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魔術師の杖  作者: 粉雪@4/14『魔術師の杖』コミックス1巻発売
第十三章 ネリアと死霊使い

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577/578

577. 魔道具跳ばし

シリーズ発売5周年記念、トートバッグ5月29日発売!

税込3,300円(送料が別に550円かかります)

挿絵(By みてみん)

6巻表紙の画像を、よろづ先生が陽光の色調にレタッチして下さいました。

サイズはMとL、色は生成りと黒の2種類です。

「錬金術を使うときは、誰を幸せにするかを考えるんだ」


 わたしは手の中にある魔道具を見つめる。


「だから、これを使うときも……受け取ったカーター副団長やライアスが、どんな気分になるか考えるの」


 レオは黒曜石の瞳をじっとこちらに向けた。


「そうか」


「もしも憂いがあるなら、それを取り除けるように。迷っているなら、道を示すように。カーター副団長やライアスや竜騎士たちみんなが、将来も笑って幸せに過ごせるように」


 道具は誰が使うかだけでなく、どうやって使うかも大切だ。


「高価なものだからってだけでなく、この特性を生かした使いかたをしなくちゃね」


「……たかが魔道具で、そこまで考えているとは思わなかった」


「へへーん。ネリア・ネリスは錬金術師団長だからね!」


 得意そうに胸を張ると、レオはくすりと笑った。眉間にシワを寄せてにらみつけられるより、優しい眼差しをもらうほうが心臓に悪い。


 変にドギマギしてしまうのを考えないようにして、レオに使いかたを教わり、通信用魔道具にわたしの声を録音した。


「でもここからだと何日もかかるね」


「アルバーン領なら、だいたいの見当はつく。転送魔法陣を構築するから、魔道具を転送する。それで飛行時間は短縮できるし、途中で奪われる心配もない」


「うん」


 世界中のどこにでも、一瞬でつながってしまう。インターネットはあっちの世界を変えたんだと思う。


 自分たちがどんな不当な扱いをされていたか、気づいた人たちもいるし、それを使って遠く離れたところにいる、会ったこともない人からお金をだまし取る詐欺師も生まれた。


「錬金術で誰を幸せにするのか……オドゥにもわかってもらわなくっちゃ」


「横で聞いていたが、本当にそれをカーター副団長に伝えるのか?」


 レオはツヤのある黒髪をかきあげて、考えこむように自分の魔道具へ視線を落とす。このときばかりは、彼も魔術師団長の顔になる。


「だとしたら、塔への指示も考えなければ……」


「めんどうかけてゴメン」


 謝れば、すっと長い指が伸びてきて、わたしの眉間をトンと押す。


「また眉が下がっている。王都三師団は互いに支え合う。きみは最初に王の前で、そう約束させたではないか」


 わたしは下がっていた眉をもんで、素直にうなずいた。謝らなくていい、と彼は告げる。それならかわりにすることは。


「あのときの自分をほめてあげたいね!」


「そこは私に感謝するところだ」


 違ったっぽい。


 彼が転送魔法陣の構築をはじめた。まずはエクグラシアの大地と、ハルモニア号が航行する海上までが、模型のように立体的に構成されていく。


 ふたつの月……衛星を持つこの星だって丸い。通信用魔道具を跳ばすために、複雑で緻密な魔法陣が組み立てられ、彼は正確な座標を術式に刻んでいく。


「わ、衛星通信!」


「この魔法陣は魔術の完成に三段階必要だ。座標の固定、飛距離の確保、魔道具の保護。うまく跳ばすには、魔力がいる。できるか?」


「もちろん!」


 いつものとおり、ちょっとフタをずらすだけだ。それだけでいっしょにいる、彼の髪までぶわっと舞い上がり、歯を食いしばった彼にすかさず注意される。


「魔素を雑に放出するな!ハルモニア号の計器にまで影響が及ぶ。魔法陣だけに集中して注ぐように!」


「ひゃいっ!」


 雑だと怒られた。デーダス荒野でもさんざん嵐が吹き荒れて、地面に穴を開けたもんなぁ。気をつけなきゃ……慎重に慎重に。


 レオの指が忙しく動き、魔法陣がさらに構築されていく。術が完成すれば、消えてしまうのがもったいないほど美しい。


「レオポルドが描く魔法陣って……本当にきれいだね!」


「……いいから集中しろ。しっかり見ておけ」


 彼は照れたのかふいっと顔をそむけた。もちろん、集中してる。自分の前に展開される魔法陣から目が離せない。すごくたくさん魔力がいるのもわかる。けれどすみずみまで、魔素で満たして輝かせたい。


 それは星を形作り、エクグラシアの一点を赤く示した。


「願いをこめて、望みを具現化せよ」


 レオが最後にエレスの文様を術式に刻む。わたしは魔法陣へ自分の魔力を流しこんだ。


 わたしを満たす〝星の魔力〟が、血液のように魔法陣を巡っていき、願いに命を与える。通信用魔道具がフッと消えたあと、室内は静寂に包まれた。


「終わったぁ……」


 ホッとしてへたりこむと、彼はもうひとつ取りだした。


「まだ塔へ送るぶんが残ってる」


「あ、そうか。ごめん……」


 なんだか一気に気が抜けて、わたしは彼が指示をだすところをぼんやり眺めていた。準備が終わった彼がわたしを振りむく。


「では、やってみろ」


 ……はい?


 ぽかんとしたわたしに、彼はぐっと眉間にシワを寄せると、不機嫌そうな声をだした。


「しっかり見ておけと言ったはずだが」


「見てた。きれいだった」


 カーター副団長にもこれでしっかり、メッセージは伝わったはずだ。


「それだけの魔力……使いこなしたいと、ビエビエ泣いていたのはきみだろう!」


「えっ、あれをわたしがやるの⁉」


 あの芸術的かつ複雑で高度な魔法陣を⁉


 一回見ただけで再現しろと⁉


「無理!ぜったい無理だから!」


「やりもせぬうちから何を言っている!」


 最近、竜騎士ぶりが板について、おとなしくしてるか戦っているかだから、わたしもすっかり忘れていたけど。レオポルドは泣く子も黙る鬼の魔術師団長だった!


 その厳しい指導ぶりは有名で……。


 わたしはビエビエ泣くどころか、グスグスと鼻水まで垂らして、高性能な通信衛星風魔法陣を構築するハメになったのだった。

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

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