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魔術師の杖【コミカライズ】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪@『魔術師の杖』コミティア155東4【F34b】
第二章 錬金術師ネリア、師団長になる

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50.試作品が届いた

ブクマ&評価ありがとうございます。

 数日後、研究棟の工房でユーリと作業していたら、収納鞄の試作品が届いた。うれしいけどミーナ、徹夜してないかしら。


 試作品第一号の収納鞄は、術式の開発者であるわたしへの献品になるらしい。作業を中断して、いそいそと箱を開ける。


「おおお、かわいい!」


 キャメル色のヌバック生地に刺繍し、フリンジがあしらってある、かわいいポシェットだ。〝ニーナ&ミーナの店〟のロゴがはいったタグがつき、開けてみると内ポケットに、錬金術師団の『天秤と錬金釜』をあしらった金糸の刺繍がある。


 ユーリも気になったらしく、わたしの手元をのぞきこんできた。


「へえぇ、さすがプロですねぇ。これ、男物とかユニセックスのってないんですか?」


「ふっふっふ……ユーリもほしくなった?なるよね!ぜったい!」


 うっふっふ。かわいいよね、おしゃれだよね。わたしが自分でチクチク縫った、帆布製の肩掛け鞄とぜんぜん違う!


 この小さいポシェット……今でもバランスボールひとつぐらいは入るけれど、後で術式を書き換えて大容量に改造しよう。うふうふ。


「うわぁ、ニヤニヤしてる……認めたくないけど、ほしいです」


 ちょっと悔しそうに、ユーリはほしいと認めた。


「そうだねぇ……ユーリくんには先日の契約でも世話になったし、特別に頼んであげてもいいよ?」


「うわぁ、すごいドヤ顔……でも結局、僕は話についていけなくて、聞いているだけでしたし、たいして役に立てなかったですけど」


 ユーリは魔道具ギルドで、ほとんど発言しなかったことを気にしていたらしい。


「そんなことないよ。ユーリはあの場で『師団長にふさわしい』って言って、書類を書いてくれたもの」


 情けなさそうに眉を下げるから、わたしがあわててフォローすると、彼はホッとしたように目元をやわらげた。


「そうですか……それはよかったです。なら、僕のほしいのは黒い鞄で……」


「それでね、鞄を作るかわりに、ユーリにぜひお願いがあるんだけど!」


「え」


 ユーリの顔からすとんと表情が抜け落ち、ものすごくイヤそうな顔をしたかと思うと、彼は座りこんで頭を両手で抱えた。


「うわぁ、僕の純情もてあそばれた。〝ネリアのお願い〟きたよ……怖すぎる」


「えっ?たいしたお願いじゃないよぉ、かんたんなやつだよ!」


 そんなに難しいお願いじゃないはず。なのに赤い瞳はじろりとにらんでくる。


「こないだも、『心細いから魔道具ギルドについてきて』……なんて言ってたくせに、ギルド長室で怒鳴るわ机は殴るわ、大立ち回りしたじゃないですか!」


「殴ったんじゃないもん!たたいたんだもん!それに心細かったのは本当だもん!」


「あーはいはい」


 気のない返事だった。むむむ、ユーリがその気にならなかったらどうしよう。


「もうすぐ、シャングリラ魔術学園は夏季休暇じゃん。五年生は職業体験をするんでしょ?」


「職業体験?……ああ、あれのことですか」


 シャングリラ魔術学園とは、十二~十六歳までの少年少女が、魔力の伸びざかりに、その扱いや制御方法などを学ぶ学園だ。


 学園を巣立った者たちは、錬金術師や魔術師、竜騎士、魔道具師などといった仕事に就き、魔導国家エクグラシアを支えることになる。


 そして夏季休暇に最終学年の五年生は、それぞれ希望する師団で実際の業務を体験する。


 それが職業体験だ。


 つまり魔術学園の卒業生を囲いこむため、五年生には職業体験で錬金術師団にきてもらいたい!


「それでね、ユーリは人当たりもいいし、年も近いでしょ?生徒たちへの窓口になってほしいの」


 これは師団長会議でも、アーネスト陛下たちに話したことがある。ユーリには今話すけど!


「まぁ、ここを希望する生徒なんて、ほとんどいませんけどねぇ」


「ふっふっふ、不可能を可能にするのが、錬金術師でしょうが。わたしには秘策があるのだよ」


 自信たっぷりに言ってみせたのに、ユーリは不安そうに顔をゆがめた。


「うわぁ……ネリアが、よからぬことを考えてる」


「そこで不安そうな顔をしない!こんど魔術学園で開かれる職業体験説明会に参加するわよ!」


 ユーリは腕組みをしてしばらく考えてから、わたしにむかって渋い顔で、ピースサインを突きだした。


「……ふたつ」


「ん?」


「オーダーメイドの収納鞄ふたつです。それで手を打ちましょう」


 なんだ、ピースサインじゃなかったっぽい。鞄をふたつとは、ユーリも欲張りさんだ。


「むむ……足元を見てきたわね。しかたない、錬金術師団の未来のためだものね!」


 話がまとまったところで、作業再開だ。ユーリも集中すると手際よく、次々に仕事を片づけていく。


 魔道具を使い慣れている彼は、魔導回路を書くのも手慣れている。


 ユーリの手元を感心して見ていたら、工房のドアがものすごい勢いで開いた。


「私は第三部隊隊長モルグである!ネリス錬金術師団長殿はおられるかっ‼︎」


「はっ、はいっ⁉︎」


 あ、こないだ携帯ポーション作って渡したとこ!


「おおお、ネリス錬金術師団長!我ら第三部隊に!あれほど貴重な素材を、惜しみなくつぎこんだ最高のポーションを、たっぷりと用意してくださるとは!」


 モルグ隊長はわたしの手を両手でがしっと握りしめ、勢いよく上下にブンブン振る。


「あれほどの品揃え!あれほどの品質!あれほどの量!第三部隊の遠征に提供されたのは、はじめてであります!」


 え?え?え?


 わけもわからずユーリを見れば、彼は肩をすくめて苦笑していた。


「ネリアって素材に対する金銭感覚ないですもんね」


 うん、いっしょに仕事すればバレるよね。はい……素材に対する金銭感覚……まるでないです。どれがいくらするのか、まったく知りません。


「感激のあまり、研究棟に押しかけた次第であります!ありがたい!本当にありがたい!」


「ええと……みなさんが無事に帰ってきてくださるのが、いちばんですから。」


 ホホホとごまかすと、モルグ隊長は感極まったように声を震わせる。


「おおお!ネリス新師団長!なんという心意気!お礼に遠征で採れた素材をお持ちしました。研究のお役に立てば幸いです」


 それから工房の素材庫には、遠征部隊の隊員さんたちが持ってきた素材が、続々と運びこまれた。……うん、麻痺毒のポーションはたくさん作れそう。


 隊員さんたちは口々にお礼を言ってくれる。今回の遠征はポーションも豊富だったため、みんな後遺症が残るような大怪我もせず、大成功だったらしい。


「〝アタック二十五〟が役に立ちました!あれのおかげで紙一重の差を制し、黒鉄サソリに勝てました!」


 えええ、シャレで作ったポーションだったのに……。

こっちの世界に、このダジャレをわかる人がいないのが、ちょっと寂しいネリアでした。

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