春〜採用試験〜
20XX年。春。
暦上の春とは言えど、ネオンが染みつく高層ビル群の谷間には、最低限の人口樹のみであり、季節を感じる風情などはない。
しかし開発されたビル群とは少し離れた僻地には、どこかの金持ちの享楽で作られた、立派な桜並木が並んでおり、屋敷へ向かう者たちを歓迎するように見下ろしている。
屋敷の門戸を潜れば、美しいシャンデリアが広々とした空間を照らす豪華なグランドホールに繋がっていた。
使用人として新規採用された男女は、事前の指示の通りにそこに集い、各々で会話を楽しんでいた。期待に胸をふくらませた若人たちを歓迎するように、グランドホールには色とりどりの人工バルーンやガーランドといった装飾で、パーティ仕様に飾られている。そんな可愛らしい装飾に目を輝かせる少女がひとり、せわしなく辺りを見回していた。
??「わあ……ここであってるんだよね…?可愛い飾り付け…」
??「お〜、なんだァ? いっぺー可愛いのがいると思ったら……お前もここに入ってきた新入りなんだねェ?」
??「……!?!?す、すみません……先輩の方ですよね……?触ろうとしちゃってすみません……っ」
??「あー、姐さん早速怯えさせてますねー……」
??「お〜、そんなつもりはなかったさァ。お前を驚かせたんなら、私が悪かったねェ。許しておくれよ」
??「い、いえっ、こちらこそごめんなさい……先輩に失礼なことを……」
??「お〜、どうやら勘違いしてるみたいだねェ。私もお前と同じ新入りさァ。でも、もし何か困ったことがあったら、いつでも愛嘉さんを頼りな。助けてやるから、遠慮せず言うんだよ」
??「そ、そう…ですか、ごめんなさい…。……あの……それなら私が何か粗相をしそうになっていたら、その、…教えて貰えますでしょうか……」
??「あー…そっすね〜…例えば今触ろうとしてたそのバルーン買えば1個1億の最新ドローン搭載型だから触らない方がいいすよー…。とか。」
??「………!?!?いちおく…!?」
少女が思わず声をあげたところで、ピーンポーンパーンポーン、という聞き馴染みのない音声が鳴る。いつの間にか周囲には黒地の衣装に身を包んだ10名程度の男女が揃っており、彼らは皆一斉に音の鳴った方を見上げた。
ひな壇のようになった階段の壇上、視線の先にはにこりと優雅に微笑む美しい青年と、傍に控えるメイド服の男。全ての視線を集めながらも余裕な態度を崩すこともない青年は、彼らをゆっくりと見回し、凛とした声をあげる。
珠紀「やあ諸君たち。今日は集まってくれてありがとう。僕は苧環珠紀。とうに知っているとは思うけど、ここの主人だよ♪」
??「あれー?ご主人様っておんなのこじゃなかったっけ?まあいっかあ!」
??「いえ…確かにお召し物は男性ものですが、事前情報と異なる場合、風貌だけで判断するのは早計かと思われます」
??「ええ…!あの方こそが苧環財閥のご息女さま…私の仕えるべきご主人様なのですから…!」
??「…ったくよォ…紛らわしい格好してっから戸惑わせてんじゃねェか、珠紀」
珠紀「あはは、僕としては別に構わないけどね!僕は女だよ。あと、こっちの可愛いメイドさんはエマーソン・ディック。女の子に見えるかもしれないけど男だよ♪」
??「あー、それは分かってるな。メイド服、便利そうでいいよな」
エマ「女に見えてるのはお前の節穴だけだ!いい加減燕尾服も支給しろ!」
珠紀の言葉にエマーソンが苛立ちを露わに口角をヒクヒクと釣り上げる。ほんの僅かな時間でも分かる主人の自由奔放さに期待半分、圧倒半分な彼らに畳み掛けるように、「場も温まったところで…」と仕切り、高らかに宣言を行った。
珠紀「これより、第1回、苧環邸使用人採用試験を執り行う!」
??「わあ、採用試験…、採用試験ですか!?どどどどういうことですか!?」
エマ「オイ珠紀、聞いてねェぞンなもん!?」
エマーソンの絶叫も虚しく、主人の命令に逆らうことは出来ない。雇用契約をとうに結んだはずの彼らは1度乗り越えたはずの採用試験を再度行うことになったのだった。
***********
広いダイニングルームに通された一行は、長机を挟むようにして珠紀を前にしてずらりと横並びに座らされる。
温かな湯気のたつティーポットから自身の手で紅茶を淹れた珠紀は香りを楽しむように燻らせ、ひとくち喉を潤わせた。君たちも飲むかい?とひと声かけるが当然理解の追いつかない状況で声をあげるものは1人程度しかいない。手を挙げたものにのみ紅茶を淹れるとエマーソンに配膳させ、「さて」と再び声をあげる。
珠紀「まずは自己紹介をしてもらおうか。じゃあ端からどうぞ」
??「……端…あたしか…」
長い髪をくるくると指先で遊ばせていた女性は、ゆっくりと視線を上げ、周りを一瞥する。明らかに面倒くさそうな調子ではあ、と溜息をつき、座ったまま自らの名前を名乗った。
姫「日南……姫。名前そんな好きじゃないから、ひなでいい。料理はできる方だと思う。よろしく」
珠紀「へえ…料理が得意なんだ。それで、志望動機は?」
姫「志望動機……いいとこの募集だったし、調理師免許も持ってたから使えそうだなって。雇って貰えてラッキーだったよねー」
エマ「軽いなァ…」
珠紀「あはは!いいんじゃない?大層なことを言って取り繕うより分かりやすいしね♪普通の自己紹介をする感覚で構わないよ。じゃあ次、聞かせてくれるかい?」
??「あ!よかったあ〜。むずかしいこと言わなくてもいいんですね!」
ホッとした様子で立ち上がったのはハーフツインの少女。彼女ははにかむように微笑むと周囲を見回した。
丹恋「はじめまして、愛多地 丹恋です!えへへ…すごそうな人ばっかりでちょっと緊張してます、…けど仲良くしてくれたら嬉しいです!いっしょにお仕事がんばりましょうね!よろしくおねがいします!」
丹恋「あ、あとしぼうどうきですね!えーと、お金が欲しいから!あとメイド服可愛いし着てみたかったから!です!」
??「ふむ…」
丹恋「あ、こんな理由じゃだめでした?」
??「ああ、いえ、そういう訳ではありません」
隣に座る凛とした佇まいのショートカットの女性に丹恋が困った様子で眉を下げる。女性は否定するように頭を振ると、すっと次の自己紹介をするために立ち上がる。
律「初めまして、瀬戸律と申します。よろしくお願いします」
珠紀「律ね。君の志望動機は何かな?」
律「はい。私がここを職場として選んだのは、今まで様々なことを学んできましたがその中で唯一、〝人に奉仕する〟という事を学んだことがありませんでしたので。良い経験になるかと。……あとは制服が可愛らしかったからでしょうか」
丹恋「!ということは一緒ですね!わーい!」
律「……?わーい…?」
丹恋のテンションに流されるようにハイタッチを交わす律。隣でこくこくと頷きながら話を聞いていた少女も、自分の番になったことに気づくと慌てて立ち上がった。
鈴莉「ぇっと…さ、佐狐鈴莉、です。…こういったお仕事は、初めてで…迷惑かけることもある、かもしれませんが……よ、よろしく、お願いします…」
鈴莉「志望動機も、ですよね……。えと、社会勉強のため………あと、その…」
もごもごと口を動かし、ちらりと先程の2人を一瞥する。視線に気づいた丹恋は一瞬きょとんと瞬いたあと、ぱっと目を輝かせる。
丹恋「あ!にこわかっちゃいました〜!ズバリ、メイド服でしょ〜!?にこたちと一緒ですね!ハイタッチ〜☆」
??「んー。おいし…おかわり〜」
鈴莉「………ぇと…その…」
??「はいはい、その辺でいったん落ち着きなァ。私にも自己紹介する時間、くれんね?」
エマ「あー…だなァ。こういうのは早く終わらせた方がいい」
マハロ「ハイサ〜イ、愛嘉マハロってのが名前だよ。こういうお堅い仕事やんのは初めてだからお手柔らかにひとつ宜しく頼むなァ」
マハロ「あと志望動機かァ……。こういうお堅い職場でも、私の腕がどこまで通じるか試してみたかったんさァ。それに、お前らにいっぺーまーさん料理、振る舞ってやりたかったしねェ」
??「姐さんの料理…美味いすからねー。ここで会うとは思ってなかったすけど」
マハロ「ははッ、それは私が言いたいセリフだよ! また会えたなんて、ほんに嬉しいさァ!」
??「へえ…君たちは見たところによると知り合いかな」
マハロ「そうさァ、前のバイト先で世話してた後輩なんだよ。ねェ、穹斗?」
穹斗「あー、そうすね……。まー、元気そうでなによりですねー」
隣に座っていた青年は気だるげに答えながらも、自分の番を察してゆらりと立ち上がる。
穹斗「煉城穹斗で〜す。ローリスクハイリターンなお仕事があるって聞いてやって来ました。まあ、ほどほどによろしくお願いしますー」
??「ローリスクハイリターン…。ふふ、確かに気持ちはわかるかな。かの有名な苧環財閥だしね」
鈴莉「その、では……、えと……貴方もそのような…?」
名前が分からずやや詰まった様子の鈴莉を制するようにふわりと微笑むと、色素の薄い青年が立ち上がる。
慈「俺の名前は小鳥遊慈って言うんだ。呼び易いように呼んでくれたら嬉しいけど、個人的なオススメは慈…かな。」
慈「俺がここで働こうと思ったのは、良い所に就職して家族に喜んで欲しかったからだよ。あと素直に使用人の仕事に興味があってね。なんだか面白そうじゃない?」
??「あ、それ分かる。執事やるってなかなかない経験だしな」
慈「うん。もしかして君も?」
??「ああ、そうだな。『面白そうだったから』かな。未経験でも歓迎って話だったし。」
エマ「それは結構だけどなァ、理由浅くねェか?」
??「理由が浅い?はは、確かにそうかも。でも執事とかってこういうタイミングじゃないと経験できないだろ?やってみたいことがあったらどんどん挑戦しないと、せっかくの人生もったいないと思って」
??「ぷは〜…ね〜、ごしゅじん様、おかしたべていい?」
珠紀「どーぞ。…うんうん。挑戦しやすい環境なんじゃないかな。ここはアットホームで楽しい職場だよ!若手が大活躍中だしね♪」
慈「はは、"ブラック求人あるある"の謳い文句だね。やっぱり面白いな」
エマ「若手もなにも今は俺しか働いてないじゃねェか!」
珠紀「いや〜、みんな気付いたら退職しちゃってね!あはは」
??「おいおい、それは本当にブラックなんじゃないか?うーん、面白そうだけど選択ミスったかな〜…。まあいいか」
珠紀「選択が間違っていたかどうかは今後の君たち次第だね。それで君、名前は?」
蛍「ああ、名乗るのが遅れたな。俺は敷枝蛍。執事やるのは初めてだけど、楽しくやれたらって思ってる。これからよろしくな」
珠紀「僕も楽しくやりたいのは大いに賛成だからね!これから期待しているよ!」
蛍「お、ご主人様と意見が合うのは嬉しいもんだな。よろしく」
エマ「こいつン中の楽しいに付き合い続けるなンて無理あると思うけどな…」
??「んむ…おいし〜。まだ食べれるかも。ごしゅじん様、ドーナツある? 」
エマ「あとお前!さっきから一人で呑気にお茶してンな!一応仕事中なの分かってンのか!?」
??「ふあ…ん〜」
??「次は貴方の番ですよ。ご主人様に自己紹介を致しましょう!」
指摘された青年は、珠紀から与えられたミニマドレーヌを食べ切り、紅茶で喉を潤すと、ようやくゆっくりした動作でよろよろと立ち上がる。その手には再度与えられたドーナツが握られ、今にもまた頬張ろうとしている。
さんご「つかづかさんごです」
「……………」
沈黙。その後の言葉を待つ者たちからの視線が注がれるが、本人は素知らぬ様子でドーナツを頬張っている。非常に美味しそうだ。
律「…こほん。こういった場合は志望動機もお話した方が良いかと」
さんご「そーなの?ん〜…ごはんたべれて、おひるねできるから…?」
エマ「どうして苧環様はこんなン採用したンだよ…」
??「きっとご当主さまにも何か思いがあったに違いありません!というのも…」
姫「ふあ…。どうでもいいけど、まだ終わんないの、自己紹介」
珠紀「はは、最後は君だね。君はなかなかやる気がありそうだけど。自己紹介してくれる?」
ぐっと拳を握りしめ熱弁していた青年に珠紀が話題を振れば、待っていましたとばかりにぱぁっと目を輝かせる。姿勢よく立ち上がると穏やかな笑みを浮かべて名乗りをあげた。
玲央「ご紹介に預かりました、西桜寺玲央と申します。御用命とあらば何なりとお申し付けください、連日連夜いつでもお役に立ちましょう。志望動機ですが、私苧環財閥さまに個人的に恩義を感じており、その恩返しをさせていただきに参りました!」
玲央「趣味はお菓子作りで……ええと、他に何をお話すれば良いでしょう?未熟ゆえ気の利いた自己紹介も思い付かず……兎も角、よろしくお願いいたしますね」
さんご「おかし…ドーナツも?」
珠紀「お菓子作りは結構だけど恩義…恩義ね…あの父が人助けをするとは思えないんだけど」
玲央「そうなのですか?私も正確には当主さまに直接救われた訳では無いのですが…」
慈「やっぱり凄いんだね、流石超財閥だ」
姫「自己紹介、…あー、面接か。終わったでしょ。もういい?」
鈴莉「そういえば面接でした……うう、やっぱり不採用…家に帰されてしまうのでしょうか…」
玲央「ふ、ふふふ不採用…!?そんなことになってしまったら私は…っ」
丹恋「そんなことないない!さすがに本気じゃないでしょ〜?あーもー泣かないでください、よしよ〜し!」
玲央「丹恋様…すみません、不採用を思うだけで引き裂かれるような思いになってしまいました…」
丹恋「だいじょうぶっ!お仕えしたい気持ち、にこにも伝わってきましたから!」
律「そうですね。万が一の際にはこの経験を踏み台として新たな職場を見つけられるかと」
蛍「おいおい、落ちること前提じゃねぇか」
エマ「流石の珠紀もそこまでやらねェとは思うが…自信はねェけどな」
マハロ「そうだねェ、そもそもご主人様は、志望動機そのものをそこまで重く見てないように思うさァ」
蛍「ん?どういうことだ?」
エマ「オイ珠紀、お前が結論を出さねェといつまでも終わんねェぞ……ン?」
穹斗「……あー、いないっすね、誰も」
穹斗の言葉で主人のいたはずの場所に視線が集まる、が、そこには誰もいない。忽然とした空間には1機、犬型のアンドロイドがしっぽをぶんぶんと揺らしていた。
『タカラ、タカラ、タカラをサガセ!』
『シレン、シレン、サイヨウシケン!』
さんご「わんちゃんだ」
蛍「へえ、これは面白くなってきたな。採用試験、なかなかやりがいありそうだな」
丹恋「わんちゃん走ってっちゃったよ〜!どうする?着いてく?」
姫「え、嫌なんだけど。皆ですれば?」
玲央「皆さまでわんこ様を追いかけましょう!」
姫「あっ、ちょっと…」
犬を追いかけてみると、立ち止まったのはひとつの扉の前。くんくんと匂いを嗅ぐ動作をして、しっぽを振っている。
エマ「執務室?ンでこんなところに…」
慈「執務室か。大切な書類が多そうだね。気が抜けないな」
穹斗「…犬は入れと言ってるみたいすけど。……どうしますー?」
エマ「あー…開けるしかねェな…」
玲央「それでは、僭越ながら扉を開けさせていただきますね…」
扉を開ければ。
何故か雪崩が襲い来る。シュレッダーゴミのような無数の紙片が扉の隙間から溢れ出るのだ。
鈴莉「………!?!?!?」
さんご「わー」
蛍「ヒュゥ、これはすごいな」
律「シュレッターゴミですか…一体どこに用意していたのでしょう…」
マハロ「お〜い、そんなこと言ってる場合じゃないさァ!? さんごがどっかへ流されていっちまったよ!」
さんご「たすけて〜」
姫「………」
慈「姫さんはいつの間にか安全圏に避難しているようだね、流石だな」
エマ「チッ、どうなってンだ、昨日まで普通だったろ!おいお前ら手伝え、片付けンぞ!」
玲央「さんごさま!今助けに参りますからね!」
丹恋「お掃除ならにこにおまかせ〜!どんどん片付けちゃいます☆」
さんご「わぁ、どんどん綺麗になるね」
丹恋「こういったゴミはふわーってなりますから、空気を抜いてゴミ袋に入れていきますよぉ!」
玲央「はいっ!私もお手伝いいたします!」
慈「空気ね…。静電気対策か。こうやって抜けばいい?」
さんご「ふしゅ〜…」
エマ「オイさんご、抜け出したんだから手伝え!穹斗もサボんじゃねェぞ」
穹斗「え〜…実は俺、ハウスダストアレルギーなんすよね」
マハロ「お〜、そりゃ初耳さァ! 店の掃除まで手伝わせちまって、悪かったねェ……」
穹斗「……冗談でーす、早く終わらせましょー」
流石プロ集団と言うべきか、数人の戦力外はあれど丹恋を中心として掃除を行い、1時間もする頃には十数のゴミ袋とともに執務室の現状復帰を果たしたのであった。
律「ようやく片付きましたね。…そして、この書類を見つけましたが…」
蛍「これは手紙、だな。宛名とかは書いてないみたいだけど、エマーソンも知らないんだよな?」
エマ「知らねェよ。ンでもあいつのやりそうなことだな」
姫「ここにヒントがあるってこと?なら早く見よ」
玲央「いえしかし、ご主人さま宛の私信かもしれません。無断で開いても良いのでしょうか…?」
姫「じゃあどうするの?他にはなんもないけど」
丹恋「そうですねえ〜…他になにもなかったですし…」
慈「なら、見るということでいいかな。姫、よろしく」
姫「ん」
封を開けると中には簡易的な便箋が入っている。
_____
Bonjour…
私は永遠に12歳
君が私の左の靴を脱がせたら
宝が目覚めるよ
_____
律「……これは一体なんでしょう?」
玲央「ひとまずご主人様宛のお手紙ではないようですね。良かったです!」
蛍「ふぅむ…これはもしかして暗号じゃないか?」
律「暗号、ですか?」
蛍「ああ。この間参加した謎解き企画でもあったんだ。その時はBGMに特殊な周波数が仕組まれててそれが鍵になると気づいた時には痺れたな!しかも__」
律「………?…………???」
穹斗「理解追いついて無さそうな人いるけど大丈夫ー?」
蛍「とにかくだ。これが暗号を示すと言うならまずは、Bonjourの挨拶に意味があると考えた方がいいだろうな」
慈「それならフランス語の挨拶だよね。フランスに関わるものを指しているとか?」
マハロ「へぇ、なるほどさァ。なァ、エマーソン、この屋敷にフランスに関係するもんって何かないか?」
エマ「フランス?ンなもん……あるな」
姫「あるんだ…」
エマーソンの案内で、屋敷の部屋を移動し、ひとつの部屋に入っていく。客間であろう部屋にはぽつりと無機質なフランス人形が座っていた。
鈴莉「な、なんだかちょっぴり怖いですね…お洋服は可愛いですけど」
丹恋「にこはこういう子好きですよ〜!んーと、"靴を脱がせたら"だから、脱がせてみればいいのかなあ?」
??「ちょっとぉ!!アタクシの靴に触らないでくださるッ!?」
丹恋「わあっ!?」
慈「へえ、これは驚いたな。普通のフランス人形かと思ったら対話機能付きアンドロイドだったなんて」
さんご「びっくりしたあ。キミは知ってたの?」
エマ「聞いた事ねェよンなこと…」
マリー「アタクシはマリー。家族に憧れる12歳の乙女なの。ねぇ、アナタたちがアタクシの家族になってくださるの?」
マハロ「家族になるって……どういうことさァ? まさか、おままごとでもするつもりかい?」
マリー「オママゴトというのかしら?そうね、アナタが母よ!アナタは父!他はみんな子供ね」
マハロ「ははッ、私が母親役かい。ずいぶん子沢山だこと……でも、そういうのは嫌いじゃないさァ。腕が鳴るねェ」
蛍「俺が父親役か。面白そうだな!ほーら子供たち、父だぞ〜」
鈴莉「わっ、子ども…?お父さん…?」
穹斗「これも大方試験の一環ってことですかねー。…俺は見学してるんで、みなさん頑張ってくださーい」
律「ええと。……、お父様…?…なんだか落ち着きませんね」
蛍「こんな経験そうないからな!新鮮な気分だな!」
玲央「試験の一環、ということでしたらこれも私の腕の見せどころですね…!お母様!お腹は空きませんか?よろしければ私がご飯を用意いたしますっ」
マハロ「へぇ、それはずいぶん頼もしいさァ。じゃあ、夕飯作りを手伝ってもらおうかねェ?」
玲央「はい!ああ、良ければ貴方もご一緒にいかがですか?」
姫「は?あたし?」
玲央「はい、お母様のお手伝い、お役に立てることから非常にやりがいに繋がると思います!」
姫「いや…あたしはどうでもいいし…」
マリー「反抗期の娘ってことですのね!」
姫「は?どう解釈したらそうなんの」
マハロ「お〜お〜、まあまあ、そう抵抗しなさんなァ。母さん、今日の晩ご飯はカレーにするから、運ぶのを手伝ってくれんかね?」
玲央「はい、喜んで!」
姫「………はあ」
穹斗「これは完全に抵抗を諦めた顔ですねー」
慈「根が真面目なんだろうね。お皿を運ぶジェスチャーまでしている」
マハロ「こんな素直な娘と息子ができて、母さんはいっぺー嬉しいさァ」
姫「娘じゃないから」
玲央「親孝行頑張ります!」
鈴莉「ふふ……、なんだか微笑ましいです…」
さんご「ドーナツもある?」
玲央「さんごさま、今ドーナツもお持ちしますね!」
エマ「持ってくンじゃねーよ」
蛍「あはは、随分兄弟間の立場が違うなあ」
さんご「じゃあ、赤ちゃん役にする。ばぶ〜」
丹恋「こんな大かぞくなら楽しそうですね〜っ、ビッグファミリーですよね!」
律「大家族…私には想像もつきませんね…。兄や姉が沢山いる…ということでしょうか」
慈「なかなか楽しそうだね。俺は長男とかになろうかな」
玲央「私は何番目になるのでしょうか?」
鈴莉「……下から二番目…でしょうか…お手伝いしたいお年頃……とか…」
玲央「なるほど…ではもっと子供らしさを追求しなくてはなりませんね…!」
マハロ「無理に子どもらしくしなくてもいいさァ。お前はお前らしくいるのが一番だよ。どんな息子でも、私はいっぺー可愛がってやるさ」
玲央「お母様……!」
マハロ「息子ぉ……!」
蛍「はは、美しきかな親子愛だな!」
姫「はあ、どうでもいいけどもう終わりでいい?」
マリー「そうねぇ。今日のところは終わりにしてあげますわ!またアタクシに見せてちょうだいね」
さんご「ばぶー」
律「それは良かったです。それで、今後どうしましょう…?」
慈「お題は宝探しだったかな。この人形がお宝とかかな?」
律「なるほど。ではマリーさんをご主人様の元へお連れすれば良いのでしょうか?」
マリー「いいえ。キッチンに連れていきなさい。アタクシ、紅茶が飲みたいわ」
エマ「はぁ!?ンで命令なんだよ」
玲央「はい喜んで!」
蛍「人形って紅茶飲めるのか?面白そうだな」
慈「最新型なら防水機能も当然備わっていると思うよ。少し飲んだくらいなら問題ないんじゃないかな」
マリー「飲めるに決まってるじゃないですの!小さい頃のタマキはよくアタクシとおままごとしてましたわよ」
鈴莉「ふふ……、なんだかメルヘンで素敵ですね…」
エマ「あの珠紀がァ?そもそもアイツに子供時代とかあンのかよ。クソほど想像つかねェぞ…」
律「ふむ。エマーソンさんの中のご主人様像は一体どうなっているのでしょうか」
玲央「これも信頼関係からこそ為せる態度ということでしょうか。見習った方が良いのでしょうか…?」
穹斗「軽率に見習うとクビが飛びそうすね〜」
そんな話を続けていると、キッチンに辿り着く。キッチンには清潔に保たれた白磁の食器が並んでおり、主人のこだわりであろう多彩な種類の紅茶が並んでいる。
蛍「ダージリンにアッサムにアールグレイだけじゃなく、ウバにキームン、セイロン・ディンブラ…すごい量の茶葉が揃ってるな」
玲央「流石ご主人様ですね!淹れて差し上げる日が楽しみです」
エマ「あー、それは珠紀専用だぜ。珠紀以外が触ると電流が走るから辞めておくンだな」
鈴莉「で、電流ですか……!?」
エマ「で、使用人が許可されてンのはこれだな。客に淹れる時もあるが、基本は自分で飲む用だな」
律「それでもなかなか種類が揃っていますね。こだわりを感じます」
マリー「早く淹れてちょうだい!喉が乾いたわ!」
慈「そうだね。茶器はこれを使えばいいのかな?上質そうなカップだけど」
姫「あたし、アールグレイ」
穹斗「じゃあ俺アッサムでお願いしま〜す」
さんご「つかづかはん〜…なんでもいいよ〜」
エマ「お前達が淹れるンだろ!」
律「そうですよ。結果を出してから言ってください。試験に脱落となってしまっては笑い事になりませんよ」
丹恋「やっぱりこれも試験?なのかな?だったらドキドキしちゃいますね〜…」
慈「そうだね。ひとまず紅茶を1杯淹れてみようかな」
慈がポットを手に取り、お湯を注いで紅茶をいれる。上質な茶葉の匂いが部屋中に広がる。どうぞ、と人形に手渡すが人形は「う〜ん」と声を出した。
マリー「温度管理がなってないですわね。もっと美味しいのがいいの」
慈「おや、残念。温度管理か…紅茶もなかなか奥深いんだね。知らなかったな」
穹斗「この人形、やたらグルメですねー…」
エマ「どこぞの主人に似たんだろうな」
マリー「誰かいないのかしら?ワタクシ喉が乾いたわ!」
律「それでは僭越ながら、私が淹れても?」
姫「いいんじゃないの。なんか上手そうだし」
律「それは…どうでしょうか?しかし、淹れるからには完璧な仕上がりを追求しますよ」
姫「ふぅん…」
慈「後学のために俺も勉強させてもらおうかな」
玲央「私もしっかりと胸に刻ませていただきます!」
律「勉強熱心なのは良いことかと。まず紅茶は常に90度程度の熱さを保つことが大切となりますので、沸騰後のお湯を使用します」
さんご「はーい」
律「……さんごさん、零れていますよ、火傷に気をつけてくださいね」
さんご「あれー?」
丹恋「あ、にこ知っていますよー!その後は少しむらしていれるんですよねー?」
律「はい。しかし冷えたカップに淹れると冷めてしまうので事前にカップを保温するとより温度を保つことができますよ」
慈「なるほどね。……うん、さっきより匂いが芳醇だね」
蛍「すごいな!律は紅茶に詳しいんだな」
律「いえ、教養として両親に教わっただけですから。…マリーさん。こちらでいかがでしょうか?」
マリー「まあまあですわね。及第点じゃないかしら!」
丹恋「きゅうだいてん?」
玲央「はなまる合格ということですよ」
丹恋「はなまる…!すごーい!」
姫「…子供に対しての説明みたい…」
慈「ふふ。これで安心してお茶を飲めるね。…ん?」
姫「何?」
慈「このカップの底…文字があるね」
穹斗「あー、本当すね。なになに、"部屋で1番高い王様は誰だ?"」
慈「適切な温度で文字が浮かび上がる仕掛けだったみたいだね。考えられてるな…」
穹斗「それにしてもこの文言、意味分かります?…謎解きですかねー?」
蛍「ナゾナゾってやつだな。王様ってなるとまた絵画とか人形とかか?」
さんご「うーん、いちばん高いってどういう意味だろ?キミはどう思うー?」
姫「なんであたし?」
さんご「お姫様だから?」
姫「名前だけでしょ。……んん…一番値段が高いんじゃないの。…物理的な意味かもしんないけど」
慈「ふふ。真面目に考えてくれたんだね」
姫「なに、バカにしてんの?」
慈「ううん、違うよ。…そうだな、彼女が考えてくれた通り、その2通りの可能性がありそうだね。エマーソン、この屋敷に王様の絵画とかあるかな?」
エマ「見た事ねェな。そもそもナゾナゾってそんな安直なものかァ?」
蛍「確かにそうだな。それなら王様の連想で行くと…偉い、とか豪華な場所とかか?」
鈴莉「わ、私は……王冠とか…浮かびます」
マハロ「王冠かァ。そういや、大広間のシャンデリアもいっぺー立派で、王様がつけてそうだと思ったさァ」
丹恋「にこも思いました!あんなに大きいの初めてですもん〜!」
マハロ「あれ一つで、目玉飛び出るくらい高いんだろうねェ。いやぁ、お金持ちの家はやっぱり違うさァ」
蛍「そうだな。家にもあるけど、流石にあの規模の大きさは初めて見たな…ん、シャンデリア?」
マハロ「どうしたんさァ?」
蛍「そうだ、シャンデリアだよ!大広間に行こう!」
何かを思いついた様子の蛍の先導で一行は最初に集まったグランドホールへと戻ってくる。そこは相変わらず色とりどりの人工バルーンやガーランドといった装飾で、パーティ仕様に飾られている。空間を照らすシャンデリアへと目を向ければ、何やらその脇に箱と、箱に繋がる紐のようなものがぶら下がっていた。
律「原点回帰、ですね。まさかここにあるとは…」
エマ「いつの間にこんなン仕掛けてンだよクソ珠紀…!」
穹斗「何はともあれ、梯子でもかけてあれを取れば解決ですねー。よかったよかった」
珠紀「梯子はルール違反だよ、面白くないからね」
マハロ「面白くないってか? そりゃ厄介だねェ。どうやらご主人様、私たちと知恵比べする気らしいさァ」
律「梯子不可となりますと方法が限られてきますね。…?」
玲央「……!ご主人さま!いつからこちらにいらっしゃったのですか…!?」
珠紀「ん?ここでみんなの様子をモニターごしに眺めながら待っていたよ?」
エマ「アホ珠紀ィ!散々訳分からねェ理由で振り回しやがってふざけンじゃねェぞ!?あぁ!?」
玲央「あぁっ、ご主人さまに対して掴みかかってはなりませんよエマーソンさま…!」
珠紀「あはは、気にしなくていいよ?いつもの事だし!それより君達はどうする?ゴールは目前だけど」
姫「さあ。肩車でも組体操でも何でもすれば取れるんじゃない?あたしはしないけど」
蛍「おぉ、それは名案だな!紐は長いから気合いでとれそうだし、何より面白そうだ!」
鈴莉「えぇ……!?で、できるかな……」
慈「流石に女の子にそれは酷じゃない?女性陣はゆっくり休んでいてよ」
姫「ふん……」
律「頼もしいですね。よろしくお願いします」
さんご「はあい」
マハロ「私は別に参加しても構わないさァ。ま、そういうことなら、ここはお前達に任せたよ!」
エマ「テメェは男だろうがさんご!」
さんご「さんご重いの持てないもん〜」
穹斗「いや〜、いくら紐長いって言っても組体操とかで引っ張るのは無理ありません?」
蛍「やっぱり無理あったか?と言っても他思いつかないんだよな」
穹斗「まあ思いつきませんけど〜…あー…。…一応確認ですけど、梯子以外なら使ってもいいんですか?」
珠紀「うん、構わないよ?別に僕も鬼ではないからね!」
穹斗「それなら1つ案があるんですけど…」
やがて穹斗の案が実行され、名乗り出た実行役の蛍がぎゅっと強くそれを握る。
穹斗「安全装置は一応ついてますけど気をつけてくださいね?」
蛍「ああ、こんな経験なかなかないからな、楽しんでくるとするよ!」
穹斗が機械を操作すると、ふわりと蛍が浮き上がる。蛍が握りしめていたものは、色とりどりの風船だった。
鈴莉「わあ…!なんだかその、素敵です………」
マハロ「いや〜、まさか風船にこんな使い道があったなんてねェ。ほんに驚かされたさァ!」
穹斗「風船と言っても、ドローンですからねー。しかも最新型。上手いこと扱えば空を飛ぶこともできると思ったんですよ〜」
鈴莉「そっか……ただの風船じゃなくて、こんな使い道があったのですね……!」
蛍「ヒュゥ、なかなかいい眺めだな!風船で飛ぶなんて夢みたいだ!」
風船はゆっくりと動き、やがて仕掛けの紐に辿り着く。蛍はぐるりと皆を見回したあと、それを引き抜いた。
穹斗「採用おめでとう…はは、採用試験クリアってことですね」
玲央「ということは…!?私、本格的にご主人さまにお仕えできるのですね…!?嬉しいです……!」
丹恋「わ、泣いてる!?泣いてるんですかあ?よしよし…!」
玲央「嬉し泣きです…、すみません、涙脆くて…」
律「まあ、気が抜けたのは事実ですね。正式に採用していただけたわけですし」
姫「あたしはどっちでもいいけど。…まあ、そういうことなら、やることはするから」
マハロ「素直じゃないさねェ、まあ、愛嘉さんも力になるけェ、頑張っていこうな!」
鈴莉「安心…しましたあ………」
慈「努力で勝ち取った勝利の味、というのかな。頑張った分達成感があるね」
蛍「だな、就任早々興味深い経験もできたし、これからのしみだな!」
周囲には安堵が広がっていき、思い思いによろこびあう声が聞こえる。困難を乗り越えてきたからか、皆揃って屋敷に来た時以上に仲が深まっているようだ。そんな様子に満足そうに頷く主人がひとり。そんな姿に毒気を抜かれたエマーソンもそっと隣に控えた。
珠紀「うんうん、採用おめでとう!これから頼りにさせてもらうよ!やる気に満ち溢れていて僕も嬉しく思うよ」
エマ「はァ、また追い出すつもりかと思って焦ったじゃねェか…。何とかなってよかったけどよォ…」
珠紀「しないよ?」
エマ「は?」
珠紀「だって採用は決定事項だし。今の僕が父上の命令を完全に跳ね除けられるなら苦労しないよねぇ」
エマ「……じゃあさっきまでのはなンだったんだよ」
珠紀「え?暇つぶしだけど」
エマ「………………」
玲央「…?エマーソンさま、どうかなさいましたか?」
エマエマ「オイコラクソ珠紀ィ!!茶番しやがってふざけンじゃねェぞ表出ろコラァ!!!」
安堵の空気は一瞬で消え失せ、キレたエマーソンと珠紀の乱闘がはじまるのであった。
20XX年。春。
暦上の春とは言えど、ネオンが染みつく高層ビル群の谷間には、最低限の人口樹のみであり、季節を感じる風情などはない。
それでも、この苧環邸には、今日もアットホームで賑やかな笑い声が響き、舞い散る桜の花びらをゆるやかに揺らしていた。
これは、気まぐれな主人と使用人たちが紡ぐ、新たな一年の始まりを告げる音。
この先に何が待ち受けているのか――それは、まだ誰も知らない。
【 僕と危険人物のCP戦争 19期 開幕 】
https://x.com/bokucp/status/2043305779432952042?s=46
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