↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険、始めちゃいました。  作者: カイナベル
第五章 帝国編
67/135

第六十五話 気絶した男、救われました。

 ゆっくりと意識が上ってきたユウキの耳にシャリシャリという金属同士が擦れるような音が届く。神経を逆撫でするようなその音を不愉快に思ったユウキのゆっくりと開いた目に映ったのは短剣を研ぐ謎の人物。ユウキは瞬間的に昔話の山姥を思い出す。と同時に冷や汗が全身から噴き出す。木の床を弾くようにようにして体を起こすと同時にその人物から距離をとる。が、それと同時に腹部に激痛が走る。本能的に腹部に手を当て痛みを逃がすように体を曲げる。


「ん。起きたか」 


 短剣を研いでいた人物はユウキが起きたことで手に持った短剣を置き、代わりに近くに置いてあった器を手に取る。


「なんだ。殺されるわけじゃないのか……」


「俺を何だと思っているんだ。痛み止めだ。飲むかどうかは勝手にしろ」


 差し出された器を恐る恐る受け取ったユウキは、その中身を確認する。刺激物等は匂いから入っていないことが確認できるが安全が確認できたわけではない。とはいえ腹部は衝撃で相当のダメージを受けているようで今もズキズキと悲鳴を上げている。ええいままよ。器に口をつけたユウキはその中身を一気に流し込んだ。舌に触れた瞬間襲い掛かってくる苦み。薬品独特のそれに本能的に吹き出しそうになるが、根性で堪え中身をすべて流し込む。苦みで顔を顰めながら口元をぬぐうと、数十秒後には劇的に痛みが引いて行った。


「落ち着いたか。まあ、あとは適当にしてくれ」


 そういった男はユウキから興味がなくなったようにそっぽを向き、自分の作業に戻る。矢を作っているようで細い木の棒に鏃を括りつけ、その出来栄えを確かめている。


 痛みもひき、思考がまとまり始めたユウキは一度一人になるために小屋の外に出ると、現状を整理し始める。まず、間違いないのは自分が目の前の人物に助けられたということだ。おそらくユウキが助けられた場所からは三キロ近く離れている。ドラゴンたちが飛び去った後、あの場所までこの小屋まで運んできてもらったのは本当に感謝しかない。それに痛み止めも高い効能を持っていた。おかげで一日ゆっくり休めば行動できるくらいには回復した。


 が、解せないことが一つある。なぜこんなところにわざわざ一人で住んでいるのか。猛獣も多く人など一人もいない。そんな場所で暮らすなどよっぽどの事情がない限りあり得ないのだ。一体どういった理由でこんなところに住んでいるのだろうか。


 しかし、これには彼の中で一つの推測が立った。こういうことなのではないかと彼の中で予想が立つが、あの男にこれを聞くことはおそらくない。可能性の話だが、おそらくこれは非常にデリケートで触れにくい部分である。だからユウキから触れることはない。 


 予想外の出来事で一日無駄に時間を食うこととなってしまったが、身体の調子を考えると明日には再び出発することが出来る。今日は一日彼に場所を借りてここで休息を取らせてもらおう。そう思いながらユウキは小屋の中へ戻る。真剣な表情で屋に向き合っている彼のほうを向くとユウキは口を開いた。 


「あんたが助けてくれたのか?」


「……そうだ。あんたがドラゴンたちの諍いに巻き込まれているのが≪この小屋≫から見えてな。とりあえず向かってみたらあんたが倒れてたからここまで運んできたんだ」


 ユウキは耳を疑った。この小屋から自分が見えた?この小屋からユウキの倒れたところまで三キロ近く離れている。そんな距離で人一人を木々の間から見える人間などいるはずがない。そんなことは山育ちの怪物でもできないだろう。しかし、この世界では不可能ではない。それに近い実例をユウキは知っていた。


「技能(スキル)持ちか」


「……よくわかったな」


「とはいえ、助けてくれたことには礼を言わせてもらう。ありがとう。すまないが頼みがあるんだが、一晩この小屋に泊めさせてはもらえないか?」


「荒らさなければ好きにしろ」


 そういった男は再び彼から意識を逸らし、矢のほうに向く。男からの了承を得たユウキは早速ブーツと籠手のひもを弛め、ゆっくりと隅のほうに座り込む。しばらく男のほうを眺めていたユウキ。その視線に耐えきれなくなったのか、男は再び彼のほうに意識を向ける。


「何か用か?」


 強めの男の問いかけに対してユウキは詰まることもなくズバッと問いかけ返した。


「いや?お前の身体のことは聞いてもいいのかなってさ?」

  

 先ほど彼がなぜこんな辺鄙なところに一人で暮らしているのか、その予想の根拠が彼の体にあった。彼はおそらくフリアと同じビースト。が、しかし彼は普通とは大きく異なっていた。本来ビーストという種族はわかりやすくいうと動物の特徴があるヒュームという感じなのである。耳が動物のそれと置き換わっている、尻尾が生えている。やたらと舌が長い。体の末端に鱗が生えているなどの特徴はあるものの、原則としてその部分以外は見た目はヒュームと同じである。しかし、彼は全く違う。頬や首には広範囲にわたって鱗が生えており、足はまるでワイバーンのようになっており、指の先は鋭い爪と鱗で覆われている。そして何よりも背中からは大きな翼が生えている。明らかに異質な特徴をしておりその姿はビーストというより竜よりの人といった感じであった。彼の旅の中でもこのような姿は見たことがなかった。


 彼の問いかけに対し目の前の男は黙り込む。やはりデリケートな話だったかとユウキは問いを撤回しようとする。しかし、その前に男がユウキの発言を遮って言葉を紡ぐ。


「……俺は忌み子なんだ。こんな姿のせいでな」           


 大きく口から息を吐いた男は、座ったままユウキに背を向ける。そして少し間を開けたかと思うとポツリポツリと話始める。


「助けた礼だと思って少し聞いてくれないか」


 そう前置きを上げたうえで彼は自身の過去について話し始めた。 























 昔々、あるビーストの里に竜型ビーストの家族がいました。高潔な竜の血を持つ彼らは里の中でも優遇を受けており、そんな彼らの期待に応えるように彼らもその手腕をふるっていました。そんな彼らに新しい家族が加わりました。末娘から生まれた元気な男の子。新たな家族が加わるのです。諸手を挙げて喜びべき場面、しかし、彼らは喜ぶどころか顔を顰めました。彼は体の半分以上が異形化していたのです。ビーストの中で彼のように異形化しているというのは非常に珍しいのです。が、それはありがたいものではなく、むしろ忌み嫌われるべきものでした。


 ビーストというものは神が作り出したヒュームと動物のハイブリット種。動物の優れた身体能力とヒュームの優れた理性を持っている優れた生物です。しかし、そのバランスが狂い、異形化してしまう物が稀に表れてしまうのです。これが非常に厄介。この世界にビーストという生物が発生してから異形化したビーストというのは問題ばかり起こしているのです。ある時はその並外れた能力も持て余し、過ぎた暴力を振るってしまう者。ある時は優れた頭脳を用いて人々の心を弄び、町一つ破壊して見せたもの。その力はあまりに強大なものでした。次第にビーストの者たちは、このような過ぎた力を振るう異形者たちを恐れ、忌み嫌うようになっていきます。そしてそのものを排斥するようになっていきました。 


 ヒトであることを捨て、本能のままに力を振るう異形の者の末路は悲劇的なものです。大人になって毒殺された者、すべてに見放され孤独のまま命を落とした者、生まれてすぐ動物の餌にされてしまった者。彼もその運命を辿ろうとしていました。

 

 しかし、それをよく思わないものが一人。母親の姉の子供、いわゆる従姉という存在でした。彼女はビーストの中でも非常に温和な思考の持ち主で異形者であってもすぐに排斥するのはよくないという非常に優しい考えの持ち主でした。そのため、彼女は生まれてすぐに殺されそうになっていた彼に手を差し伸べ、自分が育てるとも啖呵を切るほどでした。


 ですが、彼女が手を差し伸べても社会は違います。そんな忌み子を育てている彼女、それに手を貸した人物は彼と同じように社会から排斥されることとなります。そんなことはよほどの馬鹿か、死にたがりくらいのものです。そのため、里の商人が彼女に物を売ることはなく子育てのノウハウを教えることはありません。そのため、彼女は手探りかつ、自給自足で彼を育てなければなりませんでした。最初のうちは何もわからず、彼を不都合に巻き込むことがありましたが、それでも子育てを全身全霊でやり遂げ、彼はすくすくと育ちました。大変ながらも充実した生活を二人とも楽しんでおり、こんな時間が続けばいいのにと思えるほどでした。


 しかし、その生活も長く続くことはありませんでした。あんな子供を産み、いまだなおその生かしている彼の家族は次第に里の中での地位を落としていきました。その影響で物を売ってもらえないことや爪弾きにされることもあり、家族は頭を悩ませました。これを打開するには一つしかない。


 彼を殺そう。そう思った家族は各々武器を持ち、深夜、里の外れに位置する二人の家へ向かいました。 しかし、そんなことは親である彼女が許すはずもありません。力の限り抵抗の意志を見せました。その意思は強く彼女の姉や親があきらめたくなってしまうほどでした。しかし、一家の長である父親は諦めません。彼は家(・)族(・)を養わなければならないのです。そのためにはどんなことでもして見せましょう。


 父親はまだ小さい彼に向かって弓を弾きます。当たれば一撃、躱す方法はありません。彼はその喜びにより笑みを浮かべました。引き絞られた弦から矢が放たれました。風を切り彼に向かって飛ぶ矢は一秒もかからずに彼の命を奪うでしょう。

 

 しかし、放たれた矢が彼の脳天を貫くことはありませんでした。目の前に立ちはだかった彼の母(・)親(・)が彼の前に立ちはだかり壁となることで矢を防いだのです。心臓を貫かれた彼女は彼の手を引くと一目散に彼らから逃げ出していきます。その速さは野生動物も驚きの速度、木々の隙間をすり抜けあっという間に離れていきます。その後姿を見た父親は弓を弾き彼女に向かって放ちます。弓の名手である彼の一撃は見事背を貫きました。しかし、彼女の速度が落ちることはありません。なぜ動くことができる、心臓を貫いたはずだ。そう呆けているうちに彼女は矢の射程外から姿を消し、見えなくなってしまいました。


 彼らは家に火を放ち、里に下りて里の者たちにこう言いました。


「あの二人は殺した。死体を焼くことで二度とこの世に戻ってこれないようにした」

 

 死体を人為的に破壊された者は天国に行くことが出来るもう二度とこの世界に戻ってくることはできないとされています。もう二度とあの異形の者が生まれることはない。そう思った里の人々は改めて彼らを里に迎え入れます。そして彼らは里での地位を取り戻しました。それから家族は里の重役として笑顔で過ごしましたとさ。まるで二人の存在などなかったかのように。


 一方で二人は一晩中山の中を走り続けました。そして地平線の向こうから太陽が顔を出した頃。彼女はゆっくりと足を止め始めます。どうしたのかと顔を覗き込んだ彼は子供ながらに恐怖しました。その顔は白く口からは血が流れ出てとても生きている人間の顔ではなかったからです。足をそろえ完全に立ち止まった彼女は崩れ落ちるようにして座りこみました。半死半生の彼女は彼に向かって小さくつぶやきました。


「あなたは生きなさい。生きていればきっとあなたを受け入れてくれる人が現れるはずだから」


 心臓を貫かれた彼女がなぜこれほどまでに動くことができたのか。ビーストの生命力でしょうか。いえ、動くことのできた理由は偏に深い愛、でしょう。


 最後にそう告げた彼女がそれから動くことはありませんでした。何度呼び掛けても動くことはありません。揺すっても、叩いても、覗き込んでも、彼女が答えることはありませんでした。子供ながらに彼は悟りました、死んでしまったのだと。もうここにはいてはいけないのだとも。


 彼は背を向けると駆け出しました。涙で前が見えず何度も木にぶつかりながら走りました。そして彼は母親の言う通り必死に生きました。泥水をすすり、木の根を食べ、異形を殺そうと襲い来るビーストの者たちから逃げながら。何度も諦めかけました。しかし、彼は生き続けました。母との約束を守るためです。唯一、自分を愛してくれた母との約束を破ることはできませんでした。


 そして母の死から十九年。彼は成長し、険しい山の中で孤独とともに暮らしていました。幸いなことに彼は父親譲りの弓の才能と異形としての地力、そして先天性の技能(スキル)を持っていたので、この厳しい環境下で難なく生き抜くことができていました。


 しかし、生きれば生きるほど彼は母の言ったことがわからなくなっていくのです。彼を受け入れてくれる人は全くいなかったのです。ビーストに会えば問答無用で殺しにかかられ、ヒュームやドワーフに会っても体の気味の悪さから遠ざけられる。疎外された十九年を過ごし、彼は山の中に籠ってしまったのです。


 彼は一人山の中で待ち続けるのでした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。