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魔術師の杖【小説9巻&短編集】【コミカライズ準備中】  作者: 粉雪
第四章 職業体験とサルジアの陰謀
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126.『海猫亭』ふたたび

 ブクマ&評価、誤字報告もありがとうございます!

 わたしが六番街の『海猫亭』に目をつけたのは、そこの海鮮ダシが素晴らしいからだ。


 女将さんに交渉しにいったら、ライアスと一緒に来店したわたしのことを覚えていてくれたらしく、試食したうえで店先をかり、鉄板焼きを提供していいと許可をもらった。


 ここで三日間、『海猫亭』の海鮮ダシをつかった鉄板焼きを提供するのだ。


 焼きソバもいいけれど、ソバからつくるのは大変なので、グリドルをつかった鉄板焼きのメニューは、お好み焼きとタコ焼きの二種類にしぼる。


 製品テストを兼ねつつも、あくまでグリドルの紹介なので、興味をしめした客には、魔道具ギルドで術式を購入できるよう案内もわたす。


 グリドルの術式には試作時よりもさらに磨きをかけ、ちゃんと長く使ってもらえる製品をめざし、こびりつかない加工、保温機能、自動洗浄機能など、便利機能満載だ。


 工房の関係者の興味をひき、「ウチでも作ってみようか」と思わせるのがねらいだけれど、すぐにこれを全部ひとりでやろうとするのはムリだ……ということに気づいた。


 鉄板焼きを作りながら、横では商品説明もしなければならない。店先の混雑をさけるために、品物やお金のやりとりをする人も必要だ。


 さいわい、『海猫亭』をてつだっている息子さんたちが興味をもったので、調理をお願いし、お好み焼きとタコ焼きを伝授する。といってもちょっとしたコツがいるだけで、たいした技術じゃないけどね!


「これうまいなぁ!腹もちもいい!ウチの定番メニューにくわえてもいいかい?」


「もちろんです!レシピはどんどんひろめちゃってください!そしたらわたしも食べにきます!」


「ていうか兄貴、このレシピとグリドル片手に独立しちゃうってのどうよ?」


「おおっ!それもアリだな!」


 いいね!異世界にひろめよう!海鮮ダシたっぷりのお好み焼きとタコ焼き!






 そして、わたしは今回のグリドルの製品テスト、勝利を確信している!


「あの……ネリス師団長……これで、おかしくないですか?」


 うなじもまぶしいラベンダー色のショートカットに、うるんだような紅色の瞳をもつ美少女が、『グリドル』と染めぬいたはっぴを羽織り、はずかしそうにあらわれたとたん、ザワッと『海猫亭』の店先をざわめきがかけぬけた。


 でたよ!うちの秘密兵器!


「天使だ……天使がいる……」


「いや、妖精だろう……」


「ちょっとまて……俺、まぶしすぎて目があけられないんだが……」


 まわりの荒くれ風あんちゃんたちのささやきが耳にはいる。そうだろうとも!学園ナンバーワン美少女がここに降臨!これがホンモノの『美少女』というやつだよ!


「ネリィ、でいいよ!アイリよくにあってる!すっごくかわいいよ!」


「は、はい……ではネリィ、私のことも『スターリャ』でお願いします。私の髪色によくにた、薄紫の花なんです」


「スターリャね!じゃあこれから三日間よろしくね!」


 わたしは、アイリにあまり考えこむ時間をあたえないように、忙しくさせることにした。


 お嬢様のアイリは、売り子なんてはじめてだろうけれど、飲食業で声をだしてお客さんとやりとりをすることで、元気がもらえることもある。


 売り子はわたしとアイリ、商品説明はわたしとカーター副団長、調理はわたしとカーター副団長と『海猫亭』の兄弟……交代でやればなんとかまわるはずだ。


 わたしは状況におうじて、どのポジションにもはいる。ええ、全力投球させてもらいますとも!


「師団長……じゃなくてネリィ、『研究棟』にいる時よりたのしそうですな」


 カーター副団長がキャベツもどきの野菜を刻みながら話しかけてくる。


「まあね!師団長はまだ二ヵ月だけど、バイトは二年ぐらいやったからね!なつかしい……って感じ?」


 そういうクオードも、職人魂に火がつくのか……『海猫亭』の兄弟に対抗心を燃やしているようだ。キャベツもどきを刻む手に力がはいる。指、ケガしないようにね!


 開店準備中だというのに、まじめなアイリは代金やお釣りの計算を予習しつつ、真剣に硬貨をみつめていた。


「その……はずかしながら、私、お金というものをちゃんとみたことがなくて……」


 とまどいながら恥じらうさまに、まわりのあんちゃんたちのキュンキュンボルテージが勝手に上がり、その熱気がすごい!







 そして開店。


「いらっしゃいませ!『お好み焼き』おふたつですね?ありがとうございます」


「ううう、ありがとうございます」


 なぜか、お礼をいいながら買っていくあんちゃんたち。それどころか、差しいれをくれる人までいる。


「あの、スターリャちゃん!これ、空き時間に飲んで!がんばってね!」


「まぁ!ありがとうございます!」


「いや、もぅその笑顔だけで……ごちそうさまですっ!」


 拝んでいったよ……いまの人。


 店の混雑に、あんちゃんたちの気がたってきた時も、だれかが一喝するだけで鎮まる。


「おい!スターリャちゃんがこんなにがんばってるんだ!おめぇらが行儀よくしねぇでどうする!」


「あの……お待たせしてごめんなさい。もうすぐ焼き上がりますから……」


 美少女のうるんだ瞳に見つめられ、あんちゃんたちはみな、へにゃへにゃだ。


「あああ、ごめんなぁスターリャちゃん……びっくりさせちまって……俺ら、ちゃんと待ってるから!」


「はい!みなさんに食べてもらえるだけでうれしいです!待っててくださいね!」


 にこ。もうそれだけであんちゃんたちの心は、澄みきった清流にひたしたように洗われた。アイリの笑顔は四万十川にちがいない。


 ただ、ここまで人気をよぶとは正直想定外……夜に研究棟でソラにも手伝ってもらい、お好み焼きを焼いておき、保温してすぐ出せるようにしたほうがいいかもしれない。


 時間と手間がかかる『タコ焼き』はパスして、とりあえずお好み焼きにしぼって提供するようにして、なんとか注文をさばき、グリドルの案内も渡しつづけて……一日が終わった。







 いっぽう、研究棟では学園生たちがとまどいを隠せなかった。まず、アイリ・ヒルシュタッフがいない。それと、『カディアンのちっさいお兄ちゃん』……こと、ユーリ・ドラビスが……でかい。


「なんとかメレッタが飛ばせるライガを作りあげることができそうだな……今後も改良の余地はあるが」


 優しげな笑みはそのまんまだが、声もひくい。


 ユーリはサプリメント摂取をがんばったかいあって、カディアンよりすこし背が高くなっていた。だが、カディアンはまだ十六で成長期……ユーリにとってまったく油断できない。そんなわけでユーリはまだ、サプリメントをとりつづけている。


「背はねぇ、よく寝たほうがのびるんだよ!」


 ネリアがそういうので、昨夜はしっかり寝ようと思ったにもかかわらず、ユーリは駆けつけたリメラ王妃に枕元で泣かれたため寝不足だ。


「あの……母上?きょうはもう休むので、話はあすにでも……」


 そう訴えた瞬間、ユーリの部屋のティーカップだけでなく、花瓶その他もろもろの陶器が粉々に砕け散った。


 ビシビシビシッ!ザラザラザラ……。後半は破片が床にくずれおちる音だ。


「ユーティリスっ!……この母がっ!どれだけ心配したとおもって……」


 ほぼ修復専門となった母専属の魔術師が、死んだような目で修復の魔法陣をほどこすのを横目でみながら、ユーリは早寝するのをあきらめたのだった。






 メレッタは帰宅すると、「世の中にあんなすごい職人がいたとは……」とブツブツつぶやいて燃えつきている父と、おもったより元気のいいアイリに迎えられた。


「おかえりなさいメレッタ!研究棟はどうだった?」


「あーうん、ライガが三回墜落したけど私的には順調!アイリは?」


「すごく楽しかった!最初はね、おそろしい風体のかたたちばかりだと思ったの!……でも、みなさんとっても親切で優しくて、私のみじかい髪もほめてくださって……」


 うれしそうに話すアイリに、メレッタは「きょうのカディアンはグダグダだった」と教えるのはやめておこうとおもった。

 女の子はたっぷり泣いたら、前を向いて生きていく。

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― 新着の感想 ―
[一言] いつも楽しく拝見しています。今日のお話は特に素敵でキュンときました!^^ これからの展開もとても楽しみです!
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