう指示した。


 魔術学園の生徒はすべて、ダルビスの弟子であり教え子でもある。卒業すればそれぞれ要職につき、いつまでも彼を敬う。


 ただし錬金術師団は違う。


 先の師団長グレン・ディアレス……人嫌いのくせに、学園一の美少女だったレイメリア・アルバーンをかっさらっていった男。


 あの花のように可憐で美しい公爵令嬢はいずれ王太子に嫁ぐのだろう、なにより教師である自分には手が届くはずもない。


 誰にも打ち明けられなかった、遅い初恋の苦い結末が、ダルビスの脳裏によみがえる。


 彼にできたのは、彼女の愛らしい笑顔を教壇越しにそっと見守るだけだった。それを臨時講師でやってきて、ちょろっと講義しただけのグレン・ディアレスが、あっさり持っていったのだ。


 グレン・ディアレス……許すまじ!


 あの不愛想な男の名を思いだすだけでも彼はムカムカする。ネリア・ネリスとかいうヤツの弟子も、礼儀知らずで小生意気だった。


(師匠が師匠なら弟子も弟子だ!ライガなる魔道具で空を飛んでみせたが、あんなものイカサマに違いない。化けの皮をはいで排斥してやる!)


 内心では師団長になりたいクオード・カーターも、彼に感謝して協力するだろう。


 そろあとの師団長になるのは、クオードでもユーリでもどちらでもかまわない。


(あの女に心酔しているユーリも、いずれ目が覚める。そうすれば卒業生を何人か送りこんでやろう)


 そうなれば竜騎士も魔術師も錬金術師も、すべてがダルビスを敬い、彼の名声を高めてくれるだろう。


 各界に影響力を持てば、学園における支配力は、さらに増すことになる。


 彼の思考は学園生に話しかけられたことで中断された。


「学園長、五年生のレナード・パロウです。お願いがあります!」


 レナードは学園首席の優秀な生徒で、魔術師団への入団を希望している。ダルビス学園長は穏やかに応じた。


「なんだね、レナード」


「さっきロビンス先生から、『錬金術師団長が学園を訪れる』と聞きました。実はライガの術式で質問したくて、僕にも時間を取ってもらえないでしょうか」


 学園長のこめかみにビキリと青筋が立った。


「あんなイカサマ……どうやったのか知らんが、ライガが空をあんなスピードで飛ぶわけがない!」


「あれがイカサマだというのですか⁉」


 学園長の剣幕に押されながら、レナードは必死に言い返す。


「全員、あれが飛ぶところを見ていました。ロビンス先生だってライガに乗せてもらいましたよ!」


「レナード、目を覚ませ。あんな女に関わったら、首席卒業すら危うくなるぞ」


(ユーリといいレナードといい、伝統を守らず目新しいものにすぐ飛びつく。学生たちの誤りは正してやらねば)


 レナードはぐっと黙りこんだ。


(賢い生徒だから、これだけ言い聞かせればだいじょうぶだろう)


 ダルビス学園長が通りすぎたあと、レナードは拳を握り、小さな声で毒づく。


「クソッ、石頭め!」


「……レナード?」


 見ると同級生のメレッタ・カーターが紫の目を丸くしている。ボブにした明るい栗色の髪に、花飾りのついたカチューシャをはめた女生徒で、父親は錬金術師団で副団長をしていた。


「そうだメレッタ、きみのお父さんってたしか……」


「え?え?えぇ?」


 学園きっての優等生は、すごい勢いで彼女につめよった。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 わたしはカーター副団長に連れられて、アレクやヌーメリアとシャングリラ魔術学園にやってきた。


 でかける前にオドゥやユーリにも、〝魔力適正検査〟とはどんなものか聞いてみたけれど……。


「あ~あれね~パパッと終わっちゃうよぉ」


「ただの検査ですし、そんなに難しくなかったですよ?」


 あっさり終わるらしいけれど、彼らの返事だけではよくわからない。


「覚えて……ない」


「ほむぅ……?そんなものあったか?」


 ヴェリガンにとってはもう二十年以上も昔だし、ウブルグからは逆に聞き返された。


 カーター副団長は妙に張りきっていて、正直不安しかない。けれどアレクとヌーメリアもいっしょで、逃げるわけにもいかない。


 気が重い。〝魔力適正検査〟……いやだなぁ。


 いやいやいや。わたしはぶんぶん頭を振る。


 研究棟に引きこもりぎみなのを反省したばかりだもの。外にでて、もっと人とふれ合わなければ!


「そうよ、学園長とだってにこやかにお話ししてみせる!」


「お待ちしておりましたぞ」


 でたー!ダルビス学園長!


「師団長ぶりが板につきましたなぁ、エセのくせに。ユーリを骨抜きにするような、色気があるとも思えんが……」


 学園長は長く伸ばしたヒゲをなでながら、ブツブツ言っている。やっぱふれ合いたくないっ‼︎


 ユーリを骨抜きって……むしろ彼はバリバリに骨があるよ。頭の固いおじいちゃんに言っても無理か。


「ダルビス学園長、お手数をおかけしました」


 カーター副団長の言葉に、学園長はコロリと態度を変えて、心配そうに両腕を広げた。


「クオード……上がこれでは苦労も多いだろう。私は錬金術師団の将来を危惧しておる。いつでも相談に乗ろう」


「ありがたいことですな」


 仲いいよ、このふたり。落ち着こう。そう、わたしは師団長だもの。にこやかに、にこやかに。


 どんなに嫌味な学園長とだって、にこやかにお話ししてみせる!


「クオードの話では、パパロッチェンを一気飲みしてケロッとしておったとか。悪食というか、野育ちはさすがに違いますな。私も用意しておくべきでしたな。ふははは」


「いえ、それには及びませんわ。学園長のお手をわずらわせるなんて……ほほほほ」


 どうよ!学園長とだってにこやかにお話しできるわ!


 ふはは。ほほほ。ふはは。ほほほ。ふはは。ほほほ……。


 しばらく嫌味の応酬をしていたら、アレクが心配そうにわたしの手を引いた。


「ネリア?いつもと違って変だよ?」


 ハッ!


 いやあああ!


 わたしったら!


 なんて醜い大人のやりとりを、子どもに見せていたの⁉


 反省しよう、海よりも深く!


 志を持とう、空よりも高く!


 そうよ!学園長なんて中ボスにもなんないわ!ザコよザコ!


 校舎の入り口にある階段の上には、魔術学園生の紺のローブを着た男の子と女の子がふたりで立っている。


 ボブに切りそろえた栗色の髪にカチューシャをはめた女の子が、わたしたちに大きく手を振る。


「お父さん、学園にきたのね!」


「メレッタ⁉」


 わたしの横にいたカーター副団長が、驚いたように返事をする。


「えっ、もしかして副団長の娘さん⁉」


 メレッタは栗色の髪をなびかせて階段をタタタッと降り、わたしにペコリと頭をさげた。


「こんにちは、メレッタ・カーターです。いつも父がお世話になってます」


 明るい栗色の髪に紫の瞳……副団長の娘さんってのが、まず信じられないぐらいかわいい!


「こちらこそ。えっと、職業体験説明会でも会ったよね」


「はい!ライガの試乗、とても楽しかったです。それでネリス師団長に彼を紹介したくて……」


 メレッタがいっしょにいた、眼鏡をかけた男子生徒を手招きすると、カーター副団長がいきり立った。


「紹介したい男だと⁉」


「お父さん、変なかんちがいしないで!レナードはライガのことで、ネリス師団長に質問があるんだってば」


「レナード・パロウ!またおまえか!」


 学園長が男子生徒をにらみつけても、彼はかまわずわたしに話しかける。


「レナード・パロウといいます。ライガのことでネリス師団長に質問があって。あとでお時間をいただけませんか?」


「うん、いいよ。先に用事を済ませてからでもいい?」


「はい、もちろんです。ありがとうございます!」


 レナードの表情がパッと明るくなった。有望そうな生徒だし、これは期待できるかも!

挿絵(By みてみん)

魔術学園五年生、メレッタ・カーター。

メレッタには8巻でようやくキャラデザがつきました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] カーター副団長がお父さんな反応してて面白かったです! 紹介したい人が男の子だとね、過剰反応してしまいますね! でもきっとそのうちあることなので、今から心の準備をしてもらいましょう〜
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