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冒険、始めちゃいました。  作者: カイナベル
第一章 始まりの町編
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第十話 昇級試験、始まりました。パート1


 

「よぉっし!」

 

 雄叫びを上げた二、三度頬を張って気合を入れて森の中に足を踏み入れた。不意打ちを基本としていたユウキがなぜわざわざ自分の位置をばらすようなことをしたかというと理由がある。今からこの森の中でゴブリンを探さなければならないのだが、この広い森の中でゴブリンを探すのはなかなかに骨が折れる。だったらわざと大きな声を立てて、向こうから近づいてくるのを誘発したほうが早い。彼らはよほどの実力差がない限りは冒険者であろうと一人で行動している者に近づいてくる。一か月間で地力を伸ばした今のユウキであれば苦戦することなく攻略することが出来るだろう。


 ゴブリンという生物はモスボアーよりも総合的に弱い。ユウキ個人としても単体での強さはモスボアーに軍配が上がる。彼自身、モスボアーの連携攻撃を経験しゴブリンの三体程度の討伐を何度もこなしている。ではなぜモスボアーと違って、ランク昇級試験のターゲットになっているのか。それは偏に連携が厄介だからである。一か月間活動をしてユウキが確認しているのは、弓を持った後衛にあたるゴブリンと剣を持っている前衛にあたるゴブリン、そして投石などのその他の行動をするその他だ。ゴブリンは基本単独で行動するモスボアーと違い、部隊ごとに行動し、数が増えるごとに足し算あるいは掛け算のように戦力が増大していく。一人で行動しているユウキにとっては単体性能よりそちらの方が厄介だった。

 

 今回の進級試験はユウキ一人のため出来ることは限られてくる。最終的に取れる手段としてはごり押し。早退したゴブリンたちの後衛を出来る限り早く殺して、その後前衛を仕留める。これに限る。

 

 神経を集中させて、環境の変化を五感で捉えていく。草木の揺れる音を耳で敏感に感じ取り動く影を目で捉え、少しでも変化があればその方向に反応を見せる。こうやってゴブリンたちを探していたところでふと一度五感に集めていた集中を解き、周りを見渡してみるとかなり奥地に入り込んでいた。一か月毎日のようにここに来ていたユウキですら見覚えがなかった。なぜか嫌な予感がし、目印をつけるために背中の大剣で木に大きく目印としてのバツ印をつけ、近くの木の枝を斜めに突きさした。目印としてわかることを確認したユウキは大剣を背中にかけ再び歩き始める。

 

 再び周囲を注意深く観察しながら歩いていたユウキは視界の端で草が揺れるのを視認する。反射的に木の陰に隠れ、剣を背中から引き抜く。こんな奥地に冒険者はほぼいない。ということは動く物体に躊躇なく剣を振り下ろしていいということになる。草木の向こうから音の正体が姿を現す。今回の依頼対象、ゴブリンであった。ユウキは飛び出してその脳天に大剣を叩きこみたかったが、それでは最大のアドバンテージを取ることが出来ない。衝動をこらえてじっとゴブリンたちを観察した。前衛が四、後衛が一。一番後ろに控える後衛を一番最初に仕留めるべきだと判断したユウキは隠れたまま、観察を続けた。

 

 しかし、観察しているうちにゴブリンたちの行動に違和感を感じ始める。焦っているような、急いでいるような雰囲気であり、進行方向とその逆のみをキョロキョロと交互に見ており、それ以外が目に入っていないかのようである。何事かと思うユウキであるが、考えてみるとこれは好都合である。そのまま音をたてず迂回しながら後衛に近づいていく。

 

 大剣に手をかけたユウキは声を発さぬまま全身を矢のように弾き飛ばして弓持ちのゴブリンに飛び掛かる。焦りで周りが見えていなかったゴブリンは、突然の襲撃者に体を硬直させる。標的である弓持ちは命の危機を感じとってしまい矢を放って迎撃しようとするが、ユウキはすでにゴブリンを自らの間合いに入れている。

 

 構えた大剣を縦に振り下ろすとゴブリンが左右に別れる。二つに分かれたゴブリンが倒れる音で正気に戻ったのか、やっと前衛のゴブリンが剣を構え戦闘態勢に入る。が、手遅れである。ユウキは振り下ろした剣をそのままの勢いで横なぎに振り払う。すると、運悪く横並びになっていたゴブリン二体がその凶刃に晒され、剣での防御の甲斐なく二体同時に見るも無残な姿へと変わった。

 

 ユウキはすぐさま残りのゴブリンたちを見ると剣を構えながらも後ずさりしており、少しでも刺激したらそのまま逃げだしそうであった。彼らの表情は無意識のうち恐怖に染まっており、足は震えている。もっとも何かしらに追われている状況で目の前でいきなり味方が真っ二つにされたら逃げたくなるのは生物としては当然の感覚である。

 

 だがユウキに手加減の二文字は無い。無慈悲に大剣を構え襲い掛かるユウキはゴブリンには餌や玩具などではなく、恐怖の象徴でしかなかっただろう。

 

 大剣を肩に担いですぐにでも走り出せるように構えたユウキは、足に力を込め一直線に跳びかかると二体のうちの一体の頭に大剣を振り下ろした。それを間一髪で避けたゴブリンは恐怖が限界を超えたのか自衛のための剣すら投げ捨てて一目散に駆け出そうとした。しかし、それを素早く察知したユウキは地面にめり込んでいた大剣を無理やり振り上げゴブリンに向かって投擲する。大剣は回転しながらゴブリンに迫っていき、狙ったかのようにゴブリンの上に着陸した。その衝撃と大剣自体の重さで地面にへばりついたゴブリン。しかし、まだかろうじて息はある。それを見たユウキはとどめを刺すためにそのゴブリンに駆け寄り、無防備に晒された頭に向かってドロップキックの要領で踏みつけを繰り出した。踏みつけに耐えられなかった頭は脳漿を地面にぶちまけ地面を赤色に塗りつぶす。

 

 残るは一匹。その様子を確認するためにユウキがそちらを向くと、最後のゴブリンはすべてを見捨てて逃げ出していた。ここで逃がすことになれば追うのにかなりの時間を有すると察したユウキは本能のままに走り出しゴブリンの手放した剣を手に取るとそれをゴブリンに投げつけた。


「逃げんな、ゴラァ!」

 

 しかし、投擲した剣はゴブリンを掠めるだけで当たることなく地面に突き刺さった。ゴブリンとユウキの距離は相当離れてしまっており、追おうと思えば追いつけるが大幅なタイムロスになってしまうだろう。ユウキはあれを追うことを諦めて他のゴブリンたちの後始末にかかることにした。


「……チッ」


 しかし、ゴブリンを逃がしてしまったことで手間が増えてしまった。そのことを思うと自分に腹が立って仕方がない。ユウキは憎々しげに舌打ちをした。



 

 

 ゴブリン四体を早々に片づけたユウキは目の前のゴブリンから証拠となる死体の一部を剥ぎ取っていく。これを七体分集めることで今回の依頼達成の証拠となる。(それが既定の数に見合っているかは信用で判断される)狙うのは歯と耳。小さくて軽いため持ち運びにも便利である。ゴブリンの素材など何にも使えないため、わざわざ大きい部分をはぎ取る必要などない。四体分剥ぎ取ったユウキはそれをリュックにしまうと別のゴブリンを探すため、そしてあわよくば先ほど逃げたゴブリンを見つけるためにその方向に向かって歩き始めた。 

 

 

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