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魔術師の杖  作者: 粉雪@4/14『魔術師の杖』コミックス1巻発売
第四章 職業体験とサルジアの陰謀

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126.パロウ魔道具の妨害

ブクマ&評価、誤字報告もありがとうございます!

 職業体験の学園生たちでにぎやかな研究棟に、前触れもなく魔道具ギルドのビルからエンツが飛びこんできた。


 なんとプレート製作を依頼しようとしていた工房が、すべて仕事を断ってきたらしい。


 どうやらパロウ魔道具に情報が漏れたようだ、とのこと。ユーリが首をかしげる。


「でも、試作品の使用目的は伏せていましたよね?」


「魔道具ギルドに細かい仕様は提出してあるし、調べればわかるはずだけど。それにしても早いね」


 そういえばパロウ魔道具って……ふと思いだしてレナードを見れば、どんどん顔色が青ざめていく。


「どうしたの、レナード?」


「お、俺のせいです……」


 オドゥが黒縁眼鏡のブリッジに指をあて、ガクッと床に崩れ落ちたレナードをのぞきこむ。


「なにか話したのかな?」


「オヤジと家業を継ぐ継がないでケンカになって、『錬金術師団ではこんなものを作っている。〝朝ごはん製造機〟なんて時代遅れだ!』ってグリドルのことを……」


「あちゃー、社長に火をつけちゃったかぁ」


「それを聞いたらオヤジの顔色が変わって、工房の魔道具師たちも騒ぎだして……ホントにすみません!」


 わたしはビルにエンツを送った。


「ビル、情報はこっちから漏れたみたい。対策を検討したら、そっちに顔をだすね」


 優等生のレナードはうなだれて、唇をかみしめブルブル震えている。


「ちょうど家族向けの新製品を発売したとこで、オヤジもピリピリしてて……それでケンカに。だけどほかの工房にまで手を回すなんて……」


 ユーリが困ったように眉を下げた。ひとり用だった〝朝ごはん製造機〟が家族版の発売で、グリドルとの勝負になってしまったみたいだ。


「錬金術師団にケンカを売るとは、いい度胸ですね。どうしますか?」


「そうじゃなきゃ、叩きあげで社長なんてやってられないでしょ。こっちはケンカする気はないんだけどなぁ」


 ため息をついたわたしに、眼鏡のブリッジを指で調節したオドゥが、レンズの向こうから安心させるようにほほえみかける。


「いっそのこと、パロウ魔道具を潰しちゃおうか?」


「潰さなくていいから!そういう権力の濫用はダメ!」


「ネリアは優しいなぁ。けれど錬金術師団の職業体験で知りえた情報を、レナードは安易に家族へ漏らした。どうお仕置きする?」


 オドゥが楽しそうに軽い口調で言うと、うなだれていたレナードはビクッと身を震わせた。それをアイリたち学園生が心配そうに見守っている。


「もうっ、オドゥったら!グリドルの開発は国家機密でもないし、レナードのお仕置きなんかしないよ!」


 ユーリが難しい顔になる。


「プレートを作る工房に断られたら、グリドルは作れません。かといって、錬金術師団でイチから作る余裕はないです」


「そうだね……」


「どうする?……やっぱパロウ魔道具、潰しちゃう?」


 なぜか楽しそうなオドゥに頭が痛くなりながら、わたしは顔をしかめて返事をする。


「オドゥ、潰さなくていいから……」


「そんなに心配しなくても、証拠を残さずやれるよぉ」


「ぜったい、ダメ!」


 オドゥは眼鏡のブリッジを指で押さえながら、人のよさそうな笑みを浮かべた。


「ネリアは優しいなぁ」


「優しいとか、そういうんじゃなくて。パロウ魔道具にだって働いている人がたくさんいるんだよ?潰すとか言っちゃダメ!」


「じゃあ、ネリアにはなにか考えがあるの?」


 口調は柔らかいけれど、オドゥはこちらを眼鏡の奥から観察している。わたしはソラに合図を送った。


「いま考える。ソラ、とりあえずプレートの製品テストの結果を。それからコーヒー淹れてきて」


「かしこまりました。製品テストはこちらになります」


 わたしはソラに差しだされた紙をめくり、テストの結果をざっと眺める。


 本当はこれをもとに工房を選んで、試作を重ねるつもりだった。


 けれど断られたということは、一回の試作だけで開発は中断することになる。


 わたしの手元にあるのはいくつかのプレートと。数回使った結果をまとめたものだけ。


 パロウ魔道具は情報を手に入れても、ギルドで登録済のアイディアを、そっくり盗むわけにはいかない。


 だけど似たような商品を、彼らが作りだす可能性はある。相手の製品開発に、どれくらい時間がかかるかわからないけれど、パロウ魔道具には腕のいい魔道具師が何人もいる。


「時間稼ぎ……そのために、こちらの製作をストップさせたのかも」


 オドゥが肩をすくめてヒュウと口笛を吹いた。


「それなら、潰すのはパロウ魔道具だけじゃないねぇ」


「潰さないから!」


 でも、どうする?


 むこうが開発するのなら、いっそのこと任せてしまう?


 生産ラインを整えて順調に販売までこぎつけたとして、原価計算をして販売価格を割りだしたり、市場規模を調べてして生産数を決めたりと、そのあともやることは山積みだ。


 錬金術師団は商売にはど素人で、売りこみかたすらわからない。


 今なら試作品を作るのにかかった費用を損するだだし、錬金術師団にとっては、グリドル作りなんて本来の業務じゃない。


 いっそのこと、権利もろもろ全部ひっくるめて、パロウ魔道具に買い取ってもらう?


 それでお互いに得するのでは?


「オヤジに……『新製品の発売でクソ忙しいときに、職業体験なんてお遊び、やめちまえ!』って言われて、それが悔しくて。俺はっ、学業をおろそかにしたことなんてない。ライガの改良だって、これ以上ないってぐらい真剣に取り組んでて……それなのに工房の魔道具師たちまで、口をそろえて『こんな魔道具が作れるわけない』って……」


 レナードは床に座りこんだまま、震えながら言葉を紡いだ。


「だからつい『錬金術師団はライガだけじゃない、グリドルだって開発してる』って。ごめんなさい!」


 そのままレナードは床にひれ伏しちゃったけど……カーター副団長といい、なんでみんな師団長室でひれ伏すかなぁ。


 はいつくばる彼に、ソラはチラリと視線を送って、わたしにたずねた。


「ネリア様、片づけましょうか?」


「片づけなくていいから。レナード、とりあえず立って。みんなもいい?」


 レナードの将来に関わることだから、うまく事を収めないと、父親と彼のあいだにできた溝が、ますます深くなってしまう。


 わたしは大きく息を吸ってから、ハッキリした声で宣言した。


「パロウ魔道具から妨害が入った。つまり、相手はグリドルを認めたってことよ。社長のお墨つきをもらったと思えばいいわ。場所を変えて製品テストは続行します!」

挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「…という訳で、落ち着くまでアイリをお願いします。昼間は私の仕事を手伝って貰うようにするし、とにかくひとりにならないように」 売国奴の娘に対する処置としては、甘甘ですね
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