93.竜騎士団訓練場
「竜騎士団……えっ、いきなり行ってもだいじょうぶなの?」
わたしはあわてたけれど、オドゥは気にする様子もない。
「ネリアは師団長なんだから遠慮なんていらないよ。さぁさぁ!」
オドゥに急き立てられたわたしは、後片づけを副団長に任せ(押しつけたともいう)、竜騎士団に彼と転移した。
「ネリア、こっちこっち。この時間なら、やってるハズなんだよねぇ。チケット代取って公開すればいいのにさぁ、もったいないよねぇ」
オドゥはわたしの肩に両手をかけ、どんどん訓練場へと進んでいく。
「えっ、訓練の邪魔じゃない?」
とまどうわたしに彼は眼鏡の奥からほほえみかける。
「いいからいいから」
訓練場には竜騎士たちのほかに、けっこう人が集まっていた。みな興奮しており、密やかなささやきが交わされている。
確かにこれなら、わたしたちが紛れこんでも大丈夫そうだ。
「はい、ちょっと通して……せっかくだから、いい場所で見ようよ」
錬金術師団の白いローブのおかげか、人垣が割れて道ができ、わたしたちは最前列にでることができた。とたんに冷気にさらされる。
「ひょ~、今回は一段とすごいねぇ!」
訓練場の中央で相対しているのは、竜騎士団長のライアス・ゴールディホーンと、魔術師団長のレオポルド・アルバーンだ。
長身のふたりが真ん中にいると、広いはずの訓練場も狭く感じる。
冷気を発して訓練場の気温をぐんと下げるのは、銀髪をきっちり束ねたレオポルドだった。
彼はいつもの黒いローブではなく、紺の簡素な訓練着と防具だけの姿で、両手には細身の双剣を握っている。
対するライアスも同じ訓練着で、こちらは長剣を両手でかまえていた。
双方とも武器はミスリル製なのか、冴え冴えと輝く冷たい光を放っている。
「ネリス師団長、観にいらしたんですか。こちらへどうぞ!」
わたしたちを見つけた副官のデニスが、すかさず駈け寄ってきて、少し高くなった見晴らしのいい観覧席に案内してくれる。
そこには先客の……アーネスト陛下が座っていて、わたしたちを笑顔で手招きする。
「おお、ネリス師団長きたのか。こっちだこっち!」
「さっ、座って。はじまっちゃうよぉ!」
「何がはじまるの?」
わたしをうながして国王の隣に座らせると、オドゥもちゃっかりと反対に腰を下ろす。先にきていた陛下が教えてくれた。
「訓練ではあるが、団長同士の手合わせだ。見応えがあるぞ」
「団長同士って……ライアスとレオポルドが戦うの!?」
わたしが身を乗りだすと、横に座ったオドゥも眼鏡のブリッジを指で押さえて、楽しそうに訓練場を見下ろす。
「関係者以外、非公開なのがもったいないよねぇ。このふたりなら絶対、チケットが高額で売れるよぉ」
陛下もわざわざ見学するぐらいだものね。わたしはレオポルドが剣を持っているのが気になった。
「レオポルドも剣を持っているけど、物理で戦うってこと?」
ふたりとは同期だから、オドゥは学園時代から何度も手合わせを見ているらしい。レオポルドはときどき、竜騎士団の訓練にも参加していて、珍しいことではないそうだ。
「魔法剣に近いかな。レオポルドの魔法攻撃は多彩だから見応えがあるよ。火属性が得意ではあるけどね」
「魔法剣……?」
どんなものか想像がつかなくて首をかしげると、オドゥが解説してくれる。
「あいつは『実戦で何があるかわからないのに、魔術師だからと戦えなくてどうする』って言ってて。魔術師は後衛って常識は、あいつにはあてはまらない。〝銀の死神〟なんて異名もあるぐらいだよ」
「そういえば、レオポルドはドラゴンにも乗れるって、ライアスも言ってた……」
ドラゴンに乗って剣を振りまわす彼なんて、ふだんの黒いローブ姿からは想像もつかない。
そしてライアスとレオポルドは、訓練場の中央で互いに見つめ合ったまま、微動だにしない。冷気も相まってすごい緊張感だ。
ふだんは快活なライアスも口を真一文字に引き結び、射るような眼差しで剣をかまえ、レオポルドを見すえている。
緑髪の副官デニスは、わたしたちが座る席の真正面、訓練場の中央に引かれたライン上に立ち、それに向かい合うように、ベテラン竜騎士のレインが反対側に立っている。
紺の髪のレインが笛を取りだすと、訓練場がシン……と静まりかえった。場の緊張感がどんどん高まる。
「はじめっ!」
ピピーーッ!
デニスの合図とともに、鋭い笛の音が鳴り響き、ライアスとレオポルド双方が動きだした。
ふたりとも速度強化しているのか動きが速い!
一直線にレオポルドがライアスの懐に飛びこみ、剣を振りぬく。
ビシビシビシビシッ! と振りぬいた先の地面が扇状に凍りつき、ライアスが横っ跳びに避ける。
「あの魔法は触れると凍りついて動きを封じるんだ。ライアスはうまく避けたな」
ライアスの動きは予測していたのだろう、レオポルドはもう片方の剣を振りかぶり、着地したライアスに叩きこむ。
シュバッ!
……ザシャアッ
風の盾を出現させてライアスが剣を弾くと、レオポルドの剣から繰りだされた氷が、音を立てて砕け散った。
ライアスはリーチを生かして、自分の長剣を前へと突きだす。
キィン!
鋭い金属音を響かせて、双剣をクロスさせたレオポルドがライアスの突きを受け、その勢いで弾かれるように後ろに跳ぶ。
すかさず前方に展開した魔法陣から、火炎の連弾がライアスに向かって撃ちだされた。
そのすべてをライアスが避けても、レオポルドがまたも切りかかる。
彼の動きに合わせて上空に魔法陣が展開し、出現した氷柱がライアスに降り注ぐ。
ザンッ! ザンッ! ザンッ!
動きを封じるように、氷柱が地面につぎつぎに刺さるなか、俊敏にそれを避けたライアスは、地面を蹴ると姿勢を低くし、飛ぶような速さでレオポルドへ突っこんでいく。
ガキィッ! キン! ギィンッ!
重たそうな長剣をライアスは軽々と振りまわし、レオポルドと何度も切り結ぶ。
そのすさまじい勢いに、こんどは〝銀の魔術師〟が防戦一方になった。うまく角度をつけて受け流していても、〝金の竜騎士〟の剣を防ぐだけで精一杯に見える。
ライアスの動きも早いが、レオポルドも身軽だ。そのまま何度か切り結んだあと、後ろに大きく跳んだ。
跳びながら繰りだした魔法陣から、こんどは火焔の渦を噴きだして、ライアスの追撃を封じることも忘れない。炎の熱気が観客席まで押し寄せてきた。
ゴオオオオッ!
見守っていたわたしが、目の前で繰り広げられる戦いに息をのんでいると、隣でアーネスト陛下が教えてくれる。
「まもなく北のモリア山へ、採掘のために遠征があるからな。彼らの手合わせを見ると、ほかの団員たちが引き締まるのだ」
「そんなに危険な場所なんですか?」
「険しい山で地形がやっかいなうえに、でてくる魔獣は凶暴でな」
ミスリルが採掘されるモリア山……どんな場所なんだろう。ポーションもたくさん用意しないといけないかも。こんな戦いは心臓に悪い。
ほかにも何か……戦いが必須の場所で、彼らの助けになるものが作れないだろうか。
グワンッ!ギィンッ!ザシャアッ!ガンッ!
長身のライアスが繰りだす長剣の一撃もすさまじいけれど、レオポルドの双剣は片方をかわしても、すかさずもう一方で切りつけてくる。
ライアスはナックルガードと風の盾を駆使して、彼の攻撃を防いでいるようだ。
「こうして見るとライアスのほうが防御重視で、レオポルドは盾もなく双剣で、捨て身の戦法なんだね」
「持久力や身体強化、膂力などはライアスが上だからな。レオポルドは短期決戦を狙っておるのだろう」
「竜騎士だけあって、ライアスは風魔法に特化してるからねぇ。攻撃や防御のパターンが決まっている。ただ、なかなか隙はないよねぇ」
オドゥはいつもの軽い口調だけど、訓練場を見守る目つきは真剣そのもので。
レオポルドの剣が氷のつぶてを生めば、ライアスの風魔法がそれを吹き飛ばす。











