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魔術師の杖【コミカライズ】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪@『魔術師の杖』11月1日コミカライズ開始!
第三章 ネリアと王都の錬金術師たち

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92.転移魔法を習得しよう

今回はネリアがグダグダしてます。

 研究棟の工房にもどると、七番街の工房からもらってきた布見本を前に腕組みをして、わたしはひとしきり考える。


 ……ううーん。


 ちっさい!とにかくちっさい!


「ネリア、苦戦してますね」


「さすがにサイズがね……ユーリ、なにかいいアイディアない?」


 ためしに聞いてみると、ユーリもあごに手をあてて考えこむ。


「……てのひらサイズの魔法陣を、なんなく描ける達人がいると聞いたことがあります」


「ほんと⁉」


「でもそれじゃ、大量生産できませんよ……軍服は何万着と必要なんですから」


「それもそうね……」


 必要なのは、複雑な魔法陣を小さく描ける達人ではなく、工房の魔道具師たちが描けて補修もしやすい、あるていどわかりやすいカタチの、機能も充実した魔法陣だ。


「ネリア、がんばって」


 気楽にいうユーリにむかって、わたしは悲鳴をあげた。お前のせいだぁ!


「提案したの、ユーリだよね⁉」


「そりゃそうですよ、兵士たちは危険な任務に命をかけるんだから、生還する確率がすこしでも高いほうがいいにきまってます」


「ユーリがやればいいじゃん~」


 ダメ元でふってみても、あっさり断られた。


「僕、ライガの改良で手一杯なんで。もうすぐ学園生たちも職業体験にきますし」


 そうだ……それもあったよ……。


「ネリアがどんな魔法陣を組むのか僕もみてみたいし、それに……」


「それに?」


 ユーリはさわやかキラキラ王子様スマイルを見せた。


「ネリアの泣き顔がみたいし」


 わたしは机につっぷした。


「ユーリのいじわる……もぅいいよ、ユーリのばかぁ……」


 ユーリはそれを見て、笑いながら工房を出ていく。


「ふふっ、いじけたネリアもかわいいですよ」


 よろこぶなよ!





 さいきんのユーリは、人を困らせては反応をたのしんでいる。


「泣いたら瞼にキスする」って予告されてるし。


 ぢぐじょお!ぜったい泣かないもん!


 いや、心は泣きそうだけど。


 大人をからかうな、ばかぁ!


 ……むこうも大人だけど……。


 もうやだ、他のことやろう。


 そうだ、転移魔法の練習をしよう!





 そしてわたしは、さっそくいきづまった。


「ううううう」


 レオポルドいわく、魔術学園の初年度でならう基礎中の基礎という、『転移魔法』の習得。


 なんていえばいいんだろう……車も運転できる大人が、幼児用三輪車ののりかたをいまさら覚える感じ。


 身体は大きいのに三輪車にまたがって、「さあ、全力疾走してごらん」といわれているみたいな……アンバランスさにとまどっている。


 紙の上に教科書どおりの術式を、ペンでかくことはできる。


 カキカキカキ……ほらかけた。


 問題は、それを自分の魔力を使って空間に描こうとすると、魔素の配分にこまかな約束事があって。


 転移陣は空間を無理矢理つなげる『どこでもドア』みたいなものではなく、転移する対象に作用する魔法陣なわけで。転移先の空間を術式できちんと座標を指定し、送りたいものの範囲指定とか物質保護の術式とか……ええぃ、ややこしい!


(ええっと……こっちは魔素を薄くして……こっちは濃いめに……)


 わたしみたいに魔力が多いほうが、距離をかせぐ遠距離の転移にはむいているけれど、その魔力が制御しにくくて、術式を書く段階でつっかえている。


 たとえるなら、太いマジックで細密画を描こうとして、線がつぶれて失敗している感じ。


 む、難しい……。


 転移陣には二種類あり、わたしがよく使っていたのは王城のあちこちに敷いてある、固定の移動魔法陣。転移先が決まっているもので、魔素を流せばだれでも使える。


 研究棟とデーダス荒野をつなぐ転移陣は、グレンが敷いたときに使用権限が設定されているけれど、王城のふつうの固定魔法陣は、部外者立ちいり禁止だったり結界がある場所はさけ、通用門や王城の各部署の入り口におかれている。


 もうひとつは固定されておらず、そのつど術者が描く魔法陣。使えば消えてしまうけれど、自在に『目的地』を設定できる。ただし術者が目的地を詳細にイメージできる……つまり行ったことがあり、よく知っている場所でないといけない。


 研究棟にひきこもりぎみのわたしには、目的地のイメージを固めることすら難しい。


 いまとべるとしたら、メロディの魔道具店やニーナ&ミーナの店、魔道具ギルドに海猫亭ぐらいしか……あれっ?どこも王城ではない……。


 もっと、王城内もあちこちみとくんだった……うん、これから頑張ろう。


 でも思いだしたら海猫亭行きたくなってきた……もぅ、現実逃避しちゃおうかなぁ……。わたしは机につっぷし、ぐりぐりと自分の腕に額をこすりつける。


 海鮮ダシたっぷりのター麺たべたい……カリカリむっちりのムンチョのカラ揚げたべたい……。







「転移魔法の習得はすすんどるかのぅ?」


「はうっ!」


 そこへ、ウブルグがようすを見に工房にやってきて、わたしはわれにかえった。


 まて、わたし!


 ここで欲にながされたら、『懸念事項』がかたづかない!わたしは師団長室の居住区で脱衣所に置いてある、門外不出の魔道具を必死におもいだす。


 そうよ、サンゴ礁の海がひろがるマウナカイアビーチというぐらいだもの、水着は必須じゃないの!


 とりあえず王城内でイメージしやすい、よくしっている場所といえば……と考えたとたん、怒りにきらめく黄昏色の瞳と、眉間にぐっとシワをよせた顔が頭にうかんだ。


 ちがーうっ!


 ……だいたいあそこも『師団長室』なんだから、部外者は結界にはじかれて、転移魔法ではとべません!だからいつもライガで飛びこんでるのに……。いや、さすがにそれはどうかと、わたしも思うけど。


「ウブルグ……すすんでません……」


 いまのわたしが、マウナカイアビーチ近くの『海洋生物研究所』まで長距離型の固定移動魔法陣を描くというのは、よちよち歩きの赤ん坊がフルマラソンを走るようなものだ。遠い!ゴールが遠すぎてみえない!


「わしは魔導列車で移動してもいいが……」


「ウブルグはそれでよくても、ほかに荷物もあるし……」


 研究室そのものを移動させるのだから、いっしょに送るウブルグの研究資料だけでもかなりある。カタツムリだけで……ホントよくこんなに研究できたね。


 それにわたしのサンゴ礁で泳ぐという夢が!


「魔法陣はちゃんと描けとるようだがのぅ」


 ウブルグが紙にペンで書かれた転移魔法の術式をながめた。それはアレクの参考書をかりて、きっちりうつしたから。


「だいじょうぶ!レオポルドはふつうの転移ができるようになったら、長距離転移陣を教えてくれるっていってたから……」


 ユーリと二人で必死に拝みたおしたら、レオポルドはものすごーくイヤそうな顔をしていたが、最終的にふつうの転移ができるようになれば、教えてくれると約束してくれた。


 わざわざレオポルドが研究棟までやってきて、長距離を跳ぶときに座標を設定するやり方や、魔素の配分……その他もろもろをみてくれるらしい。


「お前にこれ以上、『塔』におしかけられてたまるか!」……と顔をゆがめていたけど……。


 なんだかんだいって彼は面倒見がいいから、そこは頼りにしていいとおもう!


 あとはわたしが転移陣さえ描けるようになれば!


 ……描けるようになれば!


 ……どうしたらいいんだよぉ……。

ネリアは、ユーリも毎日泣きそうになりながら『サプリメント』を摂っている事には気づいていない。

頑張れ、ユーリ!

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