第五話 試験の逆カンニング
数日前に抜き打ちで行われた生物学の試験の結果が、さっき返ってきた。
休み時間、答案用紙を机の上で裏返したまま指先で机をとんとん叩いていると、ミヤがにたにた笑いながら近寄って来た。
「秀才のティア様は、また満点だったんでしょ? 間違った問題を解き直して提出しないといけないから、見せてよ」
「勝手に見れば?」
「アイスクリームとか請求しないなんて、珍しい。よもやよもや」
ミヤは用紙をひっくり返して、唖然とした表情になった。
「六十点!? 赤点ぎりぎりじゃん。お腹でも痛かったの?」
私はため息をついて、そっぽを向く。
「……親が、もしテストで悪い点数を取ったらヴァリタス先生に家庭教師してもらうって」
ミヤは目を見開く。しばらく答案用紙をまじまじと見た後、あることに気付いたようで大笑いし始めた。
「ちゃんと六十点きっかりになるように、わざと間違ってるじゃん! 策士だねぇ」
私も、思わず笑いを噴き出した。自分のことながら、バカバカしくてたまらない。
「ところで、ミヤは何点だったの?」
「六十三点」
「ミヤに負けるのはさすがにやり過ぎたか」
大笑いしていると、ミヤに頭をはたかれた。
「ヴァリタス先生、この前の試験の結果です」
エアコンのきいたひんやりとした診療所で、ソファに座ってコーヒーを飲んでいる先生に答案用紙を差し出す。先生はそれを受け取ってさらっと目を通すと、すぐに私に返して来た。
「じゃ、そろそろ帰りな。夕飯の時間だろ」
「なんかコメントないんですか」
「ない」
私はぷくうっと頬を膨らませる。
「可愛がってる近所の子の成績がいきなり落ちたら、普通は心配しませんか?」
「だって君、わざと間違ってる。この連問の問②だけ間違うなんてあり得ないだろ」
「うぐっ」
胸を押さえる。先生はにたりと笑うと、
「もうちょっと上手くやりな。それに、俺に家庭教師してもらうメリットより、内申点が下がるデメリットの方が大きいだろ?」
とさらなる矢を放ってきた。
「うぐ、うぐっ」
私は矢の命中した胸を押さえながら、しぶしぶ帰る準備を始める。
「お邪魔しました」
玄関のドアを開けようとしたとき、先生がぼそりと言った。
「もし、医者になるって言うんだったら、教えてやれないこともないが」
ハッとして振り返る。先生はソファの上に横たわって、すやすやと寝息を立てているフリをしていた。
私はまたぷうっと頬を膨らませて、いじわるな先生をにらんでから、家路についた。




