冬後期〜すごろく〜
慈「律さん、そっちの片付けはどう?」
律「そうですね、脚立が壊れてしまったため、どなたかにお手伝いをお願いしたいところですが…」
慈「それなら俺が手伝うよ」
律「ありがとうございます、しかし高いところですから、踏み台が…」
慈「ん?」
律「……不要でしたね。ありがとうございます」
珠紀「あけましておめでとう!……それで…」
姫「よいしょっと…ふぅ…。新年早々重い荷物運ぶのは疲れる…」
穹斗「手伝いますよ。俺、ちょうど手が空いてますし」
姫「ん、ありがと。なら半分こしよ」
穹斗「俺1人でも多分持てるんで大丈夫ですよ」
姫「二人でやった方が効率いいでしょ」
穹斗「はは、確かにそうですね」
20XX年、元旦。昔らしい様子で鎮座するコタツとみかん。…は当然のごとくスルーされ。今日も今日とてあくせかと働いていた。
珠紀「みんな少しは休めばいいんじゃない?コタツだよ?みかんだよ?なんでこう当たり前のようにスルーできるかな!?」
玲央「何をおっしゃいますかご主人様!私は働かなければ生きる意味がございません…っ」
丹恋「れおくんはやっぱりすごいね!でもにこもいっしょかも!今はおしごとがんばります!」
鈴莉「うん……。そうですね。年始といっても、お部屋の掃除とか、年始のパーティの準備とか……、色々ありますし…」
珠紀「えー、みんな真面目すぎないかな?おせちだって用意しただろう?三が日はゆっくり休む!コタツとみかんでダラダラするのが世の理だよ!」
蛍「あー。確かにいいな。準備が終わったら楽しいこと色々したいよな!皆で初詣も行きたいしな」
珠紀「だよね?流石、蛍なら分かってくれると信じてたよ!」
エマ「珠紀。明後日締切の仕事は終わってんだろうなァ?」
姫「実際、年末は色々バタバタしてて準備が追いつかなかったんだから仕方ないでしょ?終わってから遊べばいいんだし」
珠紀「………。とにかく、今日ぐらいは休暇といえば休暇!仕事禁止!主人命令だからね」
玲央「そんな…っ!?わ、私はどうしたら…」
穹斗「新年早々なかなか横暴ですねー…」
玲央「煉城さま、どうか代わりに私にお仕事をいただけませんか…!?」
穹斗「えー…、そうですね、多分ですけど、なんか他にやりたいことがあるんじゃないですか?いつものパターンなら」
玲央「なるほど…さすが煉城さま、ご聡明でございますね。私は頭が真っ白になってしまってその可能性に気づけませんでした…!」
珠紀「うん。穹斗の予想は確かに正しいね。僕が求めているのはお正月らしい体験だからね!」
姫「あたしは別にどっちでもいいけど、休んで何するつもり?」
珠紀「何って?それはもちろん…」
何かを目論んでいる時特有の素敵な笑顔に使用人たちの間に嫌な予感が芽生える。身構える間もなく珠紀がぱちんと指を鳴らせば、ふと意識が遠のいていくのであった。
*****
妙にリアルな自然の匂いに目を覚ます。屋敷の中にいたはずが、目の前には広大な空間。
青く透き通る海の上に、無数の小島が浮かんでいる。
それぞれの島には松や鳥居、茶屋や城、巨大な獅子舞の像が据えられ、まるで“お正月そのもの”を切り取って並べたような景色が広がっていた。
エマ「あァ?なンだここは?」
穹斗「……え、さっきまで普通に屋敷にいましたよね…?夢?」
律「夢、ではないはずですが…。そう言った方が理解できる空間ですね」
姫「……なんかサイコロもあるんだけど…妙に大きいし」
鈴莉「これ……バーチャル空間、じゃないでしょうか……。その、違ったらごめんなさい…」
蛍「バーチャル空間か!これはまた珠紀さんも面白そうなことを考えたなぁ。楽しそうな鈴の音も聞こえる。聞いているだけで気分が上がってくるな!」
穹斗「なるほど…。それならこの非現実的な空間も納得ですけど、それで、何をするんですか?」
珠紀「ふふん。これはね…巨大すごろくだよ!」
律「巨大すごろく、ですか?」
珠紀「そう。世の中の人々には鉄板の遊びと聞いてね、やってみたかったんだよねー!」
玲央「なるほど…。お正月といえばどちらかといえば羽根つきやコマ回しの印象ですが、確かにボードゲームなどを楽しむこともございますね」
丹恋「そうなんだー!お正月ってたのしい遊びがいっぱいあるんだね!」
エマ「定番したいのは分かったけどな、お前の場合毎回規模がおかしいンだよ」
しらけた表情のエマの視線も気にすることなく、珠紀はルールを説明していく。
珠紀「ルールは簡単だよ!ひとつ。二人ペアのグループを決める。今回はランダムで選出するよ。ふたつ。サイコロを振って出たマスまで移動する。みっつ、止まったマスのミッションを協力して行う。失敗したら罰ゲームね」
慈「なるほど。確かにルールはシンプルみたいだね」
珠紀「そう。僕はすごろくはやったことないからね、このために一般的なルールを調べたんだよ」
エマ「変なところに全力出すンじゃねェよ…ったく、やるならとっととやるぞ」
蛍「はは、すっかりこういうのも慣れてきたよな!やるからには全力で楽しもう!」
律「ふふ、敷枝さんらしいですね。私もつられてやる気が出てきました」
蛍「律と遊べるのも俺の中ではすごく嬉しいポイントだからな、同じチームになれたらいいな!」
律「そうですね。その時はよろしくお願いします」
丹恋「いいないいなー!にこもりっちゃんといっしょがいい!」
律「そうですか…?」
丹恋「うん!だってりっちゃんといっしょなら楽しそうだもん!」
慈「俺ももしチームになれたら嬉しいな。その時はよろしくね、律さん」
律「はい。正直なところ私もすごろくの経験はないのですが…、楽しみになってきました」
丹恋「ね〜!にこもあんまり遊んだことないからうれしい!」
こうしてランダムで選出されるチーム分けが行われ、早速すごろくが開始されるのであった。
鈴莉「えぇっと…、このサイコロを振るんですよね…?」
エマ「だな。重そうなら俺がやるけど大丈夫か?」
鈴莉「いえっ…!見た目よりそこまで重くないので…大丈夫です…!」
珠紀「エマってば優しいね〜?」
エマ「どこぞの主人より気遣いしようがあるからな」
珠紀「ふぅん…」
鈴莉「よっ…と…、えいっ」
サイコロを振ると6の目が出た。エマーソン、鈴莉のペアはマスにそって6つ分進んでいく。するとぽとぽとと天からパネルのような何かが落ちてくると共にアナウンスが鳴り響いた。
『ミッション!キュートな福笑いを完成させよ!』
鈴莉「こ、これは…、目、鼻、口…。顔のパーツでしょうか…」
丹恋「わあ〜、みてみてちーくん、おっきい目だよ!」
慈「本当だ。にこが隠れられそうだね」
エマ「ッ、なンだ!?急に視界が暗く…!」
穹斗「協力してって話でしたし、エマーソンさんが実行役、佐狐さんが指示をする…ってことですかね〜…」
姫「んー。確かにそれっぽいかも?」
鈴莉「な、なるほど…!?わ、私にできるかな…」
エマ「ルールはよく分かんねェけど、ようは目と鼻と口の位置が大体合ってりゃいいンだろ。ちゃっちゃと済まそうぜ」
鈴莉「いえっ、そういうわけにはいきません…!顔には黄金比というものがありまして、イラストでもそうですが、その、それに近くすることが可愛い顔に大事……だと思うんです…!」
エマ「…なるほど…?つまりどういうことだ…?」
鈴莉「つまりですね…まずは目をそこにおいて…」
エマ「おー…」
鈴莉「鼻はそこから下にして……いえ、そこではなく3cmほど下げてください…!」
エマ「お、おう」
珠紀「わは、細かいねぇ」
玲央「そうでございますね。的確な指示で伝わりやすいですね」
丹恋「エマくんもすごいねぇ、目が見えてないのに全然迷ってないみたい〜」
エマ「まあ、指示もあるし多少視界不良だろうが大したことねェよ」
鈴莉「あ……ごめんなさい、思わず…色々指示してしまいました…」
エマ「いや?これはこういうもンだろ。気にしてねェよ」
鈴莉「あ…ありがとうございます…。もう片方の目は…うぅん、どうしようかな…。あの、……煉城さんは…、どう思いますか…?」
穹斗「そうですね…、もうちょっと変えるならですけど少し感覚をあけてもいいんじゃないですかね」
鈴莉「……!なるほど…!確かにそうですね…やってみます…」
鈴莉のこだわり抜いた指示をエマーソンがしっかりと答えていくコンビネーションで、福笑いとは思えないような可愛らしい顔立ちが完成する。判定もしっかりとクリアし、次のターンへと進むのであった。
*****
蛍「次は俺達の番だな!」
慈「そうだね。さて、何が出るかな…」
慈が投げたサイコロは高く飛び、そのまま跳ねるように転がっていく。やがて挙動を止めると、数字は3を示していた。
『空から落ちてきたお餅を口でキャッチせよ』
蛍「…お餅?どういうことだ?」
疑問を口にするやいなや、べち、と蛍の肩になにか暖かく柔らかいものが張り付いた。何かを確認すれば、それはお餅である。
蛍「も…餅が降ってきたぞ!?」
天を見上げるとそこにはゆっくりと落下する白い塊。どうやらこれをキャッチしないといけないらしい。
珠紀「このために最高級のお餅の味をサンプリングしたんだよ。いくら食べてもカロリー0だ。乙女でも安心なお題だね」
丹恋「食べても太らないの?いいなー!にこも食べたい!」
珠紀「いいよ、僕たちは二人の健闘をおかずに美味しいお餅を食べようか」
玲央「お餅をお配りするのは私にお任せください!」
珠紀「じゃあお願いしようかな。味は自由にしてもらって構わないよ、きなこからキムチまでいろんな組み合わせを登録したからね」
蛍「キムチは…バーチャルでまで食べたくはないものだな…はは」
穹斗「そもそもお餅にキムチって合うんですかね…?」
玲央「煉城さまはどちらのお味になさいますか?」
穹斗「んー…、じゃあきなこでお願いします」
玲央「承知しました!愛多地さまもお好きなものをお選びくださいね」
丹恋「わあい!ね、りっちゃんも食べよう?それで、ちーくんたちをおうえんするの!」
律「…そうですね…、あの、敷枝さんも小鳥遊さんも…、頑張ってください!」
慈「ふふ、応援されてしまったな。嬉しいものだね」
蛍「!ああ!ここはいいとこを見せないといけないな、頑張ってみるか!…よいしょっと、…んむ、なかなか熱いな…!」
早速一つお餅をキャッチし、ふぅふぅと冷ましながら頬張る蛍。慈はというと、涼し気な笑顔でそれを眺めていた。
慈「蛍さん、頑張って〜」
蛍「むぐっ…もぐもぐ…」
鈴莉「あっ…お餅、地面に落ちてしまいましたね…」
慈「勿体ないね、可哀想に…。せっかくの美味しいお餅なのにね」
蛍「いやいや、慈も一緒にやらないのか!?協力するゲームだろ!?」
慈「君を応援するのも協力かなって思ってね」
律「敷枝さん…大丈夫でしょうか…?私もお手伝いした方が…、」
珠紀「うーん、それは無理じゃないかな、対象マスの人しか触れない仕様だからね」
律「そうですか…」
蛍「こうなったらやるしかないな…!いくぞ…!」
蛍は気合を入れ直し、次々に落ちていくお餅を順番に頬張っていく。慈はといえば、さりげなく蛍に当たりそうだったものをいくつかキャッチして食べることでどうにかお題をクリアしたのだった。
慈「すごいね、殆どお餅が無駄にならなかったみたいだ」
蛍「気合でなんとかできたな…!大変だった分やりきった感はあるな」
穹斗「蛍さん、大丈夫ですか…?」
蛍「心配してくれてありがとな、だいぶ満腹感はあるけどそれ以外は問題ないな」
慈「お疲れ様、蛍さん」
蛍「お疲れ!ありがとな!」
慈「?お礼を言うのは俺の方かと思ったんだけど…」
蛍「いや、ぶつかりそうなものはキャッチしてくれてただろ?お陰で楽しかった!」
慈「ふふ、そっか。こちらこそありがとう」
律「どうなることかと思いましたけど、無事にクリアできたようで良かったです。お二人とも、お疲れ様でした」
蛍「おー、お疲れ!律の応援のお陰だな!」
慈「そうだね。見守っててくれてありがとうね、律さん」
律「いえ、私は何もできませんでしたから…。お餅は十分だと思うので、お茶をもらってきますね。次のターンまでゆっくり休んでいてください」
蛍「お、それは助かるな。ありがたく貰うよ」
姫「次はあたしたちの番か。面倒くさくないのならいいけど…」
律「そうですね。早速振ってみましょうか」
律の振ったサイコロはコロコロと転がってい。数字は1を示していた。
律「1…。すみません、殆ど進みませんでしたね」
姫「別にいーよ。勝敗なんてこれで決まるものじゃないんだし。それよりミッションは?」
『ミッション!四マス進んで獅子舞から逃げろ』
ミッションの音声が鳴り響くとともにドスンという地鳴りが響く。大きな獅子舞が二人をじっと見下ろしていた。
姫「なにこれ!?ちょっ…流石にこれはなんとかできないし、逃げよ…!」
律「あ、はい…!分かりました…!」
蛍「足音だけでも体に響くな…。なあ、珠紀さん、これって大丈夫なのか?」
珠紀「あはは、大丈夫だよ。大きく見えるけどそう見えているだけだからね。怪我をすることはないさ」
丹恋「よ、よかった〜!大丈夫かなってドキドキしちゃった…!」
玲央「そうでございますね…。見ているだけで迫力がありますから、問題ないようで安心いたしました…!」
観客たちが安堵する中でも張本人たち二人はそれを聞いている余裕はない。マスを進もうと全力でダッシュしていた。
姫「1、2、3…」
律「きゃっ!?」
姫「転んだの…!?早く立って、逃げるよ…!」
律「いえ…私は置いて、どうか先へ…!」
姫「っ、そんなことできるわけないでしょ…!」
律「いえ…、いいんです。もし、叶うなら…、これを伝えて…」
姫「瀬戸ッ!」
律が言葉を紡ごうとした瞬間に獅子舞の足は容赦なく律を踏みぬく。絶体絶命かと思われたところで______ぽすん、と煙が上がり、小さな獅子舞が律の上に乗っかっていた。
獅子舞「ふきゅぅ」
姫「……?どういうこと…?」
律「さっきの獅子舞は…」
珠紀「君たちの頭にいるじゃないか」
獅子舞「きゅぅ?」
律「…先程のものは拡大されてただけだった、ということでしょうか…?」
珠紀「そういうことになるね」
姫「……どっと疲れたわ」
穹斗「あー…、お疲れ様です、日南さん。大変でしたね…」
姫「…ありがと。よく見れば可愛い顔してるし…、気づけば良かったわ」
慈「焦っていたんだし仕方ないよ。律さん、大丈夫?ほら、手を貸すよ。どうなることかと思ったけど、無事で良かった」
律「ありがとうございます…。ご心配をおかけいたしました」
慈「ううん、気にしないで。残念だったね、失敗しちゃって…」
律「そうですね…。日南さんには申し訳ないのですが…、よく考えればそうない経験ですので、得難い経験が出来たと正直なところ思っております」
蛍「あはは、なんでも楽しむのはいいことだよな!」
律「そうですよね。私も考えすぎず、前向きに考えることにしました。…獅子舞も可愛らしいですし」
きゅぅ、と鳴き声をあげる獅子舞を撫でる。失敗して顔には羽付きのような✕印が刻まれた。しかし二人とも楽しそうな満ち足りた表情を浮かべている。
玲央「ふふ、お次は私たちの番でごいますね」
丹恋「そうだね!二人でがんばろー!えいえいおー!」
玲央「おー!」
珠紀「二人ともやる気十分だね、これは期待していようかな」
玲央「ご主人様が期待してくださっているのですね…!もちろん私にお任せくださいませ。必ずやご期待に応えてみせますね!」
丹恋「にこもみんなが応援してくれたらがんばれそう!見ててね〜!」
玲央が張り切ってサイコロを投げると高く飛び、コロコロと転がっていく。止まった数は再び3を指し示していた。
玲央「3…先ほどと重なってしまいましたね」
慈「本当だ。奇遇だね」
丹恋「ちーくんたちといっしょだ!ということは〜、にこたちもおもちかな?」
珠紀「何度も繰り返しても面白みがないからね、重なった場合は別のミッションが出ることになってるよ!」
慈「それならよかった。玲央さんはともかく、女の子には少し大変そうだからね」
丹恋「えへへ、でもね、ちーくんとおそろいは嬉しいから、それでもがんばるよ!」
慈「そう?ふふ、有難う」
そんな会話をしていると、ミッションが表示される。それと同時に人1人分以上の大きさの大きな筆と非常に大きな半紙のような紙が降ってきた。
『協力して新年の豊富を書き初めせよ』
玲央「書き初め、でございますか…。新年の豊富をといいますと、やはり働く…仕える…などでしょうか…」
丹恋「にこは〜…うーん…おりょうりはいっぱいしたから、もっともっとおそうじしたいかも!」
玲央「なるほど、お掃除でございますか。いいですね…!お屋敷をピカピカにしたいですね。新年の抱負は"掃除"にいたしましょう!」
丹恋「やったー!でもおそうじってどうやってかくの?」
姫「掃除?抱負って普通早寝早起きとかそういうのじゃないの?」
穹斗「確かにそういうのなイメージありますねー…。日南さんならどんなのにします?」
姫「んー…なんだろ。自然体、とか?」
穹斗「自然体…。いいですね。俺も見習いたいです」
姫「そうね。肩の力抜いたほうが色々やりやすいし」
エマ「新年の抱負ッつーか、普段からそうじゃねェか?」
姫「まぁそうかも。別にいいでしょ、新しいことに挑戦するだけが抱負じゃないし」
鈴莉「なるほど⋯そういうもの…なんですね……」
エマ「お前なら何にするンだ?」
鈴莉「⋯⋯私は…その⋯」
珠紀「?なにかあるのかな?」
鈴莉「…、いえ…、なんでもないです……」
首を振って項垂れる鈴莉に真意を尋ねようとしたが、その声は元気いっぱいな声にかき消される。
丹恋「えーいっ!れおくんれおくん、そうじってこれで合ってる?」
玲央「これは…違いますね…」
丹恋「えぇ〜!?これだと思ったんだけどなあ…」
玲央「…いえっ、ここで諦めてはいけませんね、まだ二人で力を合わせれば…!」
二人は漢字を誤ってしまったようだったが、それでもまだ巻き返せると息を合わせて大きな筆を奮う。
しかし努力虚しく残念ながら「掃除」を書くことはできなかった。
『ミッション失敗!バッテンバッテン!』
丹恋「えへへ、むずかしかったね〜!ひらがなの文字とかにすればよかったなあ」
玲央「そうでございましたね。でもこういった書き初めの経験はありませんでしたので、良い経験になりましたね」
珠紀「あはは!これはこれで味があるしいいと思うけどな!僕これ飾りたいなあ」
玲央「本当ですか!?ご主人様のご希望とあればぜひ!」
エマ「いや、こんなデカい書き初めどこに飾ンだよ…」
慈「なるほどね、見る人によってはこういうのも一つの価値、ということかな」
珠紀「そうだね。もちろん豪華な金銀とか美術品とかもいいけど、僕は君たちのつくった作品の方が価値を感じるかもね」
蛍「ああ、その気持ちわかるなあ。心のこもったものってそれだけですごい価値があるよな」
穹斗「そういえば以前書いた似顔絵も飾ってますよね。あれ恥ずかしいんでそろそろ捨ててほしいんですけど…」
玲央「私は飾っていただけて誇らしい思いでございます!煉城さまは謙虚でいらっしゃいますね。非常に可愛らしく素敵な似顔絵でしたのに」
穹斗「いや…それはないでしょう。あんなの誰にでも書けますって」
姫「そう?あたしも結構好きだったけど。あたしの似顔絵とかもちょっと気になるかも」
穹斗「…日南さんが欲しいなら、描きますけど」
姫「ほんと?ありがと、楽しみにしてる」
鈴莉「それにしても、ご主人様は本当になんでも大事にされているのですね……」
エマ「まァそうだな。俺があげたものもなンでも残してるし、そういうのは金持ちっぽくねェよな」
丹恋「むむむ?それはなんでも、じゃなくてエマくんからだからのような?」
珠紀「エマだから?」
穹斗「いや、なんでそこで本人が疑問符浮かべてるんですかね…」
珠紀「いや、考えたことなかったからね…。そういうものなのかな?」
穹斗「いや、それは俺にも分かりませんけど…」
珠紀「僕はただ、エマがくれたもの嬉しかったから取っておいただけなんだけど…。うぅん…」
エマ「それは、お前…」
珠紀「?何?」
エマ「…なンでもねェ、次お前らの番だろ、さっさとやれ」
珠紀「あ、そうだったね!」
穹斗「苧環さん、振ります?」
珠紀「そうだね、振ってみようかな♪」
珠紀の振ったサイコロはコロコロと転がり、数字は4を示していた。
珠紀「いち、に、さん、よん…」
『ミッション!起き上がり小法師を倒せ!』
穹斗「起き上がり小法師って…これ…ですか」
丹恋「わあ〜!かわいい!」
律「そうですね…。猫、うさぎ、犬、ひよこ…。可愛らしいものがいっぱいですね」
丹恋「りっちゃんは何が好きー?やっぱりわんちゃん?」
律「そうですね…確かにこの犬は可愛いですね」
蛍「律は可愛いものも好きなんだな」
律「えっと…、おかしかったでしょうか…」
蛍「そんなことないぞ。律が好きなものを知れて嬉しいなって思っただけだ!」
律「そう…ですか…」
穹斗「あー…こういうの、好きな人も結構いますよね」
姫「煉城はこういうの苦手?」
穹斗「いえ、そういうわけでは…。それよりこれ、倒さなきゃなんですよね。どうやればいいですかね…」
珠紀「うん?普通に倒せばいいんじゃないかな?こうやって…」
起き上がり小法師をそっと指先で倒すが、それはするりとすり抜けるように起き上がる。
珠紀「起き上がったね…」
穹斗「や、そういうものなんで。もしかしてはじめて知ったんですか?」
珠紀「うん。これは見たことないからね…」
指で倒す、戻る。倒す、戻る。繰り返すがするりとすり抜けていく起き上がり小法師たち。
珠紀「………うーん…管理者権限で…」
穹斗「え、ズルは駄目じゃないですか…?」
思わず呟いた珠紀の言葉に穹斗の冷静なツッコミが入る。こうして各々の止まったマスのミッションをクリアしていきながらゴールへとたどり着くのだった。
******
律「ついにゴールできましたね…」
姫「ね。色々あったわ…」
穹斗「飛んだり跳ねたり走ったり…。思った以上にハードでしたね、これ」
珠紀「途中かなりぐったりしていたみたいだからねぇ。大丈夫?」
穹斗「あー、一応。かなり疲れましたけど…」
玲央「お疲れ様でございました。後でゆっくりできるようお茶の準備をいたしますね」
丹恋「ゴールしたらプレゼント?とかあるの?」
珠紀「うん、あるよ。おみくじが引ける」
蛍「はは、報酬までお正月仕様なんだな!」
慈「残念、お宝とかもらえると思ってたんだけど」
蛍「これはこれで俺は楽しいけどな?なあ律?」
律「はい、楽しかったですね。お友だちと遊ぶ経験もあまりなかったので…。幼少期に返ったような気分になりました」
慈「そっか。律さんが楽しんでいたようならよかったかな」
鈴莉「あの…おみくじって…どうすれば」
エマ「この箱から取るんじゃねェか?早速取ってみるか。……"選択を迫られるでしょう"……なンだこれ?」
珠紀「僕は……好きな人と色々あるかも!?…どういうこと?」
慈「小学生のくじみたいだね」
姫「好きな人とって言うなら…そういうことなんじゃないの?」
珠紀「好きな人…?」
鈴莉「ふふ……、やっぱり自覚はないんですね……。あの、煉城さんは…どうでした?」
穹斗「俺は…、中吉でしたね。佐狐さんはどうでした?」
鈴莉「私は………、………!」
穹斗「どうしました?」
鈴莉「大吉でした!」
とびっきりの笑顔を浮かべておみくじを掲げる鈴莉。その表情には先程までの迷いはなく、霧が晴れたようだった。
残る者も、去る者も____後悔のないように。残り少なくなった日々も、1日1日大切に過ごしている。
******
時は流れ――二月十四日。
苧環珠紀は、どこか落ち着かない様子で、自作のチョコレートを抱えながらエマーソンの姿を探していた。
今まで文句を言いながらも、そばに居続けてくれた彼へ、感謝の気持ちを伝えるために。…自分に逆らえないからこそだから、本人にとっては不本意かもしれないけれど。それでも、感謝しているのは事実だった。
ようやくエマーソンの姿を見つけた頃、彼はどこかへ出かける支度をしていた。
珠紀は気づかれないよう、そっと後を追う。
エマーソンは細い路地を潜るように歩き、そのまま路地裏の影で、誰かと密会していた。
……誰と?
その姿を見た瞬間、珠紀の呼吸が止まる。
__父だ。
珠紀父「…変わりないようだな」
エマ「苧環様。…はい。如何なる滞りもなく進んでおります」
珠紀父「そうか。アレともうまく打ち解けたようだな。お前は優秀なコマだ。今後も励め」
エマ「ありがとうございます」
父を前にしたエマーソンの表情は、どこか嬉しそうで親しみが見て取れる。自分に対する表情とは、違う。
珠紀父「今後も手筈通り計画を行え」
エマ「はい。苧環様の為に、彼女をこの手で必ず始末します」
珠紀父「期待している」
__ぽすん。
珠紀の手から、チョコレートの箱が零れ落ちた。
エマが、自分を殺す?
いや、そんなはずはない。
彼の弱みは握っている。自分に逆らえるわけがない。
……本当に?
落ちた箱は衝撃で歪み、冬の地面の上へ、寂しげに転がっていた。
もうすぐ、甘いバレンタインが訪れようとしている。




