第三話 戦闘、はじめました。
このまま投稿して十万字行くのかしら……。もちっと更新ペース上げなきゃ……。
あ、第三話です。
(まさかこんなことになるとは……。まあ、ある程度予想してはしてたけども……)
五体のゴブリンに囲まれたユウキは唯一囲みの甘い、後ろにゆっくりと後ずさりしながらゴブリンたちの出方を伺う。ゴブリンたちは手に持った石造りの剣を構えながらじりじりとユウキとの間合いを詰めようとしている。
がその分ユウキも下がっているためか、なかなか距離を縮めることができていない。少しずつだがゴブリンたちの表情が気味の悪い二ヤついた顔からイライラとしたものに変わっていく。ユウキはその表情を見ながら対処法を考えていた。
しかし、そう長くは考えていられないことも理解していた。両耳で捉えているガサガサという藪が揺れる音。ユウキにはそれが雄たけびの返答相手であるということがすぐに分かった。その音はどんどんとユウキに近づいておりこのままでは目の前の一団に合流されるのも時間の問題だった。暢気に構えている場合ではない。ユウキは頭をフル回転させこの状況の打開策を考え始める。
足を止めてこの集団と戦い始めるのは論外。その結論に辿り着けばもはや餓死よりも間抜けである。後ろに下がるのは無防備な背中を切ってくださいと言いながら敵に近づいていくのと同義である。切りかかられたら足を止めざるを得なくなり完全に囲まれてしまう。もしそうなってしまえば背中に眼のないユウキは背後からの攻撃に対応できずにたちまちゴブリンたちの餌になるだろう。残った選択肢は強行突破のみ。リスクはあるが、ユウキが思いつく手段はこれしかなかった。
ユウキは剣に手をかけたままゴブリンに向かって突進を始める。いきなりの突進にユウキの左右に展開していたゴブリンたちは対応が遅れてしまう。唯一反応したユウキの正面、リーダー格のゴブリンはユウキの動きを止めるために脛に切りかかる。が、謎の金属で丈夫に作られたブーツの前に刃は止められてしまい根元から折れてしまう。また準備無く反射的に剣を降ったため威力が小さく脚の動きを止めることもできない。走るユウキは足の動きと突進の推進力を利用してゴブリンに蹴りを繰り出し吹き飛ばす。
こうしてできた穴を通り抜けてユウキはゴブリンの包囲網を突破する。包囲網を突破したユウキを見たゴブリンは雄たけびとは違った悲鳴を上げる。その声を聴きながらユウキは走る速度を上げ、ゴブリンたちを振り切るために走り続ける。ユウキの走る速度は決して遅くはない。むしろ一般より少し速い。それにゴブリンとユウキでは体躯にも大きく差があった。ユウキとゴブリンたちの距離はどんどんと離れていく。その距離はおよそ五十メートル。距離のアドバンテージはユウキが後ろの様子を確認できるほどの精神的余裕を生んだ。後ろには先ほどの五体から増え総勢十一体でユウキの背を鬼の形相で追ってきていた。
少しの間走り続けているといつの間にか森の出口にたどり着く。森の外は相変わらずの草原。だが開けた場所に出たため、人に見つけてもらえる可能性が比較的高くなった。ユウキは希望的観測を持ちながら、ゴブリンたちの様子を窺うため、走ることに全力を注ぎながら後方を確認する。
すると振り向いている最中、ユウキの顔の真横を高速で飛ぶ矢が通過した。後方を確認するとゴブリンのうち一体が弓を構えていた。彼が矢を飛ばしている。戦闘経験の無いユウキにもそれだけはすぐに理解できた。この矢の影響でユウキの走る速度は先ほどとは比べ物にならないほどに遅くなった。弓兵の矢の精度は高いとは言えず八割が明後日の方向に飛んでいく。しかし残りの二割が問題だった。その二割がユウキの急所をえぐり取ろうと正確に飛翔する。戦闘経験の無いユウキはそれを大きく避けてしまうため、いちいち足を止めてしまう。そのため残りの十体との差がどんどんと詰まっていき、一時は五十メートルほどあった差が十メートルほどまで縮まっていた。
流石に危機感を覚えたユウキは背中の大剣や腰の剣を抜くことも考慮に入れ始めた。弓を躱しながら走り続けるユウキとの距離をゴブリンたちは着実と詰めていく。そしてついにゴブリンの内の一匹がユウキに追いつき、飛びつきながら剣を振り下ろした。
ゴブリンの一撃をユウキは腕につけた籠手で受け止める。ゴブリンの重さで倒れこみそうになるが必死で耐え、倒れずに押し出すようにしてゴブリンを吹き飛ばす。しかし一度、完全に足を止めてしまったため、残りのゴブリンたちにも追いつかれとうとう周囲を取り囲まれてしまう。前後左右、まんべんなくユウキの周りを取り囲んでおり、穴どころか、穴を作ることのできる隙すらない。
囲まれてしまったユウキは背中の剣ではなく枝分かれした剣を腰の袋から引き抜く。これには理由がある。今のユウキに三百六十度カバーするための技量はない。だが大剣を背負っておけばとりあえず背中をカバーすることができる。しかしこれは無いよりまし程度の力しかないがこれでも今のユウキには心を許すことのできる対抗策であった。
剣を袋から引き抜いていると、ゴブリンが一体ユウキに向かって飛び掛かる。逆手で持った剣を突き立てるゴブリンの行動をとっさに見切ったユウキは居合抜きのように袋から剣を抜き放ちながらそのまま空中に止まっているゴブリンに向かって剣を振る。空中で身動きの取れなかったゴブリンは抵抗することができないまま胴体を切り裂かれ、絶命する。
この光景を目にしたゴブリンは声を上げることなく、二人がかりで背後から切りかかる。が、それに気づいたユウキは振り返ることなく、海老のように大きくバックステップを刻む。意識外の行動に驚きながらもゴブリンたちはとっさに大きくなるユウキの背中に剣を突き立てる。しかし、その一撃はユウキが背負っていた大剣に阻まれゴブリンはユウキのバックステップによって弾き飛ばされる。
三体による戦闘を終えたユウキは一度状況確認のため、顔を上げ全体を見回す。現在ユウキの周りを囲んでいるのは九体。その外側では弓兵がユウキの死角に入り込むように動いている。すでに矢を番えておりいつでも打ち出せるように構えている。このままではまずいかもしれないとユウキは対抗策を考えようとするが、飛び掛かってくるゴブリンたちがそれを許さない。が、ユウキとて防戦一方になるつもりはなかった。ゴブリンの飛び掛かりに合わせてユウキは胴に狙いをつけて剣を振る。剣を振り上げていたゴブリンはガードもガードもできずにゴブリンの上半身と下半身は別れを告げる。その陰から現れたゴブリンの攻撃をユウキは後ろに下がることで回避する。すると、今までユウキがいた場所に矢が飛来し、切りかかったゴブリンの頭に命中する。得てせずして同士討ちを成功させたユウキ。
しかし、地に倒れ伏したゴブリンには目もくれずユウキは他のゴブリンに目を向ける。音を立てて落ちた肉塊が動き出すことはない。こんなも切羽詰まった状況で死んだゴブリンに向ける余裕は今のユウキに存在していない。早くも三匹が倒れてしまったことに流石にゴブリンたちも動揺し始め、後ずさりを始める。
しかし一人の人間を相手にして二桁の人数で襲い掛かりやられて引くなど、ゴブリンのちっぽけなプライドは許さなかった。気が引けていたゴブリンたちは雄たけびを上げ無駄に士気を上げ再びユウキに向かって飛び掛かった。
ユウキとゴブリンたちの剣を使ったやり取りが五分ほど続いた。ゴブリン側はさらに二匹死に、ユウキの方はぎりぎりで回避を続け、傷こそないものの緊張と走っていた時の疲れの蓄積で息が上がっており、剣を持つ手がかなり下がっていた。向こうの世界では帰宅部だったユウキは運動する機会が少なく、体力が常人より少ない。そんな彼に重い荷物を背負いながら、絶えず動かせ続けるのは酷であろう。
唐突だが、ここで戦闘のお互いの勝利条件を確認しておこう。ユウキの勝利条件はゴブリンをすべて倒すか逃亡すること。どちらも今のユウキの体力では少々厳しいものがあった。対してゴブリンの勝利条件はユウキを殺すこと。一体でも残っていればその一匹が剣をユウキに突き立てればそこで終わり。ユウキを殺すのに人数はいらない。よって今、この場所ではゴブリンの数を減らすことが出来ており傷の無いユウキの方が不利であるという奇妙な状況が成立していた。
ユウキは呼吸を整えるために距離を取ろうとするが、ゴブリンの飛び掛かりで迎撃せざるを得なくなる。腕にしがみ着いたゴブリンを振り払おうとするががっちりと組みついたゴブリンは腕を二、三度振った程度では振り払うことはできない。ゴブリンは組みついたままユウキに剣を顔に突き立てる。攻撃を籠手で受けることのできないユウキは顔を咄嗟に横にずらすことで回避する。避けたユウキは腕を振り上げゴブリンをパワーボムの要領で地面に叩きつけ絶命させる。絶命したゴブリンは腕にしがみつくことが出来ず地面に投げ捨てられる。
が、この間に他のゴブリンたちが体勢を立て直し、ユウキの周囲を取り囲みなおす。振り払ったばかりで体勢の整っていないユウキの頬を矢がかすめる。その痛みはつい先ほどまで一般人だったユウキには堪えたのか頬を抑えながらよろめく。ここぞとばかりにゴブリンたちは猛攻を仕掛け、ユウキを追い詰めていく。
ユウキも籠手や剣を使い精いっぱいの防御をするが手数に押され徐々に体に生傷が増えていく。動きがさらに遅くなったところでゴブリンたちはとどめを刺そうと囲んで一斉に剣を突き立てようと跳びかかった。もうユウキには先ほどのように機敏に動けるほどの体力は残っていなかった。肩で呼吸をし片膝をついている。足は鉛がついているかのように重く燃えそうなほど熱くなっている。顔どころか全身が汗まみれで、何滴かが地面に滴り落ちている。
しかし、ユウキも抵抗なくみじめに死ぬわけにはいかない。ユウキはギリギリまで引き付けると背中の大剣を横薙ぎに一閃した。予想外の広い間合いにゴブリン二体は対応できずに胴体から血を吹き出し、地面に落ちる。が、残りの二体は剣の振りに合わせて後ろに跳ぶことで回避した。残りのゴブリンは三体。戦闘経験なしにしては上出来であるといえるだろう。しかしユウキの体力はここで限界を迎えた。大剣を持つ手が震え、持っていた二振りの剣は重力に従い手から離れ重い音を立てて地面に落ちる。その様子を見てゴブリンたちはあざ笑うかのような下卑た笑い声をあげる。ゆっくりとユウキのもとに歩みを進め、武器を無防備になった体に突き立てようとする。
ユウキも剣を拾い、必死の抵抗を見せるが流石にゴブリンもそれが虚勢であることが分かったのか、歩みを止める様子はない。もうだめかとユウキは心の整理をつけ、目をつぶる。そして体にやってくるであろう痛みを覚悟した。
痛みがやってくる気配はない。代わりにボトリという音が聞こえる。何事かと思い、ゆっくりと目を開けると、ユウキの目の前には胸を矢で貫かれたゴブリンが倒れていた。さらには明らかにゴブリンではない何者かがユウキのことをかばうように立ち塞がる。それを見て少なくとも敵対勢力ではないことを察したユウキ。極度の緊張状態に包まれていた思考は解放され、背中を見せていた人の伸ばした手を取ることなく意識を手放した。
今回は本当に難しかった……。




