48.ギルド長とのやりとり
よろしくお願いします。
信用……そんなものかき集めたって、今の時点では何もでてない。わたしはぐっとお腹に力をこめ、ビルをにらみ返した。
「……どうもしません」
「はぁっ⁉︎」
部屋にビルの大きな声が響く。わたしは彼と同じように腕を組み、偉そうに相手をにらみつけた。
「わたしに提供できるのは、魔道具の術式と師団長の肩書きだけです。それに魔術学園の卒業生という経歴に、なんの意味があるんですか?」
「なん……だと……?」
ビルの声が低くなり、よりすごみがでる。魔道具師にも魔術学園の卒業生が多い。それを否定するようなことを言ってのけたのだ。
「わたしの素性だって、どこそこの生まれです……と名乗ったところで、あなたが知らないなら、どうしようもないでしょう?」
開きなおりだった。わたしの生まれた場所や育った街を告げても、この世界では誰も知らない。
怒っているならちょうどいい。彼が冷静になって考えるまえに、わたしはこれ以上突っこまれないよう、たたみかけていく。
「ビルさんは王都生まれですか?なら誰を見ても、みんな田舎者だと思えるのでは?」
「そんなことはないっ!」
ドラ声に負けじと怒鳴り返した。
「だったら!わたしがどんな素性であろうと!役に立つ術式が書けていれば!それでみんなの役に立つ魔道具ができるのなら!なんの問題もないでしょう!」
ビルの額にビキビキと青筋が立っていく。ひいぃ、怖い!
「俺はみんなを代弁しているだけだ。商売するときは信用が問題になる。学園時代のツテもなく素性もハッキリしないあんたを、誰が師団長の肩書きだけで信用すると思う」
わたしはぐっと拳を握りしめた。
「だからメロディさんやニーナさん、ミーナさんの信用を借りるんです。彼女たちが作り、メロディさんが売る鞄なら、買ってくれる人がいます。彼女たちに信用されることで、わたしは商売ができます!」
自分だけでは何もできない。そんなことはわかっている。だからこそ、このチャンスに飛びついだのだ。
「そんなかんたんにいくわけねぇっ!」
ビルが机を拳でドン!と叩けば、わたしも負けじと机をバン!と叩いた。手のひらが痺れてじ~んとしたけど、今はそんなことかまっていられない。
「信用がゼロなら、これ以上減りようがない!これから積みあげていけばいい!」
わたしはビルとらみ合った。眉間にシワを寄せ、ギリギリと歯を食いしばる彼は、まるで仁王のようだ。
(どうやったらこの状況を打開できる?)
わたしは必死に頭を動かした。
「信用できるのが『錬金術師団長』の肩書きだけだと言うなら、それを使いましょう……アイシャさん!」
わたしはビルの横に座る公証人のアイシャさんに声をかけた。さっきから彼女は、わたしとビルの怒鳴り合いを顔色ひとつ変えずに見守っている。この中の誰よりも冷静に見えた。
「はい」
「契約書に記されたわたしのロイヤリティを記載の半分にして下さい。そして、わたしではなく錬金術師団に支払うように、変えて頂けますか」
「……はい?」
わたしの意図をつかみかねて、アイシャさんは眉をひそめた。ユーリもふしぎそうに口を挟む。
「なぜそんなことを?」
「もちろん、研究費に充当するためよ。まずは先立つものがないとね!これならたとえわたしが死んだとしても、ロイヤリティは錬金術師団に支払われ続けるもの」
「だけどネリアには、何の得もありませんよ?」
「あら、わたし自身はビタ一文払わないし、損することもないわよ?収納鞄ができたのはグレンのおかげだもの。それに錬金術師たちには好きな研究をしてほしい。稼げるところで、しっかり稼がなくっちゃ!」
それを聞いたユーリは、おどろいたのか目を丸くした。わたしはビルへの説明に戻る。
「そのかわり、すべての製品に錬金術師団のマーク、『錬金釜に天秤』を入れてもらいます。これは錬金術師団による品質保証でもあり、模造品を防ぐ効果もあるはずです」
わたしの意図に気づいたユーリが叫ぶ。
「……そうか!マークまで偽造すれば、それは公文書偽造と同じ重罪!取り締まり対象です!」
「錬金術師団のマーク……偽物作りだけでなく、公文書偽造の重罪まで負うとなると、確かに作るほうにすれば、リスクが高いな……」
ビルがうなり、わたしはうなずく。これには一石二鳥の効果も狙っている。
「それと、製品にマークを入れることで、錬金術師たちの『胡散臭い』とか『ペテン師』といった、これまでのイメージを変えていきます。ロイヤリティを半分にしたのは、いわば『錬金術師団』の宣伝費ですね」
「何のためにそんな……」
「師団印の新製品に付加価値を持たせ、顧客が購入したがる、ひとつのブランドにするためです。これからもどんどん新製品を世にだしますよ!」
もちろんまだそんなアテはないのだけど。これはユーリたち錬金術師のがんばりに期待だ。
「ブランド……」
考えこむビルに、わたしはさらに提案していく。
「顧客番号はシリアルナンバーで管理し、鞄の修理やメンテナンスを、購入者は無償で受けられるようにします。これなら転売はだいぶ防げるでしょう」
「そんなことをしたら、手間がかかって大量生産はムリだ」
「そのとおりです。どちらにしろ、すぐに大量供給は無理です。生産体制が整うまでは、予約で注文をさばきます。鞄が確実に手にいれられること、長く使えること、作る側にも利益があることがだいじです」
みんなが収納鞄を持つようになったら、ステキだと思う。けれどそのためには、まだまだやることがあった。
ビルは渋い顔をして、腕組みをしたまま首を横に振る。
「俺としては借金をしてでも、先に工房を拡張するよう勧めるつもりだったんだがな」
でも、それにはわたしの信用がネックになる。今は師団長だといっても、それがいつまでもつか。ビルだってわかってるからこそ、そこを指摘したのだ。
「収納鞄が完成すれば、かならず売れます。けれど需要と供給のバランスを取るのは大変だと思うんです。とくにニーナさんとミーナさんは、こだわりと誇りを持って、製品づくりをされるかたですし」
でもだからこそ、このふたりに任せたいと思えた。聞いていたニーナも力強くうなずく。
「そうね……私たち、中途半端なものは、作らないつもりよ。お客様が納得するものじゃないと」
「だけど生産体制が整うまで待てません!ニーナさんもミーナさんも鞄を作りたくてウズウズしてるのに!」
ミーナさんもにっこりしてうなずく。
「そうよ。どんどんアイディアが湧いてきて、今だってアトリエにこもりたいわ!」
わたしは立ち上がると、円卓に手をついて身を乗りだす。こうすればビルに見下ろされずに、小柄なわたしでも目線を合わせられた。絶対にわたしからは、視線を外さないと決めていた。
「工房だけあっても、職人である魔道具師が育たなければダメです。まずは収納鞄のノウハウを、デザインや品質、販売……すべてにおいて積みあげることが大切です。そうすればかならず、ブレイクポイントは来ます!そのときに備えて準備をしていけばいい」
「…………」
ビルは腕組みをしたままで、しばらく無言だった。けれど急に、眉をへにゃりと八の字にすると、ふーっと大きく息を吐きだし、アイシャに視線を向ける。
「おい、これでいいかアイシャ。おいちゃん、もぅ胃がキリキリしちまってよぉ」
「そうね、満足のいく……いえ、予想以上の回答が得られたわ。ビル、お疲れ様」
「アイシャさん?」
わたしがアイシャを見ると、彼女はまっすぐわたしにに視線を合わせる。
「改めてよろしくね、ネリア・ネリス。私が魔道具ギルド長……アイシャ・レベロ。そっちは秘書のビル・クリントよ」
「えっ?秘書、さん?」
ギギギ……と、ぎこちなく首を動かして、わたしがビルに視線を戻せば、彼はキュッと椅子のうえで小さく身を縮こませ、眉を八の字にしたままコクコクとうなずく。
「ビルはコワモテだけど、細かい書類仕事が得意で、こう見えて繊細なの」
えええ?このガテン系のガチムチしたおっちゃんが秘書⁉︎しかも今までのやりとり……演技力、すごくない⁉
「いやもぅ、こんなかわいい子相手に怒鳴るとかよぉ。おいちゃん、無理だわホント。しかも怒鳴り返されて、にらみつけられて、机バンッ!とか……めっちゃ怖かったんだわ。グス……」
おいちゃん⁉︎背中丸めて涙目になってるし!それに、怖かったのこっちだし!
目を潤ませて椅子で丸まり、プルプル震えるビル・クリントを、わたしは信じられない気持ちで眺めた。
各国のコロナ関連のニュースを見ていると、首相や保健相といったポストで活躍する『デキる女』って感じの女性をよく見かけます。ニュージーランドのアーダーン首相なんて格好いいですよね。









