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第2話 毛むくじゃらの化け物

「グロオオォーーッホッホッホッホーーッ!!」


洞窟に化け物の咆哮が響く。決して腹を空かして怒っているのではない。敵を見つけて威嚇いているわけでもない。笑っているのだ。化け物は腹の底から声を出して笑っているのだ。



あーっはっはっはっはーッ!

カレンとルイスのあの顔! あれだけ楽しみにしていた結婚式がめちゃくちゃになって、悲しみに染まったあの顔と言ったらもうっ! …ふ、ふふふふ、ザマーミヤガレ! 積もり積もった私の怨みを思い知ったか!!

…ふ、ふははは。

はーっはっはっはっはーーッ!!



「グロオオォーーッホッホッホッホーーッ!!」



化け物の不気味な咆哮が響く。

しばらくの間、化け物は気が済むまで腹を抱えて笑った。それはもう一晩中笑い続けた。

空の上まで届きそうな化け物の咆哮は、化け物がいる洞窟の山の麓を通った旅人の耳にまで届き、それを聞いた旅人はその不気味な咆哮に震え上がったという。






「グホッ…グロホッ! ゲホッ、グロォッ…!」


ゲホゲホッ……あー喉痛い。一晩中笑ってたら喉枯れたわ。水飲みたい。


化け物は太い首をさすりながら、自分が作ったクレーターから湧き出る水場へ近づいた。

先ほどまで水柱を上げて大量の水を噴き出していたが、今はいい感じに凹んだクレーターの真ん中から透き通った水がコンコンと湧き出るまでに治まった。湧き出た水で洞窟の床が水浸しになったので、化け物は自分の鋼より硬い爪で、クレーターから洞窟の外までゴリゴリと地面を削り、水の逃げ場を作った。

これで手作りの簡易水場の完成である。


化け物は両手で水をすくって飲もうと、自分の両手を伸ばして固まる。


………毛だらけじゃないか。


なんだこの毛むくじゃらの手は。こんな手で水をのんだら腹を壊すに決まってる。明らかに不衛生だ。誰かカップをくれ。


化け物はキョロキョロと洞窟を見回す。当たり前だが、カップもなければ誰もいない。化け物はしばし首を捻ると、おもむろに自分の顔を水場に近づけた。


コップが無いなら直接口で飲むしかない。


化け物は水場に顔をゆっくりと近づけると、シュバッと音が鳴るほど勢いよく身を引いた。


ーービッ…ビックリしたぁ〜……。心臓止まるかと思った。


化け物は後ろに手をつき、女の子の座りでドコドコ鳴る心臓に手を当てて乱れた息を整えた。化け物は水面に映った自分の顔に驚いたのだ。水を飲もうと近づいた水面に、角が生えた毛むくじゃらで赤い目をした化け物が、大きな口をうにゅ〜っとすぼましていたのだから心臓も止まりかけるというものだ。

化け物は恐る恐る水場に近づき。ゆっくりと自分の顔を水面に映した。


…………怖い。よく見るとますます怖い。

まず角だ。このデカイ角、表面はツルツルして、まるで黒曜石みたいに綺麗な漆黒の色をしている。売ったら高く売れそうだな…。

そして目。うん、赤い。血のように赤い。そして小さいくせに無駄にギラギラしている。大人でもこの目に睨まれたら間違いなく失禁ものだ。それから口……なんだこの裂けたようなデカイ口は。明らかに肉食だろう。歯が、いや牙? のひとつひとつが鋭すぎる! これは骨までボリボリ食べれますって言ってるようなもんだろ。鼻は…犬のような、いや牛かな。まあ、鼻はいいや。最後に毛。とにかく毛! ちょっと毛多すぎない!? 23の乙女にしては剛毛過ぎるよ??


化け物はふっさふさの自分の体毛を眺める。身体だけでなく、顔中ビッシリと生え揃っている。


ーーー何だこの生き物は。


化け物は自分の大きな分厚い手をにぎにぎさせる。毛むくじゃらの手に黒く鋭い爪が5本。人間と同じような形だ。足も同じ。毛むくじゃらで同じように黒い爪が生えた指が5本。化け物は体を捻り、自分の尻を見た。……尻尾だ。細く長い尻尾がゆらゆら揺れている。尻尾の先には、体と同じ黒い毛が固まりになって生えていた。


…これは明らかに人間ではない。今まで見たことがない生物だ。大きな2本の角に赤い目、牛のような顔に、黒い毛に覆われた体と長い尻尾。23歳、独身、人間の乙女ですと言っても誰も信じてくれそうにない。


ーーガクウッ!


化け物は膝から崩れ落ちた。大きな体を震わせ、赤い目から涙がボロボロと零れ落ちた。


ーーーははっ、何だコレ。私、化け物じゃん。


化け物は涙を流しながら乾いた笑いを浮かべた。



なんでこんな事になったんだろう。何がいけなかったんだろう。どうして私が? なんで私が!?

なんで私が不幸にならなくちゃいけないの? あの2人を呪ったから? これは人を呪ってしまった罰なの? 人を呪ったせいで、私も呪われた? そんな、たったあれだけの事で……? ………何でよ。何で私がこんな目に合わなくちゃいけないの!? やっと、やっと幸せになれると思ったのに…。それを、あの2人が壊した。…あの2人が、あの2人がいけないんだ!!


化け物は鋭い牙をギリッと鳴らすと、震える手をギュッと握った。


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