129.ニーナ&ミーナの店ふたたび
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魔道具ギルドでの話し合いを終えたわたしは、すぐニーナ&ミーナの店にも跳んだ。
にこにこと出迎えてくれたふたりに、ほっとして収納鞄から本を取りだす。
「いいアイディアが浮かびました。レオポルドに〝古代文様集〟を借りたんです。これを収納ポケットの術式に使えないかと思って」
ふたりに見せると、ニーナがパラパラと本をめくり、ミーナも横からのぞきこむ。
「なぁるほど、それなら魔法陣を小さくできそうね!」
「けれど本を見ただけじゃ、まだ生きている文様なのか、もう忘れられて風化してしまったものかの区別できなくて」
「ふぅん……でもこうやって記録が残っているなら、人々の記憶を呼び覚まして、文様を復活させることもできそうよ」
「文様を復活……そうか、使うようになれば、また身近で使われるようになるかも」
ニーナはあるページで手をとめて、そこに描かれた文様を指さした。
「あっ、これチャム……『魅了』って意味よ。私たちもよく使うわ」
「魅了⁉」
「まぁ、男を前後不覚にするほどの効果はなくて、『あれ?いつもよりちょっとキラキラして見える』って感じだけどね」
「へぇぇ……」
「だからって、ドレスにチャムの文様をびっちり刺繍するのは粋じゃないの。たとえば襟のウラやスカートの裏地……人から見えないところにワンポイントでね!」
デザイナーらしいこだわりなのか、ニーナは熱く語ってわたしにウィンクした。
「まっ、秘めたる想いってやつね。ところで、ネリィ。ライアス・ゴールディホーンとはどうなってるの?」
「えっ、どうもなってませんよ!」
思ってもいなかった名前がでてびっくりしていると、ニーナがいきなり立ち上がって叫んだ。
「なんですって⁉そんなの、困るわ!」
「なんで、ニーナさんが困るんですか?」
首をかしげていると、ミーナがやれやれと肩をすくめる。
「あーだってニーナ、もう作っちゃったしね」
「作った?……なにを?」
「ディナー用のドレスよ!いい生地は見つけたらすぐ押さえないと買えないし!」
「ええっ!」
そういえば王都見物で、ライアスとお昼を食べようとレイバートの店に行ったこと、けれどライザ・デゲリゴラル嬢に遭遇して、その店では食べられなかった話をしたっけ。
それを聞いたふたりはすごく怒って残念がり、わたしがかわりにお店からディナーに招待されたことを教えたら、ニーナの目がキラーン!と光っていた。
わたしはすっかり忘れていたのに、ニーナは覚えていた!
彼女はほほに片手をあて、憂いを秘めたため息をほう、とひとつつく。
「このところ収納鞄の仕事ばっかりで……ストレスが溜まってたの。気分転換にドレスを作るぐらい、許されると思うのよね。デザイナーなんだもの」
う……ストレスをかけた原因に、心当たりがありまくる。ミーナがさっと動いて、奥からトルソーを運んできた。
「見てみる?」
けれどわたしは、トルソーにかけられたドレスを見て、ぽかんと口を開けた。
「こ、これ……?」
「きれいでしょう?羽根のように軽い最高級のメニアラ産シルクで、透ける素材を重ねたの。このグラデーションの美しさ……まるでカゲロウの羽根のようよ。これ着たネリィは、ぜったい妖精みたいよ!」
確かに生地は美しい。淡い水色から黄緑のグラデーションは、光のかげんでキラキラときらめいて、それに青い雫のようなビーズを連ねたストラップがついている。
だけどこれは……想像以上に……。
「このドレス、布地が少なすぎです!ほぼヒモと布きれじゃないですか!こんなの着たら風邪ひくし、おなか壊しますよ!」
「だいじょうぶよ、夏なんだし。心配なら保温の術式つけとくわ。ネリィはグラマーじゃないから、胸元と背中がパックリあいてたってやらしくないし!」
「グラマーじゃないのは認めますけど、パックリはいらないです!」
わたしは必死になってニーナたちへ抗議したけれど、彼女も譲らなかった。
「いい?女はなにもしなくたって、ほっとけばババァになるの!二十歳のアナタがパックリを着なくて、いつ着るの。今着なけりゃ、永遠に着れないわよ!」
「……はい」
その剣幕に押されて、思わず返事をしてしまったけれど……ニーナって、こんなキャラだったの⁉
「ニーナは服のことになると譲らないから……まぁ、ダマされたと思って着てみなさいよ。最高にネリィに似合うわよ」
「はぁ……」
苦笑してとりなすミーナに返事はしたものの、わたしが着てもサルがロープに引っかかったシーツを体に巻いているみたいなのでは。
あっ、でもライアスから食事に誘われてないし、ニーナには悪いけれど、放っておけばいいんだ。
彼が遠征から戻るころには季節も変わっているし、このやたらきれいな布きれはお蔵いりだね。よし解決!
「そういえば、術式の固定方法でプリントと刺繍は、どう違うんですか?レオポルドが着ている黒いローブ、よく見ると刺繍がびっしりで」
「もぅ……試着ぐらいしてみなさいよ。プリントはもともと、染料で魔法陣を手描きしていたものよ。刺繍は染めた糸で魔法陣を刺繍するの。作るのに時間がかかるし、生地も重くなるけど、複雑な効果を持たせやすいの」
まだドレスに未練があったニーナだけれど、それでも説明してくれた。
「複雑な効果?」
「生地の補強にもなるし、糸を染める染料に念をこめると、刺繡糸自体が効果を持ち、魔法陣を補助する働きがあるの。魔術師団長のローブなら、王城の服飾部門にそれ専門の職人がいるはずよ」
「プリントも手軽だけれどね。たとえばこの青はカザという植物から抽出するのだけど、カザは虫や病気に強くて成長が早いの。だからこの色は健康や成長を願う祈りに使われるわ」
ミーナは青い布を持ちだした。あ……草木染めにもそんな役割があるって聞いたことがある。
「布や刺繍糸を染めるために、素材を集めて効果をもつ染料を、錬金釜で合成したりするのよね」
染料の合成⁉それって錬金術師の得意分野だよね!なにその異世界合成……やってみたいかも!
「そうそう、エクグラシアの隣国サルジアには呪術師がいて、聞いた話だけど……〝呪いの色〟もあるんだって」
「〝呪いの色〟⁉……呪術師ですか⁉」
「そ。我がエクグラシアの〝王族の赤〟によく似た赤色だそうよ。その昔、竜王の加護を受けるこの国の王を殺すために、サルジアの呪術師が作りだしたって話」
「うわ、迷惑な話ですね」
「魔力をもつ人間がその赤い糸で、呪いたい相手の名を刺繍すると……命をむしばむ恐ろしい呪いが発動するそうよ」
「こわっ!」
「だから王城の魔法関係のセキュリティって、しっかりしてるのよ。魔術師団長が護符だらけなのは、本人の魔力が強いせいらしいけど」
わたしが夏の怪談話を聞くような気分で、話を聞かされていたまさにそのとき、王城の研究棟でその呪いが発動しようとしていた。











