577. 魔道具跳ばし
シリーズ発売5周年記念、トートバッグ5月29日発売!
税込3,300円(送料が別に550円かかります)
6巻表紙の画像を、よろづ先生が陽光の色調にレタッチして下さいました。
サイズはMとL、色は生成りと黒の2種類です。
「錬金術を使うときは、誰を幸せにするかを考えるんだ」
わたしは手の中にある魔道具を見つめる。
「だから、これを使うときも……受け取ったカーター副団長やライアスが、どんな気分になるか考えるの」
レオは黒曜石の瞳をじっとこちらに向けた。
「そうか」
「もしも憂いがあるなら、それを取り除けるように。迷っているなら、道を示すように。カーター副団長やライアスや竜騎士たちみんなが、将来も笑って幸せに過ごせるように」
道具は誰が使うかだけでなく、どうやって使うかも大切だ。
「高価なものだからってだけでなく、この特性を生かした使いかたをしなくちゃね」
「……たかが魔道具で、そこまで考えているとは思わなかった」
「へへーん。ネリア・ネリスは錬金術師団長だからね!」
得意そうに胸を張ると、レオはくすりと笑った。眉間にシワを寄せてにらみつけられるより、優しい眼差しをもらうほうが心臓に悪い。
変にドギマギしてしまうのを考えないようにして、レオに使いかたを教わり、通信用魔道具にわたしの声を録音した。
「でもここからだと何日もかかるね」
「アルバーン領なら、だいたいの見当はつく。転送魔法陣を構築するから、魔道具を転送する。それで飛行時間は短縮できるし、途中で奪われる心配もない」
「うん」
世界中のどこにでも、一瞬でつながってしまう。インターネットはあっちの世界を変えたんだと思う。
自分たちがどんな不当な扱いをされていたか、気づいた人たちもいるし、それを使って遠く離れたところにいる、会ったこともない人からお金をだまし取る詐欺師も生まれた。
「錬金術で誰を幸せにするのか……オドゥにもわかってもらわなくっちゃ」
「横で聞いていたが、本当にそれをカーター副団長に伝えるのか?」
レオはツヤのある黒髪をかきあげて、考えこむように自分の魔道具へ視線を落とす。このときばかりは、彼も魔術師団長の顔になる。
「だとしたら、塔への指示も考えなければ……」
「めんどうかけてゴメン」
謝れば、すっと長い指が伸びてきて、わたしの眉間をトンと押す。
「また眉が下がっている。王都三師団は互いに支え合う。きみは最初に王の前で、そう約束させたではないか」
わたしは下がっていた眉をもんで、素直にうなずいた。謝らなくていい、と彼は告げる。それならかわりにすることは。
「あのときの自分をほめてあげたいね!」
「そこは私に感謝するところだ」
違ったっぽい。
彼が転送魔法陣の構築をはじめた。まずはエクグラシアの大地と、ハルモニア号が航行する海上までが、模型のように立体的に構成されていく。
ふたつの月……衛星を持つこの星だって丸い。通信用魔道具を跳ばすために、複雑で緻密な魔法陣が組み立てられ、彼は正確な座標を術式に刻んでいく。
「わ、衛星通信!」
「この魔法陣は魔術の完成に三段階必要だ。座標の固定、飛距離の確保、魔道具の保護。うまく跳ばすには、魔力がいる。できるか?」
「もちろん!」
いつものとおり、ちょっとフタをずらすだけだ。それだけでいっしょにいる、彼の髪までぶわっと舞い上がり、歯を食いしばった彼にすかさず注意される。
「魔素を雑に放出するな!ハルモニア号の計器にまで影響が及ぶ。魔法陣だけに集中して注ぐように!」
「ひゃいっ!」
雑だと怒られた。デーダス荒野でもさんざん嵐が吹き荒れて、地面に穴を開けたもんなぁ。気をつけなきゃ……慎重に慎重に。
レオの指が忙しく動き、魔法陣がさらに構築されていく。術が完成すれば、消えてしまうのがもったいないほど美しい。
「レオポルドが描く魔法陣って……本当にきれいだね!」
「……いいから集中しろ。しっかり見ておけ」
彼は照れたのかふいっと顔をそむけた。もちろん、集中してる。自分の前に展開される魔法陣から目が離せない。すごくたくさん魔力がいるのもわかる。けれどすみずみまで、魔素で満たして輝かせたい。
それは星を形作り、エクグラシアの一点を赤く示した。
「願いをこめて、望みを具現化せよ」
レオが最後にエレスの文様を術式に刻む。わたしは魔法陣へ自分の魔力を流しこんだ。
わたしを満たす〝星の魔力〟が、血液のように魔法陣を巡っていき、願いに命を与える。通信用魔道具がフッと消えたあと、室内は静寂に包まれた。
「終わったぁ……」
ホッとしてへたりこむと、彼はもうひとつ取りだした。
「まだ塔へ送るぶんが残ってる」
「あ、そうか。ごめん……」
なんだか一気に気が抜けて、わたしは彼が指示をだすところをぼんやり眺めていた。準備が終わった彼がわたしを振りむく。
「では、やってみろ」
……はい?
ぽかんとしたわたしに、彼はぐっと眉間にシワを寄せると、不機嫌そうな声をだした。
「しっかり見ておけと言ったはずだが」
「見てた。きれいだった」
カーター副団長にもこれでしっかり、メッセージは伝わったはずだ。
「それだけの魔力……使いこなしたいと、ビエビエ泣いていたのはきみだろう!」
「えっ、あれをわたしがやるの⁉」
あの芸術的かつ複雑で高度な魔法陣を⁉
一回見ただけで再現しろと⁉
「無理!ぜったい無理だから!」
「やりもせぬうちから何を言っている!」
最近、竜騎士ぶりが板について、おとなしくしてるか戦っているかだから、わたしもすっかり忘れていたけど。レオポルドは泣く子も黙る鬼の魔術師団長だった!
その厳しい指導ぶりは有名で……。
わたしはビエビエ泣くどころか、グスグスと鼻水まで垂らして、高性能な通信衛星風魔法陣を構築するハメになったのだった。











