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魔術師の杖【コミカライズ】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪@『魔術師の杖』
第三章 ネリアと王都の錬金術師たち

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92.収納ポケット

収納鞄の量産化も着々と進行中。

 それからしばらくして、七番街に新しい工房を造ったメロディたちから、わたしとユーリは呼びだされた。


 収納鞄の初回生産分は完売し、購入者の評判はとてもよく、さらに追加注文で予約待ちだそうだ。


「今は数種類のデザインのなかから、人気があって大量生産に向いたものを選んで、生産ラインを整えているところなの」


「すごいですね!」


 もうすでに手を離れたとはいえ、自分で作った魔道具で、初めて商品化されたものだ。それを聞いてうれしくなった。ミーナが黒い鞄の試作品を見せてくれる。


「ユーリが注文したユニセックスデザインもあるのよ。ちゃんと『ユーティリス』と名づける許可をもらったわ」


「もちろん、そのぶんのマージンは僕あてで。ライガの開発費にあてます」


 ミーナが手にした鞄を見て、ユーリはにこっと笑う。


 第一王子の鞄と同じものだなんて、爆発的なヒットの予感だ。本格的に売る気だな!


 七番街にあった空き倉庫を探して工房に改装し、服飾系の魔道具師たちも雇い入れた。


 ここではコワモテのビルが大活躍。おぃちゃん、黙って腕組みしているだけで迫力があるもんなぁ。


 若い女性だけだと相手になめられることもあるし、アイシャもわかってて貸してくれたんだろう。


 そして新しい工房で、ミーナたちが依頼してきたことに、わたしは小首をかしげた。


「収納ポケット?」


 ドラえもんのではない。


「そ。軍服を扱う服飾メーカーとの共同開発なの。私たちも術式の刺繍と固定だけなら、設備投資もいらないし」


 このあいだ作った携帯ポーションは、遠征部隊で管理してケガをした兵士に渡していたそうで。


 収納鞄の術式を検討した軍上層部が、収納空間の安全性と安定性に目をつけ、携帯ポーションが入る収納ポケットを軍服に取りつけるよう、メーカーに持ちかけたらしい。


「収納鞄の術式を検討した軍上層部……って、ユーリ⁉」


「ライガの改良に使う研究費は、いくらでもほしいですからね」


 わたしが驚いて横にいたユーリを見れば、彼はしれっといった。うわぁ……っていうか、いきなり共同開発って。


「トップダウンは話が早いわぁ……創業四百年の老舗が、ウチみたいな小さなトコに頭下げてきたのよ」


 軍服製造メーカーのストバル商会は、格調高いデザインとその機能性や丈夫さに定評があり、ぜひ共同開発をとメロディたちに依頼してきたのだとか。


「ウチも魔法陣や術式を、服に組みこむ技術には長けているしね」


「それに収納ポケットも売れると思うの。女性には鞄っておしゃれアイテムだけど、鞄どころか財布すら持ちたくないって男性、一定数いるでしょ?」


 ニーナが得意そうに胸を張れば、ミーナが冷静に分析して、メロディは手をたたいて笑った。


「いるいる!小銭ジャラジャラおじさん!」


 こっちの世界にもいるのかよ!


「女性もホラ、化粧室へポーチを持っていくのが恥ずかしい……って人もいるし」


 なるほど。


「ネリアは術式をコンパクトにまとめるのがうまいでしょ?なんでそのスキマに⁉って思うような場所でも、文字列突っこんじゃうし」


 えぇまあ、スキマ収納とかテトリスで鍛えましたから。ほいほいっとスキマにはまる快感がたまりません。


「大きな空間じゃなくていいの。縦横二倍ずつでじゅうぶん」


「術式を布地へ固定するのは私たちに任せて。どうかしら、できそう?」


「そうですねぇ……」


 ポケットの大きさが七シム四方だとしたら、魔法陣はもっと小さなものを用意しないといけない。


 術式が実行する命令は同じでも、書きこむスペースが狭くなるため、魔法陣を小さくするのって実は難しい。


 空にでっかく魔法陣を描くほうが楽なのだ。


 過酷な環境にさらされる軍服の術式は、女性向けの鞄と違って、すぐほころびるようでも困る。


 複雑な術式ほどほころびやすいから、魔法陣に使うとしたら、術式は簡単なものがいい。


 けれど機能を持たせるほど、書きこむべき術式は増えて複雑になっていく。それを簡単に小さく……ううーん。わたしは即答できなかった。


「持ち帰って検討します。軍服の布見本をわけてもらえますか?魔法陣との親和性を見るので」


「すぐ用意するわね」


 ニーナたちが布見本を用意するあいだ、わたしたちはひと息ついてお茶を飲む。


「ユーリって、軍にも顔が効いたんだね」


 すると彼は軽く肩をすくめた。


「僕はこれでも成年王族ですから。有事の際には大将として国軍を率いますし」


「国軍を率いるのは、デゲリゴラル国防大臣じゃないの?」


「デゲリゴラル大臣は文官で、指揮権はありません。まぁ、あくまでも有事の際なわけで……国軍だけでなく竜騎士団もいるので、僕もこうして錬金術を続けていられるんですけどね」


 ああ、そうかぁ……大臣はあくまで事務方なのね。指揮権は王族が持つのかな。ユーリは手元にあった収納鞄の術式をなでた。


「だから本当は竜騎士団や魔術師団に入るべきだったんですが、ライアスやレオポルドがいたってだけじゃなく、やっぱり魔道具が好きなんですよ。魔導列車にも憧れてました」


 うん、それはわかる。ユーリは本当に魔道具が好きだ。メロディのお店でも目がキラキラ輝いてたもん。


「魔獣もいるこの世界では、生き抜くだけでも大変で、人間同士が争うことは滅多にない。けれど歴史からいって戦争は決してなくならない」


 戦争を生みだすのは人間の欲だ。けれど欲があるからこそ、人類の歴史は発展した。そういう意味では戦争は決してなくならない。この世界でもそうなんだ……。


「竜王の加護があるエクグラシアは、大きな戦乱に巻きこまれることもなく発展しました。縄張り意識が強いドラゴンたちは、この国からでることはない。けれど豊かな土地や竜王の加護は誰だってほしい。だから僕はライガの研究をするんです」


 話をするユーリの横顔は、すでに為政者のそれで。


「ライガのもつ制空権の可能性に、ユーリは気がついたんだね」


「ええ、それでネリアは僕にライガを任せたんでしょう?」


「そこまでは……でもそうだね」


「人間が竜王を倒せるだけの力を身につけるとしたら、それは他の誰にも渡せない。かならず僕が手にいれる」


 遠い昔、人間はドラゴンに勝てなかった。大空の覇者はドラゴンで。だからバルザム・エクグラシアも、ドラゴンと共存する道を選んだ。


 でもドラゴンよりスピードをだせるライガが完成し、爆撃具を使いこなせるとしたら……。人とドラゴンが戦う未来なんて想像したくないけど。


 わたしたちは未来への希望と、破滅する世界への恐怖、両方を抱いてこの大地に立っている。


 だから使いかたによっては恐ろしい結果を引き起こす魔道具は、せめて心ある者の手にゆだねたい。


 ユーリはふいに真剣な顔になり、こちらを見つめてきた。


「気をつけて。ネリアが錬金術師団長として認められるほど、その身は危険になります。これまでとはべつの心配が増えるから、本当は誰の目にもふれないよう、王城にしまっておきたいぐらいです」


「へっ?過大評価すぎるよ。収納鞄はニーナたちが作るんだし、ライガの実用化はユーリが進めるんだもの。わたしにはグレンのような実績だってないし」


「そうですね。そういうことにしておいたほうが……ネリアは安全です」


 ユーリはふっと笑ったけど、そういうことに……って実際そのとおりだから!


 わたし今だって、たこパと珊瑚礁の海しか考えてないからね?


 あっ!転移魔法陣、覚えなきゃ……。

挿絵(By みてみん)

ひつじロボ先生がデザインされたメロディは、漫画版第2話『魔導列車の旅』に登場します。

ニコニコ漫画2話のサムネイルでも確認できますよ!


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― 新着の感想 ―
クローン化させた弾丸台風娘ホムンクルス達を、量産ライガに乗せれば制空権どころか大陸の覇権すら握れてしまう(悪)夢の部隊が完成しますねぇ。 まあ、そんな人造兵など技術確立できる訳はなく。 できたとして…
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