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魔術師の杖【小説9巻&短編集】【コミカライズ準備中】  作者: 粉雪
第四章 職業体験とサルジアの陰謀
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107.リメラ王妃とお茶しましょう

よろしくお願いします。

 けっきょく、アーネスト陛下にはにげられた。


 わたしたちがいた転移陣の部屋は本城と奥宮の境にあるらしく、わたしはそこから連れだされ、リメラ王妃とともに奥宮をさらにすすむ。


(こういうところでユーリもカディアンも育ったのかぁ)


 高い天井、太い柱、チリひとつ落ちていない磨きぬかれた床。こんなところで育つとは……王子様だからあたり前なんだけど……すごいおぼっちゃまだ。


 ヌーメリアと王城のなかをあちこち……食堂や事務室、医務室、図書室、家政部門、通用門や各部署におかれた転移陣のあたりとか歩きまわり、王城のスタッフたちともたくさんすれちがった。


 いま歩いている場所はそのどれともちがい、落ち着いた静かなたたずまいで、床や柱のひとつひとつをつくるのに、たくさんの人の手がたずさわったという、歴史を感じさせる。


(きらびやかともまた違う……荘厳で静謐で……なんだか、修学旅行でいったお寺みたい……)


 いまさらなんだけれど、エクグラシアという国をつくりあげた、ひとびとのエネルギーと情熱に圧倒される。このシャングリラの王城は、その中心なんだ。


 そんなことを考えつつ歩いていたら、つきあたりの扉のまえでリメラ王妃が立ちどまった。


「もうしわけないけれど、茶会の途中で中座してしまったの。参加されていたかたたちにあいさつだけ、させてもらうわね」


 リメラ王妃がわたしをふりむいてそういうと、扉がしずかに開き、そのむこうにはまるで天国の花園か……とおもうような甘い香りがただよう、華やかな光景がひろがっていた。


 あふれるように花が飾られ、てっきりアトリウムかと一瞬思ったけれど、そこは大きな窓がある広めの談話室だった。白いテーブルクロスがかけられたテーブルに、かわいらしいお菓子の盛られた皿がいくつもおかれている。


 テーブルのまわりには美しく装った令嬢たちが何人もいて、ちょうどお茶会の真っ最中だったらしい。いろとりどりのデイドレスがさらに華をそえている。


 ……あっ、ライザ・デゲリゴラル嬢までいる!


「みなさん、さきほどは中座してごめんなさいね?わたくし、これからネリス錬金術師団長と話がありますの。会はこれでおひらきにいたしましょう」


 要は、わたしがきたから帰れ……ということだ。ひぃ……先約のあるお茶会を優先してくれていいのに!


 金の髪に緑の瞳をもつひとりの令嬢が、すっと優雅に立ち上がり、わたしたちのほうへ歩を進める。ほかの令嬢たちもそれにならった。


 アイリも美少女だけど、この場にいるどの令嬢もきれいだなぁ。


「では王妃様、退出のごあいさつだけお許しくださいませ」


 うわ、天使!もしくは妖精!


 きれいな礼をとった令嬢の、豊かにうねる金の髪は艶があり、まるで光をまとっているかのようで。近くでみる緑の瞳は、神秘的にきらめいていて、くちびるはまるでばらの花びらのようだ。


「サリナ・アルバーンともうします。ネリス師団長、失礼します……王妃様、本日はおまねきありがとうございました」


 ……サリナ……アルバーン⁉


 顔を上げたサリナ・アルバーンは目だけで軽くほほえみ、静かに退室していった。


 仮面のおかげでわたしの表情が見えなかったのが救いだった。アルバーン……もしかして、レオポルドの親戚?わたしは前にユーリとした会話を思いだす。


『アルバーン公は自分の娘と婚姻を結ばせるつもりですよ』


『いとこ同士で?』


 もしかして、もしかしたらだけど……そのあとに続くライザ嬢をふくむほかの令嬢たちも、次々にあいさつだけして退室していった。それを見送ってから、リメラ王妃はわたしにむきなおった。


「おまたせしたわね、いきましょうか」


 わたしはさらに奥にすすむらしい。


「あの、お茶会の途中だったのでは?」


「だいじょうぶよ、あの子たちはいつも招いているから。女の子たちと話すのは楽しいわ……かわいいし、気持ちも晴れやかになるでしょう?」


「たしかに。あんなに華やかな子たちに囲まれているだけで、テンションが上がりそうです!」


「テンションが……上がる?」


 リメラ王妃は意外そうな顔をして、わたしのほうをふりかえった。


「ええ。『ザ・ほんもののお嬢様』ってかんじですよね!あっ、王妃様もおきれいなうえに、まっすぐに伸びた正中線が美しくて、うしろ姿すらほれぼれしますね」


「……あなたはわたくしの、正中線をみていたの?」


「いけませんか?ちょうど目のまえにありましたし」


「……あなた、かわっているといわれない?」


 ええ、まあたまに。前は「かわっている」といわれても、「そういわれても……ふつうとはなに……?」と思っていたのだけれど、いまのわたしには免罪符がある!


「……錬金術師ですから」


「それもそうね……」


 ほら、納得してくれた。ちなみにあなたの息子さんもですよ、奥さん!……というセリフは心にとどめておく。だってわたし、大人だもの!思ったことをなんでもしゃべったりしないわ。


 ついた部屋は、さきほどの談話室よりもせまく落ちついた雰囲気で、プライベートスペースにちかい場所のようだった。どうやらわたしたちが談話室に寄っているあいだに、手早くお茶の用意をすませたらしい。部屋に到着したときには、すでに席につくばかりになっていた。


「おすわりになって」


「ありがとうございます」


 リメラ王妃の正面にすわり、さてなにをはなそう……ユーリの研究棟でのようすを聞きたいといっていたから、その話からかな……などと考えていたら、リメラ王妃が口をひらいた。


「ここにはわたくしたちだけ。その仮面、おとりになったら?」


 仮面?あっ、仮面ね……グレンの仮面はみための異様さとは反対に、視界も良好、呼吸もスムーズにでき、つけていることを忘れるほどのつけ心地なので、よくほんとうに忘れちゃうんだよね……。


 でもお茶を飲むなら、はずさないと……王妃様は「わたくしたちだけ」というけれど、給仕やおつきの人などが三人ぐらいひかえているので、完全にふたりっきりでもない。まぁ、公人なのでしかたないか。


 わたしが仮面をはずすと、リメラ王妃が目をみはった。周囲の人々の息をのんだ気配もつたわってくる。なんだか、カディアンの反応ににているなぁ……。こんな化粧っけのない女が、王妃様とお茶するなんて珍しいのかも。だって王族に会うなら、みんなきちんとした格好だものね。


「……あなたは、グレンのもとにいたのだったわね……?」


「はい、グレン・ディアレスの弟子となり、錬金術を学びました」


「それは、どれぐらい?」


「三年、でしょうか……でも実質学んだのは二年ほどですね」


「……それで『錬金術師団長』に?」


 リメラ王妃が眉をひそめた。たった二年で⁉と思うところだよね……でも、わたしも同感。


「ホントですよね……わたしとしては、王都で魔道具師にでもなれれば……と思ってたんですけど、ドラゴンがむかえにきて、あれよあれよというまに師団長になるハメに……」


 グレンたら、まったく困ったおじいちゃんだよ……人にいろいろと押しつけて逝っちゃうんだから……。


「そういえば、あなたとユーティリスが婚約するのでは……というウワサもあったのだけど……」


 あったね……きっとアーネスト陛下の周辺が先走ったのだろう。ここは否定して安心させてあげよう。


「だいじょうぶです。それはことわりましたから」


「……ことわった?」


「はい、アーネスト陛下から、冗談めかして『息子の嫁にならんか?』といわれましたけど、ちゃんと本人に決めさせてあげてくれと、ことわりました」


 パリーン。王妃様の手にあったカップが粉々に砕けた。ふぇっ⁉


「あら、ごめんなさい……わたくし、土の属性をもつものだから、ときどき驚いたりすると陶器のカップを壊してしまうの……」


「そうですか、それはたいへんですね」


「修復の魔法陣をかけてあるから、大丈夫よ。そう……あの人ったら、わたくしの知らぬところでそんな勝手なことを……あとで問いたださなくてはね」


 王妃様はにっこりと優雅にほほえんだ。まわりの者たちは表情を一切変えなかったが、内心汗がとまらなかった。


 王妃のカップが割れる……それは彼女の怒りのボルテージが上がったときに起きる現象だったからだ。

どうなるかと思ったのですが、やってみたら意外と平和でした。微妙にかみ合ってないような気もしますが。後々波乱を起こしそうな、サリナ・アルバーン嬢もさらっと登場しました。

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