126.パロウ魔道具の妨害
ブクマ&評価、誤字報告もありがとうございます!
職業体験の学園生たちでにぎやかな研究棟に、前触れもなく魔道具ギルドのビルからエンツが飛びこんできた。
なんとプレート製作を依頼しようとしていた工房が、すべて仕事を断ってきたらしい。
どうやらパロウ魔道具に情報が漏れたようだ、とのこと。ユーリが首をかしげる。
「でも、試作品の使用目的は伏せていましたよね?」
「魔道具ギルドに細かい仕様は提出してあるし、調べればわかるはずだけど。それにしても早いね」
そういえばパロウ魔道具って……ふと思いだしてレナードを見れば、どんどん顔色が青ざめていく。
「どうしたの、レナード?」
「お、俺のせいです……」
オドゥが黒縁眼鏡のブリッジに指をあて、ガクッと床に崩れ落ちたレナードをのぞきこむ。
「なにか話したのかな?」
「オヤジと家業を継ぐ継がないでケンカになって、『錬金術師団ではこんなものを作っている。〝朝ごはん製造機〟なんて時代遅れだ!』ってグリドルのことを……」
「あちゃー、社長に火をつけちゃったかぁ」
「それを聞いたらオヤジの顔色が変わって、工房の魔道具師たちも騒ぎだして……ホントにすみません!」
わたしはビルにエンツを送った。
「ビル、情報はこっちから漏れたみたい。対策を検討したら、そっちに顔をだすね」
優等生のレナードはうなだれて、唇をかみしめブルブル震えている。
「ちょうど家族向けの新製品を発売したとこで、オヤジもピリピリしてて……それでケンカに。だけどほかの工房にまで手を回すなんて……」
ユーリが困ったように眉を下げた。ひとり用だった〝朝ごはん製造機〟が家族版の発売で、グリドルとの勝負になってしまったみたいだ。
「錬金術師団にケンカを売るとは、いい度胸ですね。どうしますか?」
「そうじゃなきゃ、叩きあげで社長なんてやってられないでしょ。こっちはケンカする気はないんだけどなぁ」
ため息をついたわたしに、眼鏡のブリッジを指で調節したオドゥが、レンズの向こうから安心させるようにほほえみかける。
「いっそのこと、パロウ魔道具を潰しちゃおうか?」
「潰さなくていいから!そういう権力の濫用はダメ!」
「ネリアは優しいなぁ。けれど錬金術師団の職業体験で知りえた情報を、レナードは安易に家族へ漏らした。どうお仕置きする?」
オドゥが楽しそうに軽い口調で言うと、うなだれていたレナードはビクッと身を震わせた。それをアイリたち学園生が心配そうに見守っている。
「もうっ、オドゥったら!グリドルの開発は国家機密でもないし、レナードのお仕置きなんかしないよ!」
ユーリが難しい顔になる。
「プレートを作る工房に断られたら、グリドルは作れません。かといって、錬金術師団でイチから作る余裕はないです」
「そうだね……」
「どうする?……やっぱパロウ魔道具、潰しちゃう?」
なぜか楽しそうなオドゥに頭が痛くなりながら、わたしは顔をしかめて返事をする。
「オドゥ、潰さなくていいから……」
「そんなに心配しなくても、証拠を残さずやれるよぉ」
「ぜったい、ダメ!」
オドゥは眼鏡のブリッジを指で押さえながら、人のよさそうな笑みを浮かべた。
「ネリアは優しいなぁ」
「優しいとか、そういうんじゃなくて。パロウ魔道具にだって働いている人がたくさんいるんだよ?潰すとか言っちゃダメ!」
「じゃあ、ネリアにはなにか考えがあるの?」
口調は柔らかいけれど、オドゥはこちらを眼鏡の奥から観察している。わたしはソラに合図を送った。
「いま考える。ソラ、とりあえずプレートの製品テストの結果を。それからコーヒー淹れてきて」
「かしこまりました。製品テストはこちらになります」
わたしはソラに差しだされた紙をめくり、テストの結果をざっと眺める。
本当はこれをもとに工房を選んで、試作を重ねるつもりだった。
けれど断られたということは、一回の試作だけで開発は中断することになる。
わたしの手元にあるのはいくつかのプレートと。数回使った結果をまとめたものだけ。
パロウ魔道具は情報を手に入れても、ギルドで登録済のアイディアを、そっくり盗むわけにはいかない。
だけど似たような商品を、彼らが作りだす可能性はある。相手の製品開発に、どれくらい時間がかかるかわからないけれど、パロウ魔道具には腕のいい魔道具師が何人もいる。
「時間稼ぎ……そのために、こちらの製作をストップさせたのかも」
オドゥが肩をすくめてヒュウと口笛を吹いた。
「それなら、潰すのはパロウ魔道具だけじゃないねぇ」
「潰さないから!」
でも、どうする?
むこうが開発するのなら、いっそのこと任せてしまう?
生産ラインを整えて順調に販売までこぎつけたとして、原価計算をして販売価格を割りだしたり、市場規模を調べてして生産数を決めたりと、そのあともやることは山積みだ。
錬金術師団は商売にはど素人で、売りこみかたすらわからない。
今なら試作品を作るのにかかった費用を損するだだし、錬金術師団にとっては、グリドル作りなんて本来の業務じゃない。
いっそのこと、権利もろもろ全部ひっくるめて、パロウ魔道具に買い取ってもらう?
それでお互いに得するのでは?
「オヤジに……『新製品の発売でクソ忙しいときに、職業体験なんてお遊び、やめちまえ!』って言われて、それが悔しくて。俺はっ、学業をおろそかにしたことなんてない。ライガの改良だって、これ以上ないってぐらい真剣に取り組んでて……それなのに工房の魔道具師たちまで、口をそろえて『こんな魔道具が作れるわけない』って……」
レナードは床に座りこんだまま、震えながら言葉を紡いだ。
「だからつい『錬金術師団はライガだけじゃない、グリドルだって開発してる』って。ごめんなさい!」
そのままレナードは床にひれ伏しちゃったけど……カーター副団長といい、なんでみんな師団長室でひれ伏すかなぁ。
はいつくばる彼に、ソラはチラリと視線を送って、わたしにたずねた。
「ネリア様、片づけましょうか?」
「片づけなくていいから。レナード、とりあえず立って。みんなもいい?」
レナードの将来に関わることだから、うまく事を収めないと、父親と彼のあいだにできた溝が、ますます深くなってしまう。
わたしは大きく息を吸ってから、ハッキリした声で宣言した。
「パロウ魔道具から妨害が入った。つまり、相手はグリドルを認めたってことよ。社長のお墨つきをもらったと思えばいいわ。場所を変えて製品テストは続行します!」











