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第11話

 凪の失踪から一か月が過ぎた。警察官がコンビニに話を聞きに来ることもなくなり、ビラ配布の頻度も随分と減ってしまった。今や事件に巻き込まれた可能性を疑う者はいない。だからこそ諦めがあった。死体で見つかるくらいなら行方不明のままでいいと。

 しかし、そんなのは怠慢である。一人抗う私は、コンビニを起点にして凪の足取りをもう一度調べた。そうして分かったことは、防犯カメラのない路地はあるが、繁華街を出るためにはどこかのカメラに写らなければならないことだった。

 警察は初期捜査の時点で分かっていたはずで、だからこそ何度も店に来た。つまり、凪はまだ街のどこかにいる。私の中でそんな考えが膨らんでいった。

 地元情報をまとめたサイトにも目を通す。ここでは街のイベントや交通情報、事件について匿名掲示板でやり取りされていて、最近は廃屋から変死体が発見された事件で持ちきりだった。そんな中、凪の事件についても細々とやり取りが続いていた。

 彼らは過去の類似事件との比較を行っていた。新潟では九年以上も監禁が続いた事件があったという。ただそれは珍しいケースで、千葉では被害者が二度脱出に成功した例があり、基本的に長期間の監禁は難しいとの評価だった。被害者に逃げる意思がある場合、その機会は必ず訪れるという。

 しかし、それは精神が侵されていないという条件に限った話に思えた。凪はまだ幼く、恐怖という枷を自らの力で外すことは難しい。かつてはそれが当たり前だった。奴隷は自らの命を守るために主人に従うのだ。

 凪についての有益な情報はなく、仕方なく別の掲示板も見てみる。目に留まったのは幽霊ホテルの噂だった。

 駅近くのハーメルンというラブホテルで、行為中だった何組もの男女がすすり泣く声を聞いたという。その声は赤子のようにも若い女のようにも聞こえたといい、棲みつく怨霊の背景が好き勝手に創作されていた。

 私は最初、性加害事件の被害者ではないかと考えた。興味の範疇からは外れるが、無理矢理ホテルに連れ込まれる事件は多いと聞く。ただ、熟考の末に私はこの件を調べることにした。赤子や女性の声に聞こえたならば、子供の声にも聞こえて然るべきだと思ったのだ。

 ネットに夢中になっていたところ、着信でスマホが震える。相手はオーナーだった。

 「お疲れ様。今いいかな」

 「はい」

 「今日、愛莉を探す男女二人組が店に来た。心当たりはない?」

 「私をですか」

 この街に知り合いは少ない。真っ先に頭をよぎったのはひまりだった。ただ、あの夜から接点はない。

 「分かりません」

 「そうか。ひとまず店に来るのを控えてほしい。鼻の利く奴が嗅ぎ回っている」

 「はい」

 「また近いうちに工場で話そう」

 オーナーは一方的に通話を切る。やはりひまりかもしれない。そう思った私は、名前を出さなくて良かったと安堵した。

 数日後、私はラブホテルが乱立する地区に赴いた。ハーメルンは綺麗な外観をした六階建てのホテルで、それでいて良心的な価格設定をしている。最近は女子会利用も想定しているようだった。

 「どの部屋がいい?」

 「どこでも」

 隣にいるのは風俗街で適当に捕まえた男である。期待を裏切られるとも知らず、見栄を張って二階の一番高い部屋を選んでいた。

 室内に入ると早速汚らわしい手が伸びてくる。私は男をソファに座らせると、いつもの睡眠薬入り飲料を差し出した。

 「これ飲んで」

 「なにこれ」

 「精力剤。夜は長いよ」

 「俺にそんなのいらないよ」

 男が強引に押し倒してくる。薬がなければ男の力に敵わない。私は舌打ちを我慢して口にドリンクを含み、キスしながら押し流した。

 「もっと欲しいでしょ」

 たっぷり飲ませると、私はシャワーに向かう。男がついて来たが、条件に入っていないからと追い返す。シャワーの音を立てて、そのまましばらく入っているふりをする。部屋に戻ると、男はソファの上で寝ていた。

 私は荷物をまとめて部屋を出る。外の非常階段に向かうと迷わず最上階を目指した。この建物は六階建てだが、選択できた部屋は五階までだったのだ。

 外階段と廊下を隔てる扉は内側からのみ開く構造で、外から入るには鍵がいる。こんなこともあろうかと、私はバッグからピッキングセットを取り出した。手術の種類によってはこんな道具が必要になることもある。使い方はオーナーから教わっていた。

 開錠に成功し、中に入る。フロアは他の階と同じ間取りをしていた。最近まで利用されていた形跡があるものの、今はフロアごと閉鎖されていて電気も通っていない。

 「凪ちゃん」

 暗闇の中、私は一つずつ扉をノックして回る。部屋は全部で八つ。そのどこかに宝が隠されていると信じていた。

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