理想のヒロイン(棒読み)
岩が。喋った。といっても岩に口ができて喋っているわけでじゃない。
テレパシーのように頭の中で直接話しかけている、と言ったところだろうか。
でもなんで?ただの落石じゃなかったのか?
落石をおこした当人であるハチを見てみるが。なんか虚空を見上げて笑ってる? どうした怖いぞハチ公。
「確かに私はただの岩だったはずです。どうしてこうなったのか私にもわかりません。ただ、気が付いたらあなた様がその棒で私を持ち上げようとして諦めたところろでした。」
俺の心の声に答えるように岩が言う。心まで読めるのか?
「すべての心が読めるわけではありません。たぶん読めるのはサトミ様の心だけではないかと思います」
「俺の心だけ……? 」
俺はちょっと思いついて身分証明書を確認する。すると思った通り、アイテム欄「予言の岩」の記載。
予言の岩なら口をきくこともあるだろう。そうでなければ予言することはできない。心を読むことだってできても不思議ではない。
「たぶんですが、その棒で私を持ち上げようとして少しだけ浮いたことが「投げた」とカウントされ私を「予言の岩」に変えたのではないかと」
なるほど、そういうことなら……て、ちょっと待て、俺が投げたらアイテムが進化することまで分かってしまうのか?
「申し訳ありません」
すまなそうに謝る予言の岩。
石を投げてアイテムに変えることは岩の前で1度とて考えたことは無かった。にもかかわらず岩はそれが分かったという。これは心がわかる程度の騒ぎではないのではないのだろうか。
「そうですね。どうやら私にはサトミ様の潜在的な記憶すら読み取ることができるようです。たぶんこの世界、いえ元の世界を含めて、サトミ様をもっとも深く理解しているのは私ではないかと」
なんてことだ。この世で一番俺のことを理解してくれる存在が現れるとは。
これが人間の女性ならお付き合いを申し込みたいところだが残念ながらただの岩。なんとか女体化できないものだろうか。
「女体化は無理です」
きっぱりと答える予言の岩。
ああ、そうですか。
岩は自分に意思が宿った直後は混乱していまい、事態を飲み込めるまで黙って俺を見ていたこと。
「???の棍棒」で殴られたら壊されてしまうので声をかけたこと。
黙っていてすまなかったと謝られた。
謝られても俺は別に嫌な思いはしてないので許してあげることにする。正確に言うと野鼠の死体を見るはめになって不快な思いはしてるけど、それで岩を責める気にはならない。
「俺の潜在的な意識まで読み取れるということは、俺の元いた世界の記憶も読み取れるのか? 」
さっきこいつは「元の世界を含めて俺のことを一番理解してる」といった。なら俺の忘れてる記憶も読み取れる可能性がある。たいして期待してないが聞いてみる。
「そうですね。わかりますよ」
しかし岩はあっさり答えた。て、分かるのかよ。
「ただ、それを正直に答えてよいのかは判断しかねます。サトミ様の過去は何種類かありますので」
「? 」どういうことだ? 俺の前世がいっぱいあるとかそういうことか?
「そうではありません。サトミ様のこれからの行動が過去を決めるということです」
過去を決めるって? 決めるも何も過去があるから今があるんじゃないのか?
「違いますよ。サトミ様は「忘れられた神」ですから。今の行動が未来に、そして過去にも影響を及ぼすのです」
よくわからないが、今の俺が「忘れられた神」であることが影響しているそうだ。
現在過去未来が同時に存在するっていうと4次元とか?
4次元というのは縦横高さの3次元に時間がプラスされた世界だという。その世界では過去現代未来の時代が同じところに存在している。ならば現在が決まらなければ過去も未来も決まらないという考えもありなのかもしれない。
SFの聞きかじりだからはっきり言って自分でも何言ってるのか分からないけど。
神が4次元生命体ならそういう理屈も通る……のか?
「ちょっと何言ってるのかわからないです」
否定された。全否定された。俺のことを分かってくれる存在じゃなかったのかよお前。
「分かっても受け入れるのは別問題です」
俺から作られた癖に冷たい奴だな……
創造主に逆らうとは何事か。腑に落ちないものを感じつつ、これ以上聞いても無駄だと判断する。
よく分からないことはおいといて別のことを聞いてみることにした。
「ところで、「予言の岩」ってことは当然未来を予言するんだよな? 」
「そうです。ただ今の私はサトミ様限定でしか力を発揮できません。サトミ様は過去が確定してないので見える未来も少ないです」
過去が確定していない?また訳の分からないことを言いだした。いくら神って言ったって過去があって未来があるんじゃないのか?
「ですから、過去が決まらないと未来も決まってこないのです」
「むう」さっぱり分からない。
「今の私が分かることはハチ様が人を襲い、それを止めるためサトミ様がハチ様を撃つということだけです」
「は? 」
またとんでもないことを言いだしたぞこいつ。
思わずハチを見る俺。ハチは退屈そうに欠伸をしていた。




