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魔術師の杖【小説9巻&短編集】【コミカライズ準備中】  作者: 粉雪
第五章 ネリアと二人の師団長

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141.王都の空をドラゴンと飛ぶ

 夕方になって仕事をおえ、わたしは居住区の中庭からライガを展開すると空に飛びだした。目指すは王城の中央棟、天空舞台のあるいちばん高い建物の屋根の上だ。


 尖塔の上でライガをたたんで腕輪に収納すると、足場に気をつけながら屋根に腰をおろす。ここは王都内でいちばん高い場所で、ここからはシャングリラ中が一望できるのだ。


 昼と夜が交差する時間が過ぎて日が沈み、街に夜のとばりが降りる頃、王都全体から魔素が蛍のような目にみえる光の粒となって立ちのぼる。


 気候のいい日の日没後、数時間の間だけ見られる〝夜の精霊の祝福〟と呼ばれるこの現象を、わたしは見にきたのだ。


 魔道ランプに照らされた街並みを、光の粒となった魔素が舞うさまはとても幻想的で、降り積もることのない雪が舞うようだ。


 シャングリラは魔素が豊富な地脈の上に造られているそうで、ここで使われる魔道具は魔素切れを起こすことが、ほとんどないといわれている。


 わたしは風を感じるように屋根の上で魔素の流れを感じていた。


 天から降りそそぐ月の魔力と、引きあうように大地の……星の魔力がざわめきだす。


 地上から立ちのぼる魔素の光は、どこまでも空に向かって飛んでいこうかとしているように、ふわりふわりと、頼りない動きで空に向かって昇っていく。


 そのとき大きな羽ばたきとともに風が吹きつけてきた。悠然と飛ぶ蒼龍ミストレイに乗ってライアスが城に帰還する。ミストレイにまたがったまま、ライアスが声をかけてきた。


「ミストレイが一直線に天空舞台に向かって飛んでいくからなにかと思えば……ライガで飛んできたのか?」


「ライアス!見まわり?お疲れ様!」


 ライアスは「お前は我慢しろ」と言うなり、身軽にミストレイの背からすべり降りて、わたしと同じ屋根の上にたつ。


「何を我慢させたの?」


「ミストレイも一緒に屋根の上に乗りたがったからな……天空舞台で我慢させた」


 ミストレイは天空舞台に降りて羽を休めると、こちらに向かって首だけのばして「グゥルル……」と鳴いている。本当に愛嬌のあるかわいい子だなぁ……〝竜王〟とはとても思えない。


「このあいだは疲れただろう……訓練場で傷ついた防御壁の修理をさせてしまって。風魔法は飛びだしていくことがあるからな……とても助かった」


「あはは。術式あんなに書いたのひさしぶり……ライアスこそあんなに激しい戦いで疲れなかった?」


「俺は手合わせのときはネリアのポーションで回復したからな。だいじょうぶだ」


 ライアスとこうして話すのはひさしぶりで、話しだせば話すことがたくさんあった。


 収納鞄やグリドルを売りだす話、魔術学園にいったときのことや、ライガの改良をユーリにまかせたこと、ヌーメリアがアレクを連れて帰ってきたこと……ライアスとふたりで王都見物をしてから、いろいろなことが起こっている。


 ユーリがおっきくなったときは本当におどろいたし、その裏の事情にも……。


 猫になった話はライアスにはいえなかった。レオポルドの膝のうえで寝こけたなんて、黒歴史以外のなにものでもない……自分の記憶からも抹消したいのに。


 それから、オドゥがデーダスの家の天井にぐるぐる巻きにされてぶらさがっていたのにびっくりしたこと……話しながら思いだしてふたりで大笑いした。


「オドゥが宙づりか……そいつは見たかったな……」


 ひとしきり笑ったあと、ライアスはやさしいまなざしをわたしにむけた。


「ようやくネリアも王都に慣れてきたようだな」


「そうだね、ライアスのおかげだよ……それに研究棟にはソラもいるし、すごく快適!」


 やれることがあって、ちゃんと衣食住が保証されている……こんな幸せなことってないよ!そう思ったのに、ライアスの瞳は心配そうにかげった。


「だが、ネリアは王城内ではグレンの仮面をいつもつけているだろう?素顔の君は気さくでかわいらしい女性だというのに……まるでわざと人を遠ざけているようだ」


「それは……デーダス荒野からでてきたばかりで、あまり多くの人と触れあうのは苦手っていうか……」


 人を遠ざけているわけではないけれど、この世界についてグレンから得た知識しかないわたしは、人とまじわるとボロがでそうで心配なのだ。


「きみの本当の姿を知るものが少ないのは、俺にとっては助かるが……本当にそれでいいのか?と思うときがあってな」


 ライアスにとって何が助かるのかよくわからないけれど、わたしは知らないあいだにライアスに心配をかけていたらしい。


「それでいいのかって?」


「街できみはのびのびと過ごしていたし、自然な笑顔もみせていた。師団長の仕事をするのがきみにとってむずかしいとは思わないが、慣れない王城での暮らしはきゅうくつなのではないか?」


「きゅうくつではないよ……むしろこれ以上ないってぐらい、好きに過ごさせてもらってるよ?」


 すこしずつだけど、ひとが苦手なヌーメリアやヴェリガンの様子をみつつ、わたしもこの世界やそこで暮らすひとびとにふれている。


 グレンと二人きりですごしたデーダス荒野での暮らしにくらべれば、世界は変化に満ちていて見ることも覚えることもたくさんある。


 もうすこし人になじめたら、もうすこしここでの暮らしに慣れたら……そうしたら将来のことも考えて、いつのまにかすんなりとわたしはこの世界になじめてしまえるだろうか。


 わたしはライアスを見あげた。ドラゴンを駆っている姿はこうして見てもほれぼれするほど男前で、髪が風になびくから顔立ちがあらわになり、しっかりした眉が整った目鼻立ちをひきたてている。


(かっこいいなぁ……)


「秋になれば王都には秋祭りのための屋台がたちならぶ。エクグラシア各地から運ばれてきた名物が楽しめるぞ。ネリア、きみに移りゆく王都の季節をみせるのが楽しみだ。またいっしょに、いろいろなものを食べにいこう」


「うん、そうだね!」


 ひとつひとつ、この王都で楽しめることを見つけていこう。


「いまね、遠征にまにあうように収納ポケットを作ろうとしているの。ワッペンにして、装備にあとづけできるようにして……」


 わたしは収納ポケットの話をライアスにした。ライアスとレオポルドとの手合わせを見学してから、わたしは本当に真剣に術式の開発にとりくんだ。


 ライアスも「それはいいな」とうなずいてくれる。


 それから転移魔法を覚えて跳べる先を増やそうと、ヌーメリアと王城内をあちこち探索している話をはじめると、ライアスの顔色がくもった。


「そうか……それでいくら訪ねても、なかなかネリアには会えなかったのか」


「あっ、そういえばよく訪ねてきてくれたよね?何の用事だったの?」


「……きみを食事に誘おうと思った。海猫亭で会えたからいいのだが……きょうもミストレイがいなかったら、そのまま帰っていたろうな」


「えっ、あっ、ごめん……わたし、すこし出歩きすぎたね」


「謝る必要はない。俺がきみの顔をみて話したかっただけだから。けれど困ったときは俺のことも頼ってほしい。魔術師団のレオポルドも、不愛想だが信用できる男だ」


 うん、それはわかる。レオポルドも最初に感じた印象よりはいい人だった。猫になったときは、言葉こそきつかったが親切にしてもらった。わたしにとっては忘れたい思い出だけど!


「レオポルドかぁ……いまさらだけどね、グレンが生きていたらなぁ……って思うの」


「グレン老が?」


「うん。生きていたら、いろいろと聞きたいことがあったし、レオポルドとちゃんと話をしてもらいたかった。そして……無理かもしれないけれど、できたら和解をしてほしかった」


 ライアスは遠くへ目をやった。


「そうだな……俺が竜騎士団長になったのは去年だから、あまりグレン老と接する機会はなかった。だから評判どおりの気難しい人物という印象しかないのだが」


「うん」


 それからライアスは真剣な目でこちらを見た。


「だけどレオポルドはちがう。ネリアにはあたりがキツいようだが……ちゃんと人の話も聞くし面倒見のいいやつだ」


「レオポルドが?」


 わたしは話をなかなか聞いてもらえないんだけど……。ライアスは困ったような顔をした。


「そうだな。あいつは冷たく見えるだろうが、決してそんなことはない」


「うん……それはわかるよ。ただもうすこしふつうに話せて仲よくできたらなって」


「仲よくか……きみの物怖じしない性格ならだいじょうぶかもしれないが、だからといってあいつにきみを譲りたくはないな」


 ライアスが苦笑しながらいった言葉の意味がわからなくて、わたしは首をかしげた。


 けれど……もしもちゃんとレオポルドと話せるようになったら、これからのことをいろいろ考えよう。


「あのね……レオポルドがこんど研究棟にきてくれるの。そのときに彼とちゃんと話せるようがんばってみる。ありがとう、ライアスのおかげで勇気がでたよ」


「君をウレグに迎えに行くよう、俺に頼んできたのはレオポルドだ。それに俺の親切は……下心があるからいいんだ」


 ライアスがいたずらっぽくいうので、わたしはつられて笑った。屋根の下の天空舞台と呼ばれる広いバルコニーで、ミストレイが「グォォゥ……」と不満そうな声をあげる。


「あっ、ミストレイ……お腹すいたかな?」


「いや、ネリアにかまってもらいたくてすねているんだ……すまないが俺にちょっとだけつきあってもらってもいいか?」


 ライアスはいうなりわたしを抱きかかえると軽々と跳んだ。


「うひゃあっ!」


「軽くひとっ飛びするだけだ。〝夜の精霊の祝福〟を特等席でみたいだろう?」


 ライアスがわたしをミストレイの背に乗せると、ミストレイは大きく羽ばたきをして天空舞台から飛びたつ。

挿絵(By みてみん)

 宵闇の空を魔素の光が舞い飛ぶ。灯りがともりだしたシャングリラを見おろしながらの夜間飛行は、言葉にならないほどの美しさだ。


「とりあえずミストレイは飛べるだけで機嫌がよくなるから、あまり触らずにいてもらえると助かる」


「う、うん……気をつけるね」


 なるべくミストレイに触らないようにしていると、「キュウゥ」と甘えた声でミストレイが鳴いた。


「乗せてくれてありがとうミストレイ、ライアスもいつもわたしのことを気にかけてくれてありがとう!」


「礼など……俺も〝レイバート〟できみと食事するのを楽しみにしている」


 ライアスはまぶしい笑顔できっぱりとそういった。そうだった……それがあったよ……ニーナの用意してくれたドレスのことは考えないようにして、わたしは返事をした。


「うん、ライアスが楽しみにしているご飯だもんね。何があってもいくから!」

3巻の表紙になった場面ですので、内容を書籍に寄せました。

イラストの使用についてはいずみノベルズ様とよろづ先生の許可を得ていますm(_)m

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