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魔術師の杖【小説9巻&短編集】【コミカライズ準備中】  作者: 粉雪
第五章 ネリアと二人の師団長
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137.訓練場での手合わせ

 わたしがそのさまに見入っていると、ヌーメリアが教えてくれる。


「鉱石からミスリル塊の精錬までは、ほかの金属とおなじく熱を使いますが……ミスリルは魔素との親和性が高いため、最後のしあげは大量の魔素をそそぐのです。魔素にミスリルを溶けこませることで純度をあげ、その段階で属性もつけていきます」


 オドゥとカーター副団長は、魔法陣を保持したまま細かく術式を調節していく……ふたりとも無言で真剣な表情だ。魔法陣の働きでミスリルの純度をさらにあげ、魔石の魔力をなじませているようだ。


 最後にリーン……と、余韻のある澄んだ音がひびいた。


「精錬がうまくいくと音が鳴ります……『ミスリルが歌う』というのですわ」


「ミスリルが歌う……」


「夜になるとモリア山では、月の魔力を感知したミスリルたちが鉱石のなかでさざめくそうです……生きものみたいですよね」


 なにそれ……聴いてみたい。しばらく待ってから取りだされたミスリルは、結晶となっていた。ただのミスリル塊だったときとちがい、力に満ち魔力の波動がつたわってくる。


「まとわせる魔力の性質によって、ミスリル結晶の色が変わります……いまは防具用に全属性を付加してあるので無色ですね」


「ふぅ……こんなところか……どうでした師団長?」


「すごい、最後の仕上げって熱はかけずに魔素でおこなうんだね……副団長もオドゥもかっこいいよ!」


「ふん、それほどでもありませんがな」


 パチパチと拍手すると、クオードも得意げだ。オドゥが眼鏡のブリッジに手をかけてずれを直すと、人のよさそうな笑みを浮かべた。


「ありがとうネリア! ……で、この精錬したミスリルの使いみちだけど……実際に見てみるかい?」


 オドゥはそのままわたしをうながした。


「竜騎士団に行ってみようか。竜騎士たちの装備にはミスリルが使われているからさぁ……見たほうがはやいよ」


「竜騎士団……えっ、いきなり行ってもだいじょうぶなの?」


 わたしはあわてたけれど、オドゥは気にする様子もない。


「ネリアは師団長なんだから遠慮なんていらないよ。さぁさぁ!」


 オドゥに急き立てられるようにしてわたしは、後片づけを副団長にまかせて(押しつけたともいう)、竜騎士団の訓練場に彼と二人で転移した。


「ネリア、こっちこっち。この時間ならやってるハズなんだよねぇ……まったく……チケット代取って公開すればいいのにさぁ、もったいないよねぇ」


 オドゥはわたしの肩に手をかけて、どんどん訓練場にむかって進んでいく。


「えっ、訓練の邪魔じゃない?」


戸惑うわたしに、オドゥは眼鏡の奥からほほえみかける。


「いいからいいから」


 訓練場には竜騎士たちのほかに、けっこう人が集まっている。みな興奮しており、ひそやかなささやきが交わされている。たしかにこれならわたしたちが紛れこんでも大丈夫そうだ。


「はい……ちょっと通して……せっかくだから、いい場所で見ようよ」


 錬金術師団の白いローブのおかげか人垣が割れて道ができ、わたしたちは最前列にでることができた。とたんに冷気にさらされる。


「ひょ~、今回は一段とすごいねぇ!」


 訓練場の中央で相対しているのは竜騎士団長のライアス・ゴールディホーンと、魔術師団長のレオポルド・アルバーンだ。長身のふたりが真ん中にいると、ひろいはずの訓練場もせまく感じる。


 訓練場の気温をぐんと下げるほどの冷気を発しているのは、銀の髪をきっちり束ねたレオポルドだった。彼はいつものローブ姿ではなく紺の簡素な訓練着と防具を身につけ、両手には細身の双剣を握っている。


 対するライアスもおなじく訓練着で、こちらは長剣を両手でかまえていた。双方とも武器は冴え冴えとした光をはなっており、その輝きから察するにどちらもミスリル製のようだ。


「ネリス師団長、観にいらしたんですか。こちらへどうぞ!」


 ライアスの副官をしているデニスさんが、わたしたちを見つけてすかさず駆けより、すこし高くなった見晴らしのいい席に案内してくれた。そこには先客が……げげ、アーネスト国王陛下が座っていて、わたしたちを笑顔で手招きする。


「おお、ネリス師団長きたのか。こっちだこっち!」


「さっ、座って。はじまっちゃうよぉ!」


 わたしをうながしてアーネスト陛下のとなりに座らせると、ちゃっかりとオドゥもその横に腰をおろす。


「アーネスト陛下、ユーリの具合はどうですか?」


 せっかくなのでわたしはユーリの容態を聞いた。ユーリは魔術学園生たちの職業体験が終わってから休養をとっている。


 グレンとの契約が解けたあの日、ライガでわたしの後ろに乗ったユーリの体は、信じられないほど熱かった。ユーリは翌日もふつうに研究棟にやってきて、学生たちの相手をしていた。


 職業体験の打ち上げにテルジオがやってきて、ユーリがレオポルドから、痛みを感じなくなるという〝痛覚遮断〟の術式を聞きだして使っていることがばれ……わたしはその場でユーリに休養を命じた。


 どんだけ無茶すれば気がすむの!


 毎日ヴェリガンがユーリのために〝サプリメント〟を作り、テルジオがそれをとりにくるけれど、そんなわけでわたしは彼の見舞いにもいってない。


 テルジオの話では、ユーリは意外と元気で退屈しているらしいが、リメラ王妃がつきっきりでそばを離れないらしい。そんなとこにひょいひょい顔なんてだせないわ。


 アーネスト陛下はひとつうなずくと、遮音障壁を展開した。


「それについては礼をいわねばならんな。寝たり起きたりしているものの、体調は問題ない。最近では魔力も安定しているし、成長期にみられがちな〝魔力暴走〟も起こしていない。」


「魔力暴走って……成長期に起こりやすいんですか?」


「そうだ。魔素は世界を動かす力の源……すべてのものに存在し、魔力持ちはその内包量が多いことで、世界に干渉する力をもつわけだが、自分の魔素が、自分の体を器として認識できなくなると魔力が暴走する」


 横で聞いていたオドゥが、不思議そうにわたしにたずねてきた。


「ネリアは魔力暴走を起こしたことがないの?」


「そんなことないよ、わたしもグレンのところにいたときはしょっちゅう起こしてた」


 こちらを見つめるオドゥの、深緑色をした瞳の色が濃くなったような気がした。


「いまは……安定してるの?」


「うん、だいじょうぶだよ」


「ユーティリスのやつは、リメラがまだ心配しているのと、さっそく〝立太子の儀〟をとりおこなうために、いま予定を調整中だ」


「立太子の儀、ですか……」


 つまりユーリ……ユーティリス第一王子が王位継承者となる。王様はやることがいっぱいなのだろう、アーネスト陛下が顔をしかめてこめかみをぽりぽりとかいた。


「準備に時間がかかるからな、やるとしてもモリア山への遠征が終わってからになってしまうが。さて、そろそろはじまるぞ」


「何がはじまるんですか?」


 訓練場を見おろしながらたずねると、となりに座った陛下が教えてくれた。


「訓練ではあるが、団長どうしの手合わせだ……見ごたえがあるぞ」


 団長どうしって……ライアスとレオポルドが戦うの!?


 わたしが身を乗りだすと横に座ったオドゥも楽しそうに、メガネのブリッジを指でおさえて訓練場を見おろしている。


「関係者以外『非公開』なのがもったいないよねぇ……この二人なら絶対、チケットが高額で売れるよぉ」


 陛下もわざわざ見学するぐらいだものね……わたしはレオポルドが剣を持っているのが気になった。


「レオポルドも剣を持っているけど、物理で戦うってこと?」


「魔法剣……に近いかな。レオポルドの魔法攻撃は多彩だから見ごたえがあるよ。火属性が得意ではあるみたいだけどね」


「魔法剣……?」


 横に座るオドゥが解説してくれる。オドゥは二人と学園時代からの同期だから、二人の手合わせは何度も見ているらしい。レオポルドはときどき、竜騎士団の訓練にも参加しているから、珍しいことではないそうだ。


「レオポルドはさ、『実戦では何があるかわからないのに、魔術師だからと戦えなくてどうする』って学園時代からいっててさぁ。『魔術師は後衛』って思いこみはあいつにはあてはまらない……〝銀の死神〟なんて異名もあるぐらいだよ」


「そういえば、レオポルドはドラゴンにも乗れるって、ライアスも言ってた……」


 ドラゴンに乗り剣を振りまわしているレオポルドなんて、ふだんの黒いローブ姿からは想像もつかない。


 ライアスとレオポルドは訓練場の中央でたがいに見つめあったまま、微動だにしない。冷気も相まってすごい緊張感だ。


 ふだんは快活なライアスも口を真一文字に引き結び、射るような眼差しで剣をかまえ、レオポルドを見すえている。


 緑の髪をしたデニスさんはわたしたちが座る席のすぐ下、訓練場の中央に引かれたライン上にたち、魔術学園でも会った竜騎士のレインさんが、それに向かいあうようにたっている。


 紺色の髪をもつレインさんが笛を取りだすと、訓練場がシン……と静まりかえった。場の緊張感がどんどんと高まっていく。


「はじめっ!」


 ピピーーッ!


 デニスさんの合図とともに鋭い笛の音が鳴り響き、ライアスとレオポルド双方が動きだした。二人とも速度強化を使っているのか動きが速い!


 レオポルドは一直線にライアスの懐に飛びこむと、剣を振りぬく。ビシビシビシビシッ! と振りぬいた先の地面が扇状に凍りつき、ライアスが横っとびにとんでよける。


「触れると凍りついて動きを封じるんだ、ライアスはうまくよけたな」


 ライアスがよけるのは予測していたのだろう、レオポルドはもう片方の剣を振りかぶると、着地したライアスに叩きこむ。


 ライアスが風の盾を出現させレオポルドの剣を弾くと、剣から繰りだされた氷がザシャアッ! と音をたてて砕け散った。そのまま彼は長剣を自分のリーチを生かして突きだす。


 キィン!


 鋭い金属音をひびかせながら、レオポルドが双剣をクロスさせライアスの突きを受けると、そのいきおいで弾かれるようにうしろに跳びつつ、魔法陣を展開し火炎の連弾をライアスにむかって撃つ。


 ライアスがそのすべてをよけたところに、またもレオポルドが切りかかっていく。同時に上空に氷柱が多数出現し、ライアスに降りそそぐ。動きを封じるつもりのようだ。


 ザンッ! ザンッ! ザンッ!


 氷柱が地面につぎつぎに刺さるなか、俊敏にそれを避けたライアスは、地面を蹴ると姿勢を低くし飛ぶような速さでレオポルドへつっこんでいく。


 ガキィッ! キン! ギィンッ!


 ライアスは重たそうな長剣を軽々と振りまわし、レオポルドと何度も切り結ぶ。その勢いはすさまじく、こんどはレオポルドが防戦一方になった。うまく角度をつけて受け流してはいるが、ライアスの剣を防ぐだけで精いっぱいにみえる。


 ライアスの動きも早いが、レオポルドも身軽だ。そのまま何度か切り結んだあと、うしろに大きく跳んだ。跳びながら繰りだした魔法陣からこんどは火焔の渦を噴きだして、ライアスの追撃を封じることも忘れない。炎の熱気が観客席のほうまで押し寄せてきた。

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