127.ネリア、魔道具ギルドに跳ぶ
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研究棟にやってきた竜騎士団長ライアス・ゴールディホーンは、ネリアがでかけたと聞いて首をかしげた。
「ネリアは今日もいないのか?錬金術師団は遠征の準備をすでに終え、学園生たちの職業体験中では?」
応対にでたオドゥ・イグネルは、困ったようにほほえむと眼鏡のブリッジに指をあてる。レンズの奥にある深緑の瞳は、かつての同級生を見すえていた。
「ちょっとトラブル発生でさ、魔道具ギルドにでかけたんだよ。ライアスこそ忙しいのにやってきて、エンツじゃ済まなかったの?」
「それは……そうだな、あとでエンツを送ってみるよ」
肩を落としてあきらめたライアスに、用心深く遮音障壁を展開して、オドゥは斬りこむように問いかけた。
「もしかしてさぁ、ライアスはネリアをねらってんの?」
「ええと、それは……彼女の気持ち次第だが、好意は持っている」
素直に認めたライアスを、オドゥはじろりとにらみつけた。
「デーダスからでてきたばかりの彼女を、困らせるのはやめてくれないか。王都の暮らしにもまだ慣れてない彼女は、縁談が寄せられても断っている。同じ師団長に告白されたら、仕事がやりにくくなるんじゃないか?」
「縁談だって⁉」
驚くライアスに、オドゥはあきれたようにため息をつく。
「ライアスって、そういうのにうといよねぇ。自分が竜騎士団長に就任したときだってすごかったくせに」
「……そうだったな」
「ネリアは今のところ、あの仮面に守られている。いざというとき、竜騎士団長のおまえは彼女を守りきれるのか?」
笑みを消したオドゥには静かな迫力がある。鋭い深緑の瞳に真正面から見つめられ、ライアスの拳に力が入った。
「それはオドゥ、お前も……ということか?」
「誤解しないでよね。僕はネリアが幸せなら、相手は誰だっていい。ただし、彼女を傷つけることは許さない。生半可な気持ちで手をだしてほしくない」
深緑の目を細めたオドゥは、かけている眼鏡のブリッジを押さえ、人のよさそうな笑みを浮かべた。
「それともうひとつ。僕は彼女から離れない。相手が誰であろうと彼女には、もれなく僕がついてくる……ってことをお忘れなく」
「それは……相手が俺でなくとも、ネリア本人も嫌がるのではないか?」
ライスは眉をひそめたが、オドゥは気にするようすもなく、遮音障壁を解除した。
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魔道具ギルドにやってきたわたしは、熱帯魚の群れもクラゲ型捕虫来器に素通りし、二階でギルド長のアイシャとビルに向かい合っていた。
「ネリア・ネリス……それで、どういうことなの?」
「はい!状況の説明と対応策を持ってきました」
職業体験にきていた学園生の親子ゲンカが原因で、グリドルの開発がパロウ魔道具の社長にもれたことを説明すると、ギルド長のアイシャは顔をしかめる。
「ちょっと情報管理がずさんじゃないかしら。学生たちはそのへんの認識は甘いだろうから、あなたたちが気をつけないと」
「そうですね。レナードの実家がパロウ魔道具ということは知っていましたが、あそこまで過剰に反応されるとは思っていなくて……」
「それについては俺から説明しよう。〝朝ごはん製造機〟の新商品、評判がいまひとつで社長が焦っている。場所をとりすぎるんだ。関係ない工房を試作には選んだが、長年王都で商売しているだけあって、オヤジさんは顔が広くてな」
「そうですか……」
「それとパロウ魔道具の御曹司は、オヤジさんが店を継がせるため、手塩にかけて育てた息子だ。それなのに店を継がないと言いだして、錬金術師団のグリドルを持ち上げたから、頭に血がのぼったようでな」
「あちゃ~」
「なんとも最悪なタイミングだったわねぇ」
そうだよ……わたしも魔力適性検査でシャングリラ魔術学園に行くまで、レナードがパロウ魔道具の御曹司だなんて知らなかった。
グリドルの開発はその前から始めていたし……パロウ魔道具の社長から横やりが入るかもしれないと、ビルからも聞かされたけど、これでも慎重にやっていたのだ。
「彼はどうなるの?職業体験のまえに、錬金術師団の守秘義務に関する項目に、サインしているはずでしょう?」
「してますね。漏らした内容によっては、処罰される可能性もあります」
グリドルの開発は国防や内政に関わるような機密ではないし、未成年がしたことでもあるから、重い処罰は受けないだろう。
けれど事実だけをつなげれば、パロウ魔道具の社長は自分の息子がどうなろうとかまわず、彼を切り捨てたともとれるわけで……。
賢いレナードが師団長室で崩れ落ちたのは、それに気づいたからだろう。
どうする?
ビジネス戦争で全面対決となれば、レナードの職業体験は中止どころか、彼は退学になるかもしれない。
この騒動を、うまく錬金術師団内で収めるには……。考えこんだわたしに、ビルが提案する。
「これは俺からの提案なんだが、いっそグリドルの術式をすべて、パロウ魔道具に売りつけちゃどうだ?」
「それはわたしも考えました」
「だろ。社長も頭が冷えれば、錬金術師団と対立するのはマズいとわかるはずだ。かわいい跡とり息子の将来だって、本心では潰したくないだろう。オヤジさんが声をかければ、工房はすぐ製作に取りかかるだろうし、今なら高値で売りつけられるぞ」
魔道具ギルド仲立ちをすればビルの言うとおり、うまくいきそうな気がする。けれど……。わたしはレナードの顔を思い浮かべた。
「そんなことをしたら、レナードは父親に出し抜かれたことになります。彼は負けん気が強いから、それに耐えられるとは思えません」
社長が満足したとしても、彼の心は踏みつけられたままだ。これ以上、こじれさせるわけにいかない。アイシャはわたしに、冷静に問いかけてくる。
「じゃあ、どうしようというの?」
「今までは、グリドルの情報が漏れないように気を配っていました。けれどもう、秘密でもなんでもない。なのでグリドルの術式を広く公開しようと思います」
「広く公開?」
「そうです。今ある試作品で製品テストをやり、グリドル製作に手を挙げた工房は、一定の手数料を納めたら、錬金術師団から術式の提供を受けられることにします」
「手を挙げる工房なんていないぞ。みんな降りたんだ」
「そうでしょうか。小さな工房だって術式さえあれば、第二第三のパロウ魔道具になれる……そのチャンスを与えるんです。消費者の選択肢も増えます。もちろんパロウ魔道具だって、手数料を払えばグリドルを作れます」
錬金術師団は術式だけを提供し、販売は各工房に任せてしまえばいい。
売れれば売れるほど利益になるなら、工房を限定するより、そのほうが一気に広まる。
製品テストでは、どの製品も大差ない結果だった。どこが作ってもいいのなら、各工房で競うようにグリドルを作れば、そのうちタコ焼きプレートや、ワッフルプレートなんかも売られるかも!
「だが工房を集めて製品テストをしても、また邪魔が入るかもしれんぞ」
「それについては、もう会場も決めてあります。社長が圧力をかけるなら、その圧に負けないほどの風を起こせばいい」
わたしは、自信たっぷりに見えるように、にっこりと笑った。
「場所は六番街、海猫亭の店先を借り、錬金術師団で鉄板焼きとタコ焼きを提供します!」











