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魔術師の杖  作者: 粉雪@4/14『魔術師の杖』コミックス1巻発売
第十三章 ネリアと死霊使い

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579.アイリの挑戦

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 収納鞄から次々にでてくるラフスケッチに、フォトブックやデザイン帳……ミーナはニーナの荷物を見て目を丸くした。


「うわ、ニーナ……ずいぶんいっぱいあるのね」


「もうね、止まらなかったの。これを見て!」


 机いっぱいに広げられたものはどれも、マウナカイアの強い日差しに負けないような鮮やかな色で彩られている。その一冊を手に取り、ミーナもパラパラとめくった。


「ふぅん。明らかに傾向が変わったわね」


「そうなの。でもマウナカイアの光はタクラの港町とも違うのよね。あ、ミーナにはこれ。ベルトにリボンを使ったサンダル。いい感じでしょ?」


 ひょいと渡されたサンダルをひっくり返し、ミーナは底に使われている素材を調べた。


「厚底なのね。脚も長く見えるし、リボンを結べば足首が細く見えるわ。スカートはティーアドにすれば、使う生地も少なくて済むし軽くなるわよ。加工には手間がかかるけど」


「でもマウナカイアで見たものと、シルエットが違っちゃうわ。スカートは薄い生地で……ペチコートを合わせて、広がるようにしたいの」


「ホントはニーナ、ペチコートつけたくないんじゃない?」


 くすくす笑ってミーナが指摘すれば、ニーナは残念そうにため息をつく。


「正解。光に透けて脚の形が見えるのがいいんだけど、王都じゃまだ難しいのよね」


「マウナカイアの解放感を、そのまま持ってきちゃダメよ。だけど子爵領に麦わら帽子とカゴの工房を立ち上げたし、それは生かしたいわね」


「港町タクラのテイストも入れたいけど……こっちはこっちでカッチリした硬い生地が多いの」


 難しい顔になって考えこむニーナたちに、アイリが淹れたばかりのコーヒーを運んできた。


「おふたりとも休憩にしませんか。タクラでコーヒーの淹れかたを練習したんです」


「あら、いい香り。もぅ、アイリってば……なんでもマスターしちゃうのね」


 受け取ったマグを抱え、ニーナがうれしそうにウィンクすると、紅の瞳を輝かせてアイリはうれしそうにほほえむ。


「誰かを心地よくさせるのが好きなんです。それにタクラの街は、港町ならではの解放感があって市場も楽しいです!」


「ね。ネリィもしばらく暮らしていたみたいだし。アイリは変なヤツに絡まれたりしないの?」


「私、こう見えてユーリ先輩があきれるぐらい強いんです。タクラにいる間に覚えたいことがいっぱいなんですもの」


 アイリはいたずらっぽく瞳をきらめかせた。ニーナたちは冬はタクラに滞在して、そのあいだに春・夏物の準備を済ませるつもりだ。


 タクラに新しく作った工房を拠点にニーナは働き、子爵領を行き来しながら暮らす。


 ミーナは王都とタクラを往復することになるため、五番街にある小さな店はアイリが成人したら任されることになっていた。


「アイリは接客のスキルだって、メロディのお店で身につけたんだし。あとは堂々としていればだいじょうぶよ」


「ありがとうございます。ひとつ提案があるんですけど……」


「なぁに?」


 アイリは市場を回って集めた素材の資料を取りだした。


「収納鞄です。ネリィさんの鞄を参考にしているため、七番街の工房で作るのは布製ですが、革でも作れないかと思って」


「そうね、軽くすることばかり考えてたけど……貴族向けなら革製の物もいいわね。自分で運ばないわけだし」


「そうなんです。クローゼットを丸ごと運べるような、素材や装飾に凝った収納鞄もいいのではないかと……」


「アイリらしい発想ね。でも、そうすると春・夏にメインで展開したい、マウナカイアのリゾート感とはだいぶ雰囲気が違っちゃうわよ」


「いいえ、旅行気分を演出するために合わせるんです。カッチリした革製の収納鞄をバックに立つ女性の服や帽子といった小物は軽やかなイメージで、開放感を演出します」


「それ、いいわね……」


 頭が冴えてきたニーナは、まだ湯気を立てているコーヒーをごくりと飲む。


 ふわふわと頼りなかったイメージに、異なるテイストを組み合わせることで、港町タクラでも着られそうなデザインが浮かぶ。


「鞄の裏張りに術式をセットする感じかしら。革の耐水性も生かしたいし、刺繍などの加工は難しいものね」


 アイリノはさらにもうひとつ、アイディアを口にした。


「それなんですけど、革ですから魔法陣を刻むのに焼きごてを使えないでしょうか」


「焼きごて……」


 布と違って革ならば加工に焼きごてが使える。専門の職人に頼まないといけないけれど、プリントするみたいに魔法陣を刻めれば、作るのはそれほど難しくなさそうだった。


「いいアイディアだと思うわ」


「はい、ネリィさんは糸を重ねて立体的な魔法陣を作っていたので、平面に展開する必要はありますが……ためしに描いたものがコレです」


「これ、アイリが描いたの?」


「すごいじゃない!」


 ショートカットの美少女は恥ずかしそうにほほを染めた。魔術師志望だっただけあって、術式はきちんと正確に描かれている。


「はい。術式を損なわないよう、平面に展開しただけですが。それにヒントになったのは市場で食べたタコせんべいなんです」


「タコせんべい……」


 タコを熱々の鉄板で挟み、水分を一気に飛ばすアレだ。言われてみれば、展開された術式が、脚を広げたタコに見えないこともない。


「どうでしょうか……」


「もちろん、やるわよ。魔道具ギルドだけじゃなく、塔にも魔法陣とその展開法を登録したほうがいいかも。そのあいだに革の加工場を探さないとね」


 おかしい。コーヒーを飲んでいるだけなのに、仕事がまたババーンと増えた気がする。


「よかった!皮革用の染料もあるので、明日から市場を回ってみます」


「アイリ……ちょっと仕事しすぎじゃない?」


 するとミーナに注意された美少女は紅の瞳を潤ませて、とても悲しそうな顔になる。


「そんなこと言わないで下さい。タクラにいるあいだに、やりたいことがたくさんあるんです。おふたりが見習いの私の意見も聞いて下さるから、私うれしくて!」


 ミーナは苦笑して首を振る。


「アイリはおとなしいほうよ。ニーナなんてやりたいことだらけだったから、ついてくのが大変だったわ」


「何言ってるのよ。私がおとなしくしても、ミーナがあおるんでしょうが!」


「ふふっ、おかげで商売は順調でしょ?」


「感謝してるわ!ミーナのおかげよ!」


 ニーナはすかさず、パンと両手を打ち合わせてミーナを拝んだ。

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今日で発売4周年なのでマウナカイアにまつわる話にしました。

「4年後には漫画になって全国の書店並んでるよ!」と、4年前の私に教えたいですね。

『魔術師の杖 THE COMIC』

(作画:ひつじロボ先生)

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