第8話 : リベンジと繋いだ手
(翌日——恒松都、南耀高校。放課後の屋上)
フェンスに背中を預けたミオが、缶ジュースを片手に死ぬほどおかしそうに爆笑していた。
「あはははは! ちょっとレオ、思い出すだけでお腹痛いんだけど! ヘルメット溶けたからって『顔見られたくない!』って必死で手で隠して、その隙にドカーンって殴られて吹っ飛んでさぁ!」
「……笑うな。正体がバレたら学校通えなくなるんだよ。ヒーローの社会的人権の問題だ」
レオは顔を真っ赤にしながら、屋上のベンチでスマホの画面を弄っていた。画面にはダ・ヴィンチが描き直したヘルメットの新しい設計図が浮かんでいる。
「しかも最後、自分が作った爆弾投げられて逃げられてるし! スターリンの先輩たちも『あの子、武器プレゼントしにきたの?』って呆れてたよ?」
「あれは不覚だっただけだ! ……だが、二度と同じ手は食らわない」
レオはスマホの画面を叩き、設計図のセキュリティ項目をアップデートした。
「ヘルメットのバイザーが破壊された場合、一瞬で顔全体を覆う非常用ナノ遮光幕を展開するように改修する。それと、手動型電撃爆弾にはダ・ヴィンチの生体認証アクセスコードを組み込んだ。俺の手首ガジェットと同期してない状態じゃ、ただの鉄くずだ。二度と悪用はさせない」
『補足いたします。すでに奪われた爆弾に関しましても、私の識別シグナルが微弱ながら発信され続けております』
デスク……ではなく、レオのスマホのスピーカーからダ・ヴィンチが無機質な声を挟んだ。
「マジで!? 追跡できてんの!?」
ミオが目を丸くする。
『当然でございます。レオ様の雑な管理によって奪われる事態は、確率計算上12%存在しておりましたので』
「予見してたなら止めてくれよダ・ヴィンチ!」
レオが頭を抱えたその時、ミオのポケットの中のスターリン専用端末がピピピッと高音の電子音を鳴らした。
ミオが端末を開き、ホログラム表示されたテキストに目を走らせる。表情から冗談めかした色が消え、引き締まったものに変わった。
「……上層部から連絡。南耀市第5プラント跡地に、昨日のバーナー野郎の潜伏先が特定されたって。スターリンより、南耀市担当ヒーロー『フラッシュ・アーク』およびレオへ、正式な初ミッションの発令よ」
「第5プラントか……ダ・ヴィンチの追跡シグナルと位置が一致するな」
レオは立ち上がり、ポケットから銀色のポータルリングを取り出した。その目はすでに、昨日逃げられた悔しさを燃やす熱い色に戻っている。
「手製爆弾を取り返し、あのバーナー野郎に借りを返す。ミオ、準備はいいか?」
「ふふん、言われなくても。今回は見苦しく顔隠して殴られないようにしなさいよ、パートナー?」
二人はニヤリと笑い合い、リングを掲げる。
奪われた爆弾とヒーローのプライドを取り戻す、リベンジマッチの始まりだった。
「ポータルよ開け」
レオがリングを掲げると、屋上の青空に青白い光の穴がぐにゃりと広がった。
「ありがと、けど私が前に行くわ。ん? 何か物足りなくない? レオだけ」
ミオがポータルに足をかけかけたところで、ふと振り返ってレオを上から下までジロジロと見回した。制服姿で、手首にはいつものガジェットすらない。
「あれ? あ、装備と武器持ってくんの忘れてた」
「なにやってんのバカ!w」
ミオが思わずお腹を抱えて爆笑する。さっきまでの緊張感が一瞬で台無しだ。
「ごめんて、走って取りに行ってくる、家近いから、」
「ちょっと待ちなさいよ! 走っていくよりポータルで部屋に直接繋げば一瞬でしょ!」
「あ、そうだった! ダ・ヴィンチ、我が家の自室に座標変更!」
『了解いたしました。マスターのドジによって発生したタイムロスを補正します』
ポータルの先が、一瞬でレオの散らかった自室へと切り替わる。レオはポータルへダイブするように飛び込み、デスクの上の強化スーツとヘルメット、そしてアップデート済みの手首ガジェットを大急ぎで装着した。
「よし、装着完了! ついでに部屋に転がってた改良型予備バッテリーも持っていく!」
『レオ様、ジッパーが半開きでございます』
「あ、ヤバいヤバい!」
ポータルの向こう側で、ミオが呆れたように腕を組んで待っていた。
「まったく……ヒーローが現場に行く前に装備忘れるとか、前代未聞よ? でもまあ……」
ミオはクスッと笑うと、背中越しにポータルの先、不気味に聳え立つ第5プラント跡地を指差した。
「準備ができたなら、今度こそ行くわよ! 散々バカにしてくれたバーナー野郎に、本物のヒーローの戦い方ってやつを教えてあげなさい!」
「おうよ! 忘れ物もしっかり回収して、爆弾も奪い返してやる!」
ドジを踏みつつも気合を入れ直したレオは、新生スーツのバイザーをカチリとセットし、ミオと共に青白い光の向こう側へと飛び込んでいった。
(南耀市第5プラント跡地・薄暗い廃倉庫内部)
ポータルを抜けると、そこは廃油の臭いと静寂が立ち込める巨大な工場跡地だった。
「気をつけて、レオ。ダ・ヴィンチの追跡シグナルはどこから?」
「この奥の、中央作業区画だ。……いたぞ」
薄暗い影の奥に、巨大な影が佇んでいた。
昨日、手製爆弾を奪って逃げたあのバーナー野郎だ。火炎放射器を壊された奴は、レオから奪った『手動型電撃爆弾』を手に持ち、不気味に笑っていた。
「ハハハ! 追ってきたかガキども! この爆弾の威力をそのままお前らにぶち込んでやる!」
「俺の爆弾を舐めるなよ」
レオはヘルメットのバイザーをカチリと下げ、手首のガジェットを操作した。
『生体アクセスコード、一致。爆弾の起動権限をロックします』
——パチンッ!!
「な……なに!? 火花すら出ねぇぞ!?」
「俺の許可なしに、俺の科学は動かねぇんだよ!」
レオは脚部のスラスターを全開にし、一瞬で距離を詰めた。
追い詰められたバーナー野郎は、前回の戦いと同じように、レオに向かって手動型電撃爆弾を力任せに投げつけてきた!
「死ねぇぇぇッ!!」
だが、レオは引かなかった。
前回の失態を繰り返さないため、そのまま真っ直ぐ前へと踏み込み、飛んできた爆弾をバシッと手で直接掴み取る。
「ロックを解除して……この距離で、お前と一緒に爆発してやる!!」
相打ち覚悟でコードを強制解除しようとするレオ。その時——
「やめて! 何してるの!」
ギュッ!!
後ろからミオが飛び込み、レオのスーツの袖を強く掴んで力任せに引っ張った。
「ミオ……!?」
「そのままその爆弾を相手に投げて!」
ミオの叫び声にハッとしたレオは、素早く安全圏まで下がりながら、掴んだ爆弾のロックを解除してバーナー野郎の胸元へ思い切り投げ返した!
「いっけぇぇぇぇ!!」
ギュワオオォォォン——ドカーンッ!!!!
「ギャアアアアアアッ!?」
投げ返された手動型電撃爆弾が敵の直前で大爆発を起こし、極太の蒼い雷光がバーナー野郎の重装甲を粉砕する。敵の巨体は豪快に吹っ飛び、床へ倒れて完全に白目を剥いた。
「ハァ……ハァ……。あぶねぇ、また無茶するところだった……」
レオが胸を撫でおろすと、袖を離したミオが腰に手を当てて呆れ顔で立っていた。
「本当よ! 一緒に爆発しようとするなんてバカじゃないの!? ヒーローならもっと自分の命を大事にしなさい!」
「ごめんって……! でも、サンキュなミオ。助かった」
照れくさそうに頭を掻くレオに、ミオはふっと柔らかく微笑んだ。
「まったく……次からは頼むわよ、パートナー」
こうして、失態を完全に挽回し、第5プラントでのリベンジ戦はレオとミオの見事な連携で完全勝利を収めたのだった。




