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魔術師の杖【小説9巻&短編集】【コミカライズ準備中】  作者: 粉雪
第四章 職業体験とサルジアの陰謀
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127.『海猫亭』2日目(ライアス視点)

ブクマ&評価、そして誤字報告ありがとうございます!

 翌日の昼ごろ、王都六番街の船着場に団員たちと検分にきていた、竜騎士団長ライアス・ゴールディホーンは疲れていた。


 結局、ヒルシュタッフ宰相の更迭騒ぎや、サルジアの工作部隊の残党狩りがおわっても、後処理でいそがしくネリアとは話せずじまいだ。


 しかもあの騒ぎの最中、体が小さかったときは気にならなかったのに、大人の体格になったユーティリスが、ネリアと仲がよさそうだったのが気になる。


 シャングリラの上空で、ライガの後部座席におさまったユーティリスは、ネリアの体に腕をまわし彼女の耳元でささやき、ネリアもそれに笑顔でかえしていた。


 こちらの視線にきづいたのか、ユーティリスがその体勢のまま、ちらりと目線を自分にむけたのが……なんだか、ものすごく気になる!


 いやいや女々しいぞ、ライアス・ゴールディホーン!疲れているんだ!疲れているだけだ!……そういえば腹も減っている……マイナス思考になるのはそのせいだ!


 そばにいた竜騎士のレインが、ライアスに声をかける。


「団長、だいじょうぶか?少しボーッとしているんじゃないか?」


「そうか?すまない、だいじょうぶだ……腹がすいたな」


 そう答えたとき、若い団員たちのひとり、ベンジャミンが声をかけてきた。


「団長!昼飯まだですよね?ちょっと『海猫亭』に寄っていきませんか?」


「『海猫亭』か?たしかにここからすぐそこだが……この人数では、はいれないだろう」


「いや、それがいいテイクアウトがあるんですよ!昨日ためしに食べてみたら激ウマで!」


「おまえ、そんなこといって、スターリャちゃんに会いたいんだろう?かわいかったもんなぁ……」


「俺はネリィちゃんだな!ハキハキしているのに、さりげない気遣いが優しくってさぁ!」


 聞けばいま『海猫亭』で、スターリャとネリィという、ふたりの看板娘が働いているらしい。あそこの子は兄弟ふたりだけだから、嫁をもらったか新しくやとったか……。


 話をしているうちに、皆なんとなく『海猫亭』へいく気分になってきたようだ。気分転換になるかと、ライアスも同意する。


「じゃあ、『海猫亭』に寄っていくか」


「やったあ!」


 笑顔の団員たちのうしろについて『海猫亭』にむかうと、店のまえは盛況で黒山のひとだかりだ。そのなかから元気な声が聞こえてきた。


「ありがとうございましたぁ!」


 俺の耳はおかしくなったのか……?ライアスはそう思った。こんな街中でネリアの声が聞こえるはずもない。彼女はいま研究棟にいるはず……。団員たちのひとり、ベンジャミンがひとだかりに分けいって声をかける。


「ネリィちゃん!こんちは!」


「あら、いらっしゃい!きょうも買いにきてくれたの?ありがとう!」


 赤茶色のふわふわとした髪をポニーテールにして、『グリドル』と染めぬいた謎の布きれを羽織った女性がふりむいた。その顔は……ライアスは、幻を見ているのかとおもった。


「きょうはね、うちの団長つれてきたよ~有名人だよ!ライアス・ゴールディホーン!イケメンだろ?」


 ネリアは一瞬目をみひらいてライアスの顔をみて、それからすぐににっこりと笑った。


「ふふっ、ホントね!きょうは団長さんも買ってくれるのかしら?」


「ネ、ネリ……」


「『ネリィ』です!よろしくね!こっちは『スターリャ』……団長さんもごひいきに!」


 みればこのあいだ保護した令嬢が、はずかしそうに会釈をする。


 なにをやっているのだ⁉︎……といいたい。


 きみは錬金術師団長だろう!……と叫びたい。


 竜騎士団長ライアス・ゴールディホーンは、ぼうぜんと立ちつくした。


 レインもライアスの横であんぐりと口をあけたが、錬金術師団長の顔を知らないベンジャミンは積極的だ。


「ネリィちゃん!俺さぁ、今度遠征に出なきゃならないんだ……ここって帰るまでやってないだろ?遠征からもどったら絶対連絡するから!『エンツ』先交換しよ?」


「ええ~いきなりだなぁ」


 ちょっとまて、なんでおまえが口説いてる!帰ったら訓練だ!即訓練だ!ミストレイと一緒に性根をたたき直してやる!


 ライアスが公私混同しそうになったちょうどそのとき、店の奥から女将さんが顔をだした。


「あら、ライアス!彼女のようすでも見にきたのかい?おかげさまで大盛況だよ!」


「彼女ぉ⁉︎」


 ベンジャミンが叫び、ネリア自身も首をかしげたが、すぐに思いだした。


(彼女?あぁ、そういう『設定』だったっけ……)


「ネ、ネリィちゃん、ホント?団長の彼女って……」


 青ざめた顔でベンジャミンが聞いてきたが、ネリアにも今の『設定』がどうなっているのかわからない。


 とりあえず笑ってごまかすことにする。


「さぁ……ふふふっ」


 ふふふ……じゃない、うかうかしている場合じゃない。王城内で仮面をつけているといっても、王都内で素顔をさらしているのでは、シャングリラ中の男たち全員が、ライアスのライバルといっても過言ではない。


 ライアスはオドゥに釘を刺されていたことも、すっかり忘れた。


「ネリィ!遠征の出発前に『レイバート』の店で食事をしたいのだが、いいだろうか?」


「えっ!」


「まぁ!」


 ネリィはおどろき、スターリャは目を輝かせた。


 スターリャの目の前で、いきなり乙女のあこがれ、キラキラ恋愛劇場がはじまったのだ。太陽のように輝かしい竜騎士団長が、町娘を食事にさそう……こんなに積極的な竜騎士団長は、だれもが初めてみる。スターリャもだが、みな固唾をのんでみまもった。


 当のネリィだけが微妙な表情だ。


「ええと……」


 ライアスのことはきらいではない。タクラ料理が名物という『レイバート』もおいしい店なのだろう。だが『レイバート』と聞いて、ネリアはニーナが作ったあの、紐に布切れがぶら下がっているようなドレスを思いだしていた。


(あれ、を着るのはちょっと……)


 そのためどうしても、消極的な返事になった。


「その、ライアスも忙しそうだし、いまじゃなくても……遠征から戻ってきてからでも……いいんじゃ、ないかな?」


 ネリィのやんわりとした断り文句に、ライアスは雷にでも打たれたように固まり、まわりの荒くれたちがひそひそとささやく。


「ライアス・ゴールディホーンをソデにしたぞ……すげぇな、ネリィちゃん……」


「やっぱ俺たちの女神は違うよな……」


 いつ、ネリアがお前たちの女神になったのだ……荒くれたちのそんなささやきすらも、ライアスを奈落の底につきおとした。


「ダ、ダメだろうか……」


 ライアスの絶望にうちひしがれたような顔をみて、ネリアはあせった。


(えっ?ライアスがそんなにガッカリするなんて……あそこのお食事券、有効期限でもあるの⁉︎高そうなお店だったし、食べられないのがそんなに悲しいなんて……)


 そこへみかねた女将さんが、ライアスの援護射撃をする。


「いっておやりよ……竜騎士たちは遠征前に恋人や家族とすごす時間をとるんだ……彼女と食事したいなんて、かわいいじゃないか団長も」


(ええっ?ここはまだ『彼女』モードでいくとこ?)


 ネリアがまわりを見まわすと、他の竜騎士たちも衝撃を受けたような顔でかたまっているし、アイリも紅色の瞳をうるませて事態を見守っている。ここで断れば、ライアスに恥をかかせてしまうのは間違いない。


 ドレスが着たくないからという理由ぐらいで、ライアスが楽しみにしていた食事をさせないのはもうしわけない。ここはわたしがひと肌脱げばいいのよ!ネリアはそう思った。


「わかった……じゃあ、遠征前にね」


 そのとたん、雲の隙間からパアッと晴れ間がさしたように、ライアスが笑顔になった。


「ほんとうか、ネリィ!ありがとう!」


「う、うん……」


 やっぱりネリアは微妙な表情のままだ。ちっともうれしそうではない。


『それってネリアは困るんじゃないかなぁ』


 喜びも一瞬で、ライアスはオドゥの言葉を思いだし、また不安になった。


「よかった……マジよかった……ひやひやしたわ」と、レインは胸をなでおろした。


 がっかりしているベンジャミンには悪いが、ネリアに断られたときの団長の気分と、それがミストレイへあたえる影響について、本気で心配したのだ。

ネリアをナンパ(?)した若い団員には、ようやく『ベンジャミン』と名前がつきました。

本文も名前をいれるため一部書きなおしました。

曇り時々晴れ様、お寄せいただきありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[一言] >ネリアをナンパ(?)した若い団員さんには名前がついていません。 >何か良い案があれば、感想欄にお寄せいただければ、書き直しておきます(今後も登場する保証はないです) 「ベンジャミン」で。…
[一言] 最近、ライアスが不憫すぎて見てられません…! 他と比べて接点が少ないし…そろそろヘタレ返上して、頑張れ!!
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