第五十一話 町での買い物、楽しみました。
あ、そういえば五十話超えたんですよね。
ここまで続けることが出来たのは皆さまが見てくださっているおかげです。
これからも読まれるように、そして閲覧数が増えることを祈って頑張っていきたいと思います。
ゲボリストの無差別爆撃を受けたユウキは次の日、汚された服を見せつけながら彼の物の腹部に鉄拳を叩きこんだ。腰の入った怒りの一撃は恐るべき高さを誇る鬼の防御を貫き二日酔いの身体に嘔吐を誘発させた。
その後、服装を新たにした二人はキャリィの店に向かっていた。すべての原因を作った元凶のもとへカチコミかと思うかもしれないが今回は正式な理由があっても向かっている。最も正式な理由がない限りカチコミなどするわけがないのだが。
彼から昨日飲み会で聞いていた建物にたどり着く。その建物は比較的周りの建物よりも大きく、煙突からはモクモクと煙が上がっている。小さく入り口の隣に建てられた立て看板は自分の腕の自信の表れだろうか。
中に入ると数々の武器が、壁に掛けられ棚に並べられている。一目で品質がいいと分かるわかるそれらを見てカナタは目を輝かせ興奮した様子を見せている。既にユウキのことなど見えていないのか、武器の前に行っては手に取り眺める、これを繰り返し続けている。
そんなカナタを気にすることなくユウキは目的の人物に近づいていく。
「おう、らっしゃい。……ってなんか服装変わってるな。なんかあったのか?」
「どっかの誰かさんがモンスターみたいな酒をぉ、がばがば飲ませたせいでまたまた誰かが俺の背中の上でゲボったんだよぉ?」
ユウキは首を曲げハイライトの消えた目を見開きながらキャリイを睨みつける。しかし彼にとってよくあることなのか暖簾に腕押し、どこ吹く風。全く気にした様子はない。これ以上の恫喝は無意味だと判断したユウキは大きく息を吐いて気持ちを切り替えると、本題に入る。
「そんで、何かいるんか?」
「……ああ、ちょっとほしいものがあって」
不機嫌さは残るがそれを彼にぶつけることはない。
「メリケンサック、みたいな非殺傷武器が欲しいんだけどなんかないか?」
「非殺傷武器ぃ?あるにはあるがそんだけ武器があってさらに持つんか?」
確かにユウキは大剣、片手剣、大量のナイフと大量の武器を携行している。これは他の冒険者と比べても多く、ここまで携行するということはあまりいない。それでも求めるのは理由がある。
「いや、喧嘩の時に遠慮なく使える武器が欲しいんだよね。ナイフ持ち出して戦う喧嘩するわけにもいかんし」
ユウキはこちらに来て何度か喧嘩を経験している。その際に使用できる武器が欲しいとずっと思っていたのだ。無くても別に困ることはないのだが、あればあるだけアドバンテージになる。せっかく鍛冶などに優れたこの街に来たのだから、ここで手に入れておこうという魂胆である。
「仕方ねえな……。ちょっと待っとけよ」
そういうとキャリイは弟子の少年を引き連れて店の奥へと引っ込んでいく。それを見送ったユウキは暇つぶしにカナタのほうを向く。カナタは壁に掛けられた剣や槍、メイスなどを手に取ってじっと見つめている。その表情は真剣そのものだった。
(あいつから見て、俺の武器ってどうなんだろうな……。いや、それを聞くなら普通キャリィからか)
ユウキの大剣は圧倒的にこの世界にとって異質な存在である。どんなに乱暴に扱っても傷一つつかず、刃こぼれは無し、極めつけはユウキでなければ持ち上げることはできないこと。武器のプロたちから見てこれはどうなのだろうか。などと考えていると奥から武器を抱えたキャリィ達が戻ってくる。手に抱えたものをカウンターに置くと見えるようにキッチリと並べていく。
「とりあえず今ある分はこれだけだ。適当に見てみろや」
置かれた武器の数々を手に取って確認していく。彼の隣にはいつの間にかカナタが立っており、ユウキと同じように武器を手に取り眺めている。その嗅覚には舌を巻くしかない。呆れた様子でカナタを見ていたユウキは視線を武器のほうに戻し、時間をかけじっくりと使い勝手を確かめていく。が、どれもこれもいまいちしっくりこない。鞭や棍棒、変わり種ではヌンチャクがあったがそれもはまらない。今回狙っていたメリケンサックも手にはめてみるとこれじゃない感が強い。
あてが外れたユウキは武器を置き、キョロキョロと視線をカウンターの裏に走らせていく。正直もう別の店に移動したい気分であったが、隣で楽しそうに武器を眺めているカナタを引っぺがしてまで店を変えようとは思わない。満足するまでは眺めさせようと思いながら、カウンターに寄り掛かり店の奥を眺めていると面白そうなものが映る。
「なんだ。お気に召さなかったか?」
「ああ、ところであれ何だ?」
ユウキはカウンターの奥、壁に掛けられたものを指さす。指さされたものをキャリィはもってカウンターに置いて見せた。極細の鋼線が編み込まれた、俗にいうワイヤーといわれる代物であった。長さはおおよそ五十メートルほど、太さは五ミリほどでグルグルと巻かれコンパクトにまとめられている。
「俺が暇つぶしに作ってみたんだがな、手間がそれなりにかかったもんで値段をそれなりに高く設定したらだれも買わねえんで引っ込めてたのさ」
「……いくらよ?」
「おおよそ四万だな。買ってくれるってんなら多少値引くがそれでも三万五千までだな」
ユウキはワイヤーを手に取り感触を確かめながら唸る。ワイヤーは非常にしなやかで全力で引っ張ってみてもびくともしない。しなやかさが功を奏して小さく纏めることも容易い。確かに値段相応の高い性能ではあるが、ロープを三千フェズで買えるのにこいつを買う必要性はなく、また別のところで必要になっても、他の物で代用が効くため、四万フェズという大金は足踏みしてしまうだろう。これだけあれば一般人は二十日は暮らせるのだ。ユウキとて即答はできない。購入するかを額を抑え考えこんでいるとキャリィが口を開いた。
「そういや話は変わるんだけどな。ちょっとお前さんにお使いを頼みたいのよ。ちょっと俺は手が離せんから下のほうに降りて必要な鉱石をとってきてほしいんだよ。小遣いも出すからよ。どうだ?」
「そんなんだったら構わんけど……。下って何?」
「そりゃお前……、街の中心に行ってみればわかるさ。それじゃ行ってきてくれ。下のやつらにこれ見せればもらえるからよ」
そういって差し出された紙切れを受け取ると、武器を眺めているカナタを置き去りにして店を後にする。小走りで町の中心に向かっていくとギルドの集会場以上の巨大な建造物があった。明らかに他の建物とは一線を画すほどの大きさの建物に気付かなかった自分の注意力に呆れながら建物の中に入っていく。中は思った以上にシンプルで十個ほどの扉がついている程度。だが、その扉からはひっきりなしに人が出入りしている。
ユウキが近くにいた男を捕まえ紙切れを見せると、いつものことなのか淀みなく対応してもらえる。
「ああ、キャリィんとこか。ちょっと待っとけ」
ユウキから紙切れを受け取ったドワーフの男は扉のほうへ向かって歩き始める。ユウキもその隣を歩き始める。
「俺もついていっていい?」
「構わんが……、見ても面白いもんじゃねえぞ?」
「ダイジョブダイジョブ。暇つぶしに見たいだけだから」
ユウキがそういうと、男は止めることなく同行を許可した。扉の前でパイプに何か話した後、手動で扉を開けるとその向こうはまさかの行き止まり。扉とその向こうの行き止まり、そして下というキーワード。この三つでこの後何が起こるかの予想がついたユウキは軽い足取りで扉の向こうに飛び込む。再び扉が手動で閉められると、その数秒後、身体が浮遊感に襲われた。内臓が持ち上げられるように浮遊感にユウキは懐かしさを覚えた。これは間違いなく昇降機。向こうでは一般的だった移動手段である。出会えるはずがないと思っていた技術との邂逅に、ユウキは知らず知らずのうちに安心感を覚えていた。
浮遊感から十数秒後、浮遊感が消えユウキ達の乗る箱自体が停止する。扉が開かれるとその向こうでは大量の鉱石が乗ったトロッコをえっちらおっちら押し引きしている男たちがおり、さらにはアリの巣のように四方八方に洞窟が伸びていた。
「わお。ここで鉱石を掘ってんのか」
ユウキのつぶやきに反応したドワーフの男が説明口調でしゃべり始める。
「おうよ。上のほうで使われてる鉄やらなにやらは全部ここでとれたもんなんだぜ。ここはとんでもなくデカい鉱床なんだ。いまじゃこの採掘場、街よりもでかくなってるって話だ。……っとそんな話はいいな。ちょっと待ってろよ」
そういうと男はユウキから離れていき、袋の中に鉱石をどんどん入れていく。二つ、三つと増えていき最終的に袋の数は五個となった。
「これで全部だ。台車を貸すか?」
「頼むわ。何回も行き来すんのはさすがにねえ」
再び鉱石の入った袋とともに上に上がったユウキは台車を借りてそれに鉱石を載せていく。中身がずっしりと入った袋は非常に重く、一つ持つので精一杯。台車がなければ終わっていただろう。
積み込み終わったユウキは男に挨拶をして台車を引き店に戻る。ガラガラと台車を引いていると、ふとあることを思い出し目的地を一時変更する。数分もしないうちにたどり着き台車から離れ建物の中に入っていく。その建物の名前は集会場であった。
「おう、戻ってきたな。どこにやった?」
「裏に台車ごと置いてあるよ。後で台車は返してくれって」
「いつもんとこだな。了解だ。ほれ駄賃だ」
ユウキはキャリィから小さな袋を受け取った。中身を確認すると五千フェズが入っていた。それを手の内で弄んでいるとキャリィがユウキに切り出す。
「そんでどうだ?買う気になったか?」
彼の手にはワイヤーが握られており問いかけるように上下にクイクイと動かしている。それを見てユウキは大きく息を吐いた。
「よく言うよ。弟子じゃなくてわざわざ俺に行かせたのも駄賃を渡して買わせるだろうがよ。おらっ、さっさとよこせ」
「わかってるじゃねえか。三万フェズでいいぞ」
「もってけ泥棒!」
ユウキは先ほど受け取った五千フェズ含めて三万フェズを叩きつけるようにカウンターに置くと、その代わりとしてワイヤーを受け取った。ワイヤーを防具代わりに腹部に巻き付けると、余った部分をポーチの中に無理やり詰め込んだ。
「そんじゃ俺たちはお暇するよ。また今度」
「おう。また今度呑もうぜ」
「もうてめえとは二度と飲まねえからな」
未だに武器を見続けていたカナタの首をひき、店を後にした。一体何がそこまで武器に執着させるのか。店を後にして少し後。
(あ、本題買うの忘れた……、まあいいか。銀貨握って殴れば)
目的のものを買い忘れているのを思い出したが、引き返すのも面倒くさいうえ、それ以上に汎用性に富んだものを手に入れたため、購入自体を辞めた。




