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魔術師の杖【コミカライズ】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪@『魔術師の杖』
第三章 ネリアと王都の錬金術師たち

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93.転移魔法を習得したい

今回はネリアがグダグダしてます。

 研究棟に戻るとわたしは、ミーナから預かった布見本を前に、一階にある工房で腕組みをして、ひとしきり考える。


「……ううーん」


 ちっさい!とにかくちっさい!


「ネリア、苦戦してますね」


「さすがにサイズがね……ユーリ、なにかいいアイディアない?」


 ためしに聞いてみると、ユーリもあごに手をあてて考えこむ。


「手のひらサイズの魔法陣を描く達人がいると聞いたことがあります」


「ほんと⁉」


「でもそれじゃ、大量生産できませんよ。軍服は何万着と必要なんですから」


「それもそうね……」


 必要なのは複雑な魔法陣を小さく描ける達人ではない。


 工房の魔道具師たちが手早く描けて、わかりやすくて補修しやすい形で、機能も充実した魔法陣だ。


「ネリア、がんばって」


 気楽に言うユーリに、わたしは悲鳴をあげた。おまえのせいだぁ!


「提案したの、ユーリだよね⁉」


「そりゃそうですよ。兵士たちは危険な任務に命をかけるんだから、生還する確率が少しでも高いほうがいいに決まってます」


「ユーリがやればいいじゃん~」


 ダメ元で振ってみても、あっさり断られた。


「僕、ライガの改良で手一杯なんで。もうすぐ学園生たちの職業体験ですし」


 そうだ……それもあったよ……。


「ネリアがどんな魔法陣を組むのか僕も興味あるし、それに……」


「それに?」


 ユーリはさわやかキラキラ王子様スマイルを見せた。


「ネリアの泣き顔が見たいし」


 わたしは机につっぷした。


「ユーリのいじわる……もぅいいよ、バカぁ……」


 ユーリは笑いながら工房を出ていく。


「ふふっ、いじけたネリアもかわいいですよ」


 喜ぶなよ!


 最近のユーリは、人を困らせては反応を楽しんでいる。


「泣いたらまぶたにキスする」って予告されてるし。


 ぢぐじょお!ぜったい泣かないもん!


 いや、心は泣きそうだけど。


 大人をからかうな、バカぁ!


 ……むこうも大人だけど……。


 もうやだ、他のことやろう。


 そうだ、転移魔法を練習しよう!


 そしてわたしは、さっそくつまづいた。


「ううううう」


 レオポルドいわく、魔術学園の初年度で習う基礎中の基礎だという。もちろん教科書にも載っている。


 なんていえばいいんだろう……車も運転できる大人が、幼児用三輪車にいまさら乗る感じ。


 体は大きいのに三輪車にまたがって、「さあ、全力疾走してごらん」と言われたみたいな……アンバランスさにとまどっている。


 教科書どおりの術式を、紙にペンで書くことはできる。


 カキカキカキ……ほら書けた。


 問題は自分の魔力を使って、それを空間に描こうとすると、魔素の配分に細かな約束ごとがあって。


 転移陣は『どこでもドア』みたいに、空間を無理矢理つなげたものではなく、転移する対象だけに作用する。


 だから術式できちんと移動先の座標を指定し、送りたいものの範囲指定とか物質保護の術式とか……ええぃ、ややこしい!


(ええっと……こっちは魔素を薄くして……こっちは濃いめに……)


 わたしみたいに魔力が多いほうが、距離を稼ぐ遠距離の転移には向いているけれど、その魔力が制御しにくくて、術式を書く段階でつっかえている。


 たとえるなら太いマジックで細密画を描こうとして、線がつぶれて失敗する感じ。


「む、難しい……」


 転移陣にはざっくりわけて二種類あり、王城のあちこちに敷いてある、固定タイプの移動魔法陣はわたしもよく使う。


 転移先が決まっていて、魔素を流せば誰でも使える。王城でも部外者立ちいり禁止の結界がある場所は避け、通用門や王城の各部署の入り口に設置されている。


 グレンがデーダス荒野と研究棟をつなげた転移陣は、さらに使える人物を限定していた。


 もうひとつは転移のたびに術者が描く転移陣で、使えば消えてしまうけれど、目的地は自由に設定できる。


 ただし術者が目的地を詳細にイメージできる……つまり行ったことがあるか、よく知る場所でないといけない。


 デーダス以外、まだどこにも行ったことがないわたしには、目的地のイメージを固めることすら難しい。


「いま跳べるとしたら、メロディの魔道具店やニーナ&ミーナの店、魔道具ギルドに海猫亭ぐらいしか……あれっ?」


 どこも王城内ではないし、いきなり転移するとか無理に決まっている。


「もっと、お城もあちこち歩いとくんだったなぁ。でも思いだしたら海猫亭行きたくなってきた」


 現実逃避したくなったわたしは机につっぷして、ぐりぐりと自分の腕に額をこすりつける。


「海鮮ダシたっぷりのター麺食べたい……カリカリむっちりのムンチョのカラ揚げ食べたい……」


「転移魔法の習得は進んどるかのぅ?」


「はうっ!」


 そこへ、ウブルグがようすを見に工房にやってきて、わたしはわれにかえった。


 まて、わたし!


 ここで欲に流されたら、懸念事項が片づかない!


 わたしは居住区の脱衣所に置いてある、門外不出の魔道具を必死に思いだす。


 そうよ、サンゴ礁の海がひろがるマウナカイアビーチというぐらいだもの、水着は必須じゃないの!


 とりあえず王城内でイメージしやすい、よく知っている場所といえば……と考えたとたん、怒りにきらめく黄昏色の瞳と、眉間にぐっとシワを寄せた顔が浮かんだ。


 ちがーうっ!


「ウブルグ……進んでないよぉ……」


 今のわたしがマウナカイアにある海洋生物研究所まで長距離転移魔法陣を描くのは、よちよち歩きの赤ん坊がフルマラソンを走るようなものだ。


 遠い!ゴールが遠すぎて見えない!


「わしは魔導列車で移動してもいいが……」


「ウブルグはそれでよくても、ほかに荷物もあるし……」


 研究室そのものを移動させるから、いっしょに送る研究資料だけでもかなりある。カタツムリだけで……ホントよくこんなに研究できたね。


 それにわたしの珊瑚礁で泳ぐという夢が!


 ウブルグが紙にペンで書かれた転移魔法の術式を眺めた。


「魔法陣はちゃんと描けとるようだがのぅ」


「それはアレクの参考書を借りて、きっちり写したから。レオポルドはふつうの転移ができるようになったら、長距離のヤツを教えてくれるって言ってたけど……」


 ユーリと必死で拝み倒したら、レオポルドはものすごーくイヤそうだったけれど、最終的にふつうの転移ができるようになったら、教えてくれると約束してくれた。


「やったぁ、ありがとうレオポルド!」


「おまえにこれ以上、塔に押しかけられてたまるか!」


 顔をゆがめて毒づかれたけど、彼はわざわざ研究棟までやってきて、長距離を跳ぶときに設定する座標や、魔素の配分とかを見てくれるらしい。


 なんだかんだいって面倒見がいい彼を、そこは頼りにしてしまおう!


 あとはわたしが転移陣さえ描けるようになれば!


 ……描けるようになれば!


「どうしたらいいんだよぉ……」


「気分転換でもしたらどうだ?わしは今日のスイーツが楽しみでのぅ」


 ウブルグに言われて、わたしは立ち上がった。


「そうだね、そうする。今日はね、ピュラルのジュレだよ。ソラに頼んで冷やしてもらったの」

ネリアにはちょっと意地悪ですが、ユーリも毎日泣きそうになりながら『サプリメント』を摂っています。

がんばれ、ユーリ!

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