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魔術師の杖【小説9巻&短編集】【コミカライズ準備中】  作者: 粉雪
第三章 ネリアと王都の錬金術師たち
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93.名のりをあげた男

物語の進行がゆっくりで、季節がまだ夏のままです。

「気分転換でもしたらどうだ?わしは今日のスイーツが楽しみでのぅ」


「そうだね、そうする……今日はね、ピュラルのジュレだよ。ソラに頼んで冷やしてもらってあるから」


 師団長室に移動すると、まだお茶の時間にはすこしはやいせいか、わたしとウブルグのふたりだけだ。師団長室から中庭がよくみえるテーブルに腰を落ちつけると、ソラがアイスティーのポットと一緒に、よく冷えたピュラルのジュレが盛られた器をはこんできた。


「……おお、これは!あざやかな色だのぅ」


 ウブルグはオレンジ色をしたピュラルのジュレを、うれしそうにスプーンですくう。


「そういや、ユーリ坊はすっかり雰囲気がかわったのぅ」


「そう?」


「まえはお行儀のいい、よそゆきの顔をくずさんかったが。いまではわしがいる研究室のとなりで、ドッスンバッタン……なにやら騒がしいぞぃ」


「ほんとう?ライガの研究かなぁ……さわがしくしてごめんね」


「駆けだしの錬金術師なんぞ、そのぐらいのほうがよい……いい傾向じゃよ」


 きれいな色をしたピュラルのジュレがはいったグラスを日に透かしながら、ウブルグは目をほそめた。


「ヴェリガンもヌーメリアもなにやら新しいことをはじめたし、わしもカタツムリの研究が自由にできる。ネリアがきてから、研究棟に新しい風が吹いた」


「そう、かな……だといいけど」


 わたしは、みんなのためというより……快適で居心地のいい、グレンの用意したこの居場所を守りたいだけだから、ウブルグにそういわれるとちょっと気がとがめる。


「この師団長室もネリアがおるだけで、いままでとまったく雰囲気がちがう……こどもの声が聞こえる中庭など、むかしを思いだすようじゃ……ほむ、のどごしがさわやかじゃ……ピュラルの酸味がまた清涼感のある味わいで、ほむぅ……」


「むかし?」


 ウブルグ・ラビルはなにかを思いだすように目を細めて、満足そうにジュレを味わっている。


「……そうさなぁ、わしはここを離れるし、お前さんにもうひとつ気にかけてもらいたいことがあっての」


「なあに?」


「オドゥ・イグネルのことじゃよ」


 ウブルグはそういって、手にもったスプーンを揺らした。


「オドゥのこと?」


 わたしは彼がちょっと苦手だ。


「彼はグレンに影響されて、錬金術師をめざしたって……」


「グレンに影響された者は多いからの……だがきっかけがどうであれ、いずれは自分のやりたいことを見つけ、その研究をはじめるものじゃ……だが、オドゥにはそれがない」


「そういわれてみれば……」


「錬金術師としての腕前は一流だろう……努力しておったからな……だが、あやつは錬金術でなにがしたいんじゃ?ネリアわかるか?」


「わからない……」


 錬金術はなんでもそつなくこなすオドゥ。仕事はできるし、彼が戻ってきてから、わたしはかなり楽になった。彼がグレンの仕事を研究しているというのは本当らしく、師団長室の資料庫で、グレンののこした文献を読んでいることもある。


 でも、そういえば彼の研究って?彼自身はなにをつくろうとしているんだろう。


「職人気質のクオードの下についたせいかもしれんが、技術としての錬金術はたいしたもんじゃが、あやつの錬金には『心』がない」


「それだったら、カーター副団長は?」


「クオードはなんであれ、自分の錬金が人の役にたち、仕事が認めてもらえればそれでよい。そこが職人気質というわけじゃが……オドゥはそれともちがう」


「なんだかわかるような気がする……オドゥのこと、気にかけてみるね」


「たのむぞ師団長。『心』というのは、なにかを創りあげようという強い意志だ。『心』なき錬金はなにもうみださん……ところで、このジュレとやらのおかわりはあるかの?」


 お気に召したようで。






 ひと息いれたら、転移魔法の練習だ。とりあえず師団長室→中庭とか、研究棟内で転移の練習をしてみよう。


 お茶にやってきたオドゥとヌーメリアにみてもらい、魔力制御の練習にもなるからと、アレクも一緒になって練習した。


「うーん、できるやつができないやつに教えるって意外と難しいなぁ……しかもネリアって、魔力が伸びはじめたばっかのこどもじゃないもんねぇ……」


 オドゥが眼鏡のブリッジを手でおさえて、困ったように眉を下げた。


 転移魔法陣は魔力がまだすくない、かすれる程度の線しか書けないこどものほうが成功しやすい。子どものうちになんども使って慣れてしまうから、大人はなんなく制御できるのだとか。


 王都の転移門もそうだけど、ここの人たちは、こどものころから『転移』になじんでいる。息をするのとおなじくらいの感覚で転移してしまうので、「どうやるの?」ときかれても逆に困るんだって。


 ならうのは魔術学園の初年度でも、その前にできるようになっている子も多い。そして練習を重ねるうちに、なんとアレクの方が先にできるようになってしまった!


「僕……できた⁉︎」


 移動先の中庭で呆然としていたアレクの顔はすごくかわいいよ!うん、それはうれしい!


 だけど……。


 えっ!わたしはどうなるの⁉︎……と、途方にくれた現実。


「ううううう」


 頭を抱えていたら、あとからやってきて、部屋の隅でじぃー……っと静かにようすをみていた男が、ことばを発した。


「私がおしえよう」


 なのりをあげたのは……渋い声、渋い顔でいつもじーっと静かに観察する視線をよこす、『研究棟』きっての実務派。


「クオード・カーター副団長が教えてくれるの⁉︎」


「娘に教えたこともありますし、私のほうが適任でしょう……オドゥはさっさと仕事にもどれ」


「はぁい、じゃあネリア、がんばってねぇ」


 えっ!オドゥ、いっちゃうの⁉︎


 はぁ……しかたないか。


 あきらめてわたしはクオード・カーター副団長にむきなおる。


「カーター副団長の娘さんっていくつぐらい?」


「魔術学園の五年生です……メレッタといいまして魔術師志望ですが、こんどの職業体験で研究棟にくるとか……」


「ええっ⁉︎それじゃパパは、イイとこ見せないとね!」


「ぱ、パパ⁉︎」


 目を白黒させている副団長を横目に、副団長の娘さんってどんな子だろう?あとで名簿をチェックしよう……などと考えていると、クオードがまた声をかけてきた。


「ところで、師団長……『魔力適性検査』を受けたことはありますかな?」


「『魔力適性検査』?」


 けげんな顔をしていると、ヌーメリアが教えてくれる。


「魔術学園の入学時にうける検査のことですわ……」


「しらないということは……受けておられないようですな」


「はぁ……」


「魔術学園のナード・ダルビス学園長とは懇意にしておりますからな……師団長が受けられるようにとりはからいましょう」


 げ。


 魔術学園のナード・ダルビス学園長って『職業体験説明会』のときに、わたしを『エセ錬金術師』とよんで、やたらつっかかってきた、あの嫌味っぽいエラそうなおじいちゃんだよね……?


 そんなの、全力でお断りしたい!


「いやそんな、わざわざいいかなぁ~なんて……」


 わたしが断ろうとしたのを見越したかのように、副団長はヌーメリアに話しかけた。


「せっかくだ……アレクも一緒に受けられるようつたえておこう。入学時でもいいが、事前にやっておくと入学準備に都合がいい」


「まぁ!ほんとうですか!」


 ヌーメリアが目をキラキラとかがやかせ、カーター副団長はこちらをみてほくそ笑む。


「もちろん、師団長が受けるなら、ですが……どうされますかな?」


 ……アレクの入学準備がかかっているなら、行くしかないじゃん!


「う、受けます……」


「きまりですな……師団長が『魔力適性検査』を受けたら……私めが、手取り足取り師団長に『転移魔法』をお教えしましょう……」


 クオード・カーターはニヤリと笑った。


 ……うわぁ。


 ……これ、オーケーしてほんとうによかったんでしょうか……。

ナード・ダルビス学園長の名前が思い出せなくて、2章まで見返しに行きました。

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